元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 あんまり今回はすすんだ感じはしないです。

 ドン観音寺さん、これであってますかね?小説版も読まないとなあ。


【#9】元銀眼の魔女の死神代行、母の墓前に誓う

 

 次に一護が気が付いた時には、彼は肉体に戻っていた。

 

 腹の傷はルキアが治してくれたのだろう。右腕の内出血も、多少マシになっている。

 

 魂魄状態での負傷は、肉体に戻ればそのまま肉体にも現れる。今までは一護自身大きなけがはしなかったし、かすり傷程度はルキアが治していたので、現れなかったのだ。

 

 腹の傷を治すのでいっぱいいっぱいで、右腕を完治はし切れなかったらしい。当分は、使用を控えねば、と一護は思った。

 

 「・・・ありがとうな」

 

 「気にするな。右腕は見せしめついでだ。・・・本当に二度と使うなよ」

 

 「善処する」

 

 「一護!」

 

 眉をつり上げたルキアに、一護は仏頂面をかすかに緩めて立ち上がった。

 

 服も髪もびしょぬれだ。

 

 グランドフィッシャーは確かに斬った。奴の霊圧が消えるのを、確かに見届けた。

 

 けれど。それでも。

 

 一護は立ち上がると、「あいつらのところに戻る。お前らも休めよ」と言って歩き出した。

 

 それを、どこか不安そうなルキアと、ぬいぐるみに戻ったコンが見送った。

 

 

 

 

 

 黒崎家の墓だ。新しめの墓石は雨に濡れている。

 

 一護はその前にたたずんでいた。

 

 妙な気分だった。

 

 プリシラを討ち取った時は、確かに解放感があった。テレサとも話せたおかげか、すべて終わった。これからまた始まっていくんだという気もしていた。

 

 けれど、今は。

 

 一護は確かにグランドフィッシャーを討ち取った。母の今際の想いも感じて、イレーネの技も用いて、奴を仕留めたのだ。

 

 だが、解放感はなかった。勝利を喜び合う仲間がいないから?テレサが居ないから?

 

 すっきりもせず、いまだにぐずつく雨雲のようなじめついた気持ちが一護の胸の内側に横たわっている。

 

 冷たい墓石は答えはしない。

 

 「・・・仇を討てた。無茶したって怒られるかもしれねえけど。

 ゆっくり、休んでくれ」

 

 ポツリッと一護はつぶやいた。

 

 「うぉーい!」

 

 呼び声に、一護は振り向いた。見れば、黒スーツ姿の父、一心が雨傘をさしてたたずんでいた。

 

 墓地を管理している住職と話してくるついでに着替えてきたのか、一心はブレザーまできっちり羽織っていた。

 

 「何だよ、いなくなったと思ったらこんなとこにいたのか。一護」

 

 一護に歩み寄った父は、傘を差し出してきた。

 

 「ほれ傘!」

 

 「いらねえ」

 

 もうビショビショなのだ。今更過ぎる。

 

 差し出された傘を一護は首を振って拒否するが、一心が傘の先端で頭をグリグリ突ついてくるので、乱暴にひったくるように受け取った。ついでにその柄で一心をどつき倒す。

 

 差さない限りうっとうしいので、一護はおとなしく傘をさした。

 

 「早いもんだな。母さんが死んでもう10年か・・・」

 

 まだ6年だぞ。

 

 「いやーいろいろあったな。俺もすっかり爺さんで、一護なんていい歳こいたおっさんに」

 

 ちっと一護は舌打ちだけで、ツッコミを放棄した。

 

 このボケ親父に付き合ってると、語彙がいくつあっても足りない。

 

 「コーラ、母さんの前で舌打ちはやめろ。行儀悪いぞ」

 

 「誰のせいだ誰の」

 

 「俺のせいか?」

 

 「ツッコまねえからな。勝手にボケ倒してろ」

 

 首をかしげる一心に、一護はそっぽを向いた。

 

 「まあ、お前がそうやって元気な姿を見せてりゃ、母さんも向こうで安心だろうよ」

 

 そこだけ優しい声音で言った一心に、一護は思わず振り向いていた。

 

 「ん?どうした?」

 

 「・・・なんでもねえよ」

 

 ポツリと一護は言った。

 

 母の魂はすでにどこにもない。存在しなくなってしまったのだ。そういう言葉を、一護は心の奥底にしまい込んだ。

 

 遠い目をしていると、カチッと音がした。一心がタバコを吸っていた。カチッというのはライターの着火音だったらしい。

 

 「・・・煙草、やめたんじゃなかったのか?遊子と花梨が生まれた時に」

 

 一護の問いかけに、一心もまた遠い目をして一口吸ってから、答えた。

 

 「・・・褒められたんだよ」

 

 少し照れくさそうな。それでいて自慢げな調子で、父は続けた。

 

 「付き合い始めのころにな、タバコ吸ってる時の手がかっこいいって」

 

 照れ隠しか、父は煙草を左手に持ち替えて頭を掻きながら、続けた。

 

 「今にして思えば、後にも先にもそれだけだったな。

 母さんにルックスをほめられたのは」

 

 一護は、黙って父を見つめた。

 

 「だから毎年、この日だけ吸うことにしてんだ。あいつの前でな」

 

 一護は視線を墓に戻した。

 

 黙り込んだ一護の背を、一心は勢いよくバンッと叩いた。たまらず一護は小さく呻いた。衝撃が治り切ってない右腕にまで響いたのだ。激痛だった。思わず傘を取り落としてしまった。

 

 「んな辛気臭え顔すんな!元気にしてろって、今言ったばっかじゃねえかよ!」

 

 からりと笑って見せる父に、一護はそんな顔してねえ、と内心で悪態をついた。

 

 「おふくろは」

 

 「ん?」

 

 「幸せだったと思うか?」

 

 ポツリッと一護はこぼした。

 

 テレサは言った。クレアにあってから幸せだった、と。

 

 クレアも思った。ラキと一緒に過ごせて幸せだった、と。

 

 では、真咲は。グランドフィッシャーとの戦いの最中に見た、あの光景は夢でもなんでもないけれど。一護は父の口からちゃんと聞いておきたい、と改めて思った。

 

 「当たり前だろ」

 

 ポンと一心は言い放った。

 

 「真咲が死んだのは誰のせいでもねえよ。

 きっとあいつは幸せだったっていうぜ。俺がそう思ってたし、そうしてもらってたからな。

 もちろん」

 

 一心はひたと一護を見やっていった。

 

 「お前も、あいつの幸せを作ってたんだぜ、一護。

 だからな」

 

 ニッと笑って一心は続けた。

 

 「その幸せを次につなげるように、お前も幸せになれ。

 でねえと、真咲に俺が怒られちまう。

 命がけで守った息子が、不幸になってるのを何指くわえて見てんだってな」

 

 一護は、仏頂面を消してまじまじと一心を見た。

 

 「ええい!憎いね、此畜生!」

 

 「ぐぶっ?!」

 

 蹴りを入れられ、一護は声を詰まらせた。また右腕に痛みが響く。

 

 「おい・・・!」

 

 「しっかり生きて幸せになれ、一護」

 

 すたすたと石畳を踏んで踵を返した一心が歩きながら言った。

 

 「悲しみなんてカッコいいもん背負うにはお前は若すぎる。

 しっかり生きてしっかり年食って、しっかりハゲて、そんで俺より後に死ね。できれば、笑って死ね」

 

 一心が階段下に姿を消したところを見送ったまま、一護は口を開いた。

 

 「そのままでいい、聞いてくれねえか?ルキア」

 

 こっそり木陰に隠れていたルキアは、一護に視線を向けた。

 

 「死神の力は戻りそうか?戻りそうでも、戻らなくてもいい。

 俺をもう少し、死神のままでいさせてくれ」

 

 一護はしっかりした口調で言った。

 

 「仇は討てたけどな。俺の中の魂はどうやら、立ち止まるのを許さねえらしい」

 

 母の想いも。クレアとして生きた時に看取ってきたあまたの戦士たち。一護の中にあるそれらが、叫んでいる。立ち止まるな、と。歩き続けろ、と。

 

 そして、一護自身もまた。

 

 「それに、応えてえ」

 

 つぶやいた一護は、墓石から目を上げて、こちらを見下ろしてきているルキアのいる方を見やった。

 

 ルキアは、それを微笑みながら見た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ところで、黒崎一護は占いが嫌いである。というか、風水などもそうなのだが、他者の目から見て目に見えないもので金儲けする類の商売が嫌いである。

 

 ゆえに、内容なども信じておらず、今週はかに座が最悪と言われ、何もないところで何度も転ぼうが靴の紐が切れるわ財布を落とすわしても断固として信じていない。

 

 ゆえに。

 

 大嫌いな心霊番組に家族がドはまりしていても、断じて信じない。

 

 リビングのテレビの前で「「ボハハハハーッ!」」と歓声を上げる遊子と一心を、テーブルでお茶を飲む一護は冷めた目で見やったものだ。

 

 親子して、胸の前で両手をクロスして、テレビの中の登場人物の真似をしているらしい。

 

 “ぶらり霊場突撃の旅”、通称“ぶら霊”という、毎週水曜夜8時のゴールデンタイムでやっている、インチキ臭い心霊番組である。

 

 今年の春から始まったのだが、インチキ臭い番組というのに視聴率は25%を超える超人気番組である。メインの“新世紀のカリスマ霊媒師”観音寺ミサオ丸こと、ドン観音寺はこの番組でデビューし、下手なアイドルよりも人気がある。

 

 で、なぜそんなことをつらつらと語っているかといえば、現在、一護は家族と友人、ついでにルキアも含めて、その“ぶら霊”の撮影現場に来ているからだ。

 

 前記したが、“ぶら霊”の視聴率は25%。実に、国民の4人に1人が見ている計算となる。それも、熟年層よりも若年層の視聴率が高く、結果、番組放映後の翌日は一護の通う高校も大盛り上がりとなる。

 

 一人、冷めきった様子の一護をよそに、井上織姫も茶渡泰虎も、ドン観音寺のポーズを真似して大盛り上がりである。

 

 一護が心霊番組嫌いと知っているはずの小島と浅野も言わずもがな、である。

 

 で、そんな大人気番組が空座町にある廃病院に、生放送でやってくるということで、みんなで行こうぜ!となったわけだ。

 

 「この間はごめんね、黒崎君。

 たつきちゃんから聞いたの。黒崎君、こういう番組嫌いだって・・・あたし、知らなくて・・・」

 

 しゅんと申し訳なさそうに言ってきた井上に、一護はシレッと「気にするな」と流す。

 

 一護としては、興味はなかったのだが、家族である父と妹が行くというのに、勝手に行けと放り出すわけにもいかず、仕方なく同行したわけだ。普通のことだ。

 

 それを井上に言うと、彼女はふわっと笑って「そうだね、普通だね・・・」とうなずいた。

 

 そんな井上とは適当に分かれ、一護は少し離れたところで雑誌を広げる。霊媒云々に興味はない。

 

 それにしても、すごい人込みである。皆暇なのだろうか?

 

 「ところで、これは何の祭りだ?」

 

 クラスメートの前ではばっちり猫かぶりを決めていたルキアが、ワクワクした様子で尋ねてきたのに、一護は内心、わかっていなかったのかと呆れる。

 

 一応、一護は説明したのだが、ルキアは微妙に理解しているか怪しい感じで、そうか!とひとまず頷いている。

 

 ともあれ。

 

 「・・・いるな。なんで野放しにしてるんだ、死神」

 

 「?! 貴様、なぜわかるんだ?!」

 

 廃病院を見上げて小さくつぶやく一護を、ルキアはぎょっとしたように見上げる。

 

 「うっすらとした残渣は感じる。本当にわずかなものだ。(ホロウ)によく似ているが・・・微妙に違うな」

 

 目を閉じてそうつぶやく一護を、ルキアはこわばった顔で見上げる。

 

 恐るべき探知能力だ。

 

 そんな二人を含む野次馬を押しのけて、テレビのスタッフが廃病院の敷地に足を踏み込んだ。

 

 途端に、土地と同化していた地縛霊が姿を現した。病院のさびれた建物に鎖を巻き付け、(ホロウ)のものと酷似した叫び声をあげる。

 

 白髪の中年男の地縛霊は、『この病院は俺のものだ』『なのに親父が弟に』『この病院の儲けで金持ちになるはずが』などと実に俗っぽい喚き声をあげている。

 

 一護は気が付かなかったが、その喚き声が轟くや、何人かのものが顔色を悪くした。妹・花梨はもちろん、井上織姫と有沢たつき、茶渡泰虎もこわばった顔をしていた。

 

 

 

 (ホロウ)の胸の孔は、中心(こころ)を亡くし、本能の塊となった(しるし)である。そして、髑髏を模した白い仮面は、そのむき出しになった本能を外界から守るための盾である。

 

 どちらも、中心(こころ)のあるうちは、必要ないものである。

 

 人は死に、中心(こころ)にある因果の鎖は肉体から断ち切れる。この世に強い心残りのないものはそのまま死神の導きを待つ。

 

 だが。

 

 心残りのある者は、その対象に因果の鎖をからめとられてしまうのだ。

 

 人に心残りがあれば、憑き霊となる。

 

 土地に心残りがあれば、地縛霊となる。

 

 

 

 というようなことを語るルキアは、地縛霊の俗っぽい叫びに、微妙な顔を隠さない。

 

 一護はといえば、普段の仏頂面で地縛霊を眺めていた。

 

 そうこうしているうちに番組が始まった。

 

 「スピリッツ!アー!オールウェイズッ!ウィズッ、ィィユーッ!!」

 

 アナウンサーの声とともに、ヘリから飛び降りてきたドン観音寺が、決め台詞とともにパラシュートを開く、派手な登場を決めた。

 

 観衆は大盛り上がりで、ルキアもつられてか一緒に盛り上がっている。

 

 「・・・念のため訊くが、あれの魂葬は後回しでも大丈夫なんだな?」

 

 冷めた一護の言葉に、ルキアは問題なさげな様子で頷いた。

 

 「案ずるな。(ホロウ)とは本来何か月・何年とかかってなるものなのだ。

 そんな1時間やそこらで急に(ホロウ)になったりはせん。

 こんな衆目にさらされた状態で暴れられてけが人が出ても困る。

 魂葬はこの祭りの後でもよかろう」

 

 「ならいいが・・・」

 

 ともう一度地縛霊の方へ目を向けようとした一護をさえぎるように、観衆の歓声がとどろく。

 

 一護は舌打ちしたくなるのを必死にこらえた。果てしなく、うっとうしい。

 

 そんな一護に、心配性な奴め!と笑いながら、ルキアが言った。

 

 (ホロウ)になる直前というものは、もっとずっと苦しがるものらしい。それこそ、こちらが恐ろしくなるほどの叫びをあげるのだ。

 

 目の前の地縛霊はそこまで苦しんでいるようには見えない。

 

 誰かがその胸の空きかけの孔に妙な刺激でも与えない限り、まだ(ホロウ)になるまで半年以上はかかるはず。

 

 ルキアの言葉を、観音寺の振り上げたステッキが遮った。

 

 『ここは私の超スピリッツ・ステッキで!一気に片付けるしかないな!』

 

 言いながら、彼は地縛霊の胸の孔にそのステッキを突き入れていた。

 




 なお、この話は続くことになる。





 Q.グランドフィッシャー殺しといて、原作と大差ないってどうなの?

 A.原作のグランドフィッシャー、結局一心さんの噛ませ犬にされてましたやん。じゃあ、ここで一護君が仕留めててもいいかなって。
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