元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 以前も書きましたが、原作と大差ないシーンは描写してもしょうがないので、カットになります。つまり、織姫ちゃんとチャドの覚醒シーンはカットです。大好きなんですけどねえ!でも、ただのノベライズでしかないので。

 一応、この話は一護の視点に重点を置いて書くことにしていますので、あしからず。


【#12】元銀眼の魔女の死神代行、滅却師に売られたケンカを買う

 

 黒崎一護と石田雨竜が、初夏の路地で対峙しているその頃。

 

 朽木ルキアは浦原商店を訪れていた。

 

 店の前でじゃんけんで喧嘩をするジン太と(ウルル)に、その仲裁――主にジン太のわがままをたしなめる握菱鉄裁。

 

 彼らに断りを入れて、ルキアは連絡しようとも出ようとしなかった店主、浦原喜助と向かい合っていた。

 

 滅却師(クインシー)について尋ねたルキアに、彼らは語る。

 

 滅却師(クインシー)。それはかつて、世界中に散在していた対(ホロウ)戦に特化した退魔の眷属である。だが、200年以上前に滅んだ一族であるのだ。

 

 元々は黒崎一護のような力を持つ人間たちが(ホロウ)の存在に気付き、それに立ち向かうべき修業を始めたのがその始まりと言われている。

 

 だが、彼らは死神とは決定的な違いがあった。

 

 それはすなわち、(ホロウ)滅却する(ころす)か、昇華する(ころさない)か。

 

 (ホロウ)を斬魄刀で浄化し、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ送ろうとする死神。

 

 (ホロウ)を徹底的に殺すことにこだわる滅却師(クインシー)

 

 (ホロウ)は人間の魂を食らう。仲間や身内を傷つけ殺した(ホロウ)を安らかに尸魂界(ソウル・ソサエティ)に送るわけにはいかない、仲間の仇を討つという信念のもと、滅却師(クインシー)たちはかたくなに(ホロウ)を殺そうとした。

 

 そして、彼らはその信念ゆえに、滅びることになる。

 

 

 

 

 

 一護は無表情のままだったが、ブラウンの瞳の奥で瞳孔を開いて石田を凝視していた。押し隠していた霊圧がビリビリと漏れ出している。

 

 一護はどちらかといえば気が短い方だが、石田の挑発は彼の地雷を奇麗に踏み抜いていたのだ。

 

 こいつは。一護をルキアの人形扱いしたのだ。ルキアのことを知りもしないくせに。一護のことを知りもしないくせに。

 

 クレアになる前の少女を人形扱いした、あの糞妖魔も思い出させる。実に、虫唾が走る。

 

 一護は石田に向き直ると、無言のまま鞄に手を突っ込み、ギャーギャーわめくコンを引っ張り出した。

 

 ルキアに言われて渋々一護の鞄に入っていたコンの口に、一護は問答無用で手を突っ込み、中の義魂丸を取り出すと、そのまま自らの口に放り込んだ。

 

 途端に、その肉体から死神姿の一護がはじき出された。

 

 なお、ドン観音寺との共闘の際は左手を使っていたが、現在の一護はバッチリ回復して、斬魄刀の柄も右側に来るように装備しなおしている。

 

 一護の肉体で嘔吐反射に苦しむコンをよそに、死神姿の一護は石田に向き直った。

 

 「それで」

 

 一護が口を開いた。ひどく低い声だ。

 

 「勝負の内容は?」

 

 「これで勝負しよう」

 

 言って、石田が胸ポケットから取り出したのは、コインにも似た白いものだ。

 

 なんだそれは、と一護は言葉にも出さずに、眉を寄せた。

 

 「対(ホロウ)用の撒き餌だよ。

 これを砕いて撒けば(ホロウ)がこの街に集まってくる」

 

 しれっと言った石田に、一護は目を見開いた。

 

 「集まってきた(ホロウ)を24時間以内に多く倒した方の勝ちってのはどうだい?

 わかりやすくていいルールだろ?」

 

 「・・・っ!!」

 

 ギチリッと一護は両手を握りしめた。びりびりと霊圧が膨れ上がる。

 

 こんなくだらない意地の張り合いのような勝負に、関係ない町の人間を巻き込むのか。

 

 「・・・取りこぼしが出たらどうする気だ」

 

 「取りこぼし?」

 

 低く抑えた一護の問いかけに、石田はパキンッと撒き餌を砕きながら言った。

 

 「そんなことありえない!

 集まった(ホロウ)は一匹残らず僕が滅却する(ころす)んだから!」

 

 ここで、石田は嘲るような調子になって続けた。

 

 「君も、(ホロウ)から人々を守り切れる自信があるなら、この勝負受けられるはずだろう?」

 

 「傲慢なクソガキが!」

 

 吐き捨てて、一護は石田に背を向けると、コンに向き直った。

 

 「コン!すぐにルキアのところに行って来い!(ホロウ)の撒き餌の効果を打ち消すものに心当たりがないか聞きにいけ!」

 

 「ないよ、そんなもの。賽は投げられたんだ」

 

 「うるせえ!てめえは勝手に(ホロウ)でもなんでも殺してろ!この自己満野郎!」

 

 つんと言い放つ石田は、すでに右手に光の弓――霊子兵装『弧雀』を展開し、早くも出現した(ホロウ)を撃ち抜き始めていた。

 

 こんなクソガキにかかずらっている時間が惜しい。

 

 「早く行け!コン!」

 

 「わ、わかった!」

 

 慌てて駆け出すコンをよそに、一護は今にでも石田をぶん殴ってやりたい衝動を必死にこらえ、霊圧探査に集中する。

 

 以前、ルキアは言っていた。(ホロウ)(プラス)、あるいは霊的濃度の高い魂の持ち主を襲うのだと。

 

 パッと思いついたのは、妹の花梨。だが、最近は石田のこともあって、周囲の霊圧を探りなおしてみて、驚愕した。

 

 あまり意識していなかったが、井上織姫、有沢たつき、茶渡泰虎の3名は霊圧が上がっている。日に日に上昇してきているようなものだったので、他と比べてやっと上がっていることに気が付いたのだ。

 

 最優先は妹の花梨。それが終わったら他の三人を助けに行かねば。花梨を優先するのは、他3人ならば、年長なので体力があり、逃げる時間を長くとれるだろうという意識からだ。

 

 あまり考えたくないことだが、こういう時はとにかく優先順位を付けねばならない、と一護は歯噛みする。

 

 ともあれ、一護はすぐに猛スピードで駆け出した。

 

 光の矢で、早くも3体目の(ホロウ)を射殺す石田を一顧だにせずに。

 

 

 

 

 

 伝令神機に、異常なまでの(ホロウ)の出現が映り、絶句するルキアをよそに、事態はすすむ。

 

 とりあえず、花梨の通学路、遊び場になってそうな場所周辺の(ホロウ)を優先的に排除する一護。

 

 とにかく、『弧雀』を連射して、次々(ホロウ)を仕留めていく石田。

 

 そして。

 

 不意に、一護は足を止めた。

 

 霊圧が爆発するように膨れ上がったのだ。その周辺に妹の霊圧があり、さらに(ホロウ)がそちらに向かっているとわかったので、急ぎそちらに向かっていたのだ。

 

 霊圧の感触からして。おそらくは、茶渡。茶渡の霊圧が膨れ上がり、代わりに(ホロウ)の霊圧が消えた。

 

 花梨は無事らしく、自宅の方へ向かっている。

 

 方向的に(ホロウ)はいないだろうと判断した一護は、続いて別の方へ足を向けようとした。

 

 だが、またしても一護は舌打ちする。

 

 高校の方に(ホロウ)が出た。居合わせているのは、井上と有沢。すぐに行かねばと思ったら、有沢の霊圧が小さくなり、変わって井上の霊圧が急激に膨れ上がる。そして、有沢の霊圧が戻ったと思ったら、(ホロウ)の霊圧が消えた。

 

 わけのわからないことだらけである。

 

 とにかく、移動するしかない。

 

 花梨の行動範囲のやつはあらかた倒した。

 

 一護は霊圧を探る。茶渡と井上、有沢は・・・意識がないのか、さほど大きくはないが、落ち着いてはいる。

 

 そして、一護は眉を寄せた。

 

 なぜか茶渡と井上が一緒にいる。場所は・・・なんか、別の場所だ。霊圧が膨れ上がった場所とはまるで別の場所にいる。

 

 誰かに運ばれた?訳が分からなすぎる。

 

 いずれにせよ、一護がやるべきは一つ。

 

 ルキアと合流して、石田を止める。

 

 それにしても。

 

 舌打ちしながら、一護は駆ける。死神状態は生身よりも恵まれた身体能力を発揮でき、素早く移動はできる。だが、限度はある。

 

 もっとすばやく移動する術はないか?ミリアの使った『幻影』や、アナスタシアの『羽持ち』ならば、いけるかもしれないが、現状でそれを使うわけにはいかない。(『羽持ち』には長い髪が必要なので、どのみち使えないし)

 

 いらいらしながら一護が駆け付けた時には、ルキアと一護の肉体に入ったコン、石田がそろい踏みで(ホロウ)に襲われていた。

 

 一護は即座に豚面の芋虫に似た(ホロウ)を背後から切り捨てる。

 

 「っ、ここにいたか・・・」

 

 息を切らしながら、一護は消えつつある(ホロウ)の巨体を踏み越えて歩み寄った。

 

 「コン、何をもたもたしている?!

 ルキア、無事か」

 

 「ええー?!なんでオレは怒って、姐さんはねぎらうんだよ?!」

 

 「うるさいぞ。さっさと見つけねえほうが悪い。

 お前、改造魂魄だろ、霊圧の一つや二つ読めねえのか」

 

 「できるわけねーだろ?!(ホロウ)の霊圧即座に見分ける変態じゃねえんだよ?!」

 

 「誰が変態だと?!」

 

 「おめーだよおめー!

 オレは姐さんと一心同体なんだ!姐さんの居所なんて、この通り!手掛かりなしで匂いで一発よ!」

 

 「し、失敬な!私の身体はそんなきつい臭いなどせぬわ!」

 

 ギャーギャーと言い争う3名。一護は普段の不愛想仏頂面をかなぐり捨てて、皮肉を吐いている。

 

 あまりの事態に、石田は眼鏡の奥の目を点にして、ややあって「君たち、いい加減にしないか!」と軌道修正を図る始末。

 

 「君たちの敵は僕だ!仲間割れなどしている時ではないだろう!」

 

 言い放った石田に、一護がぎろりッと一瞥を向けた。

 

 「ああ、そうだ」

 

 「何?」

 

 「お前の敵は俺で、俺の敵はお前だ。よくわかってるじゃねえか。

 なら、こんなくだらねえことして、つべこべぬかすな!

 一対一で手合わせなりなんなりするべきだろうが!」

 

 怒声を放った一護に、石田は一瞬言葉を詰まらせた。

 

 「っ、何?!」

 

 ここで、一護が顔を上げて空のかなたをにらんだ。

 

 「な、何だありゃ?!」

 

 コンも声を上げ、ルキアも顔をこわばらせる。

 

 蒼穹に、巨大なヒビ――正確には、ヒビが一か所に集まりつつある。

 

 一護は、その奥から、奇妙な――巨大な霊圧を感じていた。何かが、出てくる。そんな予兆がある。

 

 「待て、それだけじゃない・・・」

 

 周囲を見回した石田の言葉に、一護はうなずいた。

 

 (ホロウ)が、その一点を目指して集まってきているのだ。

 

 舌打ちして、石田は『弧雀』を構える。

 

 「よせ!焼け石に水だ!」

 

 一護が止めようとするが、石田は「何だ、怖いのか黒崎」と吐き捨て、そのまま(ホロウ)の一体を撃ち抜く。

 

 「怖いならここで見物しているといい!

 この勝負は僕の勝ちだ!」

 

 言い捨てて、石田は階段を駆け上がり、朗々と叫んだ。

 

 「こっちだ!(ホロウ)ども!

 最後の滅却師(クインシー)・・・石田雨竜が相手をする!」

 

 「・・・どういうことだ」

 

 一護はゆるりとルキアに振り向いた。

 

 「最後の滅却師(クインシー)と。どういう意味だ」

 

 「滅亡したのだ、200年前に。滅却師(クインシー)は」

 

 一護の問いかけに、ルキアは険しい口調で答えた。

 

 

 

 すべての滅却師(クインシー)の生き残りは死神を憎んでいる。その憎しみの源は200年前の滅亡にあった。

 

 200年前、滅却師(クインシー)は死神たちの手によって滅亡した。

 

 だが、それは死神にとっても苦渋の選択であった。

 

 死神たちは滅却師(クインシー)を滅ぼさなければならなかったのだ。この世界の崩壊を防ぐために。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)では死神の位階にある者たちを、俗に調整者(バランサー)と呼ぶことがある。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)と現世にある魂魄の量は常に均等に保たれている。そうしなければ、二つの世界のバランスが崩れ、双方の崩壊を招いてしまう。

 

 死神は、その両世界の魂魄の量を調整することを仕事としている。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)から放たれた魂は死神に見守られて現世に生物として生まれ、現世で死した魂は死神の手によって尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと還っていく。そこには(ホロウ)も含まれている。

 

 そうして、魂魄の運行のすべてを死神にゆだねることにより、尸魂界(ソウル・ソサエティ)は魂魄の量を把握し、現世との調整を図ることができていた。

 

 だが、そこに滅却師(クインシー)が現れた。

 

 滅却師(クインシー)(ホロウ)を完全に消滅させてしまう。つまり、現世に出て行った魂が尸魂界(ソウル・ソサエティ)に帰ってこないことを意味する。

 

 つまり、現世の側にばかり魂魄が増えていくことであり、現世側に世界が傾き、現世に尸魂界(ソウル・ソサエティ)が流れ込んでしまうことを意味する。

 

 それは生と死が入り混じる混沌であり、世界の崩壊を意味するのだ。

 

 初めて滅却師(クインシー)の存在が確認されてから、数年にわたり尸魂界(ソウル・ソサエティ)滅却師(クインシー)に対して訴えかけを続けた。“(ホロウ)の対処をすべて死神に任せるように”と。

 

 しかし、滅却師(クインシー)たちは頑としてそれを受け入れようとはせず、その間にも滅却師(クインシー)は増え続け、魂魄の運行は乱れ続け、世界の崩壊は予断を許さぬところまで進んでしまっていた。

 

 そして・・・滅却師(クインシー)殲滅の決定は下された。

 

 それは果たして、死神の傲慢と断ぜれるのだろうか?

 

 

 

 一護は道を駆け抜けながら、ルキアの言葉を反芻した。

 

 世界がどうの、魂魄がどうの、滅却師(クインシー)がどうの。魂魄でシーソーゲームしなければ、保てない世界か。

 

 一護は舌打ちする。気に食わない。なんて気に食わない世界だ。

 

 クレアだったころにいた狭い辺境で、こんな事情があるなんてついぞ知らないままだった。

 

 だが。

 

 石田が、死神を憎むのは、本当にそれだけか?

 

 一護は駆けながら思う。

 

 そんな古い時代のことなんて、今を生きる人間が気にするとは・・・いる者もいるだろうが、石田がそれを気にするだろうか?

 

 もっと、別の・・・身近な理由があるような気がするのだ。

 

 石田はいた。無人の工事現場で、(ホロウ)に囲まれながらも、霊力の矢を射って着実にその数を減らしていた。

 

 そこに一護が割って入る。

 

 すでに使い込んだ霊圧読みによって(ホロウ)の脇を駆け抜けながら切り裂き、何ならわきから飛び掛かる(ホロウ)さえ、視線を向けることなく一撃で仮面を割る。

 

 ぎょっと石田がこちらを見ている。

 

 すでに(ホロウ)は何匹いようと、相手にならない。

 

 かつて、クレアが聖都ラボナでの覚醒未遂を経て半覚醒へ至った後に、妖気を読むのを完全にものにしたように、一護もまた数々の戦闘を経て、霊圧読みをものにしたといってもよかった。

 

 「おい」

 

 蹴散らした(ホロウ)の巨体が霊子に還るのをよそに、一護は斬魄刀を肩に担ぎながら低い声で石田に声をかけた。

 

 「お前が死神を憎むのは、200年前の滅却師(クインシー)の滅亡が死神のせいだからか。それとも何かほかにあるのか」

 

 「・・・だったら何だい?」

 

 石田は、『弧雀』を引きすぎて血まみれの左手が一護に見えないように、右手で眼鏡を押し上げながら言った。

 

 「僕の目の前で、師匠(せんせい)が死んだって話せば、満足するのかい?」

 




 そうして、話は続くのだ。





 とりあえず、今回はここまでとします。

 好評でしたら、次回、VSメノス・グランデ辺りをやりましょうかね。あの辺りは、ちょっと原作と違うことになりました。書いてて楽しかったです。
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