元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 サブタイトルは、一護君が死神の力を持っているかどうかで変わりますので、今回は死神代行ではなく、少年なのです。

 という訳で続きです。毎度お付き合いくださりありがとうございます。


【#16】元銀眼の魔女の少年、“勉強会”に挑む

 

 さて、翌日。黒崎一護は普段通りに学校に来ていた。

 

 一時間に一錠服用するように浦原から渡された怪しい薬(白い錠剤だが、パッケージがドクロなのはいかがなものか)は、着実に一護の傷を癒していっている。夜までには全快するだろう。

 

 本日は終業式である。勉強会は夜から。十分間に合う。

 

 それよりも、一護は少々調子が狂っていた。ルキアがいたはずの隣の席には、桃原というあまり親しくない男が座っていた。

 

 そして。そして、誰一人、朽木ルキアという女生徒の存在を覚えていなかったのだ。

 

 当然といえば当然だろう。ルキアは元々尸魂界(ソウル・ソサエティ)の存在なのだから。元に戻ったといえばそこまでなのだろう。

 

 一護一人が、彼女の不在に空白感を感じている。それだけの話だ。

 

 

 

 担任の越智教諭が連絡事項を読み上げ、宿題は国語以外はテキトーにやんな!遊びも少しぐらい犯罪気味でもよし!と教師にあるまじきことを続けてのたまっている。

 

 「以上っ!解散っ!」

 

 スパンッと小気味よい挨拶とともに、高校1年生の1学期は終わりを告げた。

 

 自由になったクラスメートたちは、早速帰りの予定や遊びを約束したり、ゲームの新作について話を膨らませている。

 

 一護は、ちらっと石田の席を見やった。今日、彼は来ていない。ルキアを覚えているか、気になったのだが。

 

 そんな一護に唐突に目隠しがされた。

 

 「イーチーゴーッ!」

 

 浅野啓吾は、そのまま一護を強引に立たせて、ぐるぐると3回転させ、言い放った。

 

 「さあ!スイカどーこだ?」

 

 とりあえず、一護は渡された棒を、目の前の浅野の脳天目がけて振り下ろした。手加減はしたから、叩き割れてはいないだろう。せいぜいたんこぶで済んだはず。

 

 「いやああああっ?!

 ち、違う一護!違うぞ!

 『浅野割り』じゃなくて『スイカ割り』!『スイカ割り』でございっ!!」

 

 悲鳴を上げる浅野と、青ざめて震える小島をよそに、一護は目隠しをむしり取った。

 

 

 

 友人たちのたまり場にしている広場で、浅野がウキウキと提案してくる。

 

 10日の海への合同合宿はどう?どう?と。一人でイベントを滅茶苦茶提案しまくって盛り上がる浅野に、一護はバッサリと「用事があるからパスだ」と言い放った。

 

 「何イあ?!」

 

 それに鬼のような形相になって叫ぶ浅野に、一護は視線をそらして「無理なものは無理だ」と淡々と言った。

 

 それを皮切りに、井上が無理といい、有沢はインターハイで行けないといい、石田と同じ手芸部である小川みちるも、二人が行かないならちょっと・・・という。

 

 もちろん、茶渡もいかないといった。

 

 そして。

 

 「あ、僕、明日からプーケット」

 

 止めを刺したのは、小島だった。

 

 「てめえっ!」

 

 半泣きでつかみかかる浅野に、小島が「わああっ!なんで僕にだけそんなキレるんだよ?!」と喚く。

 

 もっとも、その後同行メンバーに、年上の彼女と、その友人9名(全員女性)がいると話して、浅野の怒りに火に油を注いでいた。

 

 ギャーギャー喧嘩する二人に、しょうもないものを見る目を向ける一同。

 

 ここでも、一護は空白感を覚えていた。ルキアの存在など、いなくてもなんの問題もない。それでも世界は続くのだ、とあらゆるものが言ってきているようだった。

 

 路地を歩きながら、一護は思う。

 

 ルキアは元々尸魂界(ソウル・ソサエティ)の人間だった。

 

 ならば、死なせたくないから勝手に連れ戻そうというのは一護の勝手でしかない。

 

 だとしても。

 

 ふと、一護は気が付いた。目の前に井上織姫が立っている。

 

 「朽木さん、どこ行ったの?」

 

 どうしたと一護が問うより早く、井上が口を開いた。

 

 「どうして、みんな急に朽木さんのこと忘れちゃったの?

 黒崎君なら・・・知ってると思って」

 

 静かな目をして問いかけてきた井上に、一護は観念した。

 

 近くの階段に座って、一護は一連の経緯を話した。このままではルキアは処刑されるので、助けに行くのだ、と。

 

 井上織姫は、一護のことを・・・死神代行をやっていることを覚えていた。しっかりと、見えていたらしいのだ。

 

 ならば、石田とのあれこれの最中に感じた、井上の霊圧の爆発も何か意味があったのだろうか?

 

 「そっか・・・元いた世界(ところ)に帰ったんだ・・・。

 それで、黒崎君はそれを助けたいのね・・・」

 

 「ああ・・・」

 

 井上の言葉に、一護は静かにうなずいた。

 

 「それでどうするの?

 朽木さん、元々そっちの世界の人なんでしょ?

 家族も友達も何も、みんな向こうにいるんでしょ?!

 それを助けて・・・それからどうするの?

 家族や友達と引き離して、またこっちに連れ帰るの?!

 それって・・・正しいことなのかな?!」

 

 静かな・・・徐々に強くなっていく井上の言葉に、一護は言葉を詰まらせた。うすうす思っていたことを容赦なく突き付けられた気分だった。

 

 そう。結局のところ、ルキアを助けたいというのは、一護のエゴでしかないのだ。

 

 視線をそらしてうつむくしかない一護に、井上が立ち上がって声を上げた。

 

 「なーんちゃって!」

 

 「?」

 

 思わず顔を上げて井上を振り返った一護に、彼女は朗らかに笑いながら言った。

 

 「わーかってますって!

 こーやってゴチャゴチャ言ってみたって黒崎君の中じゃとっくに決まってるんでしょ!」

 

 まじまじと彼女を見やる一護に、井上は続ける。

 

 「こうして、眉間にしわを入れて、口をグイっと曲げて!

 こんな感じに偉そうに!

 “生きてればそのうち家族でもなんでも会えるだろう。死んだらそれまでだ”!

 あたしの知ってる黒崎君ならそういうよ!」

 

 最後だけパッと笑って言った井上に、一護は言葉を失った。

 

 そうだ。ごちゃごちゃ考えすぎていた。根底にあるのはもっとシンプルなものだ。それでいいじゃないか。それを、思い出した。

 

 「行ってあげて!がんばってね!

 あたしだって友達が死ぬのなんかイヤだもん!」

 

 風になびくクルミ色の髪を押さえながら言った井上に、一護はゆっくりと立ち上がった。

 

 「ありがとう、井上」

 

 力強く言って、一護は勢いよく走りだした。

 

 その背を見つめる井上織姫が、一つの決意を固めたことを知らずに。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 空座町の一角にある、小さな駄菓子屋。浦原商店、と看板を掲げたその店は、知る人ぞ知る、死神御用達の尸魂界(ソウル・ソサエティ)関係の商品を取り扱っているのだ。

 

 今、その店はシャッターを下ろして、本日閉店の張り紙を張り付けていた。

 

 その店内。普段は店主が座る畳の一部ははがされ、地下に続く梯子がむき出しにされていた。

 

 その梯子のさらに奥。

 

 小さな店からは想像だにできないだだっ広い空間が広がっていた。青空を模して塗られた壁天井。荒野を思わせる殺風景な空間だ。ところどころに岩やら枯れ木やらが無造作に生え、転がっている。

 

 きっちり傷が全快した一護は、友人の家に泊まるという言い訳を家族にして、そこにいた。

 

 浦原曰くの『勉強部屋』である。一護のためにオーバーテクノロジーの粋を結集して立った一昼夜で完成させたと、浦原はドヤ顔してそうな声で言った。

 

 何しろ、帽子と扇で顔がよく見えなかったので。

 

 道路や他人の家に内緒で作ったという。一護にはよくわからないが、それは犯罪なのではないだろうか。

 

 軽く足の曲げ伸ばし運動をして、一護は言った。

 

 「時間がないのだろう。さっさと始めてくれ」

 

 「おや、いい心がけっスねぇ。そんじゃお望み通り」

 

 立ち上がった一護の額目がけて、浦原はステッキの底、ルキアの捂魂手甲についているエンブレムを向けて、突き入れてきた。

 

 「?!」

 

 そのまま背後から滑って地面に転がされる一護は、「いきなり何を、」と言いかけてクラリとした立ち眩みにも似た感覚に襲われ、膝をつく。高山に放り出されたように、ひどく息がしづらい。

 

 衣服は私服のシャツとズボンのまま。その胸からじゃらじゃらした長い鎖が伸びて、肉体に続いている。

 

 「初めてでしょう?

 “死神”じゃない状態で肉体から出るのは。

 息苦しくありませんか?意外と動きにくいもんでしょう。魂魄の姿ってのは」

 

 浦原の言葉に、一護は息を切らしたまま黙して答えない。

 

 浦原は語る。

 

 今の一護は朽木白哉に霊力の発生源である“魄睡”と、ブースターである“鎖結”を破壊されている。

 

 つまり、霊力を持たない“普通の人間”の“ただの魂魄”なのだ。

 

 “死神”と戦うには、まずその失くした霊力を元に戻すところから始めなくちゃ、話にならない。

 

 ゆえに、まずは、その“魂魄の身体”を自在に動かせるようにする。

 

 “霊力”とは霊なるものに働きかける力。“霊力”が高まればそれだけ“魂魄の身体”は鋭い動きが可能になる。

 

 逆に言えば、その“魂魄の身体”で“実の肉体”以上の動きができるようになれば、それは“霊力の回復”を意味する。

 

 「つまり?具体的には何をするんだ?」

 

 のろのろと立ち上がった一護に、浦原は笑っていった。

 

 「そっスね。説明するより始めちゃった方がいい。

 おーい!用意してー!」

 

 浦原の呼びかけに、少女――紬屋(ウルル)がスカートに乗せていたプロテクターを地面に転がす。

 

 「最初のお勉強♡

 彼女と戦ってくださいな。

 ルールは簡単。どちらかが動けなくなった時点で勉強終了。

 彼女に伸される前に彼女を伸しちゃってくださいね♡」

 

 言い放った浦原に、一護は思わず一度少女を振り返った。

 

 先日、妙な道具で(ホロウ)を一掃していたことといい、ただものではないとは思うのだが、あんな子を殴れと?

 

 いや、見た目は当てにならない。前世にも子供に擬態した覚醒者だっていたと一護が思っていると、さっさとプロテクターを身につけた(ウルル)がポツポツという。

 

 「これ、ちゃんとつけてくださいね。

 死にますから」

 

 刹那。少女が動いた。地面を抉り蹴って、一瞬呆然とする一護目がけてロケットのように突っ込んできて。振りかぶった拳を突き出していた。

 

 轟音が轟いた。

 

 「ほら、言わんこっちゃない」

 

 ポツリと浦原がつぶやいた。

 

 土煙で何も見えない。

 

 「死にましたか?」

 

 「どうでしょう?」

 

 大男、握菱鉄裁の問いに、浦原は口元を扇で隠したまま言った。

 

 否。反動で吹っ飛んだらしい一護が、土煙を割って、少し離れたところに滑るように落ちてきた。

 

 だが、すぐに一護は立ち上がると、そのまま駆け出し、一度(ウルル)のそばを通り抜けてプロテクターを拾い上げる。

 

 気休めでしかないかもしれないが、ヘッドギアはつけておいた方がいいと判断したのだ。

 

 が、すぐに困惑した。肝心のヘッドギアは布の塊のように一護の手の中にだらりと垂れているのだ。

 

 なお、背後に拳を連打して地面を砕く(ウルル)が迫っている。一護は逃げ回りながら叫ぶ。

 

 「これ、どうやってつけるんだ?!」

 

 「黒崎サン黒崎サン!

 こうするんスよ!おでこにこうやってくっつけて!思いっきり叫ぶんス」

 

 ジェスチャー交じりに浦原が叫んだ。

 

 「受けてみよ正義の力!

 正義装甲ジャスティスハチマキ!装☆着!」

 

 「ふざけるなっ!時と場合を考えろ!」

 

 あんまりなセリフに、一護は反射的に叫んでいた。

 

 その背後を、(ウルル)の殺人パンチが迫る。

 

 「ノリが悪いっスねえ。人生にはおふざけも大事っスよ?」

 

 「うるせえ!」

 

 一護は怒声とともに手の中の布の塊を、浦原目がけて投げつけた。

 

 「痛い?!」

 

 ものの見事に、浦原の目にビターンっ!と命中したそれをよそに、一護はとりあえずグローブだけつけて、(ウルル)に向き直った。

 

 逃げ回っている間に、スピードについていけてることに気が付いたのだ。

 

 (ホロウ)と戦えるくらいなのだ。こちらが多少あれこれしても問題ないだろう。

 

 初撃をどうにかよけ、一護はそのまま拳を繰り出す。

 

 容赦なく顔を狙うが、軽くよけられる。

 

 はた目には高校生が幼い少女に殴りかかっている絵面だが、そんなことをいってられる状況ではない。

 

 直後、(ウルル)の動きが変わる。

 

 あ、と誰かがつぶやいた。

 

 一護の突き出した腕に飛び乗った彼女は、そのまま一護目がけて蹴りを繰り出し。

 

 「え」

 

 一護が大きく体をそらせた。ブリッジのように体をそらし、そのまま目を丸くする(ウルル)を放り出し、着地した彼女目がけてそのまま頭を振り子のように地面スレスレに振って、反動で足技を繰り出す。

 

 「何だありゃ。気持ち悪い動きしやがって・・・」

 

 それを見るジン太が呆れた声を出した。

 

 「これはまた・・・」

 

 ずいぶんと奇妙な動きをする、と言葉を失った鉄裁と、扇で口元を隠す浦原もまた目を細めた。

 

 だが、一護の足技は(ウルル)の肘にあっさりと受け止められ、そのままカウンターで拳をたたきつけられた。

 

 とっさに一護は両腕でそれを防いだが、岩壁に叩き込まれ。

 

 岩壁にめり込む直前で、鉄裁に抱き留められた。

 

 「・・・助かった。礼を言う」

 

 「いえいえ」

 

 「黒崎さーん。プロテクター付けないと危ないって言ったでしょ?」

 

 「ならちゃんとつけ方を教えろ。実用性のない嘘八百を抜かすな」

 

 額を軽く切ってうめく一護はそれでも、鉄裁に礼を言う。浦原には、鋭い一瞥をくれただけだ。

 

 「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか・・・」

 

 わざとらしく悲しそうに、ヨヨヨッと泣き真似をする浦原に、一護は舌打ちした。

 

 「もう一度だ。今度はやり切る」

 

 姿勢を正して、(ウルル)を見やる一護に、浦原が「いーえ!」と声をかける。

 

 「オメデトさんですよ。

 レッスン1、クリアっス!」

 

 「?!」

 

 浦原のセリフに、一護はぎょっと目を見開いたが、ややあって「なるほどな」とつぶやいた。

 

 「伸される前に伸せとは言ったが、その子を倒せばクリアとは、一言も言ってなかったな」

 

 「はい♡」

 

 うなずいて、浦原はヘッドギアを脱いだ(ウルル)の頭をなでながら言った。

 

 「もともとこの子は対死神戦レベルの戦闘能力を持ってるんスよ。

 “人間の魂魄”じゃどう足掻いたって勝てやしません」

 

 なるほど、と一護は内心でさらにつぶやいた。道理で、遠慮なく(ホロウ)にけしかけるし、あんなに強いわけだ。

 

 「・・・まだ、息苦しいですか?」

 

 「いいや」

 

 「体の動きづらさは?ないでしょう?いつから?」

 

 「・・・おそらく、初撃をよけた直後から」

 

 「正解!」

 

 一護の言葉に、浦原は笑っていった。

 

 「このレッスンは一発勝負!最初の一撃をかわせるかどうか!それだけです。

 霊力ってのは魂魄が消滅の危機に瀕した時に最も上昇しやすい。

 だからこういう一発勝負。

 上手く霊力が上がれば、パンチをかわせてめでたしめでたし!」

 

 なるほど、と続けて一護はうなずいた。そういうことなら、よけいな心構えをさせないよう、ああいう言い方をするわけだ。

 

 パンチをよけ損ねる、あるいは霊力が上がらず、一護が死んでもそれはそれで構わなかったに違いない。

 

 まあ、こちらはそんないかれた男に頭を下げた身の上なのだ。あまりあれこれ文句はつけるまい、と一護は文句を口の中でかみ殺した。

 

 「それじゃあ、合格祝いだ!このまま」

 

 浦原がすべていうより早く、鉄裁が振り下ろした斧が、一護の肉体と魂魄をつなぐ因果の鎖を断ち切っていた。

 

 「このまま、レッスン2というのは?」

 

 絶句する一護をよそに、笑って浦原は言った。




 なお、この話は続くのだ。





 この勉強会篇はあんまり改変はできませんでした。そりゃ、振るう剣がないので、アクションも固定されますわな。

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