元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 これにて勉強会終了です。

 という訳で、続きです。


【#18】元銀眼の魔女の死神代行、斬魄刀の名前を知る

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 膝をついた一護は咆哮していた。噴き出した白い泥のようなものは、顔のほとんどを覆い、髑髏じみた仮面を作ろうとしている。

 

 咆哮は、いつの間にか空間をきしませるような圧力が伴いだしていた。

 

 「くっ!」

 

 鉄裁がうめくと同時に、後ろ手に拘束された一護の腕から、楔のような固定具がはじけるように次々外れていく。

 

 「限界です!店長!封殺型に切り替えます!」

 

 叫んで、鉄裁は地面に指をついた。

 

 「縛道の九十九、第二番!卍禁!

 初曲、止繃(しりゅう)!」

 

 その言葉とともに、放出された白い布のようなものが、なおも咆哮を続ける一護の体躯をからめとり、ミイラのように一部の隙もなく包み込んでいく。

 

 「弐曲、百連閂(ひゃくれんさん)!」

 

 続いて、ねじれたとげのようなものが、一護の肩回りを射抜いて、布状の拘束に重なっていく。

 

 「お、おい!鉄裁!」

 

 慌てふためいて、穴の上でジン太が叫んだ。

 

 「何してんだよ!そんなモン食らわしたらソイツ死んじまうぞ?!」

 

 「こうなってしまっては致し方ない!押さえつけるのももはや限界!

 (ホロウ)となる前に消えていただく!」

 

 無情に言い放ち、鉄裁は両手を合わせた。止めようとするジン太の声を一顧だにせずに。

 

 「終曲!卍禁太封(ばんきんたいほう)!」

 

 同時に、布に巻かれ、とげに射抜かれてなおも咆哮しつつもがく一護の頭上に、巨大な四角柱が現れた。

 

 その時だった。胸から顔にかけて、噴き出た霊圧のせいで布状の拘束が破けた。露になった一護の顔にはドクロのような白い仮面が付いて、胸元には孔が開いた――(ホロウ)そのものの姿となっていた。

 

 吹き出る霊圧さえ、(ホロウ)のものとなってしまっている。

 

 「これまで!」

 

 言葉を詰まらせるジン太をよそに、鉄裁は四角柱を振り下ろした。

 

 浦原が、(ウルル)とジン太を抱きしめてかばう。同時に凄まじい爆発が起こった。霊圧が四角柱を吹き飛ばし、飛び出したものが天井に当たると、そのままそこをすべるように移動してから、地面に降り立った。

 

 「な、何だ?!誰か出てきた?!あのガキか?!なんなんだよ・・・一体・・・!」

 

 ジン太がうめく。土煙のせいで何が出てきたか、全く見えない。

 

 「おい!お前か?!ガキ!返事しろ!オレンジ色!おめーなのかよ!生きてんなら返事しろって」

 

 ジン太の問いかけに、答える声はない。否、こちらに向けられる不気味な睨むような霊圧が放たれただけだ。

 

 だが、やがてその霊圧は抑え込まれるように収束し、土煙とともに消えていく。

 

 そこには、男が一人いた。しっかりと両足で立っていた。その衣服は漆黒の着物と袴――死覇装になり、白い足袋と草鞋を履いている。背には身の丈ほどの大刀を背負い、それを納めるための鞘を固定するための赤い鎖が、ベルト代わりに肩から斜めにかけられていた。体のあちこちに、鉄裁の縛道の名残の布切れを引っかけている。

 

 顔には先ほどの仮面をしたままだった。

 

 「死覇装に、仮面・・・。

 (ホロウ)なのか?死神なのか?どっちなんだよ・・・?」

 

 戸惑った調子でうめくジン太と、おびえたように手を握りしめる(ウルル)。浦原は泰然と、目の前の人物を眺めている。

 

 直後、男が動いた。ゆっくりとその右手を担いだ大刀の柄に回して、抜刀した。刀身は数センチを残してほとんどない、朽木白哉に折られたままだ。

 

 それを見た、ジン太と(ウルル)はとっさに身構えた。

 

 「なめんな・・・!来んなら来いよ!さっさと・・・!」

 

 言いかけるジン太を無視して、男はその柄を自分の仮面にぶつけた。仮面を乱暴に割って、残った一部を完全に引きはがしてから地面に落として、「ふうっ」と一息ついた。落とされた仮面は、破片ごと空気に溶けるように消える。

 

 その顔は、確かに黒崎一護本来の、理性を持った顔つきだった。

 

 「(ホロウ)になったんじゃ・・・なかったのか・・・」

 

 半ば呆然とつぶやくジン太に、一護は体の具合を確かめるように手のひらを握り開きしてから、ややあって姿勢を正して目を閉じた。

 

 「オメデトさーん♪」

 

 ぱちぱちと拍手して、浦原はパッと扇を拡げた。

 

 「きっちり死神に戻れたじゃないすか!お見事!レッスン2クリ」

 

 「うるさいぞ」

 

 浦原の言葉をさえぎって、一護は目を閉じたままぴしゃりと言い放った。

 

 「聞こえねえだろ」

 

 「はあ?」

 

 怪訝そうな声を出すジン太に、おやと浦原は帽子の下でかすかに眉を動かした。

 

 

 

 一護の中で、少女の声が聞こえている。『戦士』になる前の、幼いクレアの声だ。

 

 『いいの?それを聞いちゃうと戻れなくなるよ?』

 

 長い金髪を揺らして、クレアは一護を見上げながら言った。

 

 『死神代行って、ルキアが死神に戻るまで――つまり、臨時だったから引き受けたんでしょ?期間限定だってわかってたから。

 テレサが言ってくれたでしょ。戦士なんかにならず、幸せになってほしかったって。

 それを聞いちゃったら、戦いから逃げられなくなるよ?』

 

 だとしても、今の一護には力が要るのだ。ルキアを助ける力が。

 

 それをやらずに、耳をふさいでうずくまれば、きっと裏切ってしまったと、許せなくなる。

 

 自分が。自分の魂が。自分の中に共にある、戦士たちの魂を。受け取った母の想いを。

 

 彼らとともに進みたいと思った、自分の誓いを。

 

 だから、一護は耳をすませるのだ。

 

 『ならば、静聴するがいい』

 

 耳朶に届いた低い声は、あの崩れ行く摩天楼で出会った黒衣の男のものだ。

 

 『恐怖を捨てろ。前を見ろ。進め。決して立ち止まるな』

 

 唄うような男の言葉に、一護は片手に持ったままの斬魄刀の柄を背の鞘に納め、抜刀姿勢をとる。

 

 『退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!

 叫べ!我が名は!』

 

 

 

 「斬月!」

 

 目を見開いて、吠えるように一護は斬魄刀を振りぬいた。

 

 同時に、霊圧が爆発した。

 

 「ブッ?!またかよ?!」

 

 土煙にあおられて、ジン太が文句を言った。とっさに浦原が広げた羽織のおかげで、(ウルル)ともども無事だ。

 

 霊圧の嵐が収まった時、一護が両手を添えて握って振り下ろした斬魄刀は、そのありようを一変させていた。

 

 その刀に、鍔はなかった。柄もなく、握りには晒しを無造作に巻いただけ。鞘もいつの間にか消えている。ただ、大きく分厚く大雑把な刃だけがあった。さながら出刃包丁のような。いや、それよりもなお武骨な、ただ切り伏せるということだけに特化したような刃だ。

 

 刃の側面、握りのすぐそばに刀身彫刻が施されている。十字のようにも剣のようにも見える独特の剣紋(エンブレム)は、銀眼の『戦士』がナンバーとともに渡される印だ。クレアに与えられたそれだ。

 

 膝をついていた一護は、立ち上がりながら右手の中のそれを持ち上げ、黙って眺めた。

 

 「まさか、レッスン2クリア直後に、始解も会得してしまうとは・・・」

 

 ポツリと浦原が感心したようにつぶやいた。

 

 「それじゃ、このまま勢いに乗ってレッスン3行きましょうか?」

 

 言いながら進み出た浦原に、一護はその視線を向けた。

 

 「レッスン3はなんと!時間無制限!斬魄刀を使って、アタシの帽子を落とせたらクリア」

 

 「浦原さん」

 

 言いかけた浦原に、一護は言葉草こそ静かだったが、有無を言わせぬ圧をもって呼び掛けた。

 

 彼に向き直り、その大刀――斬魄刀・斬月を振り上げながら。

 

 「うまくよけてくれ。手加減できそうにねえ」

 

 常のぶっきらぼうな口調は、何かを抑え込んでいるような響きを帯びていた。

 

 「起きろ!『紅姫』!啼け!」

 

 何かを察した浦原は、ステッキに仕込んでいた刃を引き抜きながら叫んだ。

 

 同時に、その刃は細身の曲がった柄の斬魄刀となった。

 

 直後、一護が斬月を振り下ろした。

 

 穴から這い出た鉄裁は、眼鏡が重体であれど、とっさに子供のなりをした二人を避難させ、浦原は斬魄刀から出現させた紅いガラスのような盾を展開する。

 

 でなければ、腕の一本も持っていかれたことだろう。

 

 一護が振り下ろした、大刀から放たれた巨大な斬撃によって。

 

 「この“血霞の盾”がなければ危なかったっスねえ・・・。

 帽子も、壊れちゃったっスねえ・・・」

 

 ほっと息をつくように浦原は言った。その頭から吹き飛ばされた帽子が地面に落ち、つばの一部が切れているそれを拾い上げて、かぶりなおす。

 

 「しかし、まさかただの一振りでここまでとは・・・」

 

 言いながら、浦原は自分のすぐ真横を見やった。

 

 一護の巨大な斬撃によって、大きく切り裂かれた勉強部屋を眺めながら。

 

 「黒崎サン・・・君は恐ろしい子供だ・・・。

 レッスン3、クリアっす!」

 

 当の一護は、斬月を杖代わりに身を持たせかけ、大きく息をついていた。

 

 少々疲れたが、まだ動けそうな気がする。というか、動きたい。動いておきたい。

 

 そうして一護は立ち上がり、斬月を肩に担ぎなおした。

 

 「浦原さん。今、何日目だ?」

 

 「そうですねえ。レッスン1で1日、レッスン2で3日、で、今日で4日目ですかね」

 

 指折りながら飄々と答えた浦原に、一護はなるほど、と内心で頷いた。穴の中にいたので時間感覚がだいぶあいまいになってしまっていた。

 

 「ちなみに、他にやることは?」

 

 「いーえ。元々10日フルに使って死神の力を取り戻させる予定だったんス。想定外に早く終わっちゃいましたねえ」

 

 「なら、ちょうどいい。少し体を動かしたかったんだ」

 

 言いながら一護は踏み込んだ。振りかぶった斬月は、浦原の紅姫に軽く受け止められる。

 

 「勘を取り戻したい。リハビリに付き合ってくれ」

 

 「やる気があるのはいいですねえ。お付き合いしましょうか」

 

 食い込みあう刃越しに言い放った一護に、浦原は笑って答えた。

 

 

 

 

 

 10日の勉強会は終わり、1週間の待機となった。

 

 浦原たちが、尸魂界(ソウル・ソサエティ)への門を開くまでの期間だ。体を休め、コンディションを整えるのも大事だが、一護は学生でもある。短いけれど夏休みを楽しめ、と言う浦原の言葉に、一護は素直にうなずいた。

 

 ついでに、『勉強会』と尸魂界(ソウル・ソサエティ)行きで確実にできないだろう課題も片づけなければ。夏休みの大半がつぶれることを思えば、課題はできる限り片付けておかねばならない。

 

 そして、8月1日。午後3時。

 

 泣きながら飛びついてくる浅野啓吾を蹴倒して、一護は一息ついた。

 

 非日常の合間に差し込まれる日常。次の戦いへのはざまとしても、それは大事にしていきたい。

 

 前世のクレアであったときは、せいぜい移動くらいしかなかった。7年の潜伏期を経てからは、時々仲間たちとアルコールをたしなんだりはしたけれど。戦いに耽溺する『戦士』も、息抜きは必要なのだ。

 

 それは、一護も重々わかっている。

 

 というわけで、本日、一護は学友たちと隣町である鳴木市の花火大会に参加した。だいぶ時間は早かったが、夏休みを銘々の用事を過ごしていた仲間たちの話を聞いておしゃべりしてたら、あっと言う間に時間は過ぎていく。

 

 夏休みを一人で過ごしたという浅野は実にテンション高く一護に絡んできた。暇で暇でしょうがなかった!と嘆く彼は、たった10日でゲームソフト5本をクリアしたと、涙ながらに告げる。それはそれで才能あるのでは?と一護は思う。

 

 プーケットから帰ってきた小島はこんがり日焼けしており、お土産だというヤシの実を抱えていた。なお、例のごとく浅野に塩を投げつけられていた。

 

 インターハイで準優勝だという有沢たつきは、右腕を骨折したということで、ギプスで固めて三角巾で吊っていた。試合で負傷したのではなく、準々決勝後にジュースを買いに行こうとしてはねられたらしい。準決勝相手は左腕一本で倒したそうな。

 

 なお、決勝相手は有沢曰くのゴリラのような女だったらしい。右腕さえ無事なら!と有沢は悔しがっていた。

 

 そうこうしているうちに、日が傾いてきた。

 

 会場は小野瀬川だが、川向こうの市立グラウンドで打ち上げるので、もっと向こうじゃないときれいに見えないと、浅野と小島が口をそろえて言う。

 

 この辺で別にいいじゃん、と面倒がる有沢に、それが若者の言うことか!と食って掛かる浅野。

 

 彼は一等この花火大会を楽しみにしていたらしく、有沢と井上さんの浴衣姿を見たかった!と泣きわめいている。

 

 それを一同で冷めて眺めていると、わきからガラゴロと下駄を鳴らしながら駆け寄ってくるものがいた。

 

 浴衣フル装備の、黒崎一家(一護除く)である。

 

 「一護ー!」

 

 「おにーちゃーん!」

 

 「一兄ぃー!」

 

 満面の笑みで3人まとめて飛び掛かられ、ぎょっとした一護はそのまま押し倒されるように堤防から転がり落ちた。

 

 「ほらほらお兄ちゃんもチョコバナナ食べなよー!

 おいしいよ!はいあーん!」

 

 「あーん!」

 

 「い、いらねえ!

 ッというか、なんでおまえらが隣の市の花火大会に来てるんだ?!」

 

 ほおを赤らめてテンション高く、のしかかったまま一護にチョコバナナを差し出してくる妹二人に、一護は目を白黒させる。

 

 「何よう!!あたしのバナナが食べられないってゆうの?!!」

 

 大声で喚く遊子に、一護は鼓膜がイカレそうになるのをこらえながら、吐息に混じるかすかな酒臭さに、察した。

 

 そもそも、しっかり者の花梨が、あんなネジが外れたようにヘラヘラしていることもおかしいのだ。

 

 「おい!なんでこいつら酔ってんだ?!」

 

 「いやー、会場で『八百超』のケンじいさんがフルーツジュースの屋台出しててな。

 そこでジュース飲んだんだけど、あのじいさんボケてて酒のことを水だと思い込んでるらしくてなあ。

 ジュース薄めようとして酒混ぜてたみたいなんだわ」

 

 「あの・・・予想でしゃべって申し訳ないっすけど、それ多分ボケとかじゃないっすよ・・・」

 

 「飲ますな馬鹿!それでも医者か貴様!」

 

 ヘラヘラと言いながら肩をすくめる一心に、浅野がおずおずとツッコミを入れるが、一護がそれをかき消すような怒声を張り上げた。

 

 「まあ、些細なことは気にするな!それよりどうだ?」

 

 くるりと振り返って、一心は立てた親指で彼方を差しながら歯を光らせつつ言った。

 

 「向こうに朝の7時から出向いて確保しといた特等席があるんだが、そこにみんなで移動しないか?!」

 

 「「イエー!」」

 

 「マジっすか?!」

 

 「やったー!」

 

 一心に合わせて歓声を上げる遊子と花梨に、浅野と小島が万歳する。

 

 それを眺める一護は、父が朝から留守だった理由をようやく察した。

 

 「ほんとは川にイカダ浮かべてそこから見ようと思ってたんだが、ケーサツに捕まりそうになってね!ハハハ!」

 

 カラカラ笑う一心に、一護は冷たい一瞥を送る。そのままぶち込まれてしまえばよかったのに、と言わんばかりだ。

 

 テンション高く、有沢と井上にも声をかける一心だが、あとで行きますと言う有沢の言葉に、うむ!わかった!とテンション高い返事を返し、そのままクラスメートの男勢と娘たちを連れて、一目散にかけていく。

 

 それを見送って、一護も仕方がないな、と後に続く。

 

 「悪いな、たつき。毎度のことだが。

 いやなら来なくても大丈夫だ」

 

 「わかってるわかってる。心配しなくても後からちゃんと行くって。

 早く行ってあげな」

 

 ひらひらと手を振っていったたつきの言葉にうなずいて、一護はそのまま後を追った。

 

 有沢と井上が、何事か穏やかに話すのを尻目に。

 




 そして、この話は続いていく。





 なお、斬月に刻まれてる剣紋というのは、CLAYMORE原作コミックスを参照してください。

 斬魄刀って実用性第一で、刀身彫刻が施されているようなのはないなあ、と思いまして。

 まあ、あれは変形するので刀身彫刻はあんまり意味ありませんけどね。


 なお、劇中でも語っていますが、クレイモアに剣紋が刻まれているのは、それが戦士の墓標を兼ねているからです。剣紋が墓碑銘代わりになるんです。だから、剣紋は戦士一人一人で違うのです。

 ・・・つまり、それが斬月に刻まれてるって時点で、一護君が斬月をどう認識してるかお察し案件ですね!
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