元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
なお、主人公の精神状態のせいで、浅打すらない素手で対抗する羽目になりました。
メゾン・ド・チャンイチ、好きなんですけど、出番があげられないんですよねえ。
現実ではない、蒼天を古今問わぬ摩天楼が横断する精神世界。
黒崎一護は死覇装をなびかせながら、真っ白な自分そっくりな男と対峙していた。
とっさに二撃目を回避した一護は、歯噛みする。今の彼の背に、頼れる刃は存在しない。己が身一つで戦うしかない。
『どうしたクレイモア!剣がなければ何も出来ねえか?』
あざ笑う男に、一護は黙って身構えた。
『来ないならこっちから行くぜ?』
言いながら男は動いた。
握った晒しで、斬月を分銅のように振り回しだしたのだ。
それを見て、一護は息をのんだ。自分にそう使う発想はなかった。
『武器は敵を倒すものだ、倒せねえ武器に意味はねえって、ぶん投げたり弓で撃ち出そうとしたり、散々にやりやがったな?
そんなことしなくても、こうすりゃいいんだよ。
たっぷり味わえ!』
あざ笑う男が、斬月を投擲した。
一護はそれをよける。だが、男は晒しを一振りして、そのまま一護を薙ぎ払おうとする。
「っ、くっ!」
一護はとっさに斬月の峰を叩いて防御する。だが、無傷とはいかず、手の甲が紅くなっている。
『ぼさっとすんなよ、相棒。まだまだ行くぜ』
さらしを引っ張り、斬月を手元に戻した男が笑いながら言った。再び斬月を振り回し始める。
そのまま、男は一護を的であるかのように何度も何度も斬月を投擲する。
一護はどうにかそれらをよける。どうにか斬月の握りをつかんで取り戻そうとするが、相手の引っ張る力の方が圧倒的に強く、そのまま勢いに負けてビルの壁面に転がる。回避が間に合わなければ、危うくそのまま切り殺されるところだった。
一護の身体はかすり傷まみれになった。脇腹には血が滲み、頬にもいくつか切り傷が入っている。
『はっ。何が、クレイモアだ』
男があざ笑うように言った。斬月の晒しを引っ張り、跳ねるように宙に浮いた大刀の握りをつかみ取る。
『クレイモアはああだった、クレイモアはこうだった。
欠けず錆びず折れず、無敵の大剣!妖魔だろうが、覚醒者だろうが、絶対確実に切り裂く。出来ねえんなら、そりゃ使い手の問題で、大剣に問題は何一つない。
そんなもん使ってたら、
自慢するような、屈辱を吐き出すような。吐き捨てるように白い男は語った。
語りながら、男は斬月を振り上げる。
ギリギリという空気の軋み。男の霊圧が減って、斬月の霊圧が膨れ上がる。
一護は息をのんだ。男がやろうとしているのは、最初に一護が斬月を手にした時に放った延長斬撃だ。
直後、男が斬月を振り薙いだ。横向きに放たれた延長斬撃は、一護には当たらなかった。とっさに一護が大きく飛びあがったから。別のビルの壁面に足を付け、そのままさらに跳ぶ。
男がさらに延長斬撃を放ってくる。
かろうじて、一護はそれらをよける。あるいはのけぞり、かろうじて飛び上がり、必死に攻撃をかいくぐる。
ビルや石の塔は余波で容赦なく砕けていく。
『てめえは何だ?“クレイモア”か?“死神”か?
ま、死神だけはあり得ねえだろうがな。てめえの斬魄刀を、昔の武器代わりにする奴が、死神気取りなんざ、笑えねえよ!』
「!」
はっと一護は息をのんだ。
『
戦士の技とやらに酔うテメエじゃ、思いもよらねえことができるんだよ!』
息を切らす一護に、白い男が嘲りといら立ちを込めて叫ぶ。
そうだ。一護はもう、『戦士』じゃない。
阿散井がそうしていたように、死神は斬魄刀と戦うのだ。
けれど。
それでも、一護は『クレア』を捨てきれない。それは彼女の道行きを、テレサへの愛を、仲間たちの絆を、ともに進んだ『戦士』たちの魂を否定することになってしまうから。
『ああそうかよ!じゃあ、』
白い男が叫んで、一護目がけてとびかかる。斬月を振りかざして。
だから。
いつか、クレイモアよりも使いこなせるようになってみせる。かつての仲間たちに、すごい剣だろう、俺の、俺だけの剣だと胸を張れるように。
歯を食いしばり、一護は腕を伸ばした。
斬月を振りかざす男の腕をつかみ取り、強引に握りをつかみ取る。
『っ、てめえ!』
少し驚いたような男の声をよそに、一護は男から強引に斬月をもぎ取った。途端に、刃は殻が割れるようにいつもの斬月の色に変じる。
一護は弱い。クレアがそうだったから。テレサは強くなったと言ってくれたけれど、弱いままだ。
だから、強くなるのだ。この剣にふさわしいように。この剣とともに。
奪い取った――否、取り返した斬月で、一護は白い男に切りかかる。その目の前で、振り下ろした刃を寸止めした。
ちっと男が舌打ちして、一護をにらみつける。
『よかろう』
低い声がした。黒衣の男、“斬月”の声だ。
一護は大きく飛び下がり、白い男から距離を取りながら振り向いた。ビルの屋上付近のポールの先に、いつの間にかあの黒衣の男がたたずんでいた。
『ともに戦おう。強くなろう。一護』
柔らかな声で言った“斬月”に、一護はうなずいた。
「ありがとな。それから・・・悪かったな」
一護の声に、“斬月”は目を伏せる。
『おいコラテメエ!』
ここで、一護はぎょっと振り向いた。いつの間にか白い男が真横に立って一護の襟首につかみかかっていた。
先ほどまでの殺気はなかった。ゆえに、反応が遅くなってしまったのだ。
『土に刺すんじゃねえ』
「何?」
『斬魄刀を土に刺すんじゃねえ!何様のつもりだテメエ!』
男の怒声に、一護は思わず目を丸くした。
そういえば、現実では斬月は土に刺していたのだ。
けれど。
「・・・そうか」
少し、一護は自分の声が落ち込んだのを感じた。あの姿勢は懐かしく、落ち着くものなので、禁止されるのは寂しい。
いつでも戦える姿勢で、最も信頼できる剣に、最も無防備な背を預けて眠る。これが、『戦士』の休息だった。
『・・・時々なら構わぬ』
『はあ?!』
『最も無防備な背を預けられる、最も信頼できる剣と言われてしまってはな。そうだろう?』
“斬月”の言葉に、白い男は苦虫を噛んだような顔をしたが、ややあって舌打ち交じりに一護の襟元から手を放した。
『おい。次は膝においてやれ』
「・・・?
何をだ」
思わず問い返した一護の耳に、何かが届いた。水の中から聞こえるような、くぐもった声。一護を呼ぶ声だというのは、なんとなくわかった。
『時間だ。また会おう、一護』
『チッ・・・次に会う時まで、せいぜい腕を磨いておくんだな』
黒白の二人の男がそう言ったと同時に、一護の意識は眠るように遠くなった。
「黒崎君!黒崎君ってば!」
井上織姫に揺さぶられていた一護は、突如動いた。
ばね仕掛けの人形のように跳ね起き、斬月の握りをつかんでその刃を井上の首筋の前で寸止めする。
「きゃっ?!」
「っ! わ、悪い」
悲鳴を上げる井上に、はっとした一護はすぐに刃を下ろした。
完全に『戦士』現役時代に感覚が戻っていた。
銀眼の『戦士』は、華奢な女がクレイモアを装備して、さらにその上で独特の銀色の鎧装束をまとっている。見れば一目でそうだとわかり、半人半妖の身の上は大体忌み嫌われる。ゆえに、休息中に声をかけてくるものは、大体ろくでもない奴らだ。
野盗や傭兵崩れなどの乱暴狼藉者などまだマシだ。中には妖魔や覚醒者だっているのだ。
ゆえに、無防備に眠っているように見えて、外的要因で起きた際、反射で剣を握るように癖づいているのだ。
つい、やってしまった。
「ケガはねえか。本当に悪かった」
「う、うん。大丈夫だよ。びっくりしただけ。黒崎君、こんなところであんな格好で寝てるんだもん」
斬月を背に納め、晒しがその刀身を包むのを尻目に、問いかけた一護に、井上はうなずいた。
「寝ていたのではない」
口をはさんだのは、いつの間にかそばに来ていた夜一がこちらを見上げながら言った。
「刃禅。
斬魄刀と心を通わせ、精神世界で対話をする、死神の修行法の一つじゃ。
浦原から教わったか?」
「いいや。初めて聞いた」
「何?!」
夜一の言葉に、一護が首を振ると、黒猫は目を丸くした。
確かに、刃禅としては一護の姿勢は奇妙なものだった。だが、霊圧は完全に刃禅特有のものとなっていたのだ。
刃禅は通常、座禅を組み、斬魄刀を膝の上において行うものだ。だが、一護のそれは単に休息をとっているようにしか見えなかった。
知らずにまさか、斬魄刀と対話をしたというのか。
感心と驚愕をないまぜにした視線を向ける夜一をよそに、井上が話し出した。
「すぐ戻るって言ってたのに、もう2時間以上経つから、見に来たの。
明日早いんだから、もう休んでおこうッて」
「ああ、悪いな、井上」
「気にしないで」
一護の言葉に、井上はにっこり笑う。
見に行こうとする茶渡を押しのけ、井上が自分が行くといったのを一護は知らない。
少しでも眠って体を休めるべく、一護は井上と夜一の後に続いて空鶴邸の内部に引っ込んだ。
明け方。
仮眠をとってコンディションを整えた一同は、再び花鶴大砲の台座の前に集結していた。
両脇には、金彦と銀彦。空鶴は台座の上で胡坐をかいている。
なお、夜一の尻尾は某メーカーのよく曲がる歯ブラシのようにギザギザになっている。
これに関しては、一護が悪かった。仮眠部屋にたどり着いたと同時に床に倒れ込んで爆睡しだした彼は、なぜかそのままがっちりと夜一の尻尾を握りしめてしまったのだ。
他のメンバーがどうにか尻尾を外させたが、手の痕が付いた尻尾は御覧のありさまである。
起きた一護は、一連の事情を石田から聞いて超絶不機嫌な夜一に頭を下げるしかできなかった。
そこに、少し遅れて岩鷲がやってきた。猪を乗り回していた時とも、紹介された上等な着物姿とも違う、薄緑色の羽織と、崩れ渦潮の紋が入った黒い袴をはく彼は、一護の襟首をつかみ、叫ぶように語りだした。
血相を変えた空鶴を押しとどめ、彼は語る。
彼の兄は、死神に殺されたのだ、と。
兄は天才だった。流魂街の出でありながら、真央霊術院に1回で合格。その時点で霊力は六等霊威。護廷十三隊の副官補佐クラスであった。その後も、6年あるカリキュラムを2年で卒業し、本体に入隊。たった5年で副隊長にまで登り詰めた。
だが、彼は殺された。仲間であるはずの死神に裏切られて。
ガキだった岩鷲には何が起こったか詳しいことは覚えていない。覚えていることは二つだけ。
ボロボロになった死にかけの兄を家まで引きずってきた鬼のような死神の顔。
その死神に最後に嬉しそうに礼を言った兄の顔。
兄がなぜそんなことをしたのか、岩鷲にはわからないままだ。
だが、兄は最後まで一度も死神たちを憎みも嫌いもしなかったことは確かだ。
岩鷲は知りたいのだ。何故兄は最後まで死神を憎まなかったのか。なぜ兄は最後まで死神を信じてられたのか。
「てめえは他の死神とは違う!そんな気がする!
てめえについてけば何かわかんじゃねえか、そんな気がする!
だから俺はてめえを手伝ってやる!
本当の死神ってのがどういうもんなのか、ギリギリのとこまでいって見極めてやるよ!」
一護を睨み据えながら叫ぶように言った岩鷲に、こっそり隠れて聞く舎弟たちが涙する。
金彦と銀彦もまた「ご立派になられて・・・!」と、涙を流した。
「ハッ!」
空鶴は笑い飛ばす。弟の覚悟を。見送りがしけたものにならぬようにと。
「どうやら覚悟はきまってるみてえだな。途中でビビって逃げんじゃねーぞ、クソガキが・・・!
行くなら死ぬ気で行って来い!」
悪態交じりの声音が温かなものだと、一護は即座に理解した。
「おう!」
岩鷲の返事に、一護は襟元を取り返して姿勢を正し、踵を返した。
「行くぞ」
「てめえ・・・!」
短い一護の言葉に、岩鷲はわずかにむっとした顔をした。
「用意はいいか!もう待ったは聞かねえぞガキども!
いくぜ!!」
そうして、一同は大砲に歩み寄った。
岩鷲と二三言打ち合わせをした空鶴は、大砲の側面を叩いた。
すると、空鶴の拳を中心に渦巻のような紋様を描いて大砲に穴が開かれる。
「中に入れ!てめえら!始めるぞ!」
一護たちが内部に入ったところで穴は閉ざされ、大砲の周囲にしめ縄がかけられ、さらにその縄を四方から別の縄で固定する。
空鶴は身の丈ほどの筆を用いて、大砲の周囲に墨で円を描く。描き終わると、筆は乱雑に投げ捨てられた。
「じき、夜が明ける。それを合図に打ち上げ式が始まる」
言うのは夜一だ。
一護、井上、茶渡、石田、岩鷲が霊珠核を囲むように手を押し当て、その上に乗った夜一が打ち合わせ内容を再度告げる。
瀞霊廷内部に入ったらけしてはぐれないこと。隊長格と出会ったら迷わず逃げること。
目的はルキアの奪還のみ。絶対に無駄な危険は冒してはいけない。
「“彼方!
赤銅色の強欲が36度の支配を欲している!”」
詠唱とともに、空鶴は右肩の短刀を墨の円の上に突き立てた。
「始まったぞ!霊力を込めろ!」
夜一の言葉に、一同は霊力を込めて、“砲弾”を展開する。
「“72対の幻、13対の角笛”」
空鶴の詠唱に合わせて、金彦と銀彦もまた印を組み、霊力の補助をする。
「“猿の右手が星を摑む!”」
詠唱しながら、空鶴は頭に巻く白布を引っ張る。それはひとりでに左手に巻き付くと、導火線のように握りこぶしに火を灯す。
空鶴はそれを墨の縁の上にたたきつけた。すると、円から火の線が大砲を伝わっていく。
「“25輪の太陽に抱かれて砂の
火が消えて煙の燻ぶる左手をそのままに、空鶴はなおも詠唱する。
「花鶴射法二番!“
空鶴の叫びとともに、砲弾は天高く放たれた。
「やりましたな、空鶴様!」「成功ですな!」と駆け寄ってくる金彦と銀彦を尻目に、空鶴は心配そうに空を見上げながらつぶやいた。
「気を付けて行って来いよ・・・岩鷲・・・」
それは、どこまでも弟を心配する姉の顔であった。
そして、話は次へ突入するのだ。
原作より、若干白一護がマイルドかもしれませんが、それもちょっと事情がありまして。まあ、一護君が前世の記憶なんて面倒なもの持ち合わせている影響みたいなもんです。
そのうち、これも語れたらいいんですけどね。
とりあえず、今回はここまでです。
次回は、VS班目一角です。よかったらまたお付き合いくださいませ。