元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
恋次戦は、どっちかといえば、CLAYMOREっぽい空気を重視したので、あんまりバトルバトルはしてないかもしれません。
という訳で、続きです。
どことも知れぬ、倉庫の一角に身を潜め、一護と岩鷲は話していた。
岩鷲が上空から見て描いたという地図を見下ろすが、肝心な道が書き込まれておらず、ほとんど役に立たない。
「その『白い塔』にルキアがいるとわかっても、どの道を使っていくか・・・」
「敵の配置とかわからればなあ。隊長格とか当たりたくねえよ」
ぼやく岩鷲に、一護は目を閉じて霊圧を探ってみる。
「・・・この近辺には居ないが、あちこちにいるな。一角の言っていた詰め所らしき辺りには複数――9、いやもっといるか。隊長格もある程度は霊圧を抑え込んでいるだろうから、副官やほかの席官とまぎれて、この距離からじゃよくわからねえな」
一つ、飛びぬけて巨大な・・・垂れ流しにされている霊圧がある。おそらく、これの持ち主が、一角が警告してきた相手だろう。
近くに一角の霊圧を感じる。一護のことは報告されたと思った方がいいだろう。
井上と石田は、どうにか死神との戦いを潜り抜けたらしい。霊圧からして、おそらくは石田が手を下したのだろう。
夜一は相変わらず所在不明。
入れ違いになってしまった茶渡は、死神たちをなぎ倒して大暴れしている。彼には悪いことをしてしまった。
「・・・お前、わかるのか?」
「大雑把なことだ。この周辺は死神が集結しつつある。暴れすぎたな。
他の席官や隊長格がやってくるのも時間の問題だな。
地理がわからねえから、逃げようがねえってのも痛い」
驚いたように言った岩鷲に、一護は目を開けながら言った。
死神の霊圧が大量にあって、細かく判別するのは骨だ。
「・・・ルキア」
ややあって、ぽつりとつぶやいたのは、人質にしていた青年――山田花太郎を名乗った死神だった。
近くにいたので、うっかり岩鷲がそのまま連れてきてしまった彼は、逃げようともせずになぜか大人しく座っている。
「ルキアって、朽木ルキアさんですか?」
その名前に、一護は勢いよく青年を振り向いた。何事か、と岩鷲もまた彼を見やる。
「やっぱり・・・そうなんですね?
六番隊の朽木隊長の妹君で、今は殛囚の・・・」
正座したまま、花太郎は一護を見上げながら言った。
「それじゃあ、『白い塔』っていうのは懺罪宮のことです・・・」
後ろめたげに少しその視線はそらされたが、ややあって再び一護を見上げながら、花太郎は言った。
「ぼく、知ってますよ。その塔への抜け道」
花太郎が一護たちを案内したのは、暗い地下水道だった。
石畳をはがした先の梯子、その下に続いていたそこを、3人は歩いていた。
この地下水道は瀞霊廷全域に張り巡らされていて、障害物なしでどこへでも行くことができるらしい。
他の者たちも、もちろんここについては知っている。だが、追いつかれることはないだろう、と花太郎は言う。
この中の複雑な構造を完全に把握しているのは、救護・補給専門の四番隊だけである。
地下水道が補給路を兼ねているから、補給部隊だけ内部を知ってればいいのか、と納得しかけた岩鷲に、すすけた背中で花太郎は否定した。
単にここの掃除も四番隊の仕事というだけである。弱いから雑用をいっぱい押し付けられてしまって・・・と。
なんか、かわいそうな部隊だな、四番隊。岩鷲が憐みに満ちたまなざしを花太郎に向ける中、一護は口を開いた。
「花太郎。
お前は何故、俺達にここまでしてくれるんだ?」
別に罠だと疑っているわけではない。花太郎の目に敵意はなかった。ただ、一護は知りたかった。
「俺達は敵だ。それが『白い塔』に行きたがっているからと、なぜ理由も聞かずに道案内をする?」
言いかけて一護は気が付いた。花太郎はルキアの名前に反応していた。
「・・・お前、ルキアの知り合いか?」
一護の言葉に、振り返った花太郎はすがるような視線を向けながら言った。
「あなたのことは、ルキアさんから聞いてよく知ってます・・・黒崎一護さん。
お願いです、ルキアさんを、助けてください」
水路の脇の、くぼみで休憩を取りながら花太郎は話しだした。
ルキアは今の懺罪宮、四深牢に入る前、六番隊の隊舎牢に入れられていた。
山田花太郎は、そこの清掃がかりを命じられていた。
実を言えば、彼は最初怖かったらしい。何しろ、ルキアは貴族なのだから。
けれど。
初日に“ルキア様”と呼んで、花太郎は叱られたのだ。困ったように微笑みながら、「その呼び方はしないでほしい」と。
その声が思っていたよりもずいぶん優しく、花太郎はずいぶん安心したのだ。
それからは日に一度、牢に入って掃除する――その時間が、花太郎は少しずつ楽しみになってきた。
ルキアも少しずつ、いろんなことを花太郎に話してくれるようになった。
そして、その大半は、黒崎一護についての話題だった。
二月ほどしか行動を共にしなかったが、不思議と心から信じられる奴だった。それなのに。自分のせいで、運命を捻じ曲げて、ひどく傷つけてしまった。
何をしても償いきれぬ。
そう言って、最後はいつも、ルキアは悲しそうな顔をしていた。
「なんつーか・・・」
一緒に話を聞いていた岩鷲は、戸惑ったような調子でぽつりとつぶやいた。
「変わった死神だな・・・そいつも」
「ああ。変わっている」
言って一護は立ち上がって斬月を帯びる。
「だから、助けに来たんだ」
ポツリと言って歩き出した。
「あっ、おい?!ちょっと待てよ?!」
「ぼ、ぼく、何かまずいこと言いました?!」
「知るか!
おい!一護!」
慌てる二人を尻目に、一護は走る。
二月ほどしか行動を共にしなかったが、不思議と心から信じられる奴だった。それなのに。自分のせいで、運命を捻じ曲げて、ひどく傷つけてしまった。
何をしても償いきれぬ。
ルキアはそう言ってたらしいが、それは一護のセリフだ。全部、一護が思っていることだ。
だから。
「絶対死なせやしねえからな、ルキア・・・!」
走りながら、一護はつぶやいた。
懺罪宮にほど近いとある石畳が持ち上がる。
こっそり目だけをのぞかせた花太郎は、右を見て左を見て、「オッケーでーす。上がってきてくださーい」と下に声をかける。
花太郎に続き、岩鷲、一護が続けて這い出てきた。
さすがに塔の真下までは道がつながってない。ここが塔に一番近い出口です、という花太郎をよそに、岩鷲が新鮮な空気だというように深呼吸した。
あれが懺罪宮だ、という花太郎に、二人は目的地へ目を向けた。
オレンジの屋根の塀に囲まれて、石造りの無機質な建物が群れをなし、一等大きな尖った塔――オベリスクのようなそれが天を衝いている。
かなり巨大だ。ここを歩き回るのは骨だろう。
岩鷲もそう思ったらしい。
「確かにずいぶん近くまで来たけど・・・スゲーなこりゃ。こりゃあ、こっから先の方がきつそうだぜ・・・」
見上げる岩鷲をよそに、一護はすぐさま視線を前に向けた。
「どうかしたか、一」
何事か言いかけた岩鷲に待てというように手を向け、一護は振り向きもせずに言った。
「階段のところに誰か・・・この霊圧・・・」
眉間に皺を寄せながらの一護の言葉に応えるように、階段の前を覆っていた靄が風に吹き飛ばされる。
たたずむのは男が一人。纏った死覇装。腰には斬魄刀。赤毛を結い上げ、ゴーグルで目元を覆っている。
「久しぶりだな」
言いながら、男がゴーグルをずらして額に引っ掛けなおす。
「俺の顔を憶えているか?」
「・・・阿散井恋次」
男の顔を見て、表情一つ変えずに一護が言った。
「意外だな、名前まで憶えてたか。
上出来じゃねえか」
不敵で凶悪な笑みを浮かべる阿散井に、一護は「そうか」と淡々と頷いた。
「な、何だあいつは・・・?今までの連中と全然・・・感じる霊圧の桁が違うじゃねえか・・・!」
「あ・・・ああ・・・あああ・・・」
こわばった顔でうめく岩鷲と、震えて後ずさる花太郎。
青ざめた花太郎が震えながらつぶやいた。
「あ、あの・・・あの方は・・・阿散井恋次・・・六番隊、副隊長・・・!」
「副隊長・・・!」
花太郎の言葉に、岩鷲が息をのんだ。
「正直驚いたぜ。
テメーは朽木隊長の攻撃で死んだと思ってたからな」
足を踏み出してくる恋次に、一護もまた進み出た。止めようとする岩鷲を一顧だにせずに。
「どうやって生き延びたのか知らねえが、大したもんだ。褒めてやるよ。
だがここまでだ」
すらりと、恋次は斬魄刀を抜刀した。
「言ったはずだぜ。俺はルキアの力を奪った奴を殺す。
テメーが生きてちゃ、ルキアに力が戻らねえんだよ」
斬魄刀を振りかざして突っ込んでくる恋次に、一護は斬月の握りに手をかけ、晒しがほどけるままに踏み込む。
「力を戻したうえで殺すのか。悪趣味だな。
まあ、どっちでもいい」
一護は斬月を抜刀した。切っ先で地面を搔いて火花を散らしながら、一護は加速する。
「通らせてもらう」
「そうしろ!テメーに俺が殺せるならな!」
笑いながら阿散井は、刀を持ってない手で手招きする。
「来いよ。力ずくは、嫌いじゃねえだろ?」
一護は無言のまま刃を振りぬいた。恋次の持つ刀と、硬い音を立ててかみ合う。
刃が弾かれる。そのまま二度三度と打ち合う。
刃の重量差があるのか、恋次が押される。
そのまま恋次は近くの壁に背中からたたきつけられた。
一護が振り下ろした斬月を、それでも斬魄刀で受け止める恋次の顔色は変わらない。
一護もわかっている。これは、小手調べだ。
「・・・訊くが、ルキアをどうやって助けるつもりだ?」
ポツリ、と阿散井が尋ねてきた。
「どうやって?」
「ここで俺を倒せたとしてまだ11人の副隊長がいる。その上にはさらに13人の隊長がいるんだぜ。
それを全員倒す以外に、ルキアを助ける方法はねえんだ。
それをてめーはやれるってのか?」
どこか、言い聞かせるようにも聞こえる阿散井の言葉に、一護は顔色一つ変えなかった。
「知ったことか」
一護は吐き捨てる。握る斬月を、弾いて大きく飛び下がりながら言った。
「副隊長?隊長?関係ねえ」
ここで一護は、阿散井を見据えながら言った。
「立ちはだかるならすべて倒す。すべてだ。
まずはお前からだ」
「・・・何だそりゃ」
一護の言葉に、阿散井が吐き捨てた。失望したというかのように。
「その自信の何処に根拠がある?死線を一つ二つ超えたぐらいで何をそんなに思いあがってやがる」
ここで阿散井は一護の斬魄刀に、今気が付いたというかのように視線を向けた。
「斬魄刀が変わったな?
まさかその程度で強くなったと、自惚れてるんじゃねえだろうな」
阿散井の声音が変わった。来る、と一護は斬月を握りしめ。
「咆えろ、『蛇尾丸』!」
阿散井の斬魄刀が変わる。振り下ろしと同時に放たれた、蛇腹剣のような刺突撃を、一護は斬月でそらす。
外れた蛇尾丸が、背後の塀を穿ち砕く。
感じる霊圧に、一護はかすかに眉を顰める。以前戦った時と、今の阿散井は段違いだ。
次の瞬間、伸びきった蛇尾丸がしなって、鞭のようになおも一護を襲う。
一護はそれを斬月を使ってさばく。
「チッ。相変わらず妙な野郎だぜ。
霊圧はクソの癖に、こっちの攻撃をそらしやがって」
一度蛇尾丸を引き戻し、舌打ちする阿散井に、一護は口を開いた。
「・・・現世に来たときは霊圧を抑えていたか」
「見抜いていたか。ああ、そうだ」
せせら笑うように、阿散井が言った。
「現世に出るとき、俺達副隊長以上の死神は、現世の霊なる者に不要な影響を及ぼさねえよう、力を極端に制限されるんだ。
今の俺の
「なるほど」
一護はつぶやいた。
「霊圧ゴリラを自慢するか。知り合いが見たら脳筋と言いそうだな」
デネブを思い出す言い回しになってしまった。
クールな彼女は結構辛辣で、初対面の怪力自慢の『戦士』ナンバー11のウンディーネに、「戦いの時以外必要のない筋肉をこれ見よがしにひけらかしてる時点で小物感バリバリ」と吐き捨てていた。
なお、一護も本気になったらあのくらいの出力は出せそうだ。だが、戦闘スタイルの関係でやらない。それだけだ。
「あ゛?」
ピキリッと、恋次のこめかみに血管が浮き出る。
「一護さん!」と花太郎が悲鳴を上げるように叫んでいるが、一護は振り向きもしなかった。
以前も記したが、一護の霊圧読みは、阿散井のような霊圧が大きい相手ほど、読みやすいのだ。
ゆえに、阿散井相手は問題ない。たとえ霊圧が増えていようとも。かえってやりやすいくらいだ。
だが、いくつか問題がある。その問題のせいで、無傷で倒すのは難しいだろう。だとしても、一護は阿散井に勝たねばならない。
「どうやらさっさと死にてえらしいな?
お望みどおりにしてやる!」
蛇尾丸を振りかざして、恋次が飛び掛かってきた。
なお、この話は続いていく。
書いてて思ってしまいました。恋次君、咬ませ犬臭がすごいな?!
おかしいな、コミックス読んでて強敵感マシマシで、初読時凄くハラハラしたのに。