元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
オフィーリア(覚醒体)戦、私も大好きなんですよねえ。
阿散井の振るう蛇尾丸が、一護の背後の倉庫を砕く。
巨大な斬撃を付け、半分近くを粉砕し、屋根の上に逃げる一護を追いかける。
その名の通り、蛇のようにしなる蛇腹剣のような刀身が、一護を薙ぎ払おうとする。
一護は斬月で蛇尾丸をいなそうとするが、パワー負けしているのか弾き飛ばされて、体のあちこちにかすり傷を作っていた。
対する阿散井は無傷だ。
そらみろ。
阿散井はせせら笑う。
現世でこいつがやったのはまぐれだ。動きを見切られているようだが、肝心の一護の身体の方が追い付いていないようだ。
霊圧を全開にしてしまえば、こんな奴。
「そのざまでよくルキアを助けるなんてほざけたもんだな?!」
勝ち誇って阿散井は叫んだ。
「わかってんのか?!」
蛇尾丸をふるう。一護は体をそらし、蛇尾丸の刀身を側面からいなそうとする。そのまま鞭のようにしならせれば、いなしきれない一護の腕に傷がつく。
「てめえのせいだ!」
怒声を張り上げて、阿散井は蛇尾丸を振り下ろす。
巨大な斬撃が石畳を穿ち、一護の斬月を叩く。一護の額が切れた。垂れた血で目がつぶれている。
「てめえがルキアの
怒声とともに、阿散井は蛇尾丸をたたきつける。
一護はそれをよけつついなす。斬月の刀身で攻撃をそらし、刃をたたきつける。だが、蛇尾丸はびくともしない。当然だ、と阿散井は確信していた。
自分が、こんな馬の骨にも劣るクソ野郎に負けるはずがない、と確信していたのだから。
「てめえのせいでルキアは殺されるんだよ!
そのテメエが!どの面下げてルキアを助けるなんてぬかしやがる!ふざけてんじゃねえ!」
攻撃の衝撃で突き飛ばされるように後ろにさがる一護は、血まみれだ。急所こそ外しているが、傷のないところを探す方が難しいありさまになっている。
その表情は、相変わらずの無表情だった。それが阿散井の癇に、さらに障った。
「・・・っ!」
無言で、一護は蛇尾丸の刀身を跳ね上げ、やむなく阿散井は舌打ち交じりに蛇尾丸の刀身を縮めて収める。
最大三回か。と内心で一護は確信した。
阿散井の攻撃回数だ。
攻撃には、おおよそ連続で繰り出せる回数がある。覚醒者も、攻撃を連続で仕掛けようが、無限に続く攻撃はなく、どこかで呼吸するように一拍の間を空けていた。
だが、自分の弱点は自分がよくわかっていることだろう。追い詰められれば必ず最大回数で攻撃してきて、その時が攻撃チャンスであろうが、阿散井もそんなことは分かっているだろう。
だが、現状では阿散井の攻撃は読めても、彼に確実な痛手を与えられるとは限らない。逆にこちらがカウンターを食らう可能性が高い。
ならば、一護がするのは。
すっと一護は姿勢を正して、息を整える。垂れた血のせいで両目は閉じたままだ。はた目には、力を抜いて棒立ちになっているようにも見えた。
「ようやくあきらめたか。てめえには誰も助けられねえんだよ!!わかったか!!」
怒声とともに、阿散井は蛇尾丸を振りぬいた。最大霊圧を込めた、刺突撃だ。直撃させて、肉も骨も木っ端みじんに殺してやる。
阿散井は気づかなかった。一護の霊圧が引き上がり、その右腕がビキリッと不穏な筋肉の軋みを上げたことを。
インパクト。当たったはずだ、と阿散井は目を見開きながら思う。
だが、阿散井の蛇尾丸こそが、その刀身を半ばから何十もの金属片として砕かれた。
「なっ・・・?!」
絶句する阿散井は、一護を見やる。何が起こったのか。まるで分らなかった。一護の右腕がぶれたようにしか見えなかった。
「だからどうした」
一護は言った。
「誰が何と言おうと俺はルキアを助ける。お前の遠吠えなど知ったことか」
高速剣を放ったばかりの斬月を携えて。
またしても感じた得体の知れなさに、阿散井は思わず叫んでいた。
「・・・っ、てめえ、何もんだ!」
「死神代行、黒崎一護」
淡々と一護は言った。
「死神の霊力を取り戻し、斬魄刀・斬月を携えて。
朽木ルキアを、助けに行く者だ」
少し血が固まったのだろうか、一護は目を開けて阿散井を見据えた。少し引きつったような感じがするが、問題なく見える。
「すまねえな。お前の想いも共に持っていく」
「っ・・・何を」
言いかけた阿散井は、それでも蛇尾丸を振り上げた。刀身が短くなっても、まだ戦える。
だが、阿散井は気圧されていた。
糞生意気な、大したことのないクソ野郎のはずだ。
オレンジ色の髪の自称:死神代行の得体の知れなさ。
現世で一度彼に斬られたときのことを思いだした。ひどく静かな・・・それでいて燃えるような目だった。ちょうど、今と同じ。
一護が踏み込んだ。その右腕が握った斬魄刀ごとぶれる。次の瞬間、蛇尾丸の残っている刀身も同様に何十もの金属片として砕け、鍔から下だけしか残らなくなった。
そして。
今度こそ、阿散井は斬られていた。袈裟懸けに、バッサリと。以前よりも深く、潔く。
額のゴーグルが砕け、結い上げていた赤い髪が、髪ひもが切れたのかばさりと広がる。
よろけた阿散井はそれでも踏みとどまった。
「・・・だが、今にして思えば、ビビってただけなのかもしれねえな・・・俺は・・・」
うめいてふらつく阿散井は、今を見ていない。どこか遠い過去を思い返しているのかもしれない。
一護は知らない、遠い過去を。
「まったく・・・骨の髄まで野良犬根性が染みついてやがるんだ・・・厭になるぜ・・・!」
ガチリッと鍔と柄ばかりの斬魄刀を取り落として、のろのろと阿散井は一護に歩み寄った。
そして、その死覇装の襟をつかみ上げた。
「俺は・・・結局朽木隊長に・・・一度も勝てねえままだ・・・」
血反吐を吐くように、屈辱の傷をさらすように、彼は叫ぶ。
「ルキアがいなくなってからずっと・・・毎日死ぬまで鍛錬したが、それでもダメだった・・・!
あの人は遠すぎる・・・!」
一護の死覇装をつかむ右手に力を込めながら、阿散井は血を吐きながら、叫んだ。
「力ずくでルキアを取り戻すなんて・・・俺にはできなかったんだ・・・!」
叫びながら、阿散井は理解した。
目の前の小僧が憎らしかったのは。
ルキアの死因になったからというのもあるが、それ以上に。自分ができなかったことに向かって、勢いのままに突っ走れたからだ。
まぶしくて、うらやましかったのだ。
「黒崎・・・恥を承知でテメエに頼む・・・!
ルキアを・・・ルキアを、助けてくれ・・・!」
「・・・ああ」
短く一護はうなずいた。
ズルリッと、そのまま阿散井は倒れ伏す。
一護は息を荒げて、失血によってふらつき始めている。倒れるのは時間の問題、と言わんばかりだ。
「一護さん!」
「一護!」
叫んで駆け寄ってくる花太郎と岩鷲に、一護は向き直ろうとして膝をつきかけ、とっさに斬月を杖代わりに縋りついた。
視界が安定せず揺れているように感じ、一護は舌打ちした。
他の隊長格や席官がやってくるのを警戒して、霊圧を抑えていたのが完全に裏目に出た。だというのに、阿散井の叫びに否をつきつけたくて、結局高速剣を使ってしまった。あれは霊圧を引き上げるので、感知能力が高いものにはばれる。
残念だが、これ以上の進軍は無理だ。一度休息を入れなければまずい。でなければ、ルキアを助けられず、犬死になる。持っていくことにした阿散井の想いも、無駄になる。
こういうとき、『戦士』だった頃がうらやましくなる。半人半妖の身の上は、傷の治りも、体力の回復も、人間のその速度を凌駕していた。妖力開放をすれば、短期に回復することもできた。
ともあれ。
「おいっ!大丈夫か一護!返事しろっ!おい!」
「・・・悪いなっ・・・少し、休ませてくれ・・・」
岩鷲の問いかけに、息を荒げながら、一護はそう呻くのが精いっぱいだった。悪態をつく気力すらない。
花太郎は、倒れた阿散井を、こわばった顔で見降ろした。じわじわと血だまりが広がっていく。
まさか、副隊長を倒してしまうなんて。
「っ・・・死神たちが、来る・・・!」
「ほ、ほんとだ!3人、いや、4人、5人かも!」
「今大勢こられたら厄介だ!いったん退くぞっ!人の来ないところに案内してくれ!
一護、担ぐぞ!」
「・・・ああ・・・すまねえ・・・」
一護の言葉に、花太郎もはっとした様子で言い、岩鷲がぐったりしたままの一護を担ぎ上げた。
花太郎が地下水道の入り口を開き、岩鷲に担がれ、そのまま一護は再び地下水道に戻った。
入れ違いにやってきた死神たちが、血まみれの阿散井を見つけて、大急ぎで搬送していった。
気絶した一護を運び込んだ地下水道の一角――緊急時の休憩避難所で、花太郎は一護の死覇装を緩めて傷を改める。
花太郎は息をのんだ。数こそ多いが、どれも急所は外している。出血が派手になりやすい場所があったので、血まみれになっただけで命に別状はない。
あれだけの攻撃を、すべて急所を外させた。とんでもない話だ。
だが、出血が多いのは問題だ。当たり前だが、血が出すぎれば死神でも死ぬ。
急ぎ、花太郎は背嚢の中身を広げて処置に取り掛かった。
四番隊の隊員は、回復鬼道――通称:回道と呼ばれる治癒能力をもっている。それしかできない、と花太郎は自嘲するが、とにかく、それを用いて処置に当たる。
彼は傷を手当てしながら、怪訝な視線を向けた。大きく横に割れ目を付けた、赤い紋様の付いたドクロのような仮面。まるで
死覇装の懐にそれが入ってたおかげで、一等大きな脇腹の傷が軽減されていたのだ。
一護の傷が浅く済んだのを喜ばしく思う一方で、不気味に思えて仕方なかった。
夜中に一護は一度目を覚ました。
避難所の入り口では、岩鷲が腕組みしながら座り込んで舟をこいでいたし、自分の枕元では、花太郎が突っ伏している。相当頑張ってくれたのだろう。疲れ切った様子だ。
救護を専門とする四番隊の所属というだけある。傷はどれもきれいに手当てされていた。出血でくらくらした頭も、寝たおかげか、あるいは知らぬ間に造血剤でも投与されたのか、今は特に問題ない。
目を閉じて霊圧を探る。
夜一は相変わらず所在不明。茶渡も、井上・石田も、無事だ。
ほおッと息をついて、一護は体から力を抜いた。
地下水道のおかげだろうか、おそらく自分たちが一番、ルキアに近い。
早く行かねば、と焦る一方で、コンディションを万全にしなければ、という必要もわかっている。
前世でも、負傷中に強引に動こうとして、イレーネに怒られたのだ。確かに、のちに思い返せば、いくら冷静さを欠いていたとはいえ、無謀すぎた。同じ轍を踏むわけにはいかない。
まだ、眠って体力の回復に努めるべきだ。
阿散井でこれなのだ。そろそろ霊圧を抑えたまま戦うというのは無理だ。これ以降は、さらに戦い方を変えていかねば。
眠くなくても体力回復に努めるべく、一護は再び目を閉じた。
一護の意識が再び夢に沈んだところで、その枕元に誰かが立つ。白い死覇装をなびかせて、男は割れた仮面を拾い上げて自らの顔にかざしながら嗤った。
『まだまだだな。先が思いやられるぜ。
尻ぬぐいも楽じゃねえな』
仮面を置きなおし、真白の男は眠る一護の顔を見下ろす。
『ちゃんと生き延びろよ。いずれ俺のものになるんだからな』
ひざまずいて一護の耳にささやいた真白の男は、そのまま一護の額に手をやる。
むずがるように、一護の眉間に皺が寄せられ・・・ややあって、フッと緩む。
音もなく動いた唇が形作った名前に、男は面白くもなさそうにチッと舌打ちした。
『いつまで死人にしがみついてんだ。下らねえ。
てめえは黒崎一護だ。もう、クレアじゃねえんだよ。
なのに、あの女の思い出を後生大事に抱えやがって』
苛立たし気に吐き捨て、男は八つ当たりするように一護の頭を一度ぐしゃりと乱暴にかき混ぜ、そのまま姿を消した。
朝を迎え、一護はバッチリ回復した。
死覇装を着込んだ一護は、シーツのそばに置かれていた斬月を背負う。
死覇装の下にまだ包帯が巻かれているが、わずかなかさぶたがある程度だ。問題なく動ける。
一張羅がよだれでべとべとだ!と寝起きに憤慨する岩鷲をなだめる。よだれを垂らして寝こけている花太郎が、夜中に起きて岩鷲の傷の手当てもやってくれたことを、一護は知っている。
「おう、いけそうか」
「おかげさまでな。ありがとうな、花太郎。岩鷲も助かった」
「いえ!たいしたことは!」
「おお!もっと感謝しやがれ!」
恐縮した様子で首を振る花太郎と、カラカラと笑う岩鷲に、一護は仏頂面をわずかに緩めると、歩き出した。
なお、花太郎は特製の滋養強壮剤とやらを飲んでいたが、髑髏マークが怪しいうえ、飲んでも大して顔色も霊圧も変わってなかったので、偽物では?と岩鷲と一護は二人して疑った。
阿散井と戦った場所には誰もいない。昨日の今日でまだ同じ場所をウロウロしてるとは思わないのだろう。
それを一護の霊圧探査で探った3人は、再び石畳から抜け出して、今度こそ懺罪宮への階段に足をむける。
「なあ、そういや他の連中は大丈夫かな。
白マントの眼鏡とか、胡桃色の髪のカワイ子ちゃんとか」
「問題ねえ。3人とも霊圧は無事だ」
岩鷲の問いに、目を閉じた一護が答えると、「わかるんですか・・・?」と花太郎がつぶやいた。信じられないものを見る目で見てきている。
「ああ。死神の霊圧とは違うからな。目立つ」
目を開けた一護は言った。
「石田と井上は頭もいいし、要領もいいからな。勝てねえ相手にはケンカを売らねえようにしているらしい。霊圧もよく抑えている。
チャドも問題ねえな」
ここで、一護は言葉を一度切ってから、少し顔を上げていった。
「もっとも、あいつが負けるところなんて、俺には想像もつかねえけどな」
今、茶渡はちょうど戦闘中らしい。霊圧が膨らんでいる。あまり派手にやると、隊長格にかぎつけられかねない。無理だけはしないでほしい、と一護は思った。
それにしても。
一護は彼方に目を向けた。懺罪宮近く――護廷十三隊の詰め所とやらの方から、張り詰めたような霊圧を感じる。それも一つではなく、複数。
朝方に、あの辺りから霊圧の爆発を感じて、それでたたき起こされた部分もあったのだ。
何か、自分たちの知らない部分で知らないことが起こり始めているのかもしれない。
だとしても。
首を振って、一護は軽く呼吸を整える。
大事なことはルキアの救出だ。よそ見をしている余裕などない。早く彼女を助けなければ。
だが。階段に足をかけたその瞬間、一護は息をつめて身動きを止めた。
いる。
いる。いる。いる!いる!!!
駄々洩れ垂れ流しの霊圧が、ゆくさきに誰か――何かがいることを伝えてくる。
「おい、どうした、一護」
黙り込んで立ち止まった一護に岩鷲が声をかけてきたが、一護は久々に全身の毛が逆立つ感覚に陥っていた。
この感覚を初めて味わったのは、前世だ。西のリフルが覚醒者としての本性をあらわにした時だったか。やっとの思いで、そのパートナーのダフを倒した矢先、あざ笑うようにその脅威的な妖力を見せつけてきたのだ。
少しは強くなったという自信を粉みじんに砕いて、何もかもが遠すぎると突き付けてきた出来事だった。
まだこちらには気が付いてない。どうやら、相手は霊圧探査が苦手なタイプらしい。だが、今から引き返して別の道を探るのも悪手だ。
懺罪宮に続くほかの道らしき場所に、大きな霊圧の持ち主たちが配置されている。このままでは、警備がさらに厳重になっていく一方だろう。
となれば、見つからない可能性にかけて進むしかない。
「・・・先に言っておく。何かあったら構わず先に行け。いいな」
「一護?」
「一護さん?」
一護の言葉に、岩鷲と花太郎は怪訝な顔をしたが、一護は構わずに階段に足をかけた。
そんなわけで、この話は続くのだ。
とりあえず、今回はここまでです。
亀侵攻ですけど、しょうがないです。これでも、原作(他キャラのバトルや、護廷十三隊の騒動含む)より、スピーディーなんですけどね。
拙作では、クレイモア一護が霊圧探知に優れているので、彼の視点でもほかで何があったかということはうっすら察せられているわけですが。
次回は更木剣八戦となります。よかったらまたお付き合いくださいませ。