元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 書いてて楽しかったVS更木剣八。

 ギャグパートの彼はやちるちゃんと組み合わせて愉快な人になるのに、戦闘になると一気に狂人になる。そのギャップがまたいいと思います。


【#29】元銀眼の魔女の死神代行、十一番隊隊長と剣を交える

 

 岩鷲が悪態をつくのをBGMに、三人は急こう配の長い階段を駆け上がる。

 

 やっと頂上に着いた。無機質な石の通路を駆け抜けようとする。

 

 やはり警備が手薄だが、ここまで来て一護はやっと思い至ってしまった。

 

 警備が手薄なのではない。必要ないからだ。なぜなら、この異常な霊圧の持ち主がいるから。よほどの者でない限りまず回れ右しようとするだろう、と。

 

 そして。

 

 一護は足を踏み出した瞬間、悟った。

 

 見つかった、と。霊圧の中にある見えない双眸が、獲物を品定めし始めたのだ。

 

 「な、何だ、このでたらめな霊圧は?!

 何が、いやがんだ・・・?!」

 

 思わず岩鷲と花太郎が足を止めて顔をこわばらせる。

 

 「走れっ!」

 

 一護は振り向いて叫んだ。

 

 「奴が確実にこっちを見つける前に!少しでも前に進むぞ!」

 

 「奴?!何だよ?!」

 

 「わからねえ!いいからとにかく走れ!」

 

 叱咤して、一護は駆けだした。慌てて岩鷲と花太郎がそのあとに続く。

 

 だが、品定めの視線――否、剥き出しの刃の腹で肌を撫でられているような不穏な感覚がずっとまとわりついてきていると、一護は駆け抜けながら感じていた。

 

 ここで、息を切らして青ざめて震える花太郎が足をもつれさせて倒れ込んだ。

 

 急ぎ岩鷲が引き返して花太郎を「世話の焼けるヤローだなオイ!」と悪態交じりに担ぎあげる。

 

 そのまま走り続けた一護は、次の瞬間息をつめた。

 

 耳元で、喜悦交じりの低い声にささやかれた気がしたのだ。「お前か?」と。

 

 足を止めた一護は屋根の上を見上げる。

 

 死覇装と、その上に纏った白い隊長羽織。黒髪を棘のような何本もの房にまとめている。右目には黒い眼帯。左目を中心に顔を縦断する刀傷をつけた、大男だ。

 

 嬉々としてこちらを覗き込んできている。

 

 目が合ったと思った瞬間、一護は勢いよく振り向いていた。

 

 「反応は上々。聞いてた通りだ」

 

 屋根の上にいたはずの男は、一護の背後に立っていた。

 

 至近距離でたたきつけられる霊圧に、一護は息を詰める。

 

 「黒崎一護だな?」

 

 肌が粟立つのをこらえながら、一護は男を見上げた。

 

 「・・・あんたが一角の言ってた奴か」

 

 「ああ」

 

 にぃッと、男の薄い唇が嬉々とした笑みを浮かべる。

 

 「十一番隊隊長、更木剣八だ。

 てめえと、殺し合いに来た」

 

 びりびりと空気が震える。

 

 改めて一護は思った。この男は、一桁上位ナンバーの『戦士』どころではない。覚醒者に匹敵するレベルで強い!

 

 案の定、待ち伏せされていたわけだ。

 

 「どうした?」

 

 更木が話を促す。錆びた鉄をすり合わせるような声音だ。

 

 「言ってんだぜ、俺は。

 てめえと殺し合いに来た、ってな。

 何の返事もねえってことは、始めちまっていいのか?」

 

 更木の言葉と同時に霊圧が引き上がる。

 

 直後、何かが倒れ込む音がした。倒れ込んだ花太郎がよだれを垂らしてうつろな目となってけいれんし、岩鷲もしんどそうに膝をついている。

 

 一護は視線は更木に向けたまま、霊圧を読んで息をのむ。濃厚すぎる更木の霊圧のせいで、二人の霊圧がかすんでよく見えない。

 

 「・・・っ・・・岩鷲!動けるなら」

 

 「あー!よだれー!」

 

 一護が言うより早く、この場に似つかわしくない能天気な声がした。

 

 どこから現れたのか、桃色の髪の幼げな少女――死覇装をまとって刀を手に持った少女が、ぴょんと飛び出し、一護の肩に飛び乗ろうとしながら無邪気に言った。

 

 「わあー!よっぽど剣ちゃんが怖かったん・・・ふえ?」

 

 少女は気が付いた。彼女が踏みつけているのは一護の左肩ではなく、とっさに突き出された右手の甲だ。

 

 「わあー!」

 

 それを見た少女は目をキラキラさせ、一護が振り払うと同時にパッと大きく飛んで更木のもとに飛び下がった。

 

 「剣ちゃん!今の見た?!」

 

 「テメーに言われるまでもねえよ」

 

 少女の嬉し気な言葉に、更木はさらに嬉々とした声音で言った。

 

 一護は斬月の握りに手をかけて、抜刀した。

 

 「岩鷲!花太郎を連れて先に行け!

 こいつは俺が何とかする!お前は先に行って、ルキアを助けろ!」

 

 「何とかってお前ひとりで・・・!」

 

 「さっさと行け!・・・頼んだぞ」

 

 振り向きもせずに吐き捨てた一護に、岩鷲はもの言いたげに口元をモゴつかせたが、最後には「わかった!」と短くうなずいて、花太郎を担いでかけていった。

 

 それを追いもせずに、あくまで一護を見てくる二人に、なるほど、と一護は思う。

 

 殺し合いに来た、という言葉の通りあくまで狙いは一護と戦うことであり、岩鷲と花太郎や、その目的はどうでもいいらしい。

 

 そういうところも覚醒者らしい、と一護は思う。

 

 「・・・待たせたな」

 

 一護は一度呼吸を整え、抑え込んでいる霊圧を開放する。

 

 この相手なら、霊圧を抑えなくても読める。むしろ、抑えた状態で戦おうとする方が危険だ。

 

 すると、更木の目がさらにギラギラしたものとなる。

 

 「ははっ!悪くねえ!霊圧の割に俺のに当てられてねえと思ったら、抑え込んでやがったか!そこらの副隊長レベルじゃ相手にならんだろうな。一角が負けるわけだ!

 だが、俺との間にもまだ差があるな・・・。

 どうだ。一つ、ハンデをやろうか」

 

 言いながら、更木は死覇装のたもとを見せつけるように広げ、無防備な胸元をさらす。

 

 「てめえから先に斬らせてやるよ。

 どこでも好きなところを切りつけてこい」

 

 「っ?!」

 

 一護は一瞬ぎょっとしたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

 たまにいた。『戦士』相手に余裕を見せつけて、ハンデだなんだと言いながらなぶるように弄んでくる覚醒者が。

 

 確かに、そいつは強かった。だが、その油断が命取りだ。

 

 「いいだろう。お言葉に甘えさせてもらう」

 

 「ははっ!いいねえ!わかってるじゃねえか、お前!」

 

 一護の言葉に、更木は笑う。

 

 「楽しくやろうぜ。

 殺そうが殺されようが、所詮は暇つぶしだろうが。

 ほら、さっさと来いよ。首でも腹でも目玉でも、何ならこの一撃で俺を殺したっていい!」

 

 「後悔するなよ!」

 

 踏み込みながら、一護は右腕に霊圧をまとわせる。今出せる最大火力の攻撃。超高速の怒涛の多段攻撃。

 

 高速剣だ。

 

 右腕と、そこに握られた斬月がぶれる。無数の残像を残しながら、更木目がけて刃が幾重にもたたきつけられる。

 

 最後の一撃をたたきつけると同時に、一護は大きく飛び下がって息をつく。

 

 「ばかな・・・!」

 

 「おいおい」

 

 こわばった顔でうめく一護に、更木が口を開いた。

 

 「一発じゃなくて、一瞬で何発もってのはありか?まあ、いいのを食らっちまったな?

 やるじゃねえか」

 

 更木の口元に刻まれる笑みが、さらに嬉々としたものとなる。

 

 更木の腹から上は血まみれだった。いくつもの斬撃痕が付いている。だが、いずれも浅い。致命打にはほど遠い。

 

 確実に仕留めるつもりだった。そもそも高速剣は人間相手にはオーバーキルもいいところの技だ。それであの程度のダメージしか与えられないなんて。

 

 異常な打たれ強さだ。こんなところまで覚醒者じみてなくてもいいのに。

 

 「すごいね!いっちー!」

 

 いつの間にか、一護の足元に少女が立って、にこにこと笑いながら言った。

 

 「でも剣ちゃんをやっつけるには、力不足だね!」

 

 「・・・なら、死ぬまで斬るだけだ」

 

 動揺を即座に押し込めて、一護は斬月を構えなおした。

 

 恐怖を捨てろ。前を見ろ。退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。

 

 かつて“斬月”は語った。それはクレアにも、一護にも、双方に当てはまることだ。

 

 「俺が死んでねえのが意外か?」

 

 「・・・そちらの霊圧に圧し負けたらしいな」

 

 「そういうことだ。さっきの攻撃は結構いい線いってたが、俺が無意識に垂れ流す霊圧で軽減されたってところだな」

 

 からくりを見抜いた一護に、更木は言いながら、刀を抜刀した。細長い刀だ。ただし、刃はボロボロだ。

 

 「夜通し待った甲斐があったってもんだぜ。

 行くぜ黒崎一護。楽しもうぜ!」

 

 嬉々としながら、更木は刀を振り下ろした。

 

 

 

 石造りの建物に、剣撃音がこだまする。

 

 更木のぼろ刀と、一護の斬月が打ち合う音だ。

 

 更木の刀を一護の斬月が側面からはたく。

 

 だが、はたいた一護の斬月の刃を、更木が素手でつかみ取り、引きずり寄せる。

 

 そのまま更木の刀の切っ先が一護の胸を穿とうとするが、すんでのところで一護は軸をずらして、死覇装に穴をあけるだけで済ませてかわす。

 

 刀を握る更木の足を蹴飛ばし、一護は大きく跳ぶ。着地したと同時に、一護は振り向きながら斬月をかざして、更木の振り下ろしを防いだ。

 

 チリンチリンという鈴の音が、霊圧の変動とともに更木の接近を一護に教えてくれる。

 

 更木が髪に結んだそれが。

 

 鈴も、眼帯も、戦いをより楽しむためのものだ、と更木は笑う。笑いながら刀を振るう。

 

 甘く見られたものだ、と一護は思いつつも、それが命取りだ、とも思う。

 

 相手がこちらを舐め切っているなら、その間に倒すべきだ、と『戦士』としての経験からくる合理性がささやいてきている。

 

 「さっきの攻撃はしてこねえのか?」

 

 「もっと確実に切り刻めるようになってからくれてやるさ。

 そういうそっちも斬魄刀の解放をしねえんだな?」

 

 「俺の斬魄刀に名前は無え」

 

 間合いを取ってのやり取りに、一護は軽く目を見開いた。名前のない斬魄刀。そんなものがあるのか?

 

 「俺の刀は剥き出しだ。元々封印自体してねえんだよ。

 俺の斬魄刀の、こいつが本体だ」

 

 更木がそう言った時だった。

 

 「っ!」

 

 はっと息をのんで顔をそちらに向けそうになったのをこらえる。

 

 今。彼方の霊圧が。

 

 「よそ見してんなよ。それとも、始解しねえからこれ以上強くならねえとでも思ったか?見くびられたもんだな」

 

 次の瞬間、更木が繰り出した突きが、一護も左肩を抉る。霊圧感知でとっさに軸をずらしたが、危なかった。下手をすれば急所を抉っていた。

 

 集中しろ。更木を倒すのだ。

 

 「俺が斬魄刀を封印しねえのは、霊圧がでかすぎて全力で抑え込んでも封印できねえからだ。

 だから普段戦うときは、常に加減して斬る癖をつけた。

 わかるか?」

 

 大きく飛び下がりながら斬月を背に納める一護の前に、更木が踏み込む。

 

 「そうでもしねえと、敵が脆すぎて戦いを愉しむ暇も無えんだよ」

 

 振り下ろされたぼろ刀の一撃を、一護は弾く。

 

 風斬りだ。反動でたたらを踏む更木は、こらえた様子も見せずにニイッと笑う。

 

 戦いを、愉しむ。それを聞いた瞬間、一護は確信した。

 

 こいつは死神じゃない。覚醒者だ。自分ひとりで戦うなんて、覚醒者と同じだ。

 

 覚醒者は、妖力の暴走に飲まれて妖魔に堕ちた、元『戦士』を指す言葉だ。彼らは『戦士』であったころ用いたクレイモアを捨て、己が身一つで戦う。自らの爪牙と、妖気こそが最大の武器だというかのように。

 

 そして、同時にこうも思った。

 

 ならば、一護が負けるはずがない。

 

 一護は弱い。クレアだった頃から、何一つ変わらず。

 

 だが、自分一人で戦う覚醒者に負けはしない。なぜなら、一護は独りで戦ってはいないからだ。

 

 受け継いだ戦士たちの技と、ともにある魂が常にある。そして、そこに新たに斬月という(ともがら)を得たのだ。

 

 どうして負けるはずがあるだろう。

 

 

 

 あの瞬間。茶渡の霊圧が消えたかのように突如小さくなった。近くで大きな霊圧の変動があったので、おそらく席官や隊長格辺りにやられたのだろう。

 

 だが、生きている。

 

 ここで一護がやられたら、ルキアを助けるどころじゃない、他のメンバー全員が危険になる。そんなわけにはいかない。

 

 

 

 「・・・上等だ」

 

 一言、一護は言った。

 

 久々の覚醒者狩りだ。背負ったもの、負けられぬ理由、モチベーションは最高潮だ。

 

 斬月を肩に担ぐ。

 

 解放していた霊圧がさらに吹き出る。制御はしない。吹き出るままにする。

 

 そのまま一護は踏み込んだ。

 

 更木が一護を薙ぎ払おうとした。だが、その姿は幻影のように掻き消える。石畳を抉り、一護は更木の脇に回り、そのまま斬月を振り下ろす。

 

 左肩に巨大な切り傷を付けるが、更木は平然と一護に刀を振り下ろす。それを一護は側面からいなす。更木は目を瞠った。パワー負けしている。

 

 「()くぞ、斬月」

 

 ぽつりと言った一護に応えるように、その手の内側で晒越しの斬月の握りがほんのりと熱を持った気がする。()こう、と答えたように。

 

 更木が姿勢を崩すと同時に、斬月がその腹部を薙ぐ。高速剣の傷を、さらに深くえぐる。

 

 突き飛ばされるような格好になった更木は、とっさに隣の石壁にぼろ刀を突き立て、ブレーキついでに体を支える。

 

 大きく息をついているが、その表情に痛苦はなく、嬉々とした表情のままだ。

 

 それを見て、一護は舌打ちした。

 

 こいつ、生粋の戦闘狂だ。

 

 一護も肩の傷がある。急所こそ外しているが、今なお血を出している。長引かせるわけにはいかない。

 

 「楽しくなってきたな!一護!もっと楽しもうぜ!」

 

 更木が踏み込んでくる。

 

 一護は無言のままに斬月を振り薙いだ。更木の顔の中央を薙いで大きな刀傷を作るが、彼はそれに痛がりも怯みもせずに、一護目がけて刀を突き出した。

 

 左の頬をかすめた刀に、一護はかすかに顔をしかめる。

 

 「ははっ!たまんねえな!」

 

 更木が笑う。

 

 相手にしていられるか、と一護は踏み込みながら再び高速剣を発動させる。

 

 更木の左半身を中心に、無数の高速斬撃が叩き込まれるが、それは更木が強引にねじ込んだぼろ刀にはじかれて中断させられる。

 

 高速剣の反動と、更木の刀による切り上げが合わさって、一護は大きく空中に飛んだが、すぐに周囲の石の建物の壁に足を付ける。

 

 そこに追って飛び上がった更木がぼろ刀を一閃する。

 

 だが、一護の姿は残像だったらしく幻影のように掻き消える。

 

 着地した一護を追って、更木も着地する。

 

 高速剣を二回も受けた更木は血まみれだ。傷のないところを探す方が難しい。だというのに、楽しげに笑っている。狂気すら感じる様相で。

 

 何故倒れない?何故笑っている!これじゃ本当に覚醒者ではないか!

 

 「そんなに戦いが好きか!狂ってるぞ貴様!」

 

 「狂ってる?だからどうした!てめえこそなぜ戦いを好きにならねえ?!

 愉しめよ!死も苦痛も!その為のただの代償の一つだろうが!」

 

 「それは化け物の思考だ!」

 

 たまらず叫んだ一護に、更木は平然としたままだ。

 

 更木の論理は、覚醒者の論理だ。『戦士』だったものとして、それは受け入れられないのだ。

 




 だとしても、この話は続くのだ。





 原作一護君よりも、剣八に気に入られそうなクレイモア一護君。

 なお、精神世界修行を先にやったので、原作よりも進展がスムーズだったりします。

 ・・・私が高校1年生の時に更木と戦え、仲間助けに行けって言われても、能力があろうができる気がしません。

 それを思えば、やはりブリーチは勇気の物語なんでしょうねえ。
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