元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 とりあえず2話分だけとしておきます。

 VS更木剣八、これにて決着です。


【#30】元銀眼の魔女の死神代行、十一番隊隊長と相討つ

 

 「はっ!よく言われる。

 なら、俺と対等に戦えてるテメエも化け物だな。いや、わずかに――だが、確実にお前が上だ!」

 

 一護は更木の奇妙な余裕を見抜いていた。

 

 一護の方が負傷は少ない、更木の方が確実に傷が多いはず。なのに倒れない。余裕すらある。どういうことだ?

 

 まるで不死身のように。

 

 直後、更木が右目の眼帯に手をかける。

 

 「いつ以来だ・・・こんな高揚感は・・・!

 お前になら・・・全力で戦っても、良さそうだ!」

 

 更木が眼帯をもぎ取った。同時にその霊圧が爆発的に増える。青白い霊気が、天を衝く巨大な柱のように吹きあがる。

 

 「・・・その眼帯、視界を狭めてただけじゃねえのか」

 

 「ああ、そうだ」

 

 一護の問いかけに、更木は右手に持ったままのちぎれた眼帯の内側を見せてきた。5つの目と口が付いた、奇怪なそれを。

 

 「こいつは技術開発局の連中に作らせた、霊力を無限に食らい続ける化け物だ」

 

 どおりで眼帯の周辺だけ奇妙に霊力が薄いわけだ、と一護は内心で納得した。

 

 「今までこいつに食らわせていた霊圧を」

 

 言いながら、更木は右手を刀の柄にかけ、無造作に振った。直後、隣の建築物が袈裟懸けに寸断されて崩壊する。

 

 「すべてテメエを殺すためにつぎ込む。それだけのことだ」

 

 一護はそれを無表情に眺めた。恐怖はない。焦りもない。

 

 『聞こえるか、一護。

 奴の剣の悲鳴が』

 

 低く、落ち着いた声がした。“斬月”の声だ。一護のすぐ後ろに立っている。その肩に手を置いてくれている。

 

 更木が右手に持ったぼろ刀は、その霊圧に翻弄されているように、その刃をさらに砕けさせていっている。“斬月”の言うとおり、悲鳴を上げているように思えた。

 

 「・・・ああ」

 

 『あれが奴には聞こえない。信じあわぬ者同士共に戦えば、互いの力を損なうのみ』

 

 もったいない、と一護は少しだけ思う。

 

 『おのれの力しか信じぬ奴には、それがわからない。

 一護、お前は私を信じられるか』

 

 「当たり前だ」

 

 “斬月”の言葉に、間髪入れずに一護は答える。更木を見据えたまま。

 

 「クレイモア以上に使いこなせるようになる。一緒に強くなろうと俺は言った。あんたはともに戦おうと言ってくれた。信じているにきまってる。

 俺の力を全部預ける。だから、俺に力を貸してくれ」

 

 『ああ・・・!』

 

 “斬月”の手が、一護の握る斬月の持ち手に重ねられる。

 

 同時に、さらに霊圧が引き上がる。

 

 「ほう!ここにきてまだ霊圧が昇がるのか!面白え!」

 

 「当然だ」

 

 感嘆の声を上げる更木に、一護は短く答えた。

 

 「一角から俺が最強だと聞いてたんだろうが、残念だがそれは嘘だ。俺は弱い。最弱と嘲られたこともある」

 

 吹き出る霊圧をまといながら、一護は語った。

 

 かつて、それはコンプレックスだった。けれど、今は歩んできた道行を証明する、誇りの一端だ。

 

 「だから、ともに戦うんだ。斬月とともに。俺の中の魂たちとともに。自分ひとりの貴様より、強くなって当然だ」

 

 一護の言葉に、更木の眼差しが愉悦を帯びたものから軽蔑に変わった。

 

 「斬月?その斬魄刀の名か?斬魄刀とともに、魂とともに戦う?

 戯言だ」

 

 更木は吐き捨てる。

 

 「斬魄刀は戦いの道具だ。“斬魄刀と共に戦う”なんてのは、自分の腕で戦えねえ弱り切った負け犬の科白だぜ。

 俺やテメエの科白じゃ無えんだよ、一護!!」

 

 更木の霊圧が最高潮に高ぶった。

 

 『来るぞ!一護!一撃で決めるぞ!』

 

 “斬月”の声に、一護は斬月にありったけの霊圧をまとわせる。

 

 直後、二人は踏み込んだ。

 

 得物を構え合い、そして。

 

 激突した二つの霊圧は、余剰霊力を衝撃波として、周囲の建物を片っ端からなぎ倒して崩壊させていく。

 

 そして、瓦礫の山の中心で、二人は互いの体に刃を埋めていた。

 

 一護の斬月は更木の右肩を深々と切り裂き、一護は左わき腹に更木のぼろ刀が突き立っていた。

 

 「・・・すまねえな、みんな」

 

 ぽつりとつぶやいた一護はそのまま崩れ落ちた。ぼろ刀が左わき腹をそのままえぐるように巨大な傷と化させる。

 

 そのまま一護は、崩れ落ちて膝をついた。握ったままの斬月が硬い音を立てる。意識はあるが、立ち上がることが難しいらしい。おびただしい出血で、あっと言う間に地面に赤い血だまりができる。

 

 一護が切り裂いた傷から、おびただしい血を噴出させる更木はそれを見下ろしながらつぶやいた。

 

 「ハッ。何が“すまねえなみんな”、だ」

 

 直後、更木のぼろ刀が、澄んだ音を立てへし折れた。

 

 「てめえの勝ちだ、馬鹿野郎」

 

 賞賛のような罵倒をもって、更木剣八は倒れ伏した。彼もまた、一護の付けた無数の傷からのおびただしい出血で、血だまりに沈み込む。気絶したらしい。

 

 一護は必死に立ち上がろうとしたが、すぐにがっくりと膝をついて息を切らす。ぼたぼたと血が零れ落ちる。傷自体は少ない。だが、いかんせん、深い。

 

 「くっ・・・」

 

 小さく、一護はうめいた。

 

 そのときだった。

 

 また大きな霊圧――どこか更木にも似通った性質のそれが、ひょいひょいと無事な建物の壁を蹴って、すぐそばに降りてきた。あの場違いなほど無邪気な、桃色の髪の少女だ。

 

 仇討ちで止めを刺す気か?

 

 と一瞬一護が警戒したのをよそに、少女は満面の笑みでぺこりと頭を下げてきた。

 

 「ありがと!」

 

 相変わらず無邪気な声音で、嬉しそうに笑う少女は語る。

 

 「いっちーのおかげで剣ちゃんは楽しく戦えたよ!

 あんなに楽しそうな剣ちゃんを見たのは久しぶりでした!

 ほんとにありがと!」

 

 そうして、少女は倒れ伏した更木を、その小さな体躯には不似合いなほど軽々と担ぎ上げた。

 

 「いっちー、できれば死なないでね。

 そしてできれば、また剣ちゃんと遊んであげて。

 お願い」

 

 そうして、少女は更木を担いだまま再び建物の壁面を蹴って姿を消した。

 

 一護はそれを横目で見送ってから、動き出した。這いずるように、前へ進んでいく。目がかすんで、視界が安定しなくなり、力が入らなくなっていく。

 

 それでも、彼はあきらめない。助けに行くのだ。自分が。

 

 ルキアを。茶渡を。井上を。石田を。岩鷲を。花太郎を。みんなを。

 

 けれど。

 

 ズルリッと手が滑って、一護は石畳に倒れ伏した。そのまま彼は、意識を失った。

 

 

 

 一護は知らない。血の跡を付けて伏した彼の前に立った夜一が、本来の姿を現して、彼を助けてくれることを。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 ビルの切れ目から見える青空を見上げながら、一護は初めて茶渡と話した。2年前――中学2年の時だったか。同じ馬芝中の2-Fの転入生だと、その時初めて知った。

 

 上級生に絡まれて、ぼこぼこにされかけたところを助けてくれたのだ。一護としては、石で頭を殴られなければ、余裕で返り討ちしてたはずだった。

 

 なお、当時から茶渡は中学生離れした容姿をしていた。オレンジ色の頭を染めもせずキープしていた一護の言えた義理ではないのだろうが。

 

 その時に、茶渡のことをチャドと呼び間違えた。なんか、そういう有名人がいたような、違ったような、とどうでもいい話をしたような気がする。

 

 結局、茶渡の呼び名はそのままチャドと定着した。

 

 それから、なんだかんだとつるむようになった。

 

 茶渡は大柄な体躯と日本人離れした容姿が手伝って、一護と同じくらい絡まれた。ただし、自分からは絶対手を出そうとせず、見かねた一護が助けることがしばしばあった。

 

 なぜ手を出さない、あのままだったら大けがしていたぞ、と呆れた一護に、茶渡は答えた。

 

 自分のためには拳を振るわないと決めている、アブウェロ(祖父)との約束だから、と。

 

 茶渡は沖縄出身で、メキシコ人の祖父を持つらしい。なんか複雑だな、と一護はこっそり思った。

 

 茶渡はメキシコのコインをペンダントにして首からさげており、大切にしていた。命よりも大事だ、と言っていた。

 

 そんなことを話した茶渡の腰に、通話中のケータイ――茶渡をボコろうとした連中のそれがぶら下がっていたのに、一護が気が付いた。茶渡がお人よしを発揮して返しに行こうというのを無視して、一護はそれを蹴り壊した。

 

 茶渡の姿が見えないと一護が駆け付けた時、彼は頑丈なワイヤーで椅子に縛り付けられ、大事だというコインを奪われて、ペンチでそれを切られそうになっていた。

 

 だから、一護はペンチを持った馬鹿を蹴倒して、それを取り返した。

 

 ついでに他の取り巻きを殴り倒して蹴倒してやった。救急車はあらかじめ呼んでやった。問題はない。

 

 

 

 その時、一護はこの力はあるのに心優しい男を、忘れられない『戦士』の一人と重ねていた。

 

 ナンバー9、ジーン。ザコルの覚醒者討伐の際に出会った。深淵の者にとらえられ、強引に覚醒させられたのに、その精神力だけで正気にしがみつき続けていた。

 

 クレアがどうにか元の姿に引き戻したのを恩義に思い、律儀についてきた。借りを返すと言い続け、ダフとの戦いに協力してくれたのはおろか、その後の北の地の戦乱で、覚醒したクレアをその命と引き換えに引き戻してくれた。

 

 クレアは言い続けた。恩義は十分受けたから、自分の力は自分のために使え、と。

 

 けれど、ジーンはあんなもの恩義にならない、と言い続けてて。

 

 もし、言うべき言葉が違ってたら。もしかしたら、ジーンも生き残ってたかもしれない。たらればでしかないけれど、クレアはそれもずっと悔やんでいた。

 

 

 

 だから、茶渡には別の言葉をかけた。

 

 お前は今まで通り自分のために誰かを殴ったりしなくていい。その代わり、俺のために殴ってくれ。

 

 俺は、お前のために殴ってやる。

 

 お前が命をかけて守りたいものなら、俺も命を懸けて守ってやる。

 

 約束だ、と。

 

 

 

 なあ、ジーン。お前が恩を返すと言ってくれた時、なら私も命をかけてお前を守ると言ってたら。何か違っただろうか。

 

 最弱のナンバー47が、一桁ナンバーのナンバー9に言うべき言葉じゃないけれど。

 

 

 

 茶渡は、ジーンじゃない。そんなことは分かっている。

 

 けれど。あの律儀で義理堅い戦士と、重なってしまったから。

 

 

 

 それから、茶渡と一護は一緒にいる。一緒にケンカをして、一緒に傷をこさえて。

 

 きっと、あの律儀な男のことだ。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)についてきてくれたのだって、その約束を守るためだ。

 

 ・・・嬉しかったんだ。

 

 

 

 夢うつつに、一護は思う。

 

 もし、剣を握ることなく、平和な世界に生きられていたら。あるいは茶渡と一護のように、ジーンとクレアは仲良くできていたかもしれない、と。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 双殛。それは、死神の処刑台である。

 

 巨大な拘束用の磔架。それに向かいあうように設置された同じくらい巨大な鉾。斬魄刀百万本分の威力があるそれは、罪人の処刑時に術式が解放され、真の姿をあらわにするという。

 

 それが設置された断崖じみた丘の下に、ひそかな出入り口がある。

 

 黒崎一護はそこにいた。四方を結界に囲まれ、シーツに身を沈めていた。

 

 ふっと、彼はそのブラウンの双眸をうっすらと開いた。

 

 懐かしい夢を見た。茶渡と出会ったころの夢。馬芝中の学ランを着て、無視しようとしてもしつこくからんでくる有象無象を叩きのめしていたころだ。

 

 人間相手にも戦っていいのだ、拳を向けていいのだと、覚醒者も妖魔も銀眼の戦士もおらず、剣を握ることなく平和に暮らすのだと、黒崎一護の人生を受け入れ始めたころだったか。

 

 そこで自分の状況に気が付く。生きている。手当がされている。

 

 腹の傷、肩の傷。縫われて包帯が巻かれている。痛み止めも施されたのか、じんわりと熱を持ったような疼きでおさまっている。

 

 「目が覚めたようじゃの」

 

 枕元からかけたれた声に、知らない板張りの天井をぼうっと眺めていた一護は視線をそちらに向けた。

 

 「夜一さん・・・」

 

 突入からずっと行方不明だった黒猫がそこにいた。

 

 「無事でよかった・・・」

 

 「ああ、おぬしよりはずっとな・・・」

 

 「あんたが助けてくれたのか・・・ありがとな・・・」

 

 「何、あれだけの傷で即死しなかった自分の生命力に感謝するんじゃな」

 

 確かに、と一護は思った。特に腹の傷は深いらしい。急所を外す余裕がなかった。

 

 一度目を閉じて、霊圧を探る。

 

 茶渡は・・・傷を負ってはいるが生きてはいる。だが、周辺を死神たちに固められているらしい。つかまったようだ。霊圧の大きさから、動けそうにないのは明白だ。

 

 井上と石田・・・無事だ。周辺に死神たちがちらほらしているが、どうやってか戦闘を避けている。

 

 そして、岩鷲と花太郎。例の、石の塔にたどり着いたのだろうか。霊圧が読めなくなってしまっている。花太郎が言うには、あの石の塔――懺罪宮、四深牢は殺気石でできているらしい。それでルキアの霊圧もわからなかったのだ。

 

 「・・・みんな、生きてはいるか」

 

 「わかるのか」

 

 「ああ。チャドも・・・生きてはいるが、捕まったか」

 

 「うむ・・・じゃが、おぬしはしばらくはその結界の中でおとなしくしておれ。

 半死人が助けに行ったところで役に立たんじゃろう」

 

 辛辣ながら的を得た夜一の言葉に、一護は黙した。

 

 確かに、その通りだった。

 

 「何しろ、臓物の一部がつぶれておったからの。これが懐に入っておったから、一部で済んでおるところじゃ」

 

 言いながら夜一が前足で持ち上げたものに、一護は目を見開いた。

 

 それは、髑髏にも似た白い仮面だった。赤い筋の入った左半分ほどが大きく割れている。

 

 「しかし驚いたぞ。おぬしがまだこれを持ち歩いておったとはな」

 

 「・・・捨てたはずだ」

 

 「何?」

 

 一護のこわばった声に、夜一が問い返した。

 

 「昨日、恋次と戦った時、それのおかげで一部の傷が軽減されていたらしい。

 俺はそれを持ち歩いた覚えがねえ。まあ、悪いものじゃねえだろうと懐に入れたままでよかったんだが、花太郎がどうしても捨てた方がいいというから、地下水道に捨ててきた。

 そのはずだ」

 

 夜一の気配がこわばった。

 

 「ああ。花太郎というのは、四番隊の死神らしいが、お人よしのいい奴だ。

 恋次にやられた傷も治してくれて、ルキアを助けるのも手伝ってくれてな」

 

 念のため、花太郎のことを話して、一護は視線を置かれた仮面に向けた。

 

 なぜか、脳裏をあの男がよぎる。

 

 あの精神世界で対峙した、自分そっくりで、(ホロウ)の気配をまとう男。

 

 散々攻撃してきて、殺しにかかってきたけれど、斬月を土に刺すなと最後に怒ってきたときには、殺気がなかった男。

 

 一護が、『戦士』にしがみつき続けている、死神などではないと遠慮なく指摘した。

 

 それがあったから、一護は斬月と力を合わせることを学んだ。共に強くなろう、一緒に戦っていこう、と誓い合った。いつか、クレイモアよりも使いこなすと約束した。

 

 まさか。

 

 「その仮面は儂が預かろう」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・わかった」

 

 有無を言わせぬ強い圧を出しながらの夜一の言葉に、一護は抵抗感を覚えながらも、渋々うなずいた。

 

 確かに不気味ではあるが、守ってくれたように感じたのだ。どこか手放しがたく感じてしまったのだ。

 




 ともあれ、この話は続くのだ。





 とりあえず、今回はここまでです。

 他メンバーの戦闘や護廷十三隊のターンとか、ルキアの出番を省いたらごっそり短くなりました。(しつこいようですが、それは原作をお願いします)

 次回は救出失敗と卍解修行ですかね。よかったらまたお付き合いくださいませ。
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