元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
という訳で、続きです。
さて、翌日。
一護は再び具象化した“斬月”と打ち合っていた。
不意に、彼は突然“斬月”から距離を取ると、上に至る梯子に顔を向けて、大刀を構えた。
直後、その入り口が爆発した。
「こんなところに潜って何やってんのかと思ったら・・・そいつは、てめえの斬魄刀の本体か?」
言いながら、瓦礫とともに、男は踏み出す。
「隠れてこそこそ卍解の修行か・・・面白そうなことやってんじゃねえか・・・。
俺も混ぜろよ」
現れたのは、阿散井恋次だ。すっかり元通りになった始解状態の蛇尾丸を肩に担ぎ、ゴーグルの代わりに手ぬぐいを額に巻いて、赤毛を結い上げた彼は絶好調状態らしい。
一護は知らなかったが、恋次は朽木の命令で牢に入れられていた。けれど、彼はそこを破壊して脱獄していた。その足でここまで来たのだ。
「・・・恋次」
「てめえ、相変わらず無表情かよ。
何でここにとか、少しは驚きやがれ」
これでも十分驚いている、と一護は内心で思う。
文句を言った恋次は、蛇尾丸を下ろして歩み寄ってきた。
「ちょっと時間がなくなっちまってな。俺も少し集中して鍛錬する場所が欲しかっただけだ」
「・・・どういう意味だ」
一護の問いかけに、恋次は表情を消して、できるだけ感情を殺そうとするかのように淡々とした調子で告げる。
「そうだな。てめえには教えといてやる。
ルキアの処刑時刻が変更になった」
「何?」
「新しい処刑時刻は・・・明日の正午だ」
告げられたそれに、その場にいた恋次以外の全員が絶句した。
まだ卍解修行の2日目。明日の正午はちょうど3日目、それも半日に相当する。間に合わない。・・・普通なら。
「癪な話だが、今の俺の力じゃルキアを助け出すには少しばかり足りねえ。だからここに来た」
一護たちに背を向けて、恋次は離れていく。
「安心しろよ。なにもてめえの修行を邪魔しようってわけじゃねえ。
俺も具象化までは習得済みだ。卍解まではあとわずか」
言った恋次の持つ蛇尾丸の刃から、煙のようなものが噴出し、ヒヒの体躯に蛇の尾を持った幻獣の姿を形作る。
「こっちはこっちで、好きにやらせてもらうぜ」
不敵な笑みを浮かべて振り返る恋次は、一護を見ながら言った。
「てめえは俺の想いも持っていくと言ったがな。間に合ってんだよ。
返してもらうぜ」
「そうか。
荷物は少ない方が助かる」
「てめえ・・・相変わらずかわいくねえな」
淡々と頷いた一護に、恋次は手ぬぐいに隠れたこめかみを引くつかせた。
「今度は、手放すなよ」
「! ったりめえだ!」
一護の言葉に、恋次は大きくうなずいた。
一方の夜一は、顔をこわばらせていた。
「あ、明日じゃと・・・? そんな・・・それではとても、卍解なぞ・・・」
うめいた夜一をよそに、一護は砕けた剣を放り捨て、新たな剣を引き抜いた。
「だからどうした」
「一護?!」
「期限が早くなったなら、今日中に片付ければいい。
言い出したのはあんただ、夜一さん。勝手にあきらめてんじゃねえよ。
まだ時間はある。やり切ってみせる」
ぎょっとする夜一に振り向きもせずに言い放ち、一護は剣を構えて“斬月”目がけて切りかかった。
それを横目でいた恋次は、不敵な笑みを浮かべながら自身の斬魄刀に向き直った。
どんなに激しい修行であろうと、時間がなくとも、休むものは休まねばならない。
二日目終了、の夜一の言葉とともに、“斬月”は転神体に戻って地に転がり、一護はぜえぜえ息を切らして転がった。血まみれ汗まみれである。
恋次もまた、蛇尾丸の具象化を解いて座り込んだ。
そうして、本日も傷の手当てを兼ねた温泉につかった。
ちなみに今回、夜一は気になることがある、と黒猫に変身してどこかへ駆け出してしまった。
「こんな便利なもんがあったたぁな・・・」
「瀞霊廷にはないのか?」
「ねえよ。っつーか、十三隊詰所の大浴場は女性死神が占有してんだ。男湯は狭いんだよ」
手拭いを頭に乗せた恋次の愚痴に、一護は黙した。
思っていたよりも、死神とは肩身が狭いものなのかもしれない。
余談だが、ガタイのいい恋次の体躯は、あちこちに額と同じ感じの刺青を入れている。現世の温泉や銭湯などの共同浴場ならば即行お断りされそうだ。湯に入るにあたって、長い赤髪は頭に巻いていた。
「・・・ところで」
「何だ?」
「昨夜、死神たちの間で何かあったか」
「てめえらが暴れまわってた」
「そうじゃねえ。朝方に妙な霊圧を感じて、たたき起こされた。
警備が厳重になったのは、俺がお前を倒したから一層警戒されたからと説明が付けられるが、どうもそれ以前からこっちの侵入が気取られていた節がある」
例えば。
白道門での市丸ギンとの遭遇。門をくぐっていきなり隊長格なんて、偶然にしては出来過ぎている。見逃されたのも妙な話だ。あれは明らかに見逃された。もっとも、そうしてもらってなければ、兕丹坊の命がなかったが。
「俺の気のせいならいいんだがな」
チャプンッと、湯を揺らして温泉の縁に背を預けて天井を見やりながら、一護がうめいた。
「確かに、てめえらが障壁を破って侵入してくる前から、侵入者がいると警報が出されて、瀞霊廷中が大騒ぎだったからな」
「どうりで、死神でごった返しだったわけだ」
思い返しながら言った恋次に、一護がうなずいた。
「昨日の朝方についてなら・・・俺も詳しいことは分からねえよ」
ざぶざぶと、湯で顔を洗いながら恋次が言った。
「副隊長の仕事放り出して、てめえとの決着を優先したから、朽木隊長に隊舎牢に入れられてな。手当こそされたんだが。
ただ・・・」
「ただ?」
「五番隊の愛染隊長が、誰かに殺されたらしい」
「?!
隊長格が?!」
「人づてに聞いた話だ。どういう状況かまではわからねえ。
てめえにはわからねえだろうが、それを目の当たりにした副隊長の雛森が錯乱して、市丸隊長に切りかかったってのも聞いた」
ここで、恋次はじろりと一護を見やりながら尋ねる。
「間違いなく、総隊長やほかの隊長たちは、てめーらの仕業だと思ってるだろうぜ」
「バカバカしい。
俺達の目的はルキアの救出だ。なんで、顔も知らねえ護廷の隊長を殺さなきゃならねえ。ついでに言うと、やすやすと殺されるような人間か?その愛染って隊長は」
「なわけねーだろ。愛染隊長が、そうやすやすと死ぬタマか。
「・・・知ってるんだな」
「真央霊術院にいたころに世話になってな。
一時期部下だったこともある。護廷に入って間もなくは、あの人の下にいたんだよ。雛森と、吉良も一緒にな」
遠い目をする恋次に、一護は考え込むように目を伏せた。
一護たちの侵入と時を同じくして、隊長格が殺された。一護たちの侵入を隠れ蓑に、これ幸いと何か見えない陰謀が進んでいる。そんな気がしてならない。
この場で一護が考えても詮無いことではあるのだが。
「隊長格を殺すような相手なら、隊長格をぶつけようという話になって当然か」
ついでに、一護はその直前に阿散井を倒している。副隊長を倒すような者なら、不意打ちで隊長を倒してもおかしくない、と考えられても不思議ではない。
だから、翌日から一気に警備が厳しくなり、隊長格が本格的に動き出していたのだ。
茶渡や石田がつかまっても無理もないわけだ。
「こっちも聞いていいか?」
「何を?」
「てめえら、どうやって
「浦原さん・・・浦原喜助って知ってるか?あの人に穿界門を作ってもらってな。
死神の力を取り戻す修行も付けてもらった」
「! あの人か」
「やはり有名人か」
「そりゃあな。異端の天才にして、
「永久追放・・・?
何故?」
「そこまで知らねえよ。ヤベエことやったってのは聞いたな。聞くも語るもおぞましいって奴じゃねえか?
・・・てめえが妙な戦い方するのはそのせいか」
あの人は関係ないぞ、というのを一護は口の中に飲み込んだ。
そもそも。
「で?てめえはルキアを助けるのを浦原喜助に頼まれたのか」
「はっきりそうしろと言われたわけじゃねえよ。俺がそうしたいのを手伝ってもらったという形だ。
・・・そこに、あの人の利益がどう絡んでくるかまでは聞いてねえけどな」
浦原喜助は情では動かない。改造魂魄の一件で、一護はそれを知っている。
にもかかわらず、浦原はルキアの救出に協力してくれている。その動機がどうにも不明瞭なのだ。それで困る、という訳ではないのだが。
「はあ?こんな博打よりもヤベエ危ない橋渡る理由を、聞かされてねえのかテメエ?」
「必要なら話すだろうと思ってたんだが、話されなかったからな。勝手にこっちで推測するか、あるいは・・・」
「あるいは?」
「話せない理由があるのか、だな。
まあ、俺はルキアを助けられたらそれでいいから、深くは訊かなかったがな」
「・・・てめえ、頭いいのか悪いのかわからねえな」
「ほっとけ」
吐き捨てて、一護は湯から上がった。水気を拭いたらすぐに就寝だ。
一護の筋肉質な体躯は、うっすらした傷跡まみれだ。胸の中心と、腹部の中心にうっすらとついている刀傷は、朽木白哉によるものだ。肩やわき腹の刀傷は、一角や恋次、更木によるもの。手足にも肉刺がつぶれた痕はもちろん、細かな傷もたくさんついている。
そして。傷跡というほどではないが、うっすらとした赤い痣が一護の首のすぐ下ほどから胸を横切り臍を通って陰部のすぐ上ほどまで、一本線のように続いていた。
生まれつきの痣だ。普段は消えているのだが、風呂に入ったりして血行が良くなったりするとこうして浮き出てくる。痛みはしない。雨の日に、時々疼くだけだ。
一護はこの痣の由来を知っている。前世のクレアに、同じ傷があったのだ。『戦士』になるために掻っ捌かれ、妖魔の肉を押し込められたがための傷だ。
この傷だけは、永遠に癒えることはない。乱暴に縫い合わされ、鎧装束の下で痛み続ける。人間を凌駕した治癒能力を持つ『戦士』であろうとも。否、それであるがゆえに。
この傷を癒すすべはただ一つ。覚醒者に堕ちることだ。
幼かったころ、時々おなかが痛い、と両親にぐずったことがあった、と一護は思い返した。結局原因不明で、困らせることでしかなかった。
わからなくて当然だ。痣が疼くのは、前世の因縁が原因なのだから。
死覇装をまとって痣を隠す一護は、寝支度を始める。
起きたら即座に修行を再開しなければ。少しでも早く卍解を習得するために。
そして、時間はあっという間に過ぎて、処刑当日に至った。
阿散井恋次は出立準備を整えていた。破けた死覇装の一部を整え、蛇尾丸を腰に差した彼は振り返った。
「じゃあ、俺は行くぜ」
「ああ」
それに振り向きもせずに、一護は返した。
地下鍛錬上の出入り口の梯子に向かいながら、恋次は夜一に問いかけた。
「夜一さんよぉ、あいつは・・・本当に大丈夫なのか?」
「・・・案ずるな」
低い声で夜一は答える。
大刀を構える一護は、額を切って頭が血まみれだった。息を切らしているが、その目には闘志が満ちたままだ。
「誰も案じちゃいねーよ。勘違いすんなよ。
死なねえかどうかを訊いてんじゃねえぞ。
修行もあそこまで進みはしたが、本当に卍解までたどり着けんのかって訊いてんだよ!」
「・・・さあ・・・」
恋次の問いかけに、夜一は表情一つ動かさずにそう答えた。聞きようによっては投げやりにも聞こえる言葉に、恋次は「うおーい」と吠える。
そんな二人をよそに、一護は目の前の・・・否、周囲の敵を見据えた。
『行くぞ、一護』
“斬月”が言った。
ねじれた大刀を構える一護の周囲を、十人もの“斬月”が己である大刀を携えて、取り囲んでいる。
『もう一度だ』
黒衣をなびかせながら、“斬月”は言い放った。
『言っておくが、刻限が迫っているからといって、手を抜いてやるつもりは無いぞ!』
「当たり前だ。抜かせるつもりもねえ!」
負けじと言い返し、一護は大刀を振りかざした。
「・・・恋次。
おぬし、自分が初めて立って歩いた時のことを憶えておるか?」
「あ?覚えてるわけねーだろ、そんなもん!」
「覚えておらぬということは意識しておらぬということじゃ。
ならば、なぜ立ち上がった?
人は皆、生まれながらに立ち上がることを知っておる。
鳥は皆、飛ぶことを知っておる。
魚は皆、泳ぐことを知っておる。
それは本能という奴じゃ」
恋次の方を見もせずに、“斬月”達に切りかかられるのをいなす一護を見ながら、夜一は言った。
その声音に、不安はない。
「本能で知っておるからこそ、皆迷いなくその力を手にしようとする。
やつの、一護の迷いのなさは、その本能を思わせるのじゃ
奴は恐らく、本能的に判っておるのじゃろう。自分がその力を持っておることを。
じゃから、儂は信じる。奴が・・・“卍解に至る者”じゃということを」
そうして、この話は続くのだ。
最初は、原作同様の護廷十三隊のターンをダイジェストにしてぶち込んだりしてたんですが、それじゃただのノベライズじゃねーか!と気が付いて、そっちはカット。一護君の視点に重点を置きたいので、オリジナルで恋次との入浴シーンを追加しました。
この一護君は、中身の前世が前世なので、割といろいろ考えてます。でも、勢いに乗るときは乗ります。クレアは勢いで行動してたところも多々あったので。
次回は、いよいよ処刑阻止&VS朽木白哉(3戦目)になります。よかったらまたお付き合いくださいませ。