元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 先に幕間を投稿しましたけど、本編はこちらから。

 満を持してVS朽木白哉(3戦目)開始です。

 初見時、こんな冷血男があんなシスコンになるとかだれが予想できたでしょうか。


【#34】元銀眼の魔女の死神代行、処刑を阻止する

 

 ルキア処刑のための術式の解放が始まった。

 

 朽木ルキアの最期の嘆願。旅禍たちを現世に無事返すという願いが守られぬというのを、立会に来た隊長格は誰もが知っていた。

 

 だが、それは残酷な嘘ではなく、優しい慈悲であった。せめて、最後は心安らかに、と。

 

 双殛の鉾の付け根を結ぶ縄が燃えるよう解かれ、丘の下に抛られる。

 

 ルキアは、義兄に呼びかけた。

 

 「ありがとうございます、兄様」

 

 兄はただ黙してこちらを見ようともしない。それでいい、それがいい、とルキアは素直に思う。

 

 ルキアの素足の足元が光り、3つのブロックが浮かび上がる。それにつられるように、ルキアの後ろ手の戒めがほどかれ、代わりに大きく十字に磔になったように固定される。

 

 そのまま彼女は空中高く舞い上がり、磔架の頂上まで導かれる。

 

 同時に、鉾に炎が渦を描くようにまとわりついて行きながら、見えない腕に引き抜かれるように持ち上がり、その切っ先をルキアに向けた。

 

 その場にいた隊長格たちが息をのむ。

 

 それは、巨大な炎でできた鳳凰だった。

 

 その名を、燬鷇王という。双殛の鉾の真の姿にして、殛刑の最終執行者。彼が罪人を貫くことで、殛刑は終わるという。

 

 炎の化身のような鳳を見つめるルキアの表情に恐怖はなかった。凛とした静けさだけがあった。

 

 飛んでくる燬鷇王を前に、ルキアは一瞬で様々なことを思い返す。

 

 自分はよく生かされた。恋次たちと出会い、兄様に拾われ、海燕殿に導かれ。

 

 そして、一護に救われた。

 

 出会って二か月。短いけれど、濃密な二か月。思い出すのは、雨の日の死闘。勝手に海燕と重ねていた彼は、見事に仇討ちを成し遂げ、生き残ってくれたのだ。

 

 だから、つらくはないのだ。

 

 ルキアは自身に言い聞かせる。四深牢で何度も言い聞かせたことを、今一度。

 

 悲しくはない。

 

 悔いはない。

 

 心も遺してはいない。

 

 ありったけのありがとうを、出会った者たちすべてに。助けようとしてくれた人たちすべてに。

 

 ああ、けれど。

 

 「さよなら」

 

 別れの言葉は、あのオレンジ色の少年に言っておけばよかった。

 

 一筋、涙を残し、ルキアは目前に迫る燬鷇王を前に目を閉ざした。

 

 だが、覚悟していたことは何も起きなかった。

 

 熱も。衝撃も。痛みも。何も。

 

 恐る恐るルキアは目を開ける。

 

 「遅れてすまねえな」

 

 背負った斬月で燬鷇王を受け止めながら、黒崎一護がいつもの無表情で言い放った。

 

 以前あった時よりもひどいけがをしたのだろうか、死覇装の下は包帯まみれで、顔にも絆創膏をいくつか張り付けている。

 

 纏ったマントのような装備の力だろうか。ルキアのすぐ目の前の空中に無造作に立っている。

 

 その名は天踏絢。四楓院家が誇る、天賜兵装の一つである。

 

 「莫迦者!なぜ来たのだ!」

 

 だが、ルキアの心によぎったのは、喜びなどではなく、焦りだった。

 

 当然だ。

 

 「貴様ももうわかっているだろう!貴様では兄様に勝てぬ!

 今度こそ殺されるぞ!

 私はもう覚悟を決めたのだ!助けなどいらぬ!帰れ!」

 

 怒声を放つルキアに、一護は相変わらず表情一つ動かさなかった。

 

 ただ、静かにルキアを見つめている。

 

 一方、地上の隊長格たちは、絶句していた。

 

 双殛の一撃、斬魄刀百万本分に相当する燬鷇王を、斬魄刀一本で受け止めるなど、あの男は何者だ?

 

 その外見的特徴――萱草色の髪の大刀を持った死神という様相から、はっとした者が何人かいた。

 

 一方の燬鷇王は高く鳴くと、一護の背中を小突くように弾いて距離を取る。

 

 どうやら、第二撃を放つつもりらしい。

 

 「・・・いいだろう。来い」

 

 斬月を担いだままの一護が振り向いて身構えるのを、背後のルキアが叫んで止めようとする。

 

 「よ、止せ一護!もうやめろ!

 二度も双殛を止めることなどできぬ!

 次は貴様まで粉々になってしまう!」

 

 燬鷇王が再び両翼をはためかせて突っ込んでくるのを、一護が迎え撃とうとするより早く。

 

 燬鷇王の首に、黒い紐のようなものが巻き付いた。

 

 それは、駆け付けた浮竹が持つ盾から伸びているものだ。その背後には第三席である小椿仙太郎と虎徹清音が続いている。

 

 燬鷇王の首に巻き付いた紐、その端にある長い棒のようなものが地面に突き立つと同時に、その先に手を置いたのは、京楽である。

 

 「よう。この色男。ずいぶん待たせてくれるじゃないの」

 

 驚愕するほかの隊長格たちをよそに、二人の隊長格は動く。

 

 浮竹が地面に突き立てるように置いた盾、そこに刻まれた月を囲む四つ楓に、二番隊隊長の砕蜂は息をのんだ。

 

 あれは天賜兵装。非常に貴重で強力な武具・道具のことで、普段ならば“天賜兵装番”たる四楓院家によって管理・封印されているはず。

 

 それを、浮竹はどうやってか持ってきたのだ。

 

 そうして、彼女は悟る。

 

 「止めろ!

 奴ら・・・双殛を破壊する気だ!!」

 

 ぎょっとする副隊長の大前田希千代をよそに、浮竹と京楽は盾の上部についた切れ目に、それぞれの斬魄刀の刃を滑らせた。

 

 すると、盾から伸びる黒い紐が白く染まり、直後、燬鷇王は粉々に砕け散った。名残の火の粉を雪のように散らし、中核の鉾は真っ二つに折られる。

 

 それを見た一護は、そのままマントのような霊具をなびかせて、ルキアを戒める磔架に飛び乗った。

 

 「な、何をする気だ一護?!」

 

 「こいつを壊す」

 

 頭上でグルグルと斬月を回転させながら、一護は淡々と告げた。すさまじい霊圧を斬月にまとわせながら。

 

 「な・・・?!

 よ、止せ!それは無茶だ!」

 

 言葉を詰まらせたルキアは、一護を止めようと言葉を尽くす。一護の無謀は今に始まったことではない。だが、無理なものは無理なのだ。

 

 「いいか、聞くのだ一護!

 この双殛の磔架は」

 

 ルキアがすべていうより早く、一護は逆手に持った斬月を振り下ろした。

 

 凄まじい衝撃が走った。嵐のような。落雷のような。霊圧の塊のような。確かなのは、その攻撃は、双殛の磔架どころか地面である断崖じみた丘さえも貫いたことだ。

 

 「うるさいぞ」

 

 拘束が外れたルキアを、小荷物のように小脇に抱えて、黒崎一護は淡々と言った。いつものように、ぶっきらぼうな調子で。

 

 「何度も同じことを言わせるな。逃げろだの退けだのという意見はきけねえ。

 お前の意見は全部却下だ。

 それから」

 

 一息ついて、一護は言った。少し声を柔らかくして。

 

 「今度こそ、助けに来たぞ、ルキア」

 

 「・・・っ。

 礼など言わぬぞ、莫迦者・・・」

 

 目じりににじんだものをこらえるルキアに、一護はゆるく頷いた。

 

 そんな一護を見上げる死神たちは絶句していた。

 

 双殛の磔架――斬魄刀百万本分の攻撃力を誇る燬鷇王の攻撃に耐えるそれを、たった一本の斬魄刀の一撃で叩き壊したのだ。

 

 信じられない、と言わざるを得なかった。

 

 見下ろす一護の目と、見上げる朽木白哉の視線が交錯する。

 

 「い、一護・・・」

 

 おずおずとルキアが口を開いた。

 

 「訊くが、これからどうする気だ・・・?

 これほど目の前で上手く姿を晦ませる方法など」

 

 「逃げる」

 

 「! む、無理だ!相手は隊長だぞ!逃げきれるわけが」

 

 「なら、全員倒す」

 

 ルキアの声に、一護は顔色一つ変えずに言った。

 

 「言ったはずだ。

 この剣の届く範囲なら、誰だろうが何だろうが助け守る、と。相手がたとえ、なんであれ、誰であれ。

 お前だけじゃねえ。井上も、石田も、チャドも来ている。岩鷲も、花太郎も。

 手伝ってくれた連中を、みんなまとめて助け出して連れて行く。

 ・・・まあ、そんな必要もないかもしれねえがな」

 

 最後にポツリと付け加えられた言葉に、ルキアはどういうことかと目をしばたかせたが、彼女は安どしたような顔とともに視線を伏せた。

 

 一護は、以前あった時以上に、強くなっていると確信できたから。

 

 直後、磔架のふもとが騒がしくなる。

 

 そちらに目をやったルキアは目を見開いた。

 

 双殛の解放・燬鷇王の制御を担っていた鬼道衆の覆面達が倒れ伏す。倒されたのだ。ただ一人の死神に。

 

 始解もしていない、斬魄刀でそれをやってのけたのは、ルキアもよく知る幼馴染。

 

 「恋次!」

 

 「っ! ルキア!」

 

 叫んだルキアに、顔を上げた恋次が言葉を返す。

 

 「よかった!生きておったのだな恋次!よかった!」

 

 双殛に出立する途中で感じた恋次の霊圧の消失に、どれほどルキアが心痛め動揺したことか。ほっとしたルキアは、顔をほころばせずにはいられなかった。

 

 「遅かったな」

 

 「馬鹿野郎!テメーにだけは言われたくねえよ!」

 

 表情一つ変えずに言った一護に、恋次が怒鳴り返す。卍解修行で時間を食っていた奴にだけは言われたくない。

 

 一護は霊圧感知で恋次の負傷も、それでもここまで駆けつけてきていることを察していた。

 

 ゆえに、彼は動く。最善策のために。

 

 小脇に抱えたルキアの腰帯をつかみ、勢い良く振りかぶった。

 

 目を丸くするルキアと恋次は、次の瞬間一護がやらかすことを察した。彼は、ルキアを投げ飛ばすつもりだ。

 

 「受け取れっ!」

 

 「きゃあああああああっ?!」

 

 「馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!」

 

 悲鳴を上げながらすっ飛ぶルキアを、恋次は罵声を上げつつもどうにか抱き留めた。反動でそのまま転がってしまったのはご愛敬。

 

 「莫迦者!一護、貴様ぁ!」

 

 「落としたらどうすんだこの野郎!」

 

 涙目のルキアと、冷や汗まみれの恋次が立ち上がって文句を言う中、一護は表情一つ変えずに言い放った。

 

 「連れて行け!」

 

 「なっ・・・」

 

 「任せたぞ!死んでも離すな!間に合ってるんだろう?」

 

 一護の言葉に、恋次は目を見開いたが、すぐに表情を引き締めるとルキアを抱え上げて一目散に双殛の丘から駆け下りていく。

 

 そして、それを見届けることもなく、一護はさらに動いた。

 

 隊長たちの命を受け、恋次の後を追おうとする副隊長3名。

 

 一番隊副隊長雀部長次郎、四番隊副隊長虎徹勇音、二番隊副隊長大前田希千代。

 

 彼らの前に瞬時に一護は立ちはだかる。瞬歩。死神の使う歩法を用いて。斬月を地面に刺しながら。

 

 「邪魔だぁ!」

 

 大前田の罵声を皮切りに、副隊長たちは斬魄刀の解放を行う。

 

 「奔れ!『凍雲』!」

 

 「穿て!『厳霊丸』!」

 

 「打っ潰せ!『五形頭』!」

 

 だが、それだけしか彼らはできなかった。

 

 最初につぶされたのは大前田。一護の拳が、モーニングスターのような大前田の斬魄刀ごとその腹を穿って砕く。

 

 他の二人が驚く間こそあれば。

 

 続いてやられたのは雀部だった。レイピアのような斬魄刀を握る右手を摑まれ、そのまま顎に掌底を決められて、のけぞりながら吹き飛ぶ。

 

 斬魄刀も使わずに、やられたという事実に虎徹勇音は動揺が収まらないところを、3つ又の刃の斬魄刀をふるう間もなく、みぞおちを殴られて吹き飛ばされた。

 

 なお、ここまでの間で秒もかかっていない。最初に殴り倒した大前田がまだ宙に浮いている。

 

 次の瞬間、一護はその姿を消していた。

 

 攻撃を空振りした白哉は、背後から強打を受けた。

 

 一護がつかんで引っ張った晒しによって、鞭の先についた分銅のごとく薙がれた斬月によって。

 

 「背中が好きなようだからな。やり返させてもらった」

 

 手元に引きずり戻した斬月の握りをつかみなおした一護は、瞬歩で即座に切りかかってきた白哉の刃を、こともなげに受け止める。

 

 「何故だ。

 何故貴様は、何度もルキアを助けようとする・・・」

 

 どこか苦しげにも、苦々しげにも聞こえる声で問いかける白哉に、刃越しに一護は答えた。

 

 「そう決めたからだ。

 むしろこちらの方が訊きてえくらいだ。あんたがルキアの兄貴なら、何でルキアを助けようとしねえ。罪の軽減なりなんなり、できるはずだろ」

 

 力づく、剣ありきの一護とは違って。

 

 貴族だという白哉ならば、できたはずだ。なぜそれをしないのか。一護にはその方がわからなかった。

 

 愛ゆえに苦しんで、それでも手を伸ばし合った、兄弟姉妹の姿を、前世・今生の二つの人生に渡って見てきてしまったから。

 

 「・・・下らぬ問いだ」

 

 一護の問いかけを、白哉は切って捨てた。変わらぬ淡々調子のままに。

 

 「その答えを貴様ごときが知ったところで、到底理解などできまい。

 どうやら問答は無益なようだ」

 

 白哉の、青みを帯びた黒い瞳に、殺気が宿る。

 

 「行くぞ」

 

 直後、霊圧が爆発した。その中心で、一護と白哉はつばぜり合いをする。刃が弾かれ、間合いを取る。

 

 にらみ合う両者。

 

 「最早私のとる道は一つ」

 

 白哉は語る。固い声で。何でもないように。

 

 「黒崎一護。貴様を斬る。

 そしてルキアをもう一度、次は私の手で処刑する」

 

 「・・・本当に」

 

 一護は口にした。わずかな、ごくごくわずかな、白哉の霊圧の揺らぎを読みながら。

 

 「それが、あんたの望みなのか」

 

 それはそれで覚悟の要ることだと、一護は知っている。身内だからこそ、手を下すには覚悟が要る。身内だからこそ、最後はこの手で。

 

 覚醒者になる前の『戦士』を、手にかけた事のあるクレアの記憶を持つ一護は、その重さを知っている。エレナを斬った夜、クレアは一晩中泣いたのだから。

 

 だとしても。

 

 「その言葉は実現させねえぞ。そのためにここまで来たんだからな」

 

 マントのような霊具を脱ぎ捨て、一護は言った。

 

 次の瞬間、双方は踏み込む。草鞋が地を抉り、刃が火花を散らした。




 なお、この話はさらに続くことになる。




 あんま原作と変わらないですね。次回!次回から変わりますので!
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