元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 長いんだよ、VS朽木白哉(3戦目)!原作19巻を丸ごと使っての戦いだから、しょうがないんでしょうけど!


【#36】元銀眼の魔女の死神代行、卍解を轟かせる

 

 逡巡する朽木を無視して、一護が動く。

 

 両手を斬月の握りの添えて、大刀を真正面に突き出すように構える。斬月の握りから伸びる晒しが、少年の腕を支えるように巻きつく。

 

 「卍・解!」

 

 淡々としていた少年の声音が、熱を帯びる。

 

 霊圧が爆発した。放たれたそれらが圧縮されるように縮まっていき、その姿が露になる。

 

 土埃のために少し目を細めていた白哉は、次の瞬間目を見開いた。

 

 黒崎一護はそこにたたずんでいた。

 

 少し死覇装の意匠が変わっている。卍解をすれば斬魄刀の扱いの関係で死覇装も変わることがある。恋次の卍解・狒狒王蛇尾丸も、肩口に毛皮のようなマントが追加されていたので、わからないこともない。

 

 黒崎一護の死覇装は、まるでロングコートのようなデザインになっていた。袖口は細く体に沿うものとなり、マントのように長い裾が霊圧になびいている。

 

 そして、右手に無造作にひっさげられたその刀は。

 

 まるで黒曜石から削り出したような漆黒の刀だった。ただ、それだけだ。先ほどのような武骨な大刀の面影はなく、柄頭から鎖飾りが伸びている。卍の字を思わせる鍔飾りも、柄巻きも、黒一色。

 

 「『天鎖斬月』」

 

 ぽつりとつぶやいたのが、その名か。

 

 だが、すぐに朽木白哉は目を細め、低い声で唸るように言った。

 

 「何だ、それは。

 そんな小さなものが、卍解・・・だと?

 ただの、斬魄刀ではないか」

 

 白哉の目には、どう見ても『浅打』に毛が生えた程度の代物にしか見えなかった。

 

 「成程・・・殛刑といい、卍解といい。

 貴様はよほど我々の誇りを踏みにじるのを好むと見える・・・!」

 

 白哉の周囲で桜色の奔流が渦を巻き、その背後で大波を作り上げる。

 

 「ならばその身に刻んでやろう!誇りを汚すということが、どういう酬いを受けるのかをな!」

 

 白哉が言い終えたと同時に、その目の前に一護が立っていた。

 

 斬魄刀・天鎖斬月と呼ばれたそれは、確かに振るわれたのだろう。空気が動いた感覚がしたのだから。

 

 そして、白哉には傷一つ付けずに、その背後の桜色の奔流が3つに切り裂かれた。白哉が一護の存在に気が付いた時には、その首筋に漆黒の刃があてがわれていた。

 

 「誇りか」

 

 一護が口を開いた。

 

 「確かに、それは大事なことだ。

 心あるからこそ、誇りが生まれる。心を重んじるからこそ、誇りを守るものだ」

 

 一護とて、誇りは重んじている。

 

 『戦士』は人だ。どんなに優れた剣技を用い、人離れした身体能力を持とうと、人だ。そこに心があるから。クレイモアをふるうものとしての誇りがあるから。だからこそ。それを重んじるからこそ、人としての最期〈終わり〉を願い、最悪の時にはお互いを斬る覚悟を持っている。

 

 だが、白哉の言うそれは違う。一護の知っているそれとは、異なるものだ。

 

 「だが、お前の言うその誇りは、ルキアの心こそを踏みにじる。

 なら、俺はお前の言うとおり、その誇りを踏みにじろう。

 そのために、手に入れた卍解(ちから)だ」

 

 刃をどけて間合いを取りながら、一護は言った。

 

 白哉は動揺こそ面には出さなかった。だが、彼は確かに一度、黒崎一護の姿を見失ったのだ。

 

 だが、それ以上に解せない思いが、白哉にはあった。

 

 「何故私の喉許から切っ先を退いた?」

 

 一護は答えず、静かに白哉を見つめている。

 

 「余裕のつもりか。

 驕りは、勝利の足元を突き崩すぞ」

 

 どっちのことだか、と一護は内心でつぶやく。顔にも態度にも出さなかったが。

 

 「今一度言おう。

 貴様のそれは、卍解ではない。

 そんな矮小な卍解などありはしない。

 旅禍風情が卍解に至ることなどありはしない」

 

 それはどこか、自分に言い聞かせるような言葉だと、一護は思った。

 

 「悔いるがいい。今の一撃で私の喉を裂かなかったことをな。

 奇跡は一度だ。

 二度は無いぞ、小僧」

 

 白哉の剣呑なまなざしとともに、霊圧が爆発した。

 

 桜色の奔流が再び一護目がけて殺到する。

 

 一護は宙返りを打つように飛ぶ。背後の岩が砕ける。空中の一護を襲うように桜色の奔流がたたきつけられるが、それらを一護は紙一重でかわす。

 

 一護が着地した。白哉の目の前に。

 

 振り下ろされた漆黒の刃を、桜色の奔流が受け止めた。

 

 即座に一護は回り込み、桜色の波濤を屈みこむようによけ、右手で地面をついて、さらに白哉を翻弄するように回りこむ。

 

 異常な速度だ。

 

 白哉は目が付いて行かないことに、わずかながらもうろたえる。

 

 千本桜景厳が、追いつかない。そんな馬鹿な。

 

 一護が白哉の周囲を回る。残像を残すように。速度の強弱を付けながら。

 

 「見えねえのか」

 

 一言、一護が問うた。確信しているであろう言葉は、白哉のプライドに爪を立てる。

 

 「あまり図に乗るな、小僧!」

 

 白哉が左手をかざす。桜色の奔流――千本桜景厳の速度がさらに上がる。この通り手掌で操れば、先ほどの二倍。捉え切れないものはないと白哉は確信していた。

 

 空中に跳んだ一護目がけて、桜色の奔流が襲い掛かる。分派して、四方から包みこむように叩きつける。

 

 捕らえた、と白哉は確信した。

 

 だが、一護が見えぬ鞘があるように背に納めた黒い刃が降りぬかれる。残像と硬い剣撃音だけを轟せ、桜色の奔流は粉々に砕け散った。

 

 

 「『風斬り』と呼ばれている。小手先の、抜刀術の一種だ」

 

 淡々と語る一護の姿が再び見えなくなり、次の瞬間、彼は白哉の真後ろに出現していた。

 

 突き出された刃が、振り向きざまにとっさにつかみ取ろうとした白哉の右手の手甲を切り裂いた。

 

 「二度はないのに、後ろを取らせてくれるとは、ずいぶんお優しいことだな」

 

 「・・・そうか」

 

 皮肉を言う一護をにらみつけながら、朽木白哉は天鎖斬月の刃を握りしめたまま口を開いた。

 

 ようやく、得心がいった。

 

 「卍解としての戦力のすべてを、その小さな形に凝縮することで、卍解最大戦力での超速戦闘を可能にした。

 それこそが貴様の卍解の能力(ちから)という訳か」

 

 朽木白哉の言葉を、一護は否定しなかった。

 

 もっと速く。

 

 かつて、クレアが抱いた渇望が、こんな形で実を結ぶことになろうとは、一護自身も思わなった。

 

 加えて、この速度特化の卍解は、一護の使う『戦士』の剣術・体術と相性がいい。

 

 特に、速度を武器にする風斬り・高速剣は、この卍解状態で使えば、さらに使い勝手が向上することだろう。

 

 「よかろう。

 ならばその力ごと・・・全て圧し潰してくれる!」

 

 白哉が吼える。

 

 一護は無理やり、その手の中から天鎖斬月を引き抜いた。指を切り落とすかもしれない、とチラと思ったが、すぐにそれどころではなくなった。

 

 「見るがいい、黒崎一護」

 

 血まみれの右手をそのままに、白哉の頭上で集った桜色の奔流が渦巻いた。

 

 「これが、防禦を捨て、敵を殲すことだけに全てを捧げた、千本桜の、真の姿だ」

 

 白哉の言葉に合わせるように桜色の奔流が形を成す。その色もまた、純白に変じて。

 

 「殲景・千本桜景厳」

 

 それは、荘厳にして壮絶な光景だった。

 

 何十何百もの真白の刀による、檻。それが一護と白哉を取り囲んでいるようだった。

 

 数えきれない刃の葬列を前に、一護もまた顔をこわばらせて絶句する。

 

 その圧倒的なまでの霊圧もまた、彼に語り掛けてくる。これが、これこそが、朽木白哉という男の本気だと。

 

 「案ずるな」

 

 白哉が語る。幼子に言い聞かせるように。

 

 「この千本の刃の葬列が、一度に貴様を襲うことはない。

 この“殲景”は、私が必ず自らの手で斬ると誓った者にのみ見せる姿」

 

 言いながら、白哉の血まみれの右手が真白の刀の一振りをつかんだ。

 

 「見るのは貴様で二人目だ」

 

 「それは光栄だ、とでも言っておこう」

 

 一拍の沈黙。

 

 「行くぞ、黒崎一護」

 

 白哉の宣告と同時に、二人は動く。

 

 草鞋が地を蹴ったのを見せもせずに、黒白の刃が打ち合わされた。

 

 

 

 

 

 双殛の丘へと続く石段を駆け上がるものがたちがいた。

 

 死覇装を着込んだ一団だ。先頭を走るのは茶渡泰虎、そのあとを井上織姫、志波岩鷲、石田宇宙、最後を荒巻真木造の順である。

 

 双殛の丘を支配するすさまじい霊圧に、彼らは息をのむ。それでも、彼らは最後の石段を踏み切って、頂上へ足を踏み入れた。

 

 その霊圧の嵐は、白い枯れ木の林の向こうから放たれている。

 

 霊圧の持ち主の片割れが黒崎一護ということを、彼らは察していた。

 

 大きさが変わっても、根っこの部分は変わってない。黒崎君の他にこんな人はいない、と井上織姫は、寂しそうに微笑んだ。手助けにすらなれないことを悔しく思いながら。何のために尸魂界〈ソウル・ソサエティ〉まで来たのか、と。

 

 茶渡が朽木ルキアの霊圧の不在を鋭く見抜くが、一足早くたどり着いていたやちるが、もう逃げた、と告げてくる。

 

 ならばなぜ一護が戦っているのか。

 

 その問いに答えたのは、石田だった。

 

 朽木ルキアを逃がしただけでは駄目なのだ。そんな甘い相手ではない。

 

 本当に彼女を助けるには、相手のすべてを叩き折って『朽木ルキアを処刑する』という相手の気構えそのものを砕く以外方法はないのだ、と。

 

 だからこそ一護は戦うのだ。己の全てを懸けて。

 

 そんな彼に震える声で叫んだのは荒巻だった。

 

 やっぱりあんたらはどうかしてる、朽木ルキアはただの仲間だろ?ただの仲間のために、そこまでして戦うか?と。

 

 答えかけた石田をさえぎって、井上が言った。静かな声で。

 

 「ただの仲間じゃないよ。

 黒崎君にとって、朽木さんは大切な人。

 だって」

 

 井上織姫は知っている。死覇装をまとって刀を振りかざす一護の必死な目が、同じく必死なルキアの目に全幅の信頼を置いていたことを。

 

 あの夜。兄を送ってくれた夜、確かにそれを目の当たりにしたのだから。

 

 「朽木さんは、黒崎君の世界を変えた人だから」

 

 

 

 誰も、知らないだろう。

 

 当の一護以外。

 

 彼がひそかに錆び付かせようと決めていたものを、朽木ルキアが掘り起こさせた。

 

 どこまでいっても、彼は刃を握って戦う者だと、思い出させた。

 

 再び握る刃を与えた者だから。だから、一護は彼女のために、その刃を届かせる。そのために、剣をふるうのだ。

 

 

 

 ひときわ大きな衝撃波が起こる。

 

 見れば、上空にかけて真白の刀が葬列じみた檻を作り上げ、双殛の丘を取り囲んでいる。

 

 一護の戦う相手の、未知の技だろうか。

 

 思わず怯む一同。大柄な茶渡は一同をかばうように一歩前に出る。

 

 少し離れた方がいい、と気遣う石田に、身を震わせて自身を抱きしめながらも、井上織姫は気丈に言った。

 

 ありがとう、でもごめん、ここにいたいの、と。

 

 それを見ながら石田も思う。

 

 今の井上では足手まといにしかならないこと、借りに助けになっても一護がそれを望まないであろうことも。

 

 そんなことは全部わかったうえで、それでも動きそうになる身体を必死で押さえつけながら、井上は待つのだ。

 

 黒崎一護の無事と、勝利を。ただ、信じて。

 

 そして、石田もまた声に出さずに思う。

 

 黒崎一護を。負けるな、と。負けたら許さない、と。

 

 

 

 

 

 殲景を繰り出した朽木白哉の攻撃を捌きながら、一護は歯噛みしていた。

 

 遅い。

 

 自分が、遅くなってきている。

 

 ここまで激戦の連続で、さらに卍解を修めたその足で処刑中断に乗り出した。ろくに手当てをする間もない状態で来て、その状態で卍解を繰り出したから、自分の身体が卍解の霊圧に耐えきれてないのだ。

 

 息が切れる。

 

 羽のようだった体躯が、水に沈められて重りを加えられるように鈍重になっていく。

 

 『戦士』であった頃なら、妖力開放で傷の回復ができたのに。ないものねだりでしかないとはいえ、できたらよかったのに。

 

 ついに白哉の刃が、右目の真ん前にかざされ、急ぎ避ける。が、完全回避はできずに、頬をかすめる。これ以上は持たない。

 

 体が付いて行かないなら、霊圧の方を調整するのだ。あまり得意ではないが、余剰分を抑え込む・・・いや、こうすればいいのだ。

 

 一護は目を閉じて、余計な感覚を削ぎ落す。霊圧探査・霊圧読みを放棄。

 

 天鎖斬月を振ることと、余剰霊圧のコントロールだけを意識する。

 

 「敵を前に目を閉ざすなど愚の骨頂・・・っ?!」

 

 白哉が振りかざす真白の刀を、一護は目を閉じたまま捌く。その周囲に、うっすらした霊圧の膜が張り巡らされている。そこに入った攻撃を、一護は感知しているのだ。

 

 

 

 霊圧の膜を張り巡らせ、その範囲に入った攻撃を捌く。かつて妖気でもってそれを行っていたのは、組織のナンバー5の『戦士』、ラファエラであった。クレアにその記憶を託した彼女は、最後の戦いに重要な一言も遺してくれた。

 

 出会いさえ違っていれば、きっと仲良くなれた。共に肩を並べて剣をふるえた。そう思わざるを得ない相手だった。

 

 

 

 白哉が足を狙って突き刺してくるのを、一護は一歩引いて回避。そのまま踏み込む。

 

 白哉が立てた右の人差し指を一護の左肩、心臓のある辺りに当て、詠唱破棄の破道を使おうとした。

 

 「破道の四、白ら」

 

 言い切るより早く、一護はその腕をつかんで投げ飛ばす。白哉が着地する。当然、破道は外れて、青白い閃光は明後日の方向に放たれた。

 

 息切れしながらも、一護は天鎖斬月を握りしめる。小手先の霊圧コントロールでどうにかできたが、一時しのぎでしかないらしい。

 

 まだだめだ。余剰霊圧があふれて、体を圧迫してくる。体がどんどん重くなる。

 

 ついに白哉の振るう刀が、胸元を切り裂く。どうにか浅く済ませたが、他の負傷も合わせた失血で、頭がくらくらする。

 

 もっと速く。速く速く。

 

 このままでは動けなくなる。以前、霊圧コントロールを失ったときは石田がいてくれたから何とかなった。だが、今ここに彼は居ない。どうすればいい?

 

 石田?彼はどうした?そうだ・・・。

 

 「月牙天衝っ!!」

 

 コントロールできない余剰分を刀に込める。

 

 目を開けて、そのまま振り下ろせば、漆黒の斬撃が飛ぶ。目を見開く白哉の左腕を切り裂き、真白の刀の檻の一部を破壊する。

 

 それは、風斬りによる月牙天衝よりもはるかにスピードと威力が増した一撃だった。

 

 これだ。コントロールできない分は、とにかく月牙にぶち込む。月牙天衝が、一護の霊圧を刀に食わせることで放つ技だからこその対策だ。

 

 「っ、月牙、天衝ぉぉぉぉ!」

 

 とにかく、月牙天衝を放ち、舞うように逃げ回る白哉目がけて叩きつける。

 

 だが、さすがは白哉というべきか。月牙天衝の隙間を縫って、一護の懐に飛び込むと、真白の刀を振りぬく。

 

 とっさに体の軸をずらしたが、その一撃は左の脇腹に突き立った。すかさず次の刀を手にした白哉が、一護の右の腿を斬りつける。

 

 ガス抜きに成功し霊圧は安定したが、その代償は高くついた。

 

 「・・・よくやるものだ」

 

 ポツリと白哉がつぶやいた。

 

 “殲景”は、バラバラだった刃を刀の姿に圧し固めて、爆発的に殺傷力を高めるためのものだ。

 

 それを前に、卍解を使えるようになったばかりだろう黒崎一護はよく戦った。恋次は振り回された巨大な霊圧を、どうにかコントロールしようとしていたのだから。白哉はそう思った。

 

 「幾人もの隊長格を退け、千本桜の攻撃を捌こうとも、肉と骨には尋常ではない負荷がかかっているのだろう。

 だが、もはやこれまでだ」

 

 息を切らし、ふらふらしている一護に、白哉は無情に言い放つ。

 

 「終わりだ、黒崎一護」

 

 告別の言葉とともに、白哉は白い刀を振り下ろす。

 




 この話に続きを与え、次回へ続かせたまえ。




 書いてる方は楽しかったんですがねえ。あんま、原作と大差ねえな。
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