元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
VS朽木白哉(3戦目)、これにて決着でございます。
しかし、その刀は固い音とともに弾かれる。否、弾かれるだけでなく、真っ二つに砕かれる。そればかりか、それを握っていた白哉の右手にも切り傷が付けられ、血が噴き出す。前髪をまとめる牽星箝がいくつか砕ける。
そのまま蹴飛ばされそうになった白哉は、大きく跳び下がって距離を取る。
「・・・ハア、ハア、・・・勝手に終わらすな」
「・・・抜刀術か」
背負った姿勢から繰り出す独特の抜刀術を使いこなす一護に、白哉はつぶやいた。
そう。一護はとっさに風斬りを繰り出したのだ。いくらか剣速は落ちていたが、それでも白哉の白い刀を弾くには十分だった。
「・・・しぶといことだ」
「あきらめの悪さには定評がある」
白哉の言葉に、一護はつぶやいた。
かつて、西のリフルと初めてまみえたザコルの覚醒者討伐に助成し、ダフという覚醒者と戦った際、クレアだけが最後まで戦う姿勢を崩さなかった。
ナンバー3のガラテア、ナンバー9のジーンが、一撃だけの体力を残して戦闘不能。クレア一人が高速剣を武器に、ジーンが旋空剣を繰り出すための時間稼ぎをすることになったのだ。
諦めて、とかわいらしい少女の姿で懇願してくるリフルと、散々打ちのめしたのに頑強すぎる体躯で立ちはだかるダフ。
だが、クレアはあきらめずに最後までくらいついた。その諦めの悪さに、ジーンが、ガラテアが、力を貸してくれたのだ。
ゆえに、一護もまたあきらめは悪いのだ。
「・・・よかろう」
一護がボロボロであるように、朽木白哉もまた傷だらけだった。
「お互い、もはやそう何度も剣をふるう力は残ってはいまい。
次の一撃で、幕だ」
「ああ」
一護はうなずき身構えながら、尋ねる。
「最後に、もう一度訊かせてくれ。
何故、ルキアを助けようとしなかったんだ」
「・・・
「・・・わかった」
そうして、二人は身構える。
「千本桜景厳、終景・白帝剣」
言葉とともに、千本もの白い刀は、白哉の右手のうちに一本の白い刀として収束される。
「・・・すげえな」
ポツリと一護はつぶやいた。
「そんなすげえ技、俺にはねえよ。俺が斬月から教わったのは月牙天衝一つだ。あとは斬魄刀には頼らない剣技だけだ」
月牙天衝も、『戦士』の剣技も。一護を支える大切な戦術だ。
「俺にできるのは、一つの斬撃に全ての霊圧を込めるだけだ」
背に納めた刃に、漆黒の霊圧の全てを込める。
「行くぞ、朽木白哉!」
ザリッと右足を退いて、踏み込みの準備をしながら、一護は叫んだ。
風斬りと月牙天衝の合わせ技――風斬り月牙に、全てを懸ける。それしかない。
直後、双方が動く。白と黒の刃が閃く。
そして。
双殛の丘の頂上で、黒白の翼が広げられたような、すさまじい霊圧の衝突が起こった。
霊圧が拡散していく。羽が砕けるように、白と黒のそれらが霧散していく。
双殛の丘のふもとで、死神たちがかたずをのんで見守る中、その頂上では交錯した黒崎一護と朽木白哉が背中を向け合って立っていた。
黒崎一護は、右肩から噴水のように血をほとばしらせ、そのまま倒れ込みそうになるのを、天鎖斬月を杖代わりにして踏みとどまる。
一方の朽木白哉もまた同じく、右肩から噴水のように血液をほとばしらせていた。そのままよろけそうになるのをたたらをふんでこらえる。
その右手に刀はない。一護の刀と打ち合った際、粉々に砕かれてしまったのだ。
「知りたがっていたな・・・私がルキアを殺す理由を」
ぽつりと、白哉が口を開いた。
「罪ある者は裁かれねばならぬ。刑が決すれば処されねばならぬ。それが、掟だからだ」
「・・・掟だから、妹でも殺すのか」
「肉親の情か。下らぬ」
天鎖斬月を地面についたまま振り向いた一護に、振り向きもせずに白哉は語った。
「掟に比すれば、あらゆる感情に価値などない。
そんな下らぬ感情など、もとより持ち合わせてはおらぬ。
我が朽木家は四大貴族の一。
すべての死神の規範とならねばならぬ存在。
我らが掟を守らずして、誰が掟を守るというのだ」
振り向いた白哉の瞳に、動揺などの感情の揺れはない。静謐さだけが湛えられていた。
上に立つ者だからこそ、掟を守る。わかる気がする、と一護は思う。
銀眼の『戦士』は、上位ナンバーの者だからこそ、他の戦士たちの規範としてふるまわなければならない。
クレアは、ミリアやフローラの、そういうところをひそかに尊敬していたのだ。
わからないではないのだ。けれど。
幼いクレアを守るために人を手にかけて、追われる身になったテレサのことを思い返すたびに。
一護とその家族を守るために力をくれたルキアが、今処刑されそうになっていることを思うたびに。
一護は思うのだ。それは、絶対視しなければならないことなのだろうか、と。
「・・・悪いが、やはり俺には理解できそうにねえ」
白哉の言葉に、しばし黙してから一護は口を開いた。
「俺がもし・・・あんたの立場だったとしても、やはり俺は、掟と戦うはずだ。
剣を握ろうが、そうでなかろうが」
一護の言葉に、白哉は少し目を見開き、ややあってまぶしいものを見るように少し目を細めた。
嗚呼、似ている、と。
表情こそ似ていないが、その在り様というか、心根というかは似ているのだ。あの、奔放さが疎ましかった男――志波海燕と、黒崎一護は。
彼が戦っているのは、彼の敵は、最初から白哉ではなかったのだ。最初から、この
「黒崎一護」
呼びかけてから、白哉はまっすぐ前を向いた。
「私の刀は、貴様のその奔放さに砕かれた」
血の跡を残しながら、ゆっくりと白哉は歩いていく。
「私はもはや、ルキアを追わぬ」
それは、待ち焦がれた、一護にとっての勝利の言葉。
「この勝負、
チラと振り向いてそう言い残し、白哉は瞬歩で姿を消した。
それを半ば呆然と見送る一護は、実感が出てきたのだろう。ややあって勝鬨を上げるように顔を上げた。
「っ・・・勝った・・・!」
だが、直後にその視界がぐにゃりと歪んだ。立っているのが限界だと悟った彼は、そのまま仰向けに崩れ落ちそうになり。
背後にいた井上織姫の頭にぶつかって、今度はうつぶせに倒れ込んで頭を抑えた。ついでに傷にも響いた。めちゃくちゃ痛い。
「ご、ごめんね黒崎君、大丈夫?!
あたし石頭でごめんね!受け止めようとしたんだけど・・・!」
「・・・気にするな。それより、無事でよかった」
困ったように笑う井上に、一護はうずくまったまま見上げて、無表情をわずかに緩める。
「何だ、血まみれの割に意外と元気そうじゃないか、黒崎」
眼鏡を押し上げながらやってきたのは、石田だ。その隣には茶渡と、包帯まみれの岩鷲がいる。
「何とかな。お前らも無事で何よりだ。・・・後ろのやつは?」
「イヤ・・・いーっスよ、俺は無視してくれて」
地面に横たわった一護に、荒巻は所在なさげにぼそぼそとつぶやく。
「無事ではないけどね。君のやられっぷりに比べれば、みんな無傷みたいなもんさ」
苦笑するような、申し訳なさそうな声で石田が言う。
「井上は?ケガはねえか?」
「え?あ、あたし?!あたしなんて全然!」
一護の問いかけに、井上はワタワタと両手を振った。
「あたしなんて全然役に立ってないのに、石田君が守ってくれたり、他の死神さんが守ってくれたりして!
更木さんとかおんぶしてくれたりして!だから全然・・・全然危なくなんかなくて・・・ただ・・・」
ワタワタと身振り手振りで大仰に語る井上は、徐々に勢いを失くしていき、徐に一護のそばに座り込んだ。
「ただ・・・ただ、黒崎君のことが、ずっと心配だっただけで・・・」
そう語る井上は、とび色の瞳に涙を浮かべていた。
「ごめんね、黒崎君。守ってあげられなくて・・・。
ありがとう、黒崎君。生きててくれて・・・。
黒崎君が、無事でよかった・・・」
一護は少し驚いたように目を見開いたが、ややあって柔らかな声で言った。
「・・・ありがとうな、井上」
自分が彼らを心配してたように、彼らもまた自分を心配してくれていたのだ。
懐かしく、嬉しいことだ。これが、仲間というものだ。
ミリア、デネブ、ヘレン、タバサ、シンシア、ユマ。また、仲間ができたんだ。いい奴らだよ。
井上はその場で一護の手当てをしようとしてくれたが、先にこの場を離れた方がいいという石田の提案の下、双殛を離れることになった。
血まみれボロボロの一護は、岩鷲に肩を貸してもらい、どうにかこうにか動く。
一護たちが死神たちにとってはお尋ね者の旅禍であるという状況に変わりはない。ルキアの救出も済んだのだ。さっさと恋次と合流して、現世に帰ればミッションコンプリート、というところだろうか。
双殛の丘に続く石段を駆け下り、瀞霊廷の長い通路を駆け抜けながら、一護は霊圧を探った。
白哉との戦闘に集中したくて、霊圧探査は放棄していたが、落ち着ける状況になったので、改めて探知してみる。
更木剣八が霊圧垂れ流しで、明後日の方向に向かって移動している。・・・雰囲気や残渣などから、別の隊長格と殺し合いをしていたのだろうか?そういえば、先ほど井上がおんぶしてもらったとか言っていたが、その関係で、他の隊長格と揉めることになったのだろうか?あの戦闘狂なら、それはそれで嬉々として戦ったに違いない。
かなり離れたところには、巨大な霊圧3人分。一人に対し、二人が立ち向かう形になっている。いずれも覚えがある。双殛の丘にいた隊長格だ。二人の方が、ルキアの処刑中止に手を貸してくれた隊長格だろうか。
ここからもう少し離れたところの林の中には・・・夜一と、同じく双殛の丘にいた隊長格の一人がいる。戦闘が終わったのだろうか、霊圧は落ち着いている。
あとは、恋次とルキアの位置は。
「?! 待て!」
「どうしたの、黒崎君」
「おい、黒崎、どうしたんだ」
ぎょっとした一護の言葉に、全員が足を止めて振り返ってきた。
「おい、どうしたんだ、一護」
「恋次のやつ、なんで双殛にいるんだ?!逃げろと言ったはず・・・誰だこいつら?!」
首を双殛の丘に向けて、一護は狼狽した。
「え?お前、わかるのか?相変わらず変態みたいな探知能力だな」
「うるさいぞ。恋次がいるならルキアもいるはず・・・他にいるのは3人・・・うち一人は、市丸?」
呆れたように言ってくる岩鷲に、一護は目を閉じて霊圧を探る。
ルキアは長すぎる収監生活のせいだろう、霊圧が微弱になっているうえ、戦闘を終えたばかりの一護では彼女は探り切れないのだ。
だが、他の霊圧は分かる。3人とも隊長格らしい。そして、うち一つには覚えがある。白道門で会った。市丸ギンのものだ。
一護が思うと同時に、不思議な声が響き渡った。
『縛道の七十七!“天挺空羅”!捕捉・・・成功!
護廷十三隊各隊隊長及び副隊長・副隊長代理各位、そして旅禍の皆さん。
こちらは四番隊副隊長虎徹勇音です』
「な、何だ?!」
「静かに!今は話を聞こう!」
仰天して周囲を見回す岩鷲に、石田が叱責して耳をすませる。
遠隔通信、あるいは広域放送のような鬼道らしい。
『音声は届いていますか?
緊急です。
これは四番隊隊長卯ノ花烈と、私・虎徹勇音よりの緊急電信です。
どうか暫しの間御清聴願います。
これからお伝えすることは、全て真実です』
こわばった声で、虎徹勇音と名乗った女の声が告げてくる。
『先ほど、中央地下議事堂にて、中央四十六室の全構成員が殺害されていることが判明しました。
犯人は、五番隊隊長・・・いえ、元五番隊隊長・藍染惣右介。
彼は、自らの斬魄刀“鏡花水月”の能力、完全催眠によってその死亡を偽装して、行方をくらませ、しかる後に四十六室を殺害しました。
さらに先ほど、五番隊副隊長・雛森桃と、十番隊隊長・日番谷冬獅郎に瀕死の重傷を負わせました。
そのまま、元三番隊隊長・市丸ギンとともに逃亡。共謀者に元九番隊隊長・東仙要もいます。
彼らは現在、双殛の丘に移動しています。
これは・・・護廷十三隊、ひいては
「・・・何だったんだ?今のは?」
声が途絶えたところで、岩鷲が口を開く。
「・・・五番隊隊長、藍染惣右介。恋次が、おととい殺害されたと言っていたが、自作自演だったか」
ポツリと一護がつぶやいた。
「あたし、何も聞こえなかったけど・・・」
「今の声は四番隊って言ってた・・・。
井上は四番隊と直接接触してないから、霊圧を捕捉できなかったんだろう」
戸惑った声で、両手を耳元にやる井上に、茶渡が言った。
「・・・どう聞いても
「そういうことだろうな、黒崎」
「おいコラ。納得してんな、眼鏡と無表情!わかるよう話せ!」
視線を伏せる一護と、眼鏡を押し上げる石田の二人に、岩鷲が吠えた。
「その藍染という隊長が、中央四十六室・・・話の流れから見て、瀞霊廷の最高司法機関と見ていいだろう、それを全滅させ、自分の目的をあたかもその四十六室の決定であるかのように見せかけて遂行しようとしていたのなら」
「・・・処刑、か?」
「そうだ。僕たちが
こわばった顔で訊き返す岩鷲に、石田がうなずいた。
「ルキアの処刑。それが藍染とかいう男の目的だ。
それも単に殺すだけじゃねえ。双殛を使わねばならない、理由があった」
岩鷲の手を振りほどいて立ち上がりながら、一護が吐き捨てる。
「双殛じゃないといけない・・・?」
「わざわざ最高司法機関に成り代わって、面倒な手順を踏んで処刑しようとしたんだ。目的がルキアの命でも、手段が双殛でなければならない理由があったんだろう。それから」
戸惑うように繰り返す井上に、一護は吐き捨てる。
「それから?」
「っ・・・後で話す。先に行くぞ。恋次が危ないんでな!」
すでに、双殛の丘の上から、藍染と思しき霊圧に立ち向かう、恋次の霊圧が膨らみ、揺らぎ始めている。
間に合え、という代わりに、一護は右手にひっさげたままの天鎖斬月を握りしめ、強く両足を蹴った。
足の裏に集めた霊子を爆発させ、瞬間的な大跳躍移動を行う。これが瞬歩だ。“斬月”との修行の間を縫うように、夜一から教わった死神の歩法。『幻影』よりも足の負担が軽い、移動法だ。
一護は再び飛ぶ。一路、双殛の丘へ向かって。
この話は、そうして続いていく。
白い男『俺の出番は?』
そのうち出てきますよ、そのうち。
次回は、愛染様によるネタバレ大会ですかね。よかったらまたお付き合いくださいませ。