元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 きりがいいので、今回の投稿はこの2話だけです。
 この辺は、あんまり原作とは違いませんでした。ただのノベライズやないけ!仕方ないね!


【#39】元銀眼の魔女の死神代行、地に伏せて怨敵の退場を眺める

 

 「君たちは恐らく、勇音君からこう聞いているはずだ。

 “藍染惣右介は死を装って行方を晦ませ、しかる後に四十六室を殺害した”と。

 だが、それは間違いだ」

 

 再びルキアを引きずって歩きながら、藍染は語る。

 

 朽木ルキアが発見されて、すぐに藍染は四十六室を皆殺しにし、“中央地下議事堂全体”に鏡花水月をかけた。

 

 そうして、“四十六室が生きて会議を続けている状態”に見えるようにしておけば、万一何者かが入ってきても異変に気付かれることはない。

 

 もっとも、四十六室(うちがわ)から許可しない限り、隊長格に議事堂に入る権限などないのだが。

 

 そうして、藍染・市丸・東仙の三人は、常にいずれかの一人を地下議事堂に置き、それ以降、今日にいたるまで四十六室を演じ続け、全ての命令を操作し続けたのだ。

 

 捕縛を確実にするために、ルキアの捕縛役を六番隊の二人に替えた。

 

 ルキアを人間から遠ざけるために、義骸の即時返却・破棄を命じた。

 

 ルキアの魂魄を完全に蒸発させ、内部から崩玉を取り出すために、双殛を用いての処刑を決定した。

 

 彼らが地下議事堂を完全に空けたのは、二度の隊首会を含む、前後数時間のみ。

 

 藍染が死を装って地下議事堂に潜伏したのは、その直後だ。

 

 一護たちの働きで、処刑が失敗する可能性が出てきたと判断したためだ。

 

 魂魄に直接埋め込まれた異物質を取り出す方法は二つしかない。

 

 ①双殛のように超々高度の熱破壊能力で外殻である魂魄を蒸発させて取り出す。

 

 ②何らかの方法で魂魄組成に直接介入して強制的に分離させる。

 

 以上である。

 

 ゆえに、万が一双殛での処刑が失敗した場合、そのもう一つの方法を見つけねばならない。

 

 そのために必要だったのが、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の全ての事象・情報が強制集積される地下議事堂の大霊書回廊だ。

 

 藍染は、そこで浦原喜助の過去の研究を一つずつ細かに調べ上げたのだ。魂魄への異物質埋没は彼の編み出した技術なのだから。

 

 ならば、それを取り出す技術も、彼の過去の研究に中に必ず隠れていると読んだのだ。

 

 「そう」

 

 言いながら、藍染は取り出した小さな細長い筒のような物の先端を押し込んだ。

 

 同時に、藍染と彼が首輪をつかむルキアの周囲に鉤爪のような囲いが出現する。

 

 「これがその」

 

 「待っ」

 

 「(こたえ)だ」

 

 一護の制止の声など当然のように無視され、藍染は緑色に変色した右手を、ルキアの胸のど真ん中に突き入れていた。

 

 ズルリッとその右手が引っ張り出される。

 

 胸に黒い穴が空いたルキアは、そのまま抛られるように地面に座り込んだ。

 

 「驚いたな。こんな小さなものなのか」

 

 その右手から緑色が手袋が剥がれるように消えていくのを尻目に、藍染は手に持った透明な結晶に閉じ込められた黒い珠を眺めた。

 

 座り込んだルキアの胸元からは、黒い穴がすぼまるように消えていく。

 

 「ほう。魂魄自体は無傷か。

 素晴らしい技術力だ」

 

 取り出した崩玉を死覇装の懐にしまいながら、藍染はこともなげに言った。

 

 「だが、残念だな。君はもう、用済みだ」

 

 ぐったりするルキアの首輪をつかんで、再度持ち上げながら、藍染は冷酷に命じた。

 

 「殺せ、ギン」

 

 「しゃあないなぁ」

 

 息をのむ一護をよそに、市丸は斬魄刀を引き抜きながら、解号を唱える。

 

 「射殺せ、『神鎗』」

 

 同時に伸びた切っ先が、ルキアを貫こうとした。

 

 必死に地面を掻いた一護。

 

 右手を伸ばす市丸。

 

 意識なくぐったりする恋次。

 

 つまらなそうな顔で、空手となった右手を眺めた藍染は、ややあって振り返る。

 

 振り返った先には、左わき腹に突き立った、神鎗の刃を握りしめる朽木白哉がいた。

 

 一護との戦い直後と変わらぬ、血まみれのまま。その右手でルキアをしかと抱き留めて。

 

 「兄・・・様・・・!」

 

 呆然とつぶやくルキアをよそに、市丸は刃を縮めて納める。

 

 白哉は険しい表情で藍染をにらんでいたが、ルキアの無事を認めると、そのままがっくりと膝をついた。神鎗の一撃は、白哉の腹を貫通していたのだ。

 

 「兄様!」

 

 ルキアの声が悲愴を帯びる。

 

 「兄様・・・なぜ・・・何故、私を・・・!」

 

 頽れる白哉を抱きとめて、ルキアが叫んだ。

 

 やがてルキアははっと顔を上げる。藍染が、変わらぬ微笑をたたえたまま、歩み寄ってくる。ルキアは兄をかばうように抱きしめながら、藍染をにらみつけた。

 

 藍染の右手が斬魄刀の柄にかかり。

 

 次の瞬間、その右手の斬魄刀を夜一が抑え、その体躯に二番隊隊長の砕蜂が巻き付き、首筋に斬魄刀を押し当てる。

 

 「これはまた、ずいぶんと懐かしい顔だな」

 

 藍染は表情一つ変えずに言った。

 

 「動くな。筋一本でも動かせば」

 

 右手で斬魄刀の柄を抑え、左手で刃に巻き付けたひもを引っ張りながら夜一がうなる。

 

 「即座に首をはねる」

 

 藍染の首筋に添えた斬魄刀を持つ砕蜂が続く。

 

 「成程」

 

 ぽつりと藍染がつぶやく。

 

 直後、瀞霊廷の建物や塀を踏みつぶし、三人の巨漢が現れた。全員死覇装をまとっている。

 

 上半身は裸で、野獣のようなひげが特徴的な風貌の男が嵬蜿。東・青流門の門番を務めている。

 

 肌が黒い巨漢が斷蔵丸。北・黒陵門の門番を務めている。

 

 僧のような頭巾をかぶっているのが比鉅入道である。南・朱洼門の門番を務めている。

 

 それを見た夜一は、さすがに顔色を変えた。

 

 「馬鹿な・・・こ奴らまで手懐けおったというのか・・・!」

 

 「どうする?いくら君達でも僕をとらえたまま彼らとは戦えまい」

 

 余裕たっぷりの藍染の言葉に、夜一が舌打ちをした時だった。

 

 轟音とともに、飛び込んできたものがいた。兕丹坊だ。しっかりと左手はくっついており、その肩にはマントを羽織る空鶴が仁王立ちしている。

 

 「空鶴!」

 

 「おう夜一!あんまり暇だったからよ、散歩がてら様子見に来たぜ!」

 

 パッと表情を明るくする夜一に笑いかけて、空鶴は兕丹坊を見やった。

 

 「さあ、いくぜ兕丹坊!」

 

 「おス!」

 

 兕丹坊が返事すると同時に、空鶴は詠唱する。

 

 「“散在する獣の骨!尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪!”

 “動けば風!止まれば空!槍打つ音色が虚城に満ちる!”

 破道の六十三!『雷吼炮』!」

 

 その左手から放たれた青白い巨大な火の玉が、比鉅入道の頭を穿つ。

 

 だが、他の二人は顔色一つ変えずに、こちらを見ている。

 

 それを見て、兕丹坊は複雑そうに目元をゆがめた。

 

 一人吹っ飛ばされても眉一つ動かさないなんて。本当は自分たちは仲が良かったはずだ。みんな気のいい仲間だったのだ。やはり、藍染に何かされたのだろう。

 

 申し訳なく思いつつ、兕丹坊は彼らを眠らせるべく拳を振り上げた。

 

 怪獣大戦争じみた巨漢たちの戦いで飛び交う瓦礫を、パシパシと左手で払う市丸は、どうしようかと考えかけ、身動きを止めた。

 

 左手を掴まれ、首筋に斬魄刀の刃を押し当てられたからだ。背後に立つ、松本乱菊によって。

 

 「すんません、藍染隊長。つかまってもた」

 

 相変わらず飄々と言う市丸に、藍染は表情を変えない。

 

 「これまでじゃの」

 

 「何だって?」

 

 「判らぬか、藍染」

 

 聞き返す藍染に、夜一が勝ち誇っていった。

 

 「最早おぬしらに、逃げ場はないということが」

 

 次の瞬間、双殛の丘は隊長格と席官たちが集い、藍染たちは取り囲まれる格好となった。

 

 東仙は、九番隊副隊長の檜佐木修兵に、背後から斬魄刀を突き付けられている。

 

 血まみれで倒れ伏す狛村をかばうように射場が立ちはだかっている。

 

 京樂春水、浮竹十四郎、大前田希千代が立ちはだかり、少し離れたところに雀部長次郎を従えた山本元柳斎重國が佇む。

 

 もの言いたげに藍染を見やる隊長格たちに、夜一が言った。

 

 「終わりじゃ、藍染」

 

 双殛の丘の下で、三人の門番を兕丹坊が下したのはこの時だった。

 

 だが、藍染の唇から笑みが消えることはなかった。

 

 「どうした。何が可笑しい、藍染」

 

 「ああ。済まない。

 時間だ」

 

 しれっと言った藍染に、夜一は何かに気が付いた様子ではっとした。

 

 「離れろ砕蜂!」

 

 叫ぶと同時に、二人は藍染から離れていた。間髪入れずに、藍染を白い光の壁が取り囲む。天から伸びた、白い光の四角柱に閉じ込められたように。

 

 「ば、馬鹿な・・・?!」

 

 呆然と天を見上げる一同をよそに、蒼穹にヒビが入り、長い爪がそれを押し広げ、漆黒の穴をあける。巨大な穴の中を、大虚(メノス・グランデ)の仮面がいくつも蠢いている。

 

 「大虚(メノス・グランデ)!!」

 

 砕蜂の驚愕の声に大虚(メノス・グランデ)たちは、その半身をひねり出すように身を乗り出した。

 

 「ギリアンか・・・!何体いやがんだ・・・?!」

 

 「いや、まだ奥に何かいるぞ・・・!」

 

 声を震わせる大前田に、檜佐木が続く。

 

 続き、空から同じく白い光の柱が降り注ぎ、檜佐木と乱菊が拘束する東仙と市丸も、その内部に納まる。

 

 「ちょっと残念やなあ」

 

 ポツリと市丸がつぶやいた。日頃の飄々とした調子とは裏腹に、どこか寂し気な調子に、乱菊には聞こえた。

 

 「もうちょっと捕まっとってもよかったのに。

 さいなら、乱菊」

 

 振り向いた市丸は、どこか寂し気に微笑む。

 

 「ご免な」

 

 直後、愛染たちの立つ地面がリフトのように浮かび上がり、そのまま空の穴に向かっていく。

 

 「浮いた・・・?!」

 

 「逃げる気かい?!この」

 

 「止めい」

 

 言いかけて斬魄刀をかざそうとする射場に、山本が制止をかけた。

 

 「総隊長・・・!」

 

 「あの光は『反膜(ネガシオン)』というての。

 大虚(メノス)が同族を助けるときに、使うものじゃ。

 あの光に包まれたが最後、光の内と外は干渉不可能な完全に隔絶された世界となる。

 大虚(メノス)と戦うたことのある者なら、皆知っとる。

 あの光が降った瞬間から、愛染にはもはや、触れることすらできんとな」

 

 それはつまり、目の前でみすみす彼らの逃亡を見逃すということだ。

 

 直後、血まみれの狛村がはね起きた。

 

 「東仙!降りてこい東仙!」

 

 負傷をものともせずに、狛村は吠える。同族を求める遠吠えのように。

 

 「解せぬ!貴公は何故死神になった?!

 亡き友のためではないのか?!正義を貫くためではないのか?!

 貴公の正義は、どこへ消えて失せた?!」

 

 反膜(ネガシオン)の内側で、東仙は冷たく言い放った。

 

 「言ったろう、狛村。

 私のこの目に映るのは、最も血に染まらぬ道だけだ。

 正義は常に其処に在る。

 私の歩む道こそが正義だ」

 

 「東仙・・・!」

 

 膝をついて睨み上げるしかできない狛村に、浮竹が足を踏み出しながら、唸るように言った。

 

 「大虚(メノス)とまで手を組んだのか。

 何の為にだ」

 

 「高みを求めて」

 

 「地に堕ちたか、藍染・・・!」

 

 藍染の淡々とした言葉に、浮竹は険しい表情で吐き捨てた。

 

 「傲りが過ぎるぞ、浮竹。

 最初から誰も、天に立ってなどいない」

 

 藍染が吐き捨てる。

 

 「君も、僕も、神すらも」

 

 藍染はかけていた黒縁眼鏡をはずし、茶髪を掻き上げた。

 

 「だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。これからは」

 

 眼鏡がボロボロと崩れ去るのを見もせずに、藍染は冷たい表情で一同を見下ろした。

 

 「私が天に立つ」

 

 藍染たちの異常な退場は、おそらく瀞霊廷中から見えていることだろう。双殛の丘のふもとにいる織姫たちもまた、こわばった顔で見上げる。

 

 「さようなら、死神の諸君。

 そしてさようなら、旅禍の少年」

 

 地に這いつくばって、それでも屈するまいと険しい表情で見上げる一護を一瞥して、藍染は優雅に背を向けた。

 

 「人間にしては、君は実に面白かった」

 

 言い残して、藍染は黒い穴の奥に姿を消した。

 

 用は済んだと、黒い穴はすべてを飲み込み、閉ざされた。

 

 

 

 日が沈む。

 

 双殛の丘は夕暮れに包まれ、集まってきた護廷十三隊の死神たちが、後処理にいそしんでいた。

 

 四番隊・伊江村八千和三席が、てきぱきと指示を出す。

 

 負傷している朽木白哉と狛村左陣、阿散井恋次の治療に班員を振り分け、ある程度治療できたら、順次綜合救護詰所への移送を言い渡す。

 

 白哉は重傷だった。一護との戦いの傷もあるが、市丸の神鎗が内臓を貫通しているのだから。

 

 浄気結界の内側に横たわる白哉に、ルキアがとりすがる。

 

 狛村はといえば、ぼろぼろでありながらもよろよろと立ち上がってそのまま立ち去ろうとする。

 

 恋次はすでに治療を受け、担架に乗せられて移送されるところだ。

 

 地面に転がる一護は、井上織姫の双天帰盾を受けていた。オレンジ色の光に包まれる一護の体躯からは、傷が徐々に消えていく。

 

 「・・・悪いな、井上」

 

 「しゃべらず大人しくしていろ、黒崎」

 

 ぽつりと言った一護に、ぴしゃりと言い放ったのは石田だ。当の井上は額に汗をうっすらと浮かべながら、懸命に双天帰盾の維持に努めている。

 

 その時、空飛ぶ一つ目のエイのような幻獣に乗った女隊長が駆け付けた。四番隊隊長・卯ノ花烈である。

 

 日番谷と雛森がひとまず一命をとりとめたので、そのまま他の者たちの治療をするべく駆けつけてくれたのだ。

 

 残すは、一護と白哉だ。

 

 一護の方は必要ないと判断したらしい卯ノ花は、そのまま横たわる白哉の枕元にひざまずいた。

 

 そうして、一言二言言葉を交わす卯ノ花は、ルキアを呼ぶ。白哉が呼んでいる、と。

 

 ぐったりと横たわった白哉は、苦し気な息をこぼしながら語りだした。その目には今までの冷たさはなかった。

 

 白哉は語る。

 

 

 

 五十年前の早春に亡くした妻、緋真の願いでルキアを引き取ったのだ、と。その緋真こそ、ルキアの実の姉だった。

 

 彼女は死後に、戌吊に送られたとき、生活の苦しさからまだ赤ん坊のルキアを捨ててしまったことを悔いていた。

 

 白哉との婚姻後から5年間、ずっとルキアを探し続けていた。白哉は、今際の彼女の願いを汲んだのだ。

 

 彼女の願いだから、ルキアにはあえて本当のことは語らなかったのだ。

 

 貴族の白哉が流魂街の者の血を朽木家に混ぜることは掟に反しており、家名を下げると屋敷の者たちには反対された。

 

 緋真を朽木家に迎えた時も、ルキアを迎え入れた時も、白哉はその掟を破った。

 

 だから、白哉はルキアを迎え入れたのち、父母の墓前に誓いを立てた。

 

 掟を破るのは、これが最後。これより先、いかなることがあろうとも、必ず掟を守り抜くと。

 

 

 

 「お前の殛刑が決定されたとき、私は判らなくなっていた・・・。

 掟を守るという父母への誓いと、妹を守るという緋真との約束と、どちらを守るべきなのか・・・」

 

 ぽつぽつと語る白哉の視線が、横たわって双天帰盾の光に包まれる一護に向けられた。

 

 「黒崎一護、礼を言う」

 

 小さな声であったけれど、白哉の言葉は一護には確かに聞こえた。

 

 一護は黙って目を伏せた。自分が何か言うのは野暮だと知っていたから。

 

 「ルキア・・・」

 

 手を伸ばした白哉の手を、ルキアはしかと受け止めた。

 

 「すまぬ」

 

 ポツリとこぼされた白哉の言葉が、戸惑いきったルキアの心にしみわたる。

 

 

 

 そうして、激動の一日は幕を閉じた。

 





 なお、この話はもう少し続くことになる。





 次回は、騒動が落ち着いた尸魂界にて。
 よかったらまた、お付き合いくださいませ。
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