元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
今更ですけど、この主人公、根っこの部分は原作一護君とあまり変わらないんですよね。
藍染の反乱から一週間後。瀞霊廷は元の落ち着きを取り戻しつつあった。
一護たちは、四番隊の綜合救護詰所に押し込まれたものの、特に拘束などはされることはなく、手厚い看護を受けることにもなった。
療養の片手間、一護たちは他の席官や隊長格から話を聞かれていろいろ話すことにもなった。
中心となっていたのは、ルキアの上司という浮竹十四郎である。
「部下を救ってくれてすまないな。感謝する」
顔を合わせるなり、頭を下げてきた男は、夜一から聞き及んでいた通り、律儀で義に厚い人物らしい。
ただし、あまり体が丈夫ではないらしく、顔色が悪いなと思った翌日には笠をかぶって女ものの着物を羽織った京楽という髭の男が、代わりにやってきた。
「あいつはあまり丈夫じゃなくてね。今日は僕がいろいろ話を聞かせてもらうよ」
ひょうひょうと語る京楽にも、やはりいろいろ話すことになった。
尋問というか、取り調べというか、事情聴取というか。
一応、ルキアの方からも藍染の企みに関しては報告が上がっていることだろうが、一護たちの口からも聞きたいのだろう。
と言っても、一護は本人も自覚している通り、浦原に体よくつかわれ、藍染にもこれまた都合よく利用された手駒という立場でしかない。
彼は自分の耳で聞いて目で見たことだけを報告した。できるだけ、自分の情感は省いて。
「・・・なんか、手慣れてるね、一護君」
微妙に感心したような、呆れたような調子で京楽に言われてしまった。
一応、前世に組織で妖魔や覚醒者と戦った後、ルヴルをはじめとした組織のメッセンジャーには口頭で報告をしていたので、多少は覚えがあるのだ。
もっとも、北の戦乱で使い捨てにされて以降はやってないが。誰だって、使い捨てにしてきた連中に義理立てはしたくないだろう。
ともあれ。
一応、こういった取り調べは、一人一人バラバラに行うらしい。
事情聴取の片手間、京楽や浮竹も、一護たちに瀞霊廷の状況を世間話がてら教えてくれた。
壊滅状態の四十六室に代わり、当面は総隊長の山本元柳斎重國が、護廷十三隊の全面指揮をとること。
負傷した狛村と恋次、十番隊隊長・日番谷冬獅郎の回復は順調。白哉は重傷であったのでいまだに入院中だが、順調に回復していること。
一番の重傷は、五番隊副隊長・雛森桃で、いまだに酸素マスク付きで意識もないままらしい。
藍染は、雛森を殺そうとした。それも、散々搦め手で、三番隊副隊長の吉良イヅルをけしかけたり、日番谷に手をかけさせようとしたが、うまくいかず、結局自分で手を下したらしい。
自分がいないと生きていけないようにしたから慈悲だ、と藍染はぬけぬけと言っていたらしい。
ルキアの一件といい、なんと抜け目なく不気味で、狡猾で計算高い男だ、と改めて一護は思った。
ともあれ。
いよいよ明日には、
借りた裁縫道具と、もらった布類を眼鏡ミシンのあだ名のままに、恐るべき勢いで使いこなした石田が、茶渡や井上の衣服、自身の衣類や、ルキアのワンピースを縫いあげるのを尻目に、一護はここ最近すっかり顔なじみになっていた十一番隊の隊舎道場に顔を出していた。
すでに回復した一角が、坊主頭を汗に光らせつつ、木刀で部下たちをシバきまわしている。実に生き生きとしていた。
この男、一護との対戦で大きな刀傷をつけたというのに、その後は七番隊副隊長の射場鉄左衛門と、酒を飲みながらド突きあいをしていたというので、根っからの戦闘好きなのだろう。知ってはいたが。
「オラオラどうしたテメーら?!誰も来ねーのか腰抜けども!」
「・・・俺が行く」
道場の端で、チンピラ面を引きつらせて黙り込む平隊士達を尻目に、一護は斬月の代わりに借りた木刀を肩に担いで進み出る。
「ほう・・・いい度胸だな、一護。
いいのか?病み上がりだろうが手加減はしねーぞ」
「病み上がりはお互い様だろう。
病んでねえよ。怪我してただけだ」
「同じだろ。怪我して治ったばっかなのも病み上がりっていうんだよ」
「病み上がりは、病気に限定するはずだ。怪我の場合は・・・なんて言うんだろうな?」
「テメーが知らねーものを俺が知るわけねえだろ。つーか、結局同じでいいじゃねえか」
「違うような気がするんだが。しっくりこねえというか。
相変わらずおおざっぱだな」
「てめえが神経質すぎんだよ。よぉし!わかった!」
ポンポンと言い返し合う無表情の一護と、一角はややあって木刀を振り上げた。
「じゃあ、こいつで勝った方が正しいってことでどうだ!」
「いいだろう。話が早い。もとよりその」
と言いかけた一護は、次の瞬間ピクリッと顔を道場の入り口に向けた。
直後、草鹿やちるを肩に張り付けた更木剣八が「おーす!」と間延びした挨拶とともに道場の扉を蹴り開けた。
途端に、平隊士達は冷や汗交じりに一斉に頭を下げる。
「おはようございます隊長!」
「おはようございます!」
口々にそう挨拶をする彼らは、よく訓練されたヤの付く自由業の人間のようにも見えた。
「あん?何だ、元気そうじゃねえか、一護。
傷はもういいのか」
「問題ねえ。おかげ様で」
剣八の問いに一護が言い切るより早く、瞬時に膨らんだ霊圧によってその握っていた木刀が真っ二つにへし折れた。
平隊士達が一斉に震え上がる。失神して泡を吹く者もいた。
「そうか・・・そいつぁ何よりだ・・・」
吹き出る霊圧をまといながら、更木剣八は腰のぼろ刀を抜刀する。
「これで遠慮なくテメエと戦れるってこった!!」
同時に一護は草鞋をもって、一角によって吹き飛ばされた平隊士が割った窓から外に飛び出した。
一拍呆然とした剣八は、すぐに一護の後を追って飛び出した。
「てめえ!待てコラ一護!」
「誰が待つか!あんたと戦うなんて二度とゴメンだ!」
「何だと?!逃がすか!」
そんな科白がドップラー効果とともに消えていくのを尻目に、綾瀬川弓親がやれやれと肩をすくめた。
「やれやれ・・・騒々しいね。毎度のことながら・・・」
弓親は思い出す。先日やってきた一護が、平隊士相手に木刀でも無双で、あの無表情仏頂面のまま蹴散らしまくったのだ。あれも一つの地獄絵図であった。
「あの一護ゆうんが
ええこっちゃ。静かすぎるよりだいぶ良えわい」
ポツリと言ったのは射場だ。
表面上は落ち着いてきてはいるが、隊長格の裏切りで動揺している死神は少なくない。特に、五番隊と三番隊、九番隊は顕著だ。空元気だろうが、悩む間もなく騒がしい方がまだいいだろう。
「・・・っていうか、鉄サンも何でフツーにうちに馴染んでんですか。
狛村隊長はどうしたんです?」
「いやあ、それがのう・・・うちの隊長さん・・・しばらく一人になりたいんじゃげな」
困ったように頭を掻いた射場に、木刀が放り投げられた。
「一護が逃げちまったからな。射場さん!また相手してくれよ!」
「しゃあないのう。ワシが勝ったら、酒奢れよ!」
不敵に笑う一角に、木刀を手に射場が進み出る。
「よッしゃ!俺が勝ったら、射場さんが十一番隊に奢るらしいぜ!」
「「「うおおおおおおっ!!」」」
一角の言葉に、平隊士達が一斉に叫んでガッツポーズをとる。
どこの世界でもただ飯とただ酒は歓迎されるものだ。
「ちょっと待てぇぇぇ!なんでそがいなことになるんじゃ?!」
「何だよ?勝ちゃいいだけの話だろ?自信ねえのか?」
「ぬかせ!今度こそ叩きのめしたるわ!」
一角の挑発に、射場は木刀を構えた。
一護は霊圧を隠すことが癖づいている。戦闘時はともかく、平時は病的なまでに霊圧を抑制するのだ。
そして、更木剣八は方向音痴と、霊圧探査音痴のダブルトラブル持ちだった。
結果。一護は無事に剣八を撒くことに成功した。ただし、斬月は十一番隊舎に置きっぱなしである。今戻ると剣八と鉢合わせしかねないので、もう少し時間をおいて取りに行こう、と一護は思う。
あの当時は、とにかくルキアを助けなければ、と必死だったが、今思い返してもよく剣八に勝てたものだ。
その時は必死でも、あとで思い返せば無茶と無謀でよくできたものだ、と思うことは前世からよくあることだ。
瀞霊廷は、にぎやかだった。
先日は一護たちの侵入によって警報が鳴らされていたので、殺気立った死神が刀を手に闊歩していたが、今は死神がうろついているとはいえ、死覇装ではない着物をまとった人間もそれなりにウロウロしている。
店先も開かれている。反物を扱う呉服屋、雑貨などを扱っている小物屋、甘い香りがしてくるのは甘味処だろうか?
現世とも、前世の辺境の街並みとも違う、しいて言うなら時代劇に出てきそうな古い町並みだ。これはこれで味がある。
もうそろそろ帰る時が近づいているとはいえ、ゆっくりできたならルキアや恋次、井上や茶渡辺りと何か食べたり、遊んだりしてもよかったかもしれないな、と一護はちらっと思った。
「?」
ピクリッと、一護は振り返った。
「黒っ崎っくーん!」
息を切らして駆けつけてきたのは井上だった。先日まで借りていた死覇装を着ていたのに、今はかわいらしいレースのコサージュの付いたシャツを着て、髪も下ろしている。
「どうした。井上。服が違うな?石田からか?」
一護の問いかけに、息を切らしながら彼女は言った。
「朽木さんが、瀞霊廷中の何処にも居ないの・・・!」
聞いた一護は、すぐに目を閉じて霊圧探査に集中した。
処刑は撤回された、と浮竹は言ってくれた。確かに霊力の無断貸与、現世の滞在日数超過など、ルキアはけして無罪ではない。だが、浦原の思惑に巻き込まれた部分もあるし、処刑自体は藍染が仕組んだものである。
減給・始末書・他もろもろで帳消しになるらしい、と一護は聞いている。
だが、藍染の息がかった連中がまだルキアの命を狙ってないとも限らない。
いくら、彼らが瀞霊廷を去ったとしても。
確かに、瀞霊廷にルキアはいないようだ、と一護は目を開けて思った。ここ数日の療養で、ルキアの霊圧は処刑時よりも幾分か回復してきているので、十分探知できる。
前記したが、瀞霊廷は殺気石でできた瀞霊壁に囲まれていて、霊子を遮断するのだ。つまり、霊力を防ぎ、霊圧探査もその先には届かないのだ。
となれば。
「・・・訊いた方が早いな」
ポツリと言うや、一護は踵を返して走りだした。
「あ!待って!黒崎君!」
そのあとを追って、井上も走る。
一護が訪れたのは四番隊の綜合救護詰所だった。見舞いなどには手続きがいるし、一護たちは許されたとはいえ、旅禍であるのだ。さらに面倒な手続きで時間がかかる。
ゆえに、一護は最も手っ取り早い手段に出た。
瞬歩を駆使して飛び上がった彼は、恋次の霊圧を感じる白哉の入院部屋の窓――三階にあるそれを、ノックしてからそのまま開く。
「邪魔する。恋次、少しいいか?」
「うるせえよ!」
窓枠に足をかけて身を乗り出した一護に、恋次がドスのきいた怒声を張り上げた。
なお、白哉は無表情のまま、包帯まみれで寝台に身を起こしたまま硬直していた。
そのまま、手ぬぐいを巻いた額で頭突きをかまし、ゴリゴリと押しながら恋次は威嚇するように唸った。
「何の用だ、テメー・・・。
今、俺ちょっといいこと言うとこだったんだぞコラ・・・!」
「す、すまん・・・」
どうも、タイミングが悪かったらしい。
少しばつが悪そうな様子で一護は眉を動かすが、すぐに気を取り直しながら尋ねた。
「ルキアがどこに行ったか知らねえか?」
「あ?」
一護の問いかけに、恋次は怪訝な顔をする。
「何だ?!ルキアがどうかしたのか?!」
「いや、知らねえならいい」
何かあったのか、と身を乗り出してくる恋次に、一護は首を振って答えた。
「黒崎く~~ん。三階の窓なんて登っちゃ危ないよ・・・」
一護の隣で、窓枠に手をかけて身を乗り出してくる井上に、一護はぎょっとして少し目を見開いた。
そういう彼女こそ、どうやって登ってきたのだろうか?
「邪魔したな。恋次。白哉。そろそろ行く。お大事にな」
「お邪魔しました、恋次君白哉さん!お大事に!」
言い残して、一護と井上はさっさと窓から降りると、そのまま猛スピードで走り去っていく。
嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく二人を窓から見降ろしながら、恋次は「何だあ?あいつら」と独り言ちた。
と、ここで寝台にいる白哉が何事か考えこむように顎に手をやっているのを見て、恋次が声をかける。
「? どうしたんスか、隊長?」
「・・・いや。
あの男、よもや、このまま私のことを呼び捨てで通すつもりではあるまいな・・・」
今更か、とか、他に言うべきことがあるのでは?と恋次はいろいろ思ったが、口にはしなかった。
途中、昼間から酒を飲んでいるらしい松本乱菊に声をかけられたが、そのまま一護と井上は走り抜けた。
恋次が知らないならば、松本もルキアのことは知らないだろうと踏んだのだ。
ここ一週間で、事情聴取の合間に、護廷十三隊の死神たち、席官たちともだいぶ距離が縮まったような気がする。
話してみれば、気のいい者たちばかりだった。
一部、前世の『戦士』たちよりもアクが強いものたちがいたりしたが。
ともあれ。井上は舜盾六花たちの力を借りて、瀞霊廷中探したが、ルキアは見つからなかったという。
となれば、一護が知る限り、思い当たる場所は一か所しかない。
入院中、見舞いと看護に訪れた花太郎が教えてくれたのだ。
岩鷲と、ルキアの因縁を。
岩鷲の言っていた兄を殺した死神こそ、ルキアであったこと。四深牢で対面した岩鷲は、ルキアに憤ったものの、それでも花太郎に代わって白哉に立ち向かってくれたこと。
岩鷲は傷の完治と事情聴取が終わるなり、姉の空鶴とともに西流魂街の外れにある空鶴邸に帰っていった。
つまり、そういうことだ。
白道門から外に出る。
「よお。兕丹坊」
「兕丹坊さん!こんにちは!」
「おう!一護と織姫でねえが!でえとか?」
「ふえ?!ち、ちが」
「そんなわけないだろう。別件だ」
新しい斧を手に門番を続ける豪傑に声をかけ、一護は霊圧探査に集中する。
なお、井上が赤面してあわあわするが、一護の言葉に微妙に残念そうに肩を落としたのは、まったく気が付かなかった。
どうやら、予想は当たっていたらしい。
さすがに丸一日かけてのんびり歩いて移動という訳にもいかない。
「井上、ちょっと大人しくしてろよ」
「え?ほあああ?!」
言うだけ言うと、一護は井上を米俵よろしく肩に担ぎ上げ、そのまま瞬歩で飛ぶ。
目指すは西流魂街の外れ、空鶴邸だ。
そして、この話は続いていく。