元銀眼の魔女の死神代行の話 作:ラキアー
ところで、黒崎一護の今生の交友関係について、目を向けてみよう。
小学生の頃の彼は、母が亡くなるまでは泣き虫でへらへらしていたものの、高学年に上がるころには無表情仏頂面のベースが出来上がっていたわけである。
加えて彼は、物心ついた時には普通に幽霊が見えて、生きている人間と区別がつかず、ゆえに他者から見れば何もない場所を眺めてたり、話しかけたりという奇行を行って、それも遠巻きにされる一因となった。
容姿も目立った。オレンジ色の髪であり、表情乏しい仏頂面と口数も少なく、喋ってもぶっきらぼうな口調もあって、中学校では不良扱いを受けていた。
まあ、そういう事情もあったので、成績だけは維持するように努めていた。オレンジ色の髪は地毛だといくら言っても、納得できずにぶちぶち言ってくる教師も、成績が良ければ黙ってくれたのだ。
そんな一護であっても、一応つるむ相手はいる。
おしゃべりなお調子者の浅野啓吾と、おとなしい小動物系に見えて年上の女性好きの小島水色。
大体登校したら、朝の挨拶をかわして、休み時間に雑談をかわし、時々一緒に遊ぶ仲である。
そんな彼らとの出会いであるが、入学式で一護と親友が不良を返り討ちにしたところに居合わせ、巻き込まれた浅野を助けられた礼に、小島がよく回る舌で停学回避の言い訳を教師にした、というのが交流のきっかけである。
その日の昼休み、いつものように一護とルキアは屋上で昼食をとっていた。
「それにしても、跡形もなく治るものだな」
一護の言っているのは、井上織姫と有沢たつきのことだ。この間
「いまさら驚いたか。当然だ。私の鬼道の成績はトップクラスだったからな。あの程度の傷の治療、朝飯前だ」
「キドウ?」
「死神の使う高等な呪術だ。主に攻撃系の破道、拘束系の縛道、回復系の回道と3つに分かれ、それらを統合して鬼道と称するのだ」
「・・・死神にも学校か訓練場のようなところがあるのだな」
まあ、『戦士』にも訓練場はあったので、あってしかるべきなのかもしれない、と一護は思う。
「ん、まあ、そんなところだ。
ところで、これはどうやって飲むのだ?」
「描いてねえか?ここにストローをさすんだ。こんな感じだ」
一護は、ルキアの持っているジュースパックの挿絵を指さして言う。そして、自分の持っているジュースパックを持ち上げて見せた。
「な、なるほど・・・」
などとやっていると、弁当を持った小島水色と、浅野啓吾もやってきた。浅野は茶渡の姿が見えないことをいぶかしむが、ルキアがいることに気が付くや大喜びで感涙の涙を流した。
そんなはしゃぐ浅野に、背後から蹴りを入れてきたものがいた。
髪を真っ黄色に染め、唇にピアスを付けた不良――大島である。キャラがかぶっていると一護に事あるごとにケンカを吹っ掛けてきて、停学処分を食らっていたはずが、とけてしまったらしい。
なお、一護はこの大島のことを基本的にきれいに無視している。相手にするのが面倒という姿勢を崩さないのだ。
現に今も、いつになったら髪染めるんだ?ああん?という大島のメンチ切りに、冷めた一瞥を向けてからルキアの方に視線を向けて、「ストロー伸ばすって書いてあるだろう?」と話の続きを始める。
必死になだめようとする浅野に、勝手にボルテージを上げていく大島。とうとう勘弁ならないと、彼はついにメリケンサックを取り出した。
慌てふためく浅野に、しかし一護は相手にせず、小島が「あ」とつぶやいた。直後、大島がボールか何かのように軽々と宙を舞う。
取り巻きが慌ててそのあとを追う中、男が一人姿を現した。
「チャド!」
呼ばれた男が、「ム」と片手を上げた。
浅黒い肌に、目元が隠れるほどの長い髪の、大男だ。一護も背が高い方だが、彼は体躯もがっしりしており、空座高校の灰色の制服がなければとても高校生には見えない。
彼の名前は茶渡泰虎。一護の中学時代からの親友である。口数が少なく、体躯の大きさも相まってともすれば不良にも見えるが、実はいい奴だと一護はじめ、友人たちはみんなわかっていた。
一護は最初あった時、彼の名前をチャドと勘違いしてそう呼んでしまったが、なんとなく響きがいいのもあって、そう呼んでいる。
そんな茶渡は、珍しく頭と手に包帯を巻いて登校してきたのだから、一護は軽く目を見開いた。
「怪我をしているな。何があった?」
「頭のは昨日・・・鉄骨が上から落ちてきて・・・」
一護の問いかけに、茶渡はぼそぼそと語る。
「「「鉄骨?!」」」
「手とかのは、さっきパンを買いに出た時に・・・オートバイと正面衝突した・・・」
ぎょっとした一同に、こっくり頷いて茶渡は何でもない様子で語った。
遅くなったのは、オートバイの運転手の方が大けがをしたので、病院に担ぎ込んでいたかららしい。
相変わらずのアイアンボディーぶりに、一護は少し呆れた。
「お? なんだ、その鳥?インコか?」
浅野が問うたのは、茶渡が連れている鳥かご入りのインコである。黄色の羽に冠羽がはねた、典型的オカメインコである。
どうやら、授業中は隠していたようで、今は餌やりのためにここに連れてきたらしい。
『コンニチハ!ボクノナマエハシバタユウイチ!
オニイチャンノナマエハ?』
「おおーっ!すげえ!めちゃめちゃ達者にしゃべるなあ、こいつ!
俺の名前はアサノケイゴ!言ってみ?アサノ!」
インコがしゃべった。舌足らずではあれど、妙に流ちょうな言葉を。
はしゃいでついでに変なことを教えようとする浅野を尻目に、一護はかすかに眉を動かした。しゃべったことで霊気がわずかにもれたが故だ。
このインコは、憑かれている。
「チャド・・・あのインコはどこで?」
「昨日・・・・・・・・・・・・・・・もらった」
「コラァ!お前今途中めんどいからはしょったろ!
悪い癖だ!ちゃんと言えちゃんと!」
一護の問いかけに対して、茶渡は何事か言いかけ、しばしの沈黙した挙句の言葉に、浅野がツッコミを入れる。
「は、はしょってない・・・!」
「いーや、はしょったね!」
ワイワイと騒ぐクラスメートたちをよそに、一護は隣のルキアにちらっと視線を向けた。ルキアもまた、こちらに目を向けてきていた。彼女も気が付いているのだ。
結論から言えば、ルキアも同意見――インコに憑いた霊は
「動物に霊が憑くというのは、死神的にはどうなんだ?」
「あまり見ないケースだが、皆無というわけではない」
放課後、家路にて問いかけた一護の言葉に、ルキアは答えた。例の、ファンシーと下手くそを混ぜてぶちまけたような独特の絵柄のスケッチブック片手に。
曰く、人間が死ねばその肉体から霊体が分離し、二つをつなぐ因果の鎖が切れてしまう。先日の井上織姫のように、もし因果の鎖がつながっていれば霊体は肉体に戻ることは可能である。
因果の鎖が切れた場合、
だが、生前の強烈な未練を残したり、何らかの条件が重なって同調しやすいものが動物に憑依するということもある。
例えば、飼い犬を亡くしたばかりの
動物に憑依した
「・・・そのまま
「その前に、憑依している動物が霊圧に耐え切れずに死ぬことになる。
あのインコの霊を心配しているなら、当分それはないだろうな」
「そうか」
ルキアの言葉に、一護はわずかに安どの息をついた。
いずれにせよ、早々にあのインコの中身は、魂葬が必要だろう。
茶渡は見えない人間だ。一護が見えるということは知っているが、彼自身にそういう感覚はないらしい。
茶渡に事情を話すわけにもいかないので、夜中に死神になってこっそり魂葬というのがベストか。
つらつらと一護はそう考えた。
玄関から上がるわけにはいかないルキアとは適当なところで別れ、一護はクロサキ医院の玄関を抜け。
珍しく予備の白衣を身につけて、医薬品やら何やらを持ってジタバタと駆け回る妹たちに軽く目を瞠った。
普段雇いの看護師たちが有休をとっていたところで、急遽ピンチヒッターとして呼び込まれたらしい。
付近で交通事故があったとかで、応急処置だけでもと患者が運び込まれたのだ。
何か手伝うことはあるか、と申し出た一護だが、父親にいらん、邪魔だから隅にいろ、といなされた。
このクソ親父は、普段はうざいくらい絡んでくるくせに、自分の時はこれである。まあ、人の命がかかった、大事な仕事中なので、目をつぶるが。
家事担当の遊子もまた、手伝いでバタバタしている。となれば。
一護はとりあえず自室にかばんをおいてくると、無人のダイニングに向かった。案の定、何の痕跡もなく、遊子のエプロンが近くに脱がれているあたり、これから夕食の支度をしよう、というところで急患が入ったのだろう。
仕方がない。一護は制服を脱いであまり着ない自分用のエプロンを付けて手を洗うと、冷蔵庫を開けた。
基本的に黒崎家の家事は遊子が担当しているが、彼女がある程度大きくなるまでは父と、母の手伝いをしてたのもあって一護もやっていたのだ。
できないというわけではない。
一護が下ごしらえを終えたところで、「一護ぉ!手伝え!」という父のだみ声が聞こえたので、一護はガスの火を止めてエプロンを外すと、医院の方へ向かった。
大柄な患者が運び込まれたらしく、病室への介助に男手がいるということだった。
「チャド?!」
一護は目を瞠った。運び込まれたのは茶渡だったのだ。片手にはご丁寧に、例のインコの入った鳥かごを提げていた。
ともあれ、一護も父親と肩を貸し、どうにかチャドを病室まで運んだ。ベッドに座らせて、私服である派手なシャツを脱がせると、その背中から大きな傷が出てきた。巨大な獣にでも掴まれたような、火傷のようになりながら出血もひどい傷だ。
思わず息を詰める一護に、父親は顔をしかめてこりゃひどいな、とごちててきぱきと手当をしている。
だが、手当の途中というのに茶渡は立ち上がって出て行こうとしたのだ。もっとも、その前に力尽きて倒れてしまったのだが。
これは休ませなければ、と父は双子たちにベッドの用意を急がせる。
大手病院のベッドに空きがないらしい。何人かの患者はとりあえず今日はこちらで面倒を見ることになったのだ。
うちは診療所だぞ、入院用ベッドはねえぞ、とぶちぶちと父親がこぼしているのをよそに、一護はもう一度霊圧を探る。
間違いない。
茶渡は、
前述したが、茶渡は見えない人間だ。一護のように霊力が強いわけではない。
ではなぜ?
まさか。
一護は、夕食の支度をしていることを花梨や遊子に告げながら自宅の方に引っ込むついでに、茶渡がいる病室に目を向けた。
彼が後生大事に抱えたインコも一緒にいるそこへ。
父と妹たちの目を盗んで死神代行として病室に忍び込んで魂葬、ということもできず、一護は悶々としたまま翌日を迎えた。
それでも、一護は子供であり、本業は学業である。一護は高校の制服を着て朝食を食べていたし、花梨と遊子も朝食と学校へ行く支度をしていた。
「花梨」
思わず、一護は花梨を呼び止めていた。花梨の顔色が悪い。昨日の夜、夕食時から悪いように見えたが、一段と悪く見えたのだ。朝食もいらないというくらいだ。
「大丈夫か。顔色が悪い」
「へーきだよ。今日は体育もないし、おとなしくしてるから」
よく言えば気丈、悪く言えば意地っ張りな花梨のことだ。あまり強くも言えず、一護はならいいがと、とりあえず引っ込むことにした。
そこに、一時入院させていた患者をよそに振り分ける作業をしていた父が、バタバタと慌ただしく戻ってきた。茶渡がいなくなった、と。
高校はもちろんすっ飛ばして、登校のための制服姿の一護とルキアは茶渡を探し回っていた。
早く茶渡を探さねば。
見えない人間である茶渡の霊圧を追うのは無理だ。普段は
インコの霊圧を探るしかない。
あんな微弱なものを?!無理だ!
と首を振るルキアをよそに、一護は目を閉じて集中する。自分の霊圧をさらに抑え、周囲の霊圧に集中する。
思い出せ。あの微かな、柔らかでもろそうな霊圧を。
ルキアは目を瞠った。一護の周囲に、無数に揺らめく白い帯が浮かび上がったのだ。
それは霊絡といい、可視化した霊力の流れである。
一護はそのうち一本を無造作につかみ取ると、「こっちだな」と首をそちらに向けて、駆け出した。
ぎょっとしつつも、ルキアは急いでそのあとを追う。
霊絡は、かなり高等な死神にしか感知できない技術であるはず。元々一護の感知能力が高いのは知っていたが、まさかここまでとは。
道を走り回っていると、インコのカゴを抱えた茶渡を見つけたが、同時に花梨とも鉢合わせした。ランドセルこそ背負っているが、ぐったりと塀に身を預けている花梨に、一護はたまらず駆け寄って抱き上げた。
「ルキア、すまねえが・・・」
「チャドは私が追う。お前は早く妹を送ってやれ。
案ずるな。
「ありがとう」
不敵に笑うルキアに短く言って、一護は急ぎ踵を返して家まで一目散に駆け出した。
花梨を、彼女のベッドに押し込んで、一護は立ち上がった。
以前記したが、花梨は一護と同じくらい強い霊力を持っている。もしかしたら、インコに憑いている霊に当てられたのかもしれない。
「一兄・・・」
「見えたのか」
「うん・・・」
ベッドの中の花梨に短く問いかけると、花梨はぐったりとうなずいた。
「あの子・・・インコの中の子、多分あたしと同じくらいで死んで、だから、見えちゃって・・・!」
手で顔を覆って、花梨がうめく。顔は見えなかったが、声が涙声だと一護は真っ先に気が付いた。
涙声の花梨は、語った。あのインコの中の霊が、生前に受けた仕打ちを。その死ぬことになった原因を。目の前で、母親を殺されたのだ、と。
「一兄、あの子を、助けて・・・!」
「・・・任せろ。だから、お前はゆっくり休め」
花梨の黒髪を優しく撫でて、一護はそっと妹の部屋を後にした。
そして、一護は父に、花梨が体調不良で早退したと一声かけてから、改めて飛び出した。
霊絡をもう一度探ろうとしたが、すぐに彼ははっと顔を上げて、あらぬ方向を見た。
急ぎ彼は猛スピードで駆け出した。
母が死んでから、せめて心配だけはかけさせまいと、何があっても泣かなくなった双子の妹の片割れを想いながら。
まあ、そんな話が続くのである。
クレイモア・一護君の交友関係は、あんまり原作と大差ないです。
口数少なくても、芯の部分は変わらないので。