元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 改めて原作を読みなおして思いました。死神代行篇、面白いなー!と。いや、他のも面白いですけど。このころ特有の空気が好きです。

 原作後のコン、どこ行っちゃったんでしょうね?


【#6】元銀眼の魔女の死神代行、改造魂魄ともめる

 

 (ホロウ)退治を終えて学校に戻ってきた二人だが、その時教室で騒動が起きていた。

 

 問題ない、といわれていたはずの自分の肉体が、なぜか暴れていたのだ。

 

 急ぎ一護は窓から教室に入り、割って入った。

 

 クラスメートたちはさぞ困惑したことだろう。突然一護が空中に向かって何かに怒鳴り、蹴りを放ち始めたのだから。

 

 死神姿の一護と、一護の肉体が戦うという何とも奇妙な状態だった。

 

 死神姿の一護は斬魄刀は用いず、肉弾戦を行うが、相手の蹴りはかなり鋭い。何しろ自分の体なのだ、下手に傷はつけられない。

 

 加えて、一護が得意とする霊圧を読んで動きを予測するということが、この相手には使えない。おそらく、人造物であるせいだろう、霊圧を感じないのだ。

 

 距離を詰められず、戸惑ううちに一護の肉体は窓から外に飛び出した。

 

 「なっ?!」

 

 一護はぎょっとした。ここは3階。生身の人間が無事でいられる高さではない。

 

 だが、一護の肉体はストンと軽く着地した。こちらをあざ笑うように見上げると、それは猛スピードで駆け出し、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった。

 

 あんな異常な脚力、もちろん生身の一護は持ち合わせない。

 

 「あれはまさか・・・改造魂魄(モッド・ソウル)?!」

 

 階段を上って追いついてきたルキアが、こわばった顔でつぶやいた。

 

 

 

 尖兵計画(スピアヘッド)というものがあった。魂の抜けた人間の死体に戦闘に特化した魂魄を注入して対(ホロウ)用の尖兵にしようという計画だ。

 

 その時に開発されたのが、注入された肉体を超人的に強化できるように設計された戦闘用疑似魂魄である。例えば、手や足の力が強い、大声が出る、頭がいい、視覚や聴覚が長けている、などだ。それが、改造魂魄と呼ばれるものだ。

 

 だが、この計画は、人道的観点から間もなく廃案となった。わずかに試作された改造魂魄を、即座に廃棄するのを伴って。

 

 

 

 「つまり」

 

 ルキアの、下手くそとファンシーを混ぜてぶちまけた絵柄のスケッチブックの挿絵交じりに説明された事情で、一護は仏頂面をゆがめながら吐き捨てた。

 

 「尸魂界(ソウル・ソサエティ)の都合で生み出されたものを、そちらの都合で一方的に廃棄したわけか」

 

 これだから技術屋は嫌いなんだ、と一護は内心で吐き捨てる。

 

 銀眼の『戦士』たちを統括していた組織は、おぞましい実験をしていた。その『作品』は語るに及ばず。だが、確実に元は人だったものをさらにいじくりまわした結果でもあった。

 

 さらには一度死んだ『戦士』を無理やり蘇生させて差し向けても来た。彼女たちが覚醒者になった後の始末は、全部クレアたちがやらざるを得なかったというのに。

 

 偉いから何をしてもいいのか。命を、意志ある者の心を弄んでいいのか。

 

 それは逃げるし、こちらに反抗的になるだろうな、と一護は思った。

 

 あの改造魂魄は、死神姿の一護も敵とみなした。当然だ、と一護は思う。

 

 処分が決定され、ようやく自由の身になっても、追われる身であることに変わらず。

 

 どういう気持ちなのだろうか。

 

 一護は思った。

 

 

 

 クレアが組織に入ったばかりのころ。『戦士』の見習いとして、クレイモアの扱いや戦い方を教わっていた訓練場にいたころ。

 

 同期の『戦士』見習いたちは、夜の牢獄のような宿舎で泣いている者も多かった。家に帰りたい、と。家族を呼ぶ声も聞こえた。

 

 自らの意志で『戦士』になったクレアはともかく、大半のものは人買いや、妖魔の被害で身寄りがないものを組織が引き取ってきたのだ。

 

 だから、彼らからしてみれば虜囚と大差なかったのかもしれない。

 

 もし、彼らが逃げ出せたら、きっと自由を謳歌しようとしただろう。あの改造魂魄のように。

 

 

 

 そんなことを思い返して、一護は拳を握りしめた。

 

 返す言葉もない、とルキアは一度黙したが、すぐにいつもの調子で言った。

 

 「忘れるな、一護。尸魂界(ソウル・ソサエティ)の掟は、貴様ら人間を守るためにあるのだ」

 

 いずれにせよ、あの改造魂魄はさっさと捕まえなければならない。

 

 あれは一護の肉体なのだから。

 

 二人は改造魂魄の後を追って駆け出した。

 

 

 

 一護の肉体を乗っ取った改造魂魄はすぐに見つかった。だが、すぐに逃げられてしまった。

 

 あの逃げ足の速さ、異常な脚力から、おそらく下肢強化型(ポッドタイプ)だろうとルキアは言う。

 

 さらに途中、また(ホロウ)が出たということで、そちらを追っていたのだが、伝令神機の調子がおかしい、とケータイモドキをいじるルキアは置いて、一護は霊圧感知で(ホロウ)を追った。

 

 すると、たどり着いたのは双子も通う小学校。その屋上で左肩を怪我した一護の肉体で、必死に(ホロウ)と戦う改造魂魄がいた。

 

 弱いと嘲る(ホロウ)に、息を切らす改造魂魄。

 

 一護はそこに割って入った。

 

 「失せろ」

 

 真横から、一太刀で(ホロウ)を斬り飛ばす。

 

 衝撃で吹き飛ぶムカデのような(ホロウ)の体躯を見た改造魂魄は息をのむと、急ぎそれのもとに跳躍して、真上に蹴り上げた。

 

 だが、反動で改造魂魄は転落防止フェンスを越えて落ちそうになっていた。

 

 すんでのところで、一護に足首をつかまれて事なきを得る。

 

 「(ホロウ)は仮面を斬られたら消える。なぜ蹴った?」

 

 自身の肉体を引っ張り上げた一護の口調が、我知らず険しいものになっていても無理はないだろう。

 

 そもそも、なぜ改造魂魄が一人で(ホロウ)と対峙することになっていたのか。

 

 一護が屋上からチラッと下を見ると、何やら女教師に怒られている児童が3名いた。先ほど、改造魂魄を追っていた時に見かけた子供たちだ。

 

 「お前・・・」

 

 さらに一護は気が付いた。少し前の地面にアリが行列を作っている。

 

 まさか。

 

 「悪いかよ・・・」

 

 一護に降ろされて、座り込んだ改造魂魄がぽつりと言った。

 

 「オレは誰も殺さねえ!ガキだろうがアリだろうが助けて悪いかよ!」

 

 そうして、ぽつりぽつりと、改造魂魄は話す。

 

 この改造魂魄が作られた翌日。尖兵計画(スピアヘッド)の廃案と、現在製造された改造魂魄の処分が決定された。生まれた次の日に、死ぬことが決まったのだ。

 

 他の改造魂魄が次々処分される中、彼は丸薬の中で怯え切っていた。

 

 運よく他の丸薬に紛れて倉庫を抜け出すことができてもびくびくしていた。いつばれて処分されるかもしれない、と。

 

 自分の命なのに。持って生まれた命なのに。それをなぜ、他人に勝手に決められなければならない?

 

 作られたものだとしても、偽物なんかじゃない。命は命だ。

 

 だから。

 

 「だから、オレは誰も殺さねえ。そう決めたんだ・・・」

 

 改造魂魄の独白を、一護は静かに聞き入っていた。

 

 教室で、一護は急に自分が激昂しだしたと聞いたが、それはクラスメートたちが一護の肉体に入った改造魂魄を偽物呼ばわりしたからだ、とようやくわかった。

 

 あの児童3人も、何かこの改造魂魄のそういう部分に触れるような言動をしたのかもしれない。

 

 だが、次の瞬間、一護は何かに気が付いた様子で勢いよく振り向いた。とっさに斬魄刀の柄にも手をかける。

 

 「誰だ?!」

 

 「おーやおや。思っていた以上に鋭いですねえ」

 

 一護の声に、カラカラと下駄を鳴らしながら男が現れた。作務衣と羽織り、縞模様の帽子をかぶってステッキを持った、うさん臭そうな男だ。

 

 すんでのところで霊圧感知に引っかかったが、ここまで近寄られるとは。一護はけして面には出さなかったが、内心で冷や汗する。

 

 少し離れたところに、眼鏡に紺色のエプロンをしたガタイのいい大男と、金棒を持った赤毛の生意気そうな少年、包帯に包まれた長い包みを担いだおさげの気弱そうな少女もいる。

 

 そして、一護は即座に気が付いた。

 

 この下駄帽子の男、自分の存在を認識している。声も聞こえているし、姿も見えている、と。死神状態の一護を。

 

 「あ・・・」

 

 「用意してきたもの、全部無駄になっちゃいましたねえ」

 

 顔をこわばらせて立ち上がった改造魂魄の前に立った下駄帽子の男は、ステッキの先を持ち上げた。

 

 そこにあるのは、ルキアが一護の魂を剥がすのにも使う、グローブについているのと同じ刻印だ。

 

 直後、そのステッキが一護の肉体の額をついた。その後頭部から、薄緑色の丸薬が吐き出され、一護の肉体は物言わぬ屍のようにその場に転がった。

 

 丸薬――改造魂魄の本体を拾い上げ、ポンポンと手の中で弾ませながら、下駄帽子の男は連れの3人に撤収を呼び掛けている。

 

 「・・・それを、どうする気だ?」

 

 「どうって、処分するんですよ」

 

 とりあえず斬魄刀からは手を放して問いかけた一護に、下駄帽子の男はシレッといった。

 

 おそらく直前の改造魂魄の独白を聞いていただろうに、この態度。

 

 一護は変わらぬ無表情仏頂面だったが、男に対する警戒を一つ引き上げる。この男のような男を、クレアだったころに見たことがある。あの男も食えない男だった。

 

 「貴様は何者だ?察するに、尸魂界(ソウル・ソサエティ)関係の商人だと思うが」

 

 「鋭いですねえ」

 

 「そうだ。強欲商人だ」

 

 一護の問いかけに、男の言葉の直後、わきから現れたルキアが男が手の中で弾ませている改造魂魄を奪い取った。

 

 「あっ、ちょっと?!」

 

 「何だ、浦原。貴様、不良品を売りつけておいて返金もせんのか。商人の風上にも置けん奴だな」

 

 「う・・・わかりました。それじゃあ、返金を」

 

 「必要ない。こちらはこの商品で満足している。他の後始末はやっておけ。それでクレームは取り下げてやる」

 

 「知りませんよぉ、面倒が起きても。アタシら逃げますからね」

 

 「かまわん。最近は面倒にも慣れた」

 

 帽子をかぶりなおす浦原の言葉に、ルキアは肩をすくめた。そうして一護の傍らに立つと、改造魂魄の丸薬を差し出してきた。

 

 「・・・ありがとう、ルキア」

 

 「気にするな。礼なら既に受け取っている」

 

 それを受け取って声を和らげてお礼を言った一護に、ルキアは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 空を飛ぶように飛び跳ねる一護の姿の目撃情報は、異常なほど出てこなかった。ついでに、教室や小学校で暴れまわったのもきれいになかったことになった。

 

 ルキアが釘を刺したように、浦原と呼ばれた男とその仲間がどうにかしたのだろうか。

 

 残す問題は。

 

 一護は足元のそれを見下ろした。

 

 夕刻だった。学校からの帰り道である。

 

 一護は改造魂魄をどうにかすべく、動物の死骸を探したがそうそう落ちているわけもなく、ゴミ捨て場にあったライオンのぬいぐるみを拾い、ダメ元でその口に改造魂魄の丸薬を押し込んだのだ。

 

 その結果が今、一護の足元で喚いている。

 

 「やい!黒崎一護!オレと勝負しろ!

 ってなんか、でかい?!いや、オレがちっちゃい?!え?!なんか、手足がやわこい?!プリチー?!どういうことだこれ?!」

 

 二足歩行で立つライオンのぬいぐるみが、改造魂魄の声で喚いている。自分の状況が把握しきれてないのか、あわあわとぬいぐるみの手足で自分の体をペタペタ触っている。

 

 とりあえず、一護は改造魂魄の入ったぬいぐるみの頭をつかんで持ち上げると、仏頂面のまま言い放った。

 

 「とりあえず」

 

 ひどく、低い声だった。

 

 自分の体で好き放題されたのだから、どちらかといえば短気といっていい一護はもちろん、怒っていた。

 

 ただ、無表情仏頂面のせいで、はた目にはわかりにくいだけで。

 

 「話し合いといくか?改造魂魄」

 

 ミチリッと頭部に詰まっている綿ごと粉砕されそうな恐怖を覚えたライオンのぬいぐるみが悲鳴を上げたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 「うらぁ!起きろ、一護ぉ!朝だぞ!モーニンだぞ!モーニン!

 さっさと起きねえと、てめえのカバンの中に忍び込んで学校について行って、『キャー!黒崎ってば学校にぬいぐるみとか連れてきてんの?キモーイ!』とかクラスのかわいい女子に言われヘブッ!」

 

 朝からうるさいぬいぐるみの頭をつかんで一護は、それを無造作に投げ飛ばした。

 

 何しろ、あのぬいぐるみとくれば、ベッドの上の一護の上にまたがって喚いてきたのだ。頭に響く。

 

 「おとなしくしてぬいぐるみらしくしていろと言ったぞ、コン」

 

 不機嫌絶頂で、一護は言い放った。

 

 コン、というのは昨夜の話し合いで決めた、この改造魂魄の名前である。本人からはカイがいいという主張が入ったのだが、一護とルキアの満場一致で却下した。

 

 「朝っぱらからうるさいぞ。落ち着いて更衣もできんではないか!」

 

 ガラッと押し入れを開けて、制服姿のルキアが下りてきた。ぎゅむッと何かを踏みつけた感触に、彼女は怪訝に思いながら足元を見た。

 

 ルキアは、コンを踏みつけていた。制服のスカート姿で。仰向けになっているコンを。

 

 「ナ、ナイスアングル!」

 

 サムズアップしたコンの頭部を、遠慮なくルキアの足がグリグリとえぐる。悲鳴を上げて綿が出る!と喚くコンを、一護は憐れみと軽蔑を持って眺めた。

 

 キジも鳴かずばなんとやら。あるいはすぐに謝れば、被害も軽微で済んだかもしれないのに。

 

 「おにいちゃーん?友達が迎えに来てるよー?遅刻しちゃうよー!」

 

 階下から聞こえてきた遊子の声に、ぎょっとして一護は急いで着替え始めた。寝巻代わりのシャツとジャージを脱ぎ捨て、制服を急いで着込む。

 

 窓を開けて、外で待つ浅野と小島に、謝罪と少し待ってほしいという旨を伝えて、腕時計を巻き付け――そのまま一護は硬直した。

 

 デジタルの、日付も表示されるそれに、一護は今日ようやく意識したのだ。

 

 もう、そんな時期なのだ、と。最近は死神代行の仕事でバタバタしてたので、気にする余暇もなかった。

 

 「? どうした、遅れるぞ」

 

 「・・・ああ」

 

 ルキアの言葉に、一護はうなずいてすぐに身支度の再開をした。

 

 

 

 

 

 その日の学校も、一護は普段と変わらなく過ごしたつもりだ。

 

 相変わらずの無表情仏頂面。特に大きな変化もなく。

 

 ただ、そう思っているのは一護だけで、周囲はどこか一護がナーバスになっていることは察していた。一番に、それを見抜いたのは井上織姫だ。

 

 そして、幼馴染である有沢たつきは知っていたし、親友の茶渡泰虎も知っていた。

 

 一護が、明日は学校を休むというのは決定事項だということを。

 

 

 

 

 

 毎年、その日――6月17日は学校を休む。一護だけではない。妹二人も、父も病院を閉める。

 

 夕食後のダイニングで、明日の会議を行う。

 

 毎年恒例の役割分担会議だ。遊子は弁当係りで、花梨は荷物持ち。明日に備えて髪切ったけど、どう?とはしゃぐ父に、変わらねえよ!と花梨が吠える。

 

 一護は、仏頂面を少し緩めて、それを見ていた。

 

 「楽しそうだったな」

 

 下の騒ぎは上にも聞こえていたのだろう。ルキアが話しかけてきた。

 

 風呂上がりの一護は、タオルでわしゃわしゃと髪を拭きながら、視線をルキアに向けた。

 

 「明日どこか行くのだろう?学校さぼってか?あれか?ピクニックか何かか?」

 

 からかうような、自分もいくわけでもないくせにワクワクしているような調子でルキアが問いかけてくる。

 

 「ピクニック?!オレもいくー!」と押入れを開けたコンを、無言で押し入れの中に叩き戻して引き戸を閉め、ルキアは一護を見た。

 

 「・・・ルキア」

 

 一護が口を開いた。タオルを肩にかけなおし、改まった様子でルキアに行った。

 

 「明日、ついてくるのは構わないが、できればそっとしておいてほしい。 (ホロウ)退治にはいく。・・・頼む」

 

 頭を下げる一護に、ルキアは目を丸くした。

 

 一護がこんなことを言ってくるのは初めてだったのだ。

 

 「・・・何かあるのか?」

 

 「明日は・・・おふくろの、命日だ」

 

 ルキアの問いかけに、一護は淡々と答えた。

 

 「個人の感傷で仕事をおろそかにして悪いな」

 

 「謝るな!その・・・」

 

 ルキアは目を瞠ったが、すぐに気まずげな様子で視線をそらした。

 

 仏頂面の一護が何かこらえている様子なのに、耐えきれなくなったのだ。

 

 一護は黙って窓の外を見た。天気予報で今夜は雨といっていたと思いだした一護は、黙ってカーテンを引いた。




 それは、昔の話だ。



 とりあえず、今回はここまでとします。
 お付き合いくださり、ありがとうございました。

 好評なようでしたら、次回グランドフィッシャー戦をやります。
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