元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 お気づきかもしれませんが、BLEACHの方はアニメと漫画原作を適度に切った貼ったしながらお送りします。

 CLAYMOREは漫画原作がメインです。捏造も多々ありますが、ご了承ください。


【#7】元銀眼の魔女の死神代行と、雨の日の記憶

 

 雨は嫌いだった。

 

 妖力の限界を無視したプリシラは、あっさりとテレサを殺した。クレアの唯一の寄る辺。最愛の、テレサを。

 

 瞬時に両腕を切断されて、何が何だかわからないという顔をしたままテレサの首が斬り飛ばされたのを、クレアは目の前で見た。

 

 うっとりと恍惚な表情を浮かべたまま、一本角の化け物と化したプリシラはテレサの追跡部隊の他の戦士を圧殺し、震えるクレアを石ころのように相手もせずに、飛び去った。

 

 転がったテレサの首を、クレアはかき抱いた。雨が降り出したのはその直後だった。

 

 雨の中、テレサの首を抱えたクレアは、ふらふらと歩き出した。

 

 雨は、クレアから大切なものが奪われた日の象徴だった。

 

 一本角の化け物プリシラを殺す。

 

 それが、クレアの人生の目標になった。

 

 

 

 

 

 黒崎一護となった後も、雨は嫌いだ。

 

 空手教室からの帰りだった。

 

 車道側は自分が歩く、水たまりの水がはねて濡れるから、自分ならレインコートを着てるから大丈夫、という幼い一護に、母は笑って、たつきちゃんからまだ一本も取れないうちはダメ、といったのだ。

 

 一護は母が大好きだった。まるで太陽のような母が。

 

 一護だけではない。父も、妹二人も。黒崎家の中心は母だった。

 

 太陽のような母を中心に、惑星のように他の家族が回っていた。いつまでも続く、と一護は無邪気にそれを信じていたのだ。

 

 それは、河原を通りかかった時だった。雨というのに少女が一人、増水した川辺にたたずんでいた。

 

 危ない、と一護は駆け出した。呼び止める母を一顧だにせずに、

 

 そして。

 

 気が付いたら、母は死んでいた。一護をかばうように抱き伏せ、血まみれになって。徐々に温度が消えていく母を、一護は呆然と見ていた。

 

 同時に、鉄砲水のように、銀眼の女戦士、クレアとして生きて死んだ記憶があふれ、一護はそのまま気絶した。

 

 一護は覚えていないが、それからしばらく熱にうなされていたらしい。前世の記憶を思い出した反動か、長時間雨に打たれ続けたツケか。

 

 いずれにせよ、気が付いた時には、葬儀も何もかもが終わっていた。

 

 一護はどうしても母の死を信じられなかった。学校をさぼって、母が亡くなった川辺をふらふらと歩き回った。もしかしたら、母の幽霊がそこにいるかもしれない、と一縷の希望に縋ったのだ。だが、いくら歩き回れどそこに母の幽霊はなく、代わりに別のことに気が付いた。

 

 前世の記憶を取り戻したおかげだろう、妖気のように霊圧を感知できるようになった一護は、河原に異常な霊圧の残渣があるのに気が付いたのだ。

 

 ごくごくわずかなものだ。加えて、当時はそれが霊圧だとわからなかったし、(ホロウ)や死神の存在も知らなかった。

 

 それでも、母の手掛かりになるかもしれない、と必死にその感覚を追いかけた。追いかけて幼い脳髄に刻み込んだ。

 

 はた目には、子供が一人で川辺をウロウロしているようにしか見えなかっただろう。

 

 霊圧の残渣が完全に消失する間での数日。一護は川辺をさまよい、その感覚を脳髄に徹底的に叩き込んだ。

 

 そして、今にして思う。

 

 あれは。

 

 

 

 あれは、(ホロウ)の霊圧だ。

 

 ベッドに横になって、真っ暗な天井をにらみつけながら、一護は思い返す。

 

 死神の力が手に入った時、心のどこかでしめたと思った自分がいた。

 

 これで殺せる。一護と同じく、見えていたらしい母を殺したであろう、(ホロウ)を殺せる。

 

 クレアが『戦士』としてプリシラを殺すのを願ったように、一護も死神として仇の(ホロウ)を殺せるようになった。

 

 そんなことを考えた一護は、自分の浅ましさと馬鹿さ加減に吐き気さえ覚えた。

 

 母の仇が(ホロウ)?確かにそうだろう。霊体がなかったのはおそらく、(ホロウ)が喰らったから。

 

 でも、彼女は本当にそれだけで死んだのか。

 

 一護があの時、とめる母の手を振り払って、あの女の子の霊――おそらく、(ホロウ)とグルになっているか、化けていたかのそれに近寄ったから。

 

 自分だって、彼女の死因の一つなのだ。

 

 それをわきに避けて、ひたすら(ホロウ)を仇とみて。

 

 家族のために自分に力をくれたルキアの信頼を裏切って、利己的な仇討にそれを用いようとしている。

 

 情けない。

 

 結局、一護はクレアだったころから変わってないのだ。

 

 テレサが死んだのだって、直接やったのはプリシラだけど、クレアがテレサを慕ったことで彼女が弱さと情けを覚えてしまったことも原因の一つだ。

 

 最後にあったテレサは、それでもその時が幸せだった、と笑って言ってくれた。

 

 きっと、それは母も同じだったろう。

 

 けれど、一護は自分が許せないのだ。

 

 だから。

 

 自分を責め立てるような雨音から逃げるように両耳を手でふさいで、一護は寝返りを打った。

 

 あの(ホロウ)は許さない。次に会った時、確実に殺す。

 

 殺意と決意を飲み込むように、一護は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 翌日は、雨の影響などなかったようにからっとした晴れ空だった。

 

 6月半ば、初夏と呼べる時期はセミはまだいなかったが、暑かった。雨上がりの湿気もあって、尋常ではない蒸し暑さだ。

 

 汗だくになりながら、黒崎一家は墓地に続く坂道を上がっていた。

 

 しんどそうな遊子を、一心が励ますが、一周回って奇行へと至っていた。

 

 「父さんなんか逆立ちしても登れちゃうぞ!」

 

 おだてなくてもオートでつけあがるという父は、せっかく来ている黒のスーツも台無しになる勢いで、逆立ちでシャカシャカと坂道を駆け上がり、花梨に蹴飛ばされていた。

 

 一護はルキアのかすかな霊圧がこっそりあとをついてくることに気が付いたが、約束通りそっとしてくれていることに安どの息をついていた。

 

 あとは、(ホロウ)が今日一日でなければいいのだが。

 

 

 

 そういうときの願望ほど叶わないことを、一護は無意識的であれど、知っていた。

 

 

 

 墓前を掃除する。周辺のごみを取って、墓石を水拭きして、持ってきていた花と樒を供えて、線香を立てる。

 

 両手を合わせて花梨は静かに近況を報告した。

 

 自分も、遊子も、一兄も、元気です、と。

 

 ぐずぐずと遊子が泣く。もう11歳というのに。もう6年も経つというのに、いつまでもこの子は泣き虫だ、と花梨は遊子を慰める。

 

 もっとも、そんなしんみりムードは、墓石でドミノやろうぜ!という罰当たり極まりない父親の前に吹き飛んだが。

 

 いい加減にしろ!と花梨は父親を蹴倒しながら思う。

 

 父は元気すぎてうざいくらいですが、問題はないです、と。

 

 

 

 一護は古くて枯れてしまった供花を捨て、併せて使ったぞうきんを洗って、バケツの水を捨てる。

 

 墓地に備え付けの、共用水道だ。

 

 自分も墓前で手を合わせたら、昼になるか。

 

 そう思いながら立ち上がった時だった。

 

 「?」

 

 奇妙な霊圧が引っかかり、一護は眉を寄せる。

 

 ルキアの微弱な霊圧のそばに、知らない霊圧がある。感触からして、(ホロウ)の類ではなさそうだが。

 

 その時だ。

 

 「一護~~~!」

 

 茂みをかき分け、ぬいぐるみモードのコンが駆け込んできた。

 

 「コン?どうした?」

 

 「姐さんが!ルキア姐さんがヤベエんだ!」

 

 「?!」

 

 一護の問いかけに、コンは慌てふためいた様子で叫ぶ。急ぎ、一護はコンの腕をつかみ、悲鳴を上げる彼を無視してそのまま勢いよく駆け出した。

 

 一護が駆け付けたのは、墓地に続く林道の途中だった。

 

 ルキアの前に知らない男がいた。

 

 黒い着物――死覇装に腰には刀、頭には笠をかぶっている。

 

 「ルキア!大丈夫か?!」

 

 「一護!来るな!」

 

 「おぉッと、彼氏のツンツン君の登場かあ」

 

 叫んだ一護に、ルキアはこわばった表情で言う。対する男の方は飄々とした様子で言った。

 

 「どういうことだ、コン。危ないんじゃないのか?」

 

 「いち、一護、目が、回るぅ・・・!」

 

 尋ねた一護に、その右手にぶら下がるコンは、目を回したまま呻いている。

 

 「知り合い・・・という雰囲気でもなさそうだな?」

 

 「坊主・・・やっぱりお前、見えてるんだな?」

 

 一護の言葉に答えることなく、男は飄々としたまま尋ね返してきた。

 

 「だったら何だ」

 

 「いやね?ルッキャちゃんとどいう関係かって聞きたくてね。知ってんでしょ?この子が死神ってことくらい。ちなみに、Aの関係ぐらいはすすめたんかね?」

 

 「は?」

 

 言ってる意味が分からず、一護は思いっきり眉を寄せた。この男の言ってることがさっぱりわからない。

 

 「何の話だ」

 

 「さっさと家族のところに行け、一護。貴様には関係ない話だ」

 

 一護をさえぎるようにルキアが言った。どこか焦りを感じる様子に、一護は眉を寄せた。

 

 ルキアが危ない、とコンは言ったが、あながち間違いではないのかもしれない。

 

 「そっちも死神だな?ルキアの助けに来るには、遅いと思うんだが」

 

 「助け?」

 

 「っ、たわけ!」

 

 男が角ばった顎を撫でて、改めて慌てた様子のルキアを見下ろした。

 

 「助けがいるような状況だったと・・・へえ・・・」

 

 そうして、男は笠を脱いで一護に向き直った。

 

 「自己紹介がまだだったな、ツンツン君。オレは西堂榮吉郎ってもんだ。お前は?何もんだ?」

 

 「黒崎一護。死神代行だ」

 

 淡々と答えた一護に、西堂は目を丸くしてから、笑いをこらえるような顔をして、ややあってケラケラ笑いだした。

 

 「たわけ!」

 

 「おいおいまじかよ!そりゃーそうなるか・・・」

 

 「? 何がおかしい」

 

 慌てふためくルキアと、額に手を当てた西堂は、ややあって腰の斬魄刀に手をかけた。

 

 「そりゃ重罪だな。悪いけど、死んでもらうぜ、ツンツン君」

 

 次の瞬間、西堂は一護目がけて切りかかってきた。

 

 とっさに一護は、その一撃をよけ、手に持ったままのコンの口に右手を突っ込んだ。

 

 「おごっ?!げおっ?!お、おぼっ!」

 

 もがくコンを無視して、一護はぬいぐるみの中から本体の義魂丸を取り出して、それを飲み込んだ。

 

 「げほっ!うええっ!」

 

 這いつくばって一護の体で嘔吐反射に苦しむコンをよそに、一護は死覇装姿で西堂を見据えた。

 

 「コン、さがっていろ。

 ・・・戦うなら、相手になる」

 

 ポツリと言って、一護は背中の斬魄刀に手をかけた。慌ててコンが避難する。

 

 斬りかかってきた西堂の振り下ろしを、わずかに抜いた刀身の一部で受け止め、一護は、抜刀ざまにそれを弾く。

 

 対人は久々だ。出来るか?出来る出来ないではない。ルキアの力になると、決めたのだ。

 

 宣言したはずだ。この剣の届く範囲なら、誰だろうが何だろうが助け守る、と。相手がたとえ、なんであれ、誰であれ。

 

 「多少は覚えがあるようだな」

 

 にやっと笑った西堂が、改めて切りかかってきた。

 

 一護は、身の丈ほどの斬魄刀を、軽々と振り回した。西堂の剣筋を、斬魄刀でできるだけ側面からはたく。正面からの斬り合い、打ち合いはしない。

 

 以前も記したが、一護の斬魄刀は大きさの割に剣の質はスカスカなのだ。おそらく、本気で斬り合えばこちらの剣がだめになる可能性が高い。

 

 鍔競り合いなんてもってのほかだ。

 

 「? なんだ?」

 

 刃をぶつけ合ううちに、西堂は怪訝な顔をしていく。妙な、違和感。

 

 一護が見た目からパワーファイターかと思いきや、こちらの刃を徹底的にいなす戦い方をしているのだ。いくつか混ぜたフェイントには対応すらせずに無視して、本命攻撃だけあしらっている。

 

 「ぐっ?!」

 

 「知人の影響で足癖は悪い方でな」

 

 みぞおちをいやというほど蹴られ、西堂はとっさに刀を振り上げつつ飛び下がった。

 

 一護はこともなげに言ったが、西堂の悪あがきの刀は一護のオレンジの髪をわずかにかすめただけだ。

 

 にわか死神の割に、なかなかやる坊主だ。白打も心得があるらしい。

 

 西堂は始解すべきかと刀を握りなおした。

 

 だが、突然一護はあらぬ方向に首を向けると、顔色を変えた。

 

 「コンっ!ルキアを頼む!西堂!悪いが続きは後回しだ!」

 

 言い捨てると、一護は斬魄刀を携えたまま、猛スピードで駆け出した。

 

 同時に、ルキアの伝令神機が指令を知らせてくる。

 

 「(ホロウ)?!場所は・・・この近く?!」

 

 はっとしたルキアは、西堂を見やった。

 

 西堂は斬魄刀を一度鞘に納めると、「行くぞ」と短くルキアに言った。

 

 「(ホロウ)討伐の方が優先だろ」

 

 笠を拾ってかぶりなおした西堂に、ルキアは警戒をしながらもうなずいた。

 

 

 

 

 

 林道を駆け抜ける一護は、普段の仏頂面をどこかに置き忘れたようにこわばった顔をしていた。

 

 間違いない。あいつだ。

 

 6年前の河原。あそこで感じた霊圧の残渣。その持ち主の(ホロウ)が出た。

 

 しかも、すぐそばに花梨と遊子の霊圧を感じた。

 

 急げ。

 

 一護は必死に林道を駆け抜け、墓地に出た。

 

 墓石の合間にたたずむ巨大なシルエット。四つん這いの姿はともすれば毛の長い水牛のようにも見えたかもしれない。

 

 (ホロウ)の例にもれず、白い仮面。そして。

 

 おかっぱ頭の黒髪の少女が、その前に悠然とたたずんでいた。忘れもしない、その姿を、一護は覚えている。

 

 だが、そんなことは後回しだ。

 

 踏みつけられて苦痛にあえぐ花梨と、仮面の隙間から出た赤い触手に空中で首を絞められる遊子。

 

 一護は斬魄刀を振りぬいて、まずは遊子を絞める触手を切り飛ばす。落下する遊子を抱きとめ、返す刀で花梨を踏みつける足首を切り飛ばし、そのまま回し蹴りで(ホロウ)を蹴り飛ばした。

 

 ゲホゲホとむせてから気を失う遊子と、同じく気絶している花梨を素早く抱え上げ、林の中に避難させる。

 

 『死神・・・!』

 

 一護の死覇装と斬魄刀を認め、(ホロウ)とともにいる少女がうめいた。

 

 急ぎ戻ってきた一護は、改めて(ホロウ)と対峙した。

 

 「・・・やはりそうか」

 

 ポツリと一護はつぶやいた。

 

 「6年前の川べり。あそこにいたのはお前だな」

 

 斬魄刀を肩に担いで、一護は(ホロウ)と少女を見据えた。

 

 『6年前か・・・そんな昔のことは覚えておらんが・・・。

 なるほど、お前はわしを見たことがあるのだな・・・?』

 

 「だったら何だ」

 

 すっと視線を険しくして、一護は斬魄刀を握りなおした。

 

 「その見苦しいものをとっととしまえ。目障りだ」

 

 『・・・言うね、ガキ』

 

 吐き捨てた一護に、少女が老獪な声で笑った。

 

 直後、少女の頭の皮がまくれて滑り落ちる。本性の人形じみた姿となり、頭頂から伸びた赤いケーブルのような触手が、(ホロウ)の頭に接続される。まるで、釣り竿の先についた疑似餌(ルアー)のように。

 

 『いつ気が付いた?』

 

 「答える必要はない」

 

 一護の眼差しは、らんらんと輝く刃物のような殺意に濡れていた。

 

 「お前を殺すぞ、(ホロウ)

 

 かつて、プリシラに感じたのと同等の殺意を持って、一護は(ホロウ)と対峙した。

 

 




 そういう話であるのだ。




 ちなみに、西堂さんはアニメオリジナルのキャラです。アニブリはいいぞ~!

 あと、クレアとテレサの首のあたりは、漫画原作の方は雨は降ってません。コマとコマの間で降ったと思っといてください。
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