もう一匹の悪魔   作:華風鱗月

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もう一人のパイロット ヘルガー

『まーたそこに居るのかヘルガー』

 

 火星都市クリュセのとある町外れにある巨大な倉庫。薄暗いそこには1機のモビルスーツが安置されていた。そんな倉庫に一人の男性の声が響き渡る。

 

『うげっ…エド爺』

『お前さんはほんとにそいつが好きだな』

 

 男性の名はエド・ラインハルト。この倉庫の持ち主でありとある会社の社長をしている。そんなエドにヘルガーと呼ばれた人物がモビルスーツのコックピットから姿を表し、顔を引き攣らせる。彼の名はヘルガー・ラインハルト。エドの孫であり、10歳と未だ若く有りながらも頭が良く、機械工学を独学で勉強している。

 

『全く、頭が良いからって学校行かんと将来困っちまうぞ?』

『別に良いよ…学校なんて退屈だし。それよりこいつ弄った方が100倍は楽しい!!』

 

 そう言ってヘルガーはコックピットの中に戻り座席に置かれていたパソコンを手に取り作業を再開する。そんなヘルガーを見てエドは一つ大きなため息をついた。

 

『ハァー…好きな物に没頭して他の物には見向きもしないとは、いったい誰に似ちまったかね?』

 

 ヘルガーの性格に憂いながらもエドはコックピットへ続く階段を登り始める。途中、その足を止めモビルスーツの顔を一瞥する。

 

『まぁ、子供からしてみたらあんなでかいロボットが有れば興味持つなって言う方が無理か…』

 

 そう独りごちたエドはコックピットに辿り着くと中を覗き込む。そこには胡座をかいたヘルガーが何やらパソコンをカタカタと操作しているのが目に入る。

 

『今日はいったい何をしてるんだ?』

『んー?今日はこいつの過去のログを漁れないかサルベージしてる』

『サルベージって…出来るんか?』

『多分ね』

『そうか』

 

 作業に集中しているのか返事がおざなりではあるものの、エドは気にする様子も無くパソコンを覗き込む。

 

『ねぇエド爺』

『どうした?』

『コイツって300年前の厄災戦の時のモビルスーツなんだよね?』

『そうだが…それがどうした?』

 

 作業を続けていたヘルガーは手を止める事なく突如エドへと質問を投げ掛ける。

 

『こいつもモビルアーマーを倒す為に作られて活躍したんでしょ?しかもそのパイロットは俺のご先祖様らしいし』

『そうだぞーワシもワシの爺ちゃんから聞いただけだが、ご先祖様はコイツを乗り回してモビルアーマーを千切っては投げ、千切っては投げて活躍したらしい』

 

 エドは身振り手振りで何かを掴む振りをしては引き千切って投げる振りをしながら答える。そんなエドをヘルガーは一瞥する事なくパソコンへ顔を向けたままだった。

 

『じゃあさ、なんで家は一般の家な訳?』

『ん?どういう事だ?』

 

 ヘルガーの疑問の意図が分からずエドは動きを止め聞き返す。そこでようやくヘルガーは手を止めてエドへ顔を向ける。

 

『いやだってさ。今の地球圏とかの治安維持してるギャラルホルンを統括してるセブンスターズって厄災戦時にモビルアーマーを多く倒したエースパイロットの祖先な訳じゃん?』

『おぉ、そうだな』

『そんで爺ちゃんの話だとご先祖様はコイツでモビルアーマーをかなりの数倒した筈なのにセブンスターズの前任組織の加入どころかその補佐にもさせてもらってない。可笑しくない?』

『言われてみりゃ…確かにそうだな』

 

 ヘルガーの話にエドも疑問を持ち、思案する様に顎に手を乗せて考える…が直ぐに思考するのを諦めたのか頭を振る。

 

『ワシにはさっぱり分からん。もしかしたらご先祖様の話が代を重ねる毎に話が盛られてっただけかも知れんな。ほんとは1機も倒してなかったりしてな!』

『えぇ…それだとご先祖様が見栄っ張りな人って事になるじゃん…』 

『かも知れんな!はっはっはっ!!』

 

 大笑いするエドを尻目にヘルガーは飽きれ顔をしつつ作業を再開する。暫く笑っていたエドもツボが収まったのか笑いを止めてヘルガーの作業を見守りつつ、時折作業にたいして口を出す。

 

 そうして暫くの間、キーボードを打つ音と時折される会話だけが倉庫内を支配していたが突然ヘドガーの声が鳴り響いた。

 

『だめだー!全ッ然サルベージできねー!てかロック多すぎ硬すぎだよ!!』

『まさかロックが何重にも重ね掛けされてるとはな』

 

 モビルスーツに掛けられたロックが強固かつ複数のロックのせいでサルベージ作業は一向に進んで居なかった。それでもなんとか解除しようとかなりの時間を費やしたものの、結果一つも解除できずヘルガーは拗ねたように後ろに倒れ込んでしまった。

 

『やっぱ阿頼耶識で繋げないと駄目なんかなー?』

『阿頼耶識、ねぇ…?』

 

 【阿頼耶識】と言う単語がヘルガーの口から出てきた時、エドの眉が一瞬顰めるも直ぐに元に戻る。そして何か考え込む様に目を閉じて少しした後、決心した様にヘルガーへ話し掛けた。

 

『なぁヘルガー』

『んー?どしたエド爺』

『お前は…いつかコイツ動かしてみたいんか?』

 

 モビルスーツに拳をコンコンと叩きながらそう質問する。

 

『まぁね、状態も良くて動かそうと思えば動かせれるんだ。いつかは乗ってみたいよ』

『そうか…なぁヘルガー、俺の知り合いに阿頼耶識を比較的安全に取付けてくれる奴が居るんだ…お前が良かったらだが…阿頼耶識つけ『でも今は良いや』てみ…は?』

 

 

 エドの提案を遮る様にヘルガーは提案を断る。そのせいかエドは鳩に豆鉄砲でも喰らったかの様な呆然とした顔を晒してしまった。

 

『い、いいんか?阿頼耶識は子供ん時にしか付けれんものだぞ?成人してしまえば最後、付けれずにコイツを動かす事なんてとてもじゃ無いが…』

『今は!ね。別に大人になるまであと10年は有るんだ。それまでには付けるよ』

『だが…今すぐにでも動かしたくないんか?コイツ』

 

 そう言ってエドはまたモビルスーツをコンコンと叩く。そんな姿をヘルガーは横目に自身も座席の肘掛けを撫でる。

 

『確かに、できる事なら今すぐ動かしてみたいって言う気持ちはある。でも…多分コイツを動かすのは今じゃ無い気がするんだ』

『気がするって…じゃあ何時動かすってんだ?』

『それは分かんない。でもきっとコイツを自由にまた300年前みたいに動かしてやれる時は来るよ』

 

 

『それまでもう少し待っててくれよ〇〇〇〇〇…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルガーさん…ヘルガーさん…!!起きてください!朝ですよ!ヘルガーさん!!ヘルガーさーーん!!」

「ウオッ!?な、なんだ…?」

 

 

 誰かの叫び声によって意識が叩き起こされたのを感じる…どうやら爆睡してたみたいだ…。

 

「やっと起きましたかヘルガーさん。もう朝ですよ?もう皆起きてるんですから」

 

 俺のベッドの脇で俺を起こしてくれた奴がそう言う。部屋の灯りが瞳孔を刺激して上手く目が開けられないが少しずつ刺激に慣れていくのを感じつつ、俺を起こしたやつの顔を見る。そこには10代を少し過ぎたぐらいの少年が経っていた。

 

「あー…タカキか…すまん寝過ぎてたみたいだな」

「珍しいですね?ヘルガーさんが寝坊で一番最後なんて。何時もは誰よりも早く起きてるのに」

 

 タカキ・ウノ、それが今俺を起こしてくれた奴の名前だ。俺はタカキに返事しながらもベッドに寝転がっていた体を起こし、未だ眠気が残る目を揉む。

 そんな姿を心配そうに覗き込んでくるタカキに手を挙げて心配するなとジェスチャーをする。

 

「ちょっと懐かしい夢見てな」

「夢…ですか?」

「あぁ…まぁ気にすんな」

「分かりました。取り敢えず皆もう食堂に居るんで直ぐに来てくださいね!では」

「おう、直ぐに行くよ」

 

 短い会話をしてタカキは宿舎から出ていくのを見送り、俺も支度を始める為に立ち上がる。取り敢えずベッドのすぐ側に置いてあるサイドテーブルの上に置いてある深緑色のジャケットに袖を通す。ジャケットの胸部分と背中にCGSと書かれたロゴがあるジャケットだ。

 

 クリュセガードセキュリティ、通称CGS。それが今俺が所属と言うか、入社している会社の名前だ。

 

 ジャケットを着たあとは長時間の睡眠でバキバキに固まった体を解す為に腕を上げて胸を張る。すると肩や肩甲骨部分からパキパキと音がなると同時に頚椎部分に通常ならば無いナニカの触覚を感じる。

 

 首を軽く後ろに向けギリギリ視界内に頚椎部分を入れる。そこには本来ならばあり得ない棘?の様な物が2本伸びていた。コイツは阿頼耶識、夢の中で出てきた単語の正体だった。あの夢は確か10歳と少し立った頃の会話だった筈…アレから8年、俺も阿頼耶識を体に取付けていた。あの会話の後、色々とあって俺はこのCGSに流れ着き、阿頼耶識と取り付ける事になったんだ。

 

「っと、物思いに耽ってる場合じゃねぇな。早く食堂に行かねぇと」

 

 懐かしい夢を見たせいか少し当時に思いを寄せるが直ぐに思考を切り替え、宿舎の扉を開けて外に出た。




回想シーンのヘドガーのセリフの○の数はモビルスーツの名前のヒントとなっております
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