こんな世界でも美味いコーヒーが飲みたい   作:yamaneko3

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 遅く、なりました……!モチベの問題で遅くなりました。言い訳はしません。僕が悪いです。
 その分長いのでユルシテ、ユルシテ。



友と飲んだコーヒー

 

「……ごめん、なさい」

 

 か細いアーミヤの声が聞こえる。その声は、妙に静かなこの戦場に透き通るように響いた。

 なぜ、謝っているのだろうか。スカルシュレッダーが死んだことに、アーミヤは関係ないはずなのに。……じゃあ、誰が殺したんだ?一体誰が、スカルシュレッダーを?

 

「私のせいで……」

 

 ああ、そうか、そういうことか。スカルシュレッダーは指揮官であるドクターを攻撃しようとしていた。アーミヤはドクターを守ろうとして、殺してしまったということか。

 とても、アーミヤを責めることはできなかった。感情がぐちゃぐちゃになって、数分の間、ずっとその場でスカルシュレッダーの死体を抱いていた。そうしてようやく、平静を装えるくらいにはなった。

 震える足で何とか立ち上がって、自分を責めるアーミヤを宥めようとする。

 

「……君は悪くない。きっと、君は正しいことをしたんだ……」

「ッ……」

 

 たとえそれが俺にとってどれだけ辛いことでも、きっとアーミヤの行動は正しかったんだ。大切な人を守るために力を使った。俺にはできなかったそれは、賞賛されるべきことなんだ。

 

「そうだよな……だってこいつは、あんたらからしたらただのテロリストだ。……ただの、犯罪者だ。殺されて当然なんだ……」

「そんな……!あなたがそれを言ってしまったら、彼があまりにも報われなさすぎます!せめて仲間のあなたが…………すみません」

 

 殺したあんたがそれを言うのか、という言葉が出そうになるのをなんとか抑える。俺は大人なんだ。こんな子供を傷つけることを言ってはならない。

 でもこのまま一緒にいると、感情のままに傷つけてしまいそうだった。それに、俺もスカルシュレッダーの死に踏ん切りをつけて、早くここを離れなきゃいけない。別れを惜しんでも、時間は止まらない。今は、どうにかスカルシュレッダーの死を受け止めるしかなかった。

 

「……少し、一人にしてくれ」

「……わかりました」

 

 そう言って、アーミヤは他のロドスの人間も引き連れてこの場を離れた。今ここにいるのは俺と、物言わぬ屍となったスカルシュレッダーだけになった。

 

「……なあ、スカルシュレッダー。俺、何を間違えたんだ?」

 

 死体は、答えてなんてくれなかった。

 

「俺、これからどうすればいいんだ……?お前だけが頼りだったんだ……。右も左も分からず、人から搾取することでしか生きられなかった俺に、生きる場所を与えてくれた……。お前がいないと、俺は……」

 

 死体は、生者には戻ってくれなかった。

 

「ミーシャだってそうだ……お前が死んだと知れば、彼女がどれだけ悲しむか……」

 

 死体は、喋りもしなければ蘇りもしない。それはもう、ただのモノだった。

 

「…………行こう」

 

 スカルシュレッダーが死んで、戦う理由は完全に無くなって、もうレユニオンにいる理由さえ無いけれど。それでも、立ち上がって、前に進むべきだと思ったから。

 どこへ向かって進むのか。そんなことすら、俺には分からない。ただ進むことだけが頭にあった。

 

 スカルシュレッダーは、もういない。

 

 それでも、俺の心の中で、あいつはまだ生きている。あいつの魂とも言うべきものが、俺の中に宿っている。なら、これまで通り一緒に進んで行けるはずだ。俺の進む道の先に、スカルシュレッダーが望んだ結末があると信じて、一緒に、歩いて行ける。

 

「……これ、貰ってくぞ。いいだろ?体は連れてってやれないからさ。せめて、これくらいはな……」

 

 そう言って、俺はスカルシュレッダーのガスマスクとグレネードランチャーを手に取った。

 

「お前と飲んだコーヒー、美味かったよ」

 

 いつもマズイと思っていたのに、確かにあのとき、お前やミーシャと飲んだあのときに、初めて美味いと感じたんだ。

 

 スカルシュレッダーのガスマスクとグレネードランチャーを両手で抱えた俺は、ゆっくりとした足取りで、ロドスの方へと向かって行った。

 ロドスへと近づくと、アーミヤの悲痛な表情が見えた。それに心を痛めながら、アーミヤの眼前で止まる。

 

「……もう、いいのですか?」

「ああ、もう十分だ」

「その……あなたの名前を教えてくれませんか?」

「…………?え、ああ、教えてなかったなそういや。……じゃあ改めて、俺の名前はアッシュだ」

 

 アーミヤは、一瞬顔を俯かせ、それから意を決したように顔を上げた。その顔には、先程とは打って変わって強い意思が感じられた。

 

「ではアッシュさん。私達、ロドスへ来てはくれませんか?」

「……」

「一度断られたのに、おこがましいとは分かっているんです……。それに今のあなたには、前とは違う、レユニオンにいる理由があるということも。それを分かった上で、CEOである私が、あなたがロドスに必要な人間であると思い、今こうして提案しています。お願いです、アッシュさん。どうかロドスに来てはくれませんか?」

「俺は……」

「……レユニオンが……引き返してくるぞ!」

「……今はそれどころじゃないみたいだな」

「……後で答えは聞かせてもらいます」

「分かってるよ」

 

 アーミヤと短く応答を済ませると、ロドスと近衛局は向かってくるレユニオンに対して戦闘体勢を取り、俺はとりあえずドクターの隣に立つ。アーミヤに答えを伝えるまでは、レユニオンに帰ることもできない。いや、レユニオンに帰ることがそのまま答えになるのだろうが、俺はまだ答えを出せずにいる。戦えるわけでもないなら邪魔にならないように、もしもの時にドクターを守れるようにしたい。間違ってもアーミヤに人を殺させないために。

 だがこんな中途半端な立ち位置では、答えなんて出せるはずもない。比較的安全な所にいるのをいいことに、思考に没頭してしまう。

 ロドスの理想とレユニオンの理想。どちらの理想の果てに、スカルシュレッダーの求めた、ひいては俺の求める結末があるのか。それをまだ、俺は推し量れていなかった。

 だが、答えを出すための思索を答えが出るまで続けることは叶わなかった。

 

 ドオンッ!

 

 唐突に響いた爆発音。それに無理矢理思考を断ち切られ、自然と視線が前方へと向く。

 そこにいたのは、白い髪に角のある女。攻撃してきたということは、当然レユニオンなのだろう。

 

「あれは……チェルノボーグで遭遇した、Wです!皆さん、注意して対応してください!」

 

 アーミヤが皆んなに呼びかける。

 W、か。明らかに本名ではないが、レユニオンの幹部はコードネームを名乗る決まりでもあるのか?

 そうして呑気に考えている間にも、Wの部下であろう奴らがこちらに向かってくる。すぐに交戦が開始したが、今度はWの部隊が加わったことで押され気味だった。だが加勢することもできず、ただ斬り合いや撃ち合いを眺めることしかできなかった。

 苛烈な、だが派手さのない現実的な泥臭い戦い。ときどきアーツで人が吹っ飛ばされ、非現実さを感じる。

 細かな指揮は何もなく、レユニオンは突っ込んでくる。だがそれも、こうも数が多いと脅威だ。もうロドスも近衛局も押されている。一緒に戦っているときはただのテロリスト集団にしては多いな、ぐらいの感覚だったが、敵として見ると恐ろしく感じるものだ。

 

「皆さん、熱くなってはいけません!一度退いて陣形を立て直しましょう!このままでは、こちらの部隊が分断されてしまいます!」

 

 この状況はさすがにまずいと思ったのか、アーミヤは撤退の指示を出す。その指示を聞いて、オペレーター達の戦闘の手が緩んだ。

 

「皆さんの安全を最優先として行動しましょう!狙撃オペレーターの方たちは、撤退していくレユニオンへの攻撃を中断してください!その上で、ホシグマさんの援護をお願いします!」

「やれやれ、手間を取らせてくれるな!」

「ふふっ。あんたこそ、そんなに頑張ってくれるなんてねえ。だけど、それもいつまで持つかしら?」

「フッ、人の心配をしている場合か?」

 

 何やら煽り合っているが、俺としては撤退するロドスに着いていかなければならないことで胃が痛いからそれどころではない。俺自身に敵対するつもりはなくても、レユニオンってだけで向けられる視線が痛いんだ。それに良かれと思ってドクターの横にいたせいで余計に警戒されてる気がする。答えを出さずに帰るわけにもいかないせいで撤退にも着いていかなきゃいけない。憂鬱だ。

 

「……ねえ、そこのレユニオン」

「え、俺?」

「あんたと私以外にここにレユニオンはいないじゃない。それで?なんであんたはこんなところにいるのかしら?捕虜になったってわけじゃなさそうだけど」

「い、いや、その……」

 

 どう答えればいいんだよ!ロドスに寝返るか考えてます、なんて馬鹿正直に言ったら確実に殺される!な、なにか言い訳を……。

 

「答えによっては殺すわよ。答えなくても怪しいし殺すけど」

「……」

 

 俺、もしかして死ぬ?こんなところで?クソッ、こんなときなのに焦って頭が回らない!何か言わないと、何か!何か!

 

【何を勘繰っているのか知らないが、このレユニオンはただの捕虜だ。救出が目的でないのなら帰ってもらおう】

「……あんたがそう言うんなら信じてあげる。それに、今回の目的はこいつじゃないしね」

 

 ド、ドクター!

 ドクターのファインプレーに心の中で感謝しつつ、Wの顔色を窺う。殺すなんて言われたから物凄く怖い。スカルシュレッダーの時はこんなにも恐怖を抱いたことはなかったが、やはり貫禄の違いだろうか?

 そうして俺が安心して考えていると、Wは懐から何かを取り出した。武器かと警戒したが、どうやらそれは携帯電話のようだった。

 

「ほら、アーミヤ。キャッチしてちょうだい」

「私……ですか?うわ、っと……これは……携帯電話……?」

「そうよ。誰かさんがあんたとお喋りしたいんですって」

「……えっ?……」

「さーてと、仕事は済んだし……せっかくだから、全員にプレゼントでもして帰りましょうか。それじゃあね。また会いましょう?」

 

 Wはそう言うやいなや、こっちに向けて閃光弾を投げた。一瞬の後、眩い光が視界を塞ぎ、目を開けたときには、もうそこにWの姿はなかった。

 

「チッ、逃げ足の速い奴め……こちらが態勢を立て直す前に離脱するとは。アーミヤ、先程持たされた物に気をつけろ。爆発物の可能性が……」

「……いえ。これは、普通の携帯電話のようです。ただ、ひょっとすると……」

 

 ブー、ブー、と携帯電話から音が鳴る。

 

「もしもし……?」

 

「……もしもし……アーミヤ……?」

 

「ミーシャさん……!今、どこにいるんですか?」

「……そっか。アーミヤ、なんだね……」

 

 その応答の後に、電話口の向こうからミーシャ以外の声が聞こえてくる。

 

 ーー重傷者を優先して、……この人に輸血を!急いで!!

 ーーくそっ……なんでだよ……!あいつらだって、感染者のくせに……!

 ーーロドスの奴らは、どうしてこんなことしやがるんだ!?

 ーーあいつらには最初から、私たちを助けるつもりなんてなかったのよ……!ああ……もう逃げ場なんてないんだわ……!

 ーーダメ!死なないで……!お願い、目を開けて!一緒に帰ろって約束したでしょ……!

 ーーう、ぅっ……お兄ちゃん……こんなの、やだよ……

 

「……この人たちの声が、聞こえる?」

「……レユニオンの人たちの声……ですね?」

「そう。……私ね、思い出したことがあるんだ」

 

 嫌な予感がした。アーミヤはこの会話で心に傷を負ってしまう、そんな根拠のない、ただの勘。それでも、アーミヤがスカルシュレッダーを殺した時の顔。あの時のような顔をさせたくない、子供にあんな顔をさせちゃいけない。大人として、そう思った。そこに、大切な人を殺されたとか、そんなことは関係ない。第一、俺はアーミヤを恨んでなんかいない。なら、ただの勘でも、そうなってしまう可能性が少しでもあるなら、そうならないよう動かなければ。

 

「……アーミヤ!」

「は、はい!なんですか……?」

「この声は……アッシュ?」

「……その、ミーシャと話をさせてくれないか……?色々、話したいこともあるから……」

「……分かりました」

 

 そう言って、アーミヤは携帯電話を俺に手渡した。

 とは言っても、ミーシャと何を話せばいいんだ?話を中断させてしまったわけだし……。いや、何も気遣ってやるべきはアーミヤだけじゃない。ミーシャだってまだ子供だ。スカルシュレッダーのいない今、俺が彼女を助けてやらないと。

 

「……もしもし、ミーシャ?」

「……そこにいるってことは、ロドスと一緒にいるの?あなたまで、感染者を裏切るの……?」

「それは違う、違うよミーシャ……ロドスは裏切りものなんかじゃない」

「……じゃあ、何で同じ感染者のレユニオンの皆が傷ついてるの……?」

「それは……」

 

 ……何も、言えなかった。俺には、分からなかったから。感染者同士が争う理由も、ミーシャの声から感じる悲しみや憎しみの理由も。自分も同じ感染者のくせして、俺には何一つ、感染者の気持ちも、戦う理由もわからなかった。

 

「……アッシュ、私、分かったんだ。私は、レユニオンに家を壊されて、お父さんまで奪われた。でも、それは……きっと、私たちの自業自得だったんだよ」

 

 違う。そんなわけがない。

 家を壊され、父親を奪われるのが自業自得?そんな馬鹿な話があるわけがない。

 

「だって、この人たちは、自分たちを迫害した人たちに、感染者の受けた痛みと同じものを味わわせようとしてるだけだから。結果的に、私も今は感染者だし……ようやく、罪を償う時が来たんだと思うの」

 

 罪?お前が一体何をしたって言うんだ。償うべき罪なんて最初からない。

 

「……私、鉱石病になってから、前よりちゃんと理解できるようになったんだ。……皆が感染者にしてきたことを、今度は感染者がやり返す番なんだ。それが、当然の報いだと思うから」

 

 何も分からない俺は、彼女に救いの言葉一つ投げかけてやれない。

 

「……だから、私が苦しんでるのだって、自分で蒔いた種なんだよ。こんな思いをするのも、全部……全部、自分のせい……」

 

 ……分からない。分かるはずもない。

 自分を責める彼女に、君は悪くないなんて、口が裂けても言えない。

 

「だけど……どうしてあの子が、あんな目に遭わなくちゃいけなかったの?弟は、何も悪いことなんかしてなかったのに!感染者は……アレックスは、どうしてこんな目に遭わなきゃいけなかったの!?」

 

「……私の答えは、もう決まってるんだ。私は、感染者の味方になる」

 

 俺は、答えを出すことすらまだ出来ていない。

 

「感染者のために、戦うって決めた」

「……戦う理由なんて、君みたいな歳の子には関係ない!」

「……アッシュは、分かってくれないんだね……」

 

 もう、限界だった。

 

「分かんねえよ!どうしてどいつもこいつもそう簡単に覚悟を決めやがる!?どうして争いに身を投じる!?」

 

「……分からない、分からないんだ……だから誰か、誰か教えてくれよ……。俺はどうすればいい、誰の味方になればいい。……こんな時、どんな言葉をお前に掛けてやればいいんだ…………俺には、何も、分からない」

「……ごめんね、アッシュ。きっと、弱い人間なんだよ……。私も、あなたも。だから、お互いが傷ついてしまう……。もう、関わらない方がいいんだよ……。だから、さようなら。アッシュ」

 

 そう言って、ミーシャは通話を切った。

 大人として。そんな矜持すらボロボロになって、もはや人として情けないくらいだった。

 

「……アッシュさん」

「アーミヤ、俺、ロドスには行かない」

「え……?」

「レユニオンで、やらなきゃいけないことができたんだ」

 

 分からないことが多すぎて、どこに向かえばいいのかすら分からない。それでも、たった一つ、やるべきことを知ったから。

 

 あの子を、救わないと。




 電話のシーンに関しては、アーミヤではなくアッシュ君が傷を負う形になりました。私アーミヤ推しなので、代わりにと。
 それでは次回の曇らせも、乞うご期待!
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