こんな世界でも美味いコーヒーが飲みたい 作:yamaneko3
……うん。今回は早く投稿できた、はず。
目を開き、視界に映るのは一面の白。
「……知らない天井だ」
いや、そうじゃない。いや事実だけど今重要なのはそこじゃない。
……ここ、どこだ?そもそも俺確実に死んだと思ってたんだけど……。天国や地獄、ってわけじゃなさそうだが。
「いったあ……」
とりあえず起きあがろうとした瞬間、腹にかなりの痛みを感じた。腹を貫かれたのだから当然といえば当然だが、このときまで怪我についてはまったく意識していなかった。
傷はどうなっているのか気になって、レユニオンの白い服を捲ってみると、包帯がまかれていてしっかりとした処置が行われたことがわかる。近衛局に捕縛されたのならこんな処置も部屋もありえないと思うが、俺は一体どこに保護されたんだろうか?
どっちみち、部屋から出ないことには状況はわからないだろう。とりあえず外に出よう。かなりの時間意識を失っていたのかポキポキと音をたてる体をほぐしながら、ドアに手をかける。
ガチャリ、という音と共に開いた扉の先は、何の変哲もない殺風景な廊下。起きたばかりでふらつく身体を、壁に手をつき支えながら当てもなく歩いていく。
ときどきすれ違う人たちに警戒されながらも、とにかく歩く。
そうすること数分。通り過ぎようとした近くの扉から、聞いたことのある声が聞こえてきた。
【今のところ彼の容態はどうだ?】
「傷に関しては既に塞がっているだろう。医療オペレーター達の尽力もあるが、彼自身の治癒能力の高さも大きいな」
【……源石融合率は】
聞き慣れないその言葉に、首を傾げながらも二人の会話に耳を傾ける。
「……25%だ。それに、彼の特殊なアーツのことを考えると、これからも加速度的に
【アーツのせいで……?確かに彼のアーツは特殊だが、それと
「彼のアーツのせいと言ったが、あれについてわかっていることは少ない。現状判明しているのは、体内の器官を覆う
【そんな……】
「アーツが解除されやすいのも、同時使用による弊害だろう。複数のアーツを使っているから、あの姿も常に不安定な状態なんだ」
【なら、彼は……】
「ああ、抑制剤も投与せず、アーツユニットなしのアーツの度重なる使用。当然の結果だろう。……彼はもう、長くない」
ここまで何とか黙って聞いていたが、女の方のその言葉に、思わず、その場から駆け出してしまった。
【ッ!まさか……】
「……まずいな、彼に聞かれたか……」
どこに向かう訳でもなく、ただ、逃げるように走った。これ以上あの会話を聞いていても、自分の死期について語られるだけで、とても聞いてなんていられない、そう思ったから。
「はあっ……!はあっ……!」
少しの間走ると、息が切れ始め足が止まる。膝に手を着きながら、自分の体力のなさを実感する。
「ああ、クソッ……わかってたさ、そんなこと……」
それは自分の体力のなさに悪態をついているのか、死期が迫っていることへの恐怖に反抗しているのか、はたまた両方か。どちらにせよ、自分自身でさえそれがわからなかった。思わず口をついて出た言葉だったからだろうか。
それにしても、ここまで来たはいいが、この状況を説明してくれそうなドクターから逃げてきてしまうとは。誰か他に聞けそうな人は……
「……アッシュ?」
「……ああ、そうだよな。俺がいるなら当然お前もいるよな……」
声をかけかれ顔を上げて、誰かと思えばミーシャだった。ミーシャを庇って死んだと思っていた俺がここにいるのだから、ミーシャがいて当然だろう。
それに、見たところ桶とタオルを持っているし、自惚れじゃなきゃ看病しに部屋に来ようとしているのでは?ならあのまま待ってりゃ余計な傷負わずに済んだってことかよ……。つくづくついてないな。
「アッシュ!」
「おうミーシャ、愛しのアッシュさんですよっとお!?」
なんて言えばいいかわからなくてふざけてみたが、次の言葉を吐く前にミーシャに抱きつかれて遮られた。驚きのあまり語尾がおかしくなってしまったが、それを恥ずかしがるよりも抱きつかれたことに意識が持っていかれる。
「よかった……!本当に、よかった……!生きてて……」
「ミ、ミーシャ……?ち、ちょっと離れてくれやしませんかね……?」
再開を嬉しく思うにしても、まさか抱きついてくるとは。流石に予想外だった。
それはそれとして、色々と聞かなければいけないことがある。いつまでも抱きつかれているわけにもいかない。
「聞きたいんだがいいか?ミーシャ。俺が倒れたあの後、一体何があったんだ?」
「……あのときアッシュが倒れてからはーー」
それから、俺が倒れてから何があったのか、ミーシャが懇切丁寧に説明してくれた。
どうも、俺が殺されて戦意喪失したと判断されたミーシャは、近衛局に殺されることはなかったとのこと。なら当然そのまま捕縛されるのだが、そこをロドスが引き取ったということだ。その後俺もミーシャも治療が行われたらしいが、俺の方は傷が酷くて、しばらくの間は非常に危険な状態だったそうだ。治療が終わった後も意識が回復せず、そして今に至る、ということらしい。
「……私、不安だったの。このままずっと、アッシュが目覚めないんじゃないかって……」
「でもほら、こうやって今は元気になってるだろ?だから安心しろって」
俺の体から離れても、ミーシャは不安そうな顔をしたままだった。どうしたら安心してくれるのか。看病しようとしてくれてたなら、部屋に戻って安静にしているのがいいだろうか。
「大丈夫だって。ほら、もう俺は部屋に戻るからさ。また落ち着いたら話そう」
「……うん。また、ね」
そうして俺はミーシャと別れ、来た道をそのままたどって部屋へと向かった。今度は走らず、ゆっくりと歩いての移動だがな。
歩いてから数分。これまでのことを振り返りながら歩いていたからか、半ば茫然としながら歩いていた。
そして、ある時から明らかに前からこちらに近づく足音が聞こえ始めた。顔を上げて見ると、こちらに小走りで向かってきているドクターの姿が見えた。ドクターは目の前まで来ると何か言おうとしたが、息が切れていて盛大に咽せてしまった。
「おいおい……大丈夫かよドクター……」
【だ、大丈夫だ、問題ない】
数秒して息が整い、ドクターは仕切り直しとでも言うように咳払いしてから話し始めた。
【実は、一つ書類を書いてほしくてね】
「書類?何の?」
【ロドスとの雇用契約書だね】
「??」
ますますわからなくなった。
【君を保護したはいいが、ロドスではこのまま君をただ養うことはできない。だから、オペレーターとして正式に働いてもらおうという話になったんだ。無論他の技術職がいいならこちらもその意思は汲むつもりだ】
「……あーいや、うん、オペレーターになることに異存はない。それでいいよ。俺だってただ養われるつもりはないからな」
まさか俺がオペレーターになる話が出ているとは。まあ驚きはしたが、妥当な判断なのだろう。
じゃあ早速書類を書きにいこう、ということで事務室に向かった。
【それと、さっきの話は誰にも口外しないように】
「さっきって……ああ、やっぱバレてたか」
【あの事実で一番傷ついたのは君かもしれないが、それでもそれを知って傷つく人間は他にもいるということだ。……すまない、本当に】
さっき聞いた俺の体についての情報、それを知っているのは今のところたまたま聞いた俺と、ドクター、そして会話していたケルシーという女性だけらしい。
ドクターは謝ってきたが、俺としては知っておいた方が良かったとも思っている。むしろ何も伝えららない方が怒りも湧くというものだ。
それからまた数分。事務室で机に向かっていた。
「……よし、印鑑はこれでいいか?」
【ああ、問題ない。……ちゃんと読んだか?】
「無論だ。生憎、こういうのをちゃんと読まなかったせいで一度痛い目に遭ってるからな。信用してないわけじゃないんだが……」
元々適当な性格だったからな。その性格が災いして前世ではブラック企業に就職してしまったわけだが、今度は間違えずに済みそうだ。
「書類はこれで終わりか?」
【いや、これからプロファイルを書かないといけないな。ある程度はこちらで書けるが、どうしても本人に聞かなければいけない項目がある】
「わかった、じゃさっさとおわらそう」
そこから、ドクターとの質疑応答が始まった。
Q.出身地は?
「あ、スゥー……適当に秘匿とかにできない……?」
Q.種族は?
「……わかんないです」
Q.誕生日は?
「十一月二十七日ですっ!」
Q.戦闘経験は?
「スラムでカツアゲしてたのと、レユニオンで戦ってたぐらいだな」
この他にも、幾つかの質問に答えた。ドクターは紙にメモを取りながら俺の話を聞き、ときどき呆れたようなため息を吐いていた。
答えられない質問が幾つもあったのは、申し訳ないとは思うが仕方ないだろうとも思う。まあそのせいで、プロファイルとやらは真っ黒になりそうだが。
【よし、じゃあ最後に、君のオペレーターとしての名前を決めてもらおう】
「コードネームみたいなもんか?」
【まあそんなところだ】
コードネーム、か。オタクとしてそういうのはかっこよくて大歓迎だが、いざ自分のを決めるとなると悩んでしまう。曲とか偉人から取るべきか?いや、待てよ。オタク、オタクか……。
「……決まったぜ、俺のオペレーターとしての名前。"ダーティーギーク"だ」
【わかった。ちなみに、なんでその名前に?】
「好きな曲の名前から取ろうとしたんだが、俺なんかが"Dirty Worker"はかっこつけすぎだろ?だからgeek、オタクってな」
【……なるほど】
「ま、長くて呼びにくいし、縮めてダギーでも、これまで通りアッシュでも、好きなように呼んでくれ」
【そうか。これからよろしく、ダギー】
「おう、よろしくなドクター」
途中から不安だった書類とかの色々も、最後には上手く片付いたみたいだ。これで部屋に戻って休める。まだ傷は痛いし、早く戻って安静にしてよう。
「ああ、ドクター、ここにいたんですか。あれ、アッシュさんも一緒でしたか」
【何か用かい?アーミヤ】
ガチャリとドアから音がして、事務室に入ってきたのは書類を両手に抱えたアーミヤだった。どうやらドクターを探していたようで、顔が明るくなると同時に俺を見つけて驚いている。
「はい、と言っても、急ぐような用事でもないですし、アッシュさんのこともありますから、後にしてもらって構いませんよ」
【いや、丁度今必要なことはあらかた終わったところだ。書類はそこに置いておいてくれ】
「わかりました。アッシュさんは、体の調子は大丈夫ですか?」
「ああ、まだ傷は痛むけど、もう大分回復しているし大丈夫だと思う」
「それはよかったです!ミーシャさんも心配していましたし……」
そう言うとアーミヤは少し顔を曇らせる。俺と会ったときのミーシャの様子からして、俺が意識を失っているときもあんな不安定な感じだったのだろう。
だがそれも、俺がこの通り回復したなら元気になるのも時間の問題だろう。少なくともそうなることを願っている。
それなら、今の俺に大してやるべきことはないってことだな。ならあとは、気合いを入れて通常業務に励むだけか。
「じゃあ、二人とも少し時間があるみたいだし、宣誓がてらちょっと真面目な話をさせてくれ」
【真面目な話……?】
「なあ、アーミヤ。俺はこれまでの数少ない経験から、ある結論を導き出したんだ」
「それは、一体……」
「感染者は救われない」
「ッ……!……私たちは、それを否定します」
困惑と悲壮が入り混じりながりも、確かな決意を宿したその顔が、あんまりにも真剣で、これから言おうとしていることを考えると、思わず笑ってしまった。
「でも、たとえ根っこから変わるような救済なんてなくたって、コーヒー片手に笑い合ったり、冗談を言い合ったりはできる」
アーミヤの驚いた顔に、再び小さく笑いながらも、話すことはやめない。
「俺はねアーミヤ。感染者を救うとか、そういう大義のためにロドスで戦うんじゃない。わかり合いたいんだ、感染者の奴らと。そして、笑い合いたい。そんでもってついでに一緒にコーヒーでも飲めればと、そう思う」
ゆっくりと、自分の想いを言葉にしていく。
「色々考えたけど……ロドスにいるのが、一番いいなって。笑い合うのに必要なのは憎しみじゃなくて、話し合える環境だと思うからさ」
別に誰かを諭すための言葉じゃない。ただ自分の気持ちを真摯に伝える、そう、これはただの宣誓。自分に向けた言葉なんだ。
「以上、真面目な話終わり。これからよろしくな、アーミヤ」
「はいっ……!あなたをロドスに歓迎します、アッシュさん!」
先程までのらしくない自分に気恥ずかしくなって、早々にドアノブに手をかける。
「んじゃ、また明日」
【ああ、また】
「ええ、また明日!」
そう言ってドアノブを捻り、また殺風景な廊下に出る。そして、自分の部屋に向かって歩き始めた。足取りは軽く、自分でも不思議なくらい上機嫌で、なんだか明日はいいことがありそうだなんて、根拠のない期待が湧いてくる。
そんでもって、誰かと一緒にコーヒーを飲みたい気分でもあった。
さて、アッシュ改めダギー君がようやく主人公っぽくなったところで、コーヒー要素の少なさに気づいてしまったぜ!
そしてこの問題の解決は、未来の自分に託したぜ!