【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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12_剪定作業

「ここがうちの自慢の庭!」

 

「すごい手入れされてる……」

 

 木が、変な形に曲がっている。

 葉っぱのところは丸みを帯びた外形に切られていて、なんかすごかった。

 

「チョキチョキって、少しずつやってるんだよー」

 

「早苗さんがやってるんですか?」

 

「いやいや、この背を見てよ。届かないでしょ」

 

 自分の背の高さくらいの空中を、手刀で切る。

 確かに、ここにある木はどれも早苗さんの背丈だと難しいかもしれない。

 でも、加賀美さんでも一番上には届かないだろうけど……

 

「じゃあ、日向さん?」

 

「そっ、あの子がやってくれてるの」

 

「木に登って切るんですか?」

 

「あははっ! 違う違う、脚立があるからね」

 

「キャタツ?」

 

 また知らない単語が出てきた。

 お金持ちとは住んでいる世界が違いすぎて、何を言っているか分からないことが多い。

 敷地内で湧き出ている温泉のミネラル? がどうとか、リューカスイソの匂いがどうとか、頷いて聞いてたけど、半分もわからなかった。

 シエルちゃんは相変わらずぼーっとした顔で話を聞いてて、何を考えているんだかよくわからない。

 

「脚立、知らない?」

 

「はぁい」

 

「倉庫にあるから、来てきて!」

 

 明るい人だと思う。僕みたいな暗いやつとは根本から生き方が違う。僕もこうやって明るくあれたらな。

 

「──ほら、扉開けるの手伝って!」

 

「引けば良いんですよね?」

 

「そう」

 

「んぎぎぎぎ……」

 

 硬い。

 錆び付いているのか、倉庫といったけど大きな建物だった。

 この建物だけで僕の部屋よりも大きいだろう。

 

「ふぅ……」

 

「ありがとー」

 

「わっ」

 

 小さな背を伸ばして、腕も目一杯伸ばして、早苗さんの手が僕の頭に載った。

 

「いいこいいこ〜」

 

「えと……?」

 

「良いことをしてくれたら褒めてあげるのが大事なんだよ」

 

「…………」

 

「それでこれが脚立ねー」

 

「あ、はい」

 

 それはとてもシンプルな道具だった。

 ハシゴをハの字に組み合わせたようで、多分、この上の板に乗って作業するんだと思う。

 

「日向ちゃんがこの上に乗って、せっせと枝切り鋏で選定してくれるんだ」

 

「枝切り鋏?」

 

「うん、これ」

 

 指差したのは、持ち手の異様に長い鋏。

 

「これで枝をチョキチョキするの」

 

「ふーん……持っても良いですか?」

 

「いいよ!」

 

 柄を持って開いたり閉じたりすると、なんか変な感じだった。やっぱり普通のハサミとは使い勝手が違うみたい。

 

「そんな確かめなくても、枝切るだけだから」

 

「…………」

 

「やってみたい?」

 

「!」

 

 お庭で枝を切らせてもらえることになった。

 だけど、せっかく綺麗に揃っている木の枝を切ってみろって。そこらへんの変な木でもいいのに。

 

「こ、こんな綺麗なのに……」

 

「良いから良いから! 試しに! 好きに切ってみて!」

 

「…………えい」

 

 小枝を狙う。

 厚めの刃がバツンと断ち切った。

 なるほど確かに、これなら太めの枝もサクサク切れる。

 そもそも、モンスターよりも全然柔らかい。

 夢中でハサミを動かした。

 

「刃が大きい分、切りやすいでしょ?」

 

「はい! 楽しいです! ──あ」

 

 だけど、返事をするために振りむいて気づいた。シエルちゃんがいつもよりも、少しだけ薄目で僕のことを見ている。

 

「…………」

 

「あぅ……」

 

 何してるの? と言われているような気がして、ハサミを動かしていた手が止まった。

 

「どしたの?」

 

「い、いや……」

 

「? …………ああ、シエルちゃんもやりなよ!」

 

「いい」

 

「そんなこと言わずに、ほら!」

 

 あくまで無感情に否定するシエルちゃんの方を掴み、脚立の足元へ連れてきた。確かに、やってみればシエルちゃんも意外と楽しいと思ってくれるかもしれない。

 

 脚立を登ったシエルちゃんは、無表情で枝を切っていく。

 

「無意味だね」

 

「いやいや、こうして無駄な枝を切ってあげることで太い枝がより太くなって、長持ちするんだよ」

 

「細い枝葉はゴミ同然に扱われるんだ」

 

「必要だからね」

 

「…………」

 

「シエルちゃん?」

 

「なんでもない」

 

 

 ──────

 

 

「それにしても、アキヒロくんに目をつけられるなんて運が無いねー!」

 

「……えっ!?」

 

「私たちも大変だったんだから! 神様をぶっ殺してやるよなんて……」

 

「な、何ですかそれは……どういうこと?」

 

「アキヒロくん、神様が嫌いなんだよね」

 

「神様が、嫌い……?」

 

 神様は、嫌いとか好きとかそういうのじゃない気がする。あんまり詳しくないからかもしれないけど……自然の分身というか、すごくすごいもの? 

 そもそも、会ったことのない相手をどうやって嫌いになるんだろう。

 

「大事なものをたくさん奪われた恨みがあるんだって」

 

「大事なもの……」

 

 つまり……おばあちゃんの命とか? 

 加賀美さんはお母さんもお父さんも生きていたはずだ。神様は死んじゃった人の命を吸い取るとも言われているし、そういうことなのかもしれない。

 

「細かいところはダンマリでさ、全然答えてくれなかった。意外と秘密主義ってやつなんだよね」

 

「確かに…………出会ってから数ヶ月ですけど、あの人のこと、まだよく分かってないんですよね」

 

 数ヶ月で他人のことを理解するのが無理と言われればそうなんだけど。あの人の深みというか、真意がいまだに見えてこない。

 

「私もわかんなーい」

 

「早苗さんもですか」

 

「うん、日向ちゃんがうちに初めて連れてきたのは高校生の時だけど……その時から未だにね」

 

 そんなに前から知り合っていてもわからないなら……例の関根さんやミツキさん、お母さん達に聞かないとダメかも。

 

「そんなことどうでもいっか! さ、次の場所を案内するよ!」

 

「もうちょっと」

 

 なんだかんだでハマったのか、黙々と枝を切り続けていた。最初に切っていた木だけじゃなくて、他の木にも手を付け出している。いつのまにか、脚立を移動させていた。

 

「ほあああああ!?」

 

 丁寧に手入れされ、形を保っていた枝葉がぐちゃぐちゃになっている。

 早苗さんが両方のほっぺたに手をやって叫び声を上げた。

 

「し、シエルちゃん流石にストップぅぅぅ! ──ぐえっ!」

 

「早苗さん!?」

 

 シエルちゃんに向かって走り出した早苗さんが、石に蹴躓いて顔面からコケた。小さな身体でそんな転び方をされると、本当に子供が転んだように見えてしまう。

 成人のお姉さんだってのは聞いたけど、不安で駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!」

 

「うう……」

 

 助け起こすと、顔や手に土がついてしまっている。

 かすり傷も見えた。恥ずかしさと痛みからか目が潤みを帯びていて、幼さをどうしようもなく孕んでいるその光景──どこかの誰かさんを思い出させる姿。

 

「──」

 

 思わず、袖で土を拭いとる。

 

「うにゃ、むにに……」

 

 口や目に土が入ると後で大変なことになることがあるって、病院の先生が言っていた。

 口元目元の土をまずは取って、次に手。

 

「これで大体は取れたかな」

 

「……ありがと」

 

「まだ綺麗じゃないから、洗いに行きましょう? 消毒もしなきゃ」

 

「うう……情けないよ……」

 

「そんなこと言わないでください。──シエルちゃんも! 一旦手止めて!」

 

「…………」

 

 ピクッと反応したシエルちゃんに、追加の説得をかける。ここは少しビシッと言ってやらないと! 

 

「シエルちゃんが勝手なことするからこうなっちゃったんだからね! ちゃんと責任持って!」

 

「責任……わかった」

 

 早苗さんの案内の元に水場へと向かっていたら、早苗さんが恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「あはは……あの……私、一応成人だから……手は大丈夫だよ?」

 

「──あっ! ご、ごめんなさい! つい、家族を…………っ…………」

 

 情けない。言葉に詰まって最後まで言えなかった。今は早苗さんの手当てをしなきゃいけないのに。

 

「ど、どうしたの?」

 

「…………」

 

「……手、繋いでていいからね?」

 

「はい……」

 

 僕は、何てカッコ悪いんだ。

 

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