【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
白い壁を飽きるほどに見させられ、現れ続けるスネイルたちを切ってきた。今のところ、入り口部分にはスネイル種だけじゃなく、記録には見られないような小型の隷属種も多く見られた。記録のし忘れか、あるいはここ30年で増えたのか。
永井先生がこの洞窟を訪れたのは30年前。
その頃はまだ3級ダンジョンだった。
先生は当時のダンジョン内部の道筋も記録しており、俺もそれを覚えて挑んでいる。だけど、記載にある目印などは一つも見当たらない。つまり、頼りにならない。
先生が適当なことをするわけがない。恐らく内部は何度も改装を繰り返しているのだろう。
その証拠に、元々は道が繋がっていたはずの場所にある壁を破壊したら奥に空間が広がっていた。
想像とは違って、スネイルはまばらにしかいなかった。壁面や地面にびっしりいるのを想像していたから拍子抜けだったけど、変な物も落ちていた。
「腕輪……」
黄金で作られた腕輪。
中程に一つ、赤い宝石がはまっていた。
恐らく、ここで亡くなった探索者の物だろう。
トモキとの事もあるので、念の為に持っていくことにした。ネチョネチョしててキレそうになったのはここだけの話だ。
そちらの道は、結局のところは閉鎖された道だ。先には恐らく何もないだろうし、今回の調査とは関係無い。念の為に30分ほど進んではみたものの、めぼしいものは見当たらない。スネイルもほぼいないので振り返って戻ることにした。骨折り損とまではいかないが、スネイル的には完全に死んだ場所なのだろう。
ただ、モンスターが現れないということで一時的に休憩を取ることはできた。昼飯は野菜と肉の炒め物に、ヒエみたいなので作ったのであろう黄色いパンとジャムのサンドイッチが入っていた。
「早苗ちゃん、いただきます」
手を合わせていただく。
食べ物と早苗ちゃんに感謝を捧げて口に運んだ。
精霊信仰こそ日本人のあるべき姿だ。姿は見えず、どこにも在らず、救う事もせず、ただ、心にそっと寄り添うだけだからこそ良いんだ。
素朴で、優しくて、温かい味。
良いもんだ。
……いや、違うからな?
ミツキ、お前の飯がまずいとかじゃないからな?
なんか嫌な予感がしたので言い訳をしつつ腹を満たし、本道に戻った。
休憩している間に落ち着いたのか、スネイル達はいなくなっていた。恐らく亀裂の中に潜んでいるのだろうけど、あのウニョウニョがいないだけで視界がスッキリする。
指ぐらいの大きさだと可愛さもあったけど、身の丈に迫るような大きさのナメクジと相対するとマジで凄い。
忌避感が。
脇道から本道の地面へと踏み出した途端、ツノがチラッと姿を見せる。一般人が入ったらトラウマになりかねんぞ。
実際、永井先生も著書の中で『歩み出した瞬間に飛び出る触覚。未だ全身は見えぬままなのに、敵意すら伴っているように見えた。私の調査を阻むためか、彼らの触腕には武器らしきものが握られている。探索者を伴っていなければ、恐ろしくてとても面と迎えるものではない』とか書いてあったしな。
先生の辿った道とは全く違うルート。つまり、ここから先は本などには記されていない。一層の注意が必要になると覚悟しながら進むと、少しだけ状況が変わった。
「……なるほどな」
ナイフを構え、魔剣と為す。
「ここはもう、通路空間か」
よく観察して見ればほんの少しだけ、壁が黄色に見えない事もない。
「スネイルウォリアー……」
「……ギ、イ、ヂャ」
「本当に喋るんだな」
冒涜的な姿。
人間の姿をしたナメクジと言えば良いのか。
ここまで悍ましいモンスターも稀だ。
腕もウォーカーのように体の一部が伸びただけじゃなくて、人のソレにだいぶ寄っている。
三本指で棍棒を握り、こちらへ向けて振り上げた。
「ギ、ギ、ギ……ギイイイ」
「意外と速いな」
普通の人間よりも少しだけ鈍いくらいだろうか。
片側に重心が寄ったような走り方ではあるが、しっかりと走っていた。
「…………」
「ギ、ダ、ビ」
「……キモい」
振り下ろしを避けて首を落とすと、その状態でも発声を続けた。それに、ウォーカー達と違って首を落としても死ぬ気配がない。レベルが違うことによる生命力の違いが大きいのだろう。落ちた首が肉体に吸収されるというようなことはないけど、普通に動き続けている。
「ゾ、ザ、ザ」
「ううん……囲まれた」
やはりコマちゃんを連れてこなくて正解だった。コマちゃんのメイン兵装である牙や爪が有効な相手じゃない。どちらもボロボロに溶けて、マトモに動ける状態じゃなくなるだろう。
鎧の上から纏っていた外套はボロボロになっていたので脱ぎ捨てた。
形だけなら人型、そんなモンスターに囲まれるのは気分の良い体験じゃない。知性を感じさせるのに理性が無い相手で、もしも捕まればマトモな末期を迎えられるわけ無いのがわかってしまうからか。
「ゾ、ギ……」
「ガ、デ、デ、デ」
「何を伝えようとしてるか知らねえが、せめてマトモな発音ができるようになってからにしろ」
「──ギイイイイ!」
一斉に向かってきたスネイルウォリアー。
走るたびに揺れる身体、軟体故の不規則さで次の動きが読み辛い。接近され切ってしまえば、酸は鎧だけでなく、露出している素肌部分にもマトモに降りかかるだろう。そうなれば、そこを切り捨てるしかなくなる。
あまりやりたく無い方法だ。
だから、接近される前に接近することにした。
「ふっ……!」
前方のウォリアーに向けて踏み込む。
人間としての全力を超えた、魔素で強化された肉体の部分。地面が踏み割れる音がして、体が前へと押し出された。
第一期の人間が今の加速を見たら目を疑うだろう。
ギネス記録は間違いない。
「ギ──」
辿り着いた速度のまま、右足裏を胴体へ押し付けた。
当然ウォリアーはよろめき、地面に倒れる。同時に棍棒も取り落とした。
踏み砕いて使えないようにしてから、そのまま前方へと一旦離脱する。振り返ると、俺が先ほどいた地点にはナメクジどもが集合していた。
靴裏にこびりついたヌメヌメと肉片を、地面で擦って落とす。
「まとめて切ってやる、よっ!」
集まって絡み合っているところに刃を差し入れれば、胴体の中程──人で言えば鳩尾の辺りを通り抜けた。
「…………」
すぐに離れる。
手応えも無ければ、苦悶の声も無い。
やり辛い。
戦っている気がしなかった。
レイスですら痛みには反応していたというのに、ナメクジ連中はこちらに顔を向けるばかりだ。
「ブ、ヂ、エ、エ」
「……チッ」
真っ二つになった胴体。上半身部分だけ、下半身部分だけが動いている。塩でも巻いときゃ萎んでくれるんかね、持ってくりゃよかったよ。
……なんてな。
「よっ、と」
「ガ──」
腕を伸ばすスネイルの断面から見えていた魔石を引き抜いた。途端に腕が落ちる。先ほどまで、どこを何度切り刻もうが動き出していたウォリアーが、だ。
やはりこいつらはマトモな生き物じゃ無い。
他の奴らも同じように対処した。
個体によって、微妙に魔石の位置が違うのがネックだな。効率がどうしても落ちる。
だけど、目の前の敵だけを見ていれば良いわけでも無い。襲撃の合間を縫ってリュックを下ろして、壁から資料を回収する。ハタから見ればアホみたいなことをしているとしか思えないだろう。
「やっぱり段階的に変わってくのか……?」
黄色といっても、薄い色だ。言われなければ白だと答えても仕方ないような微妙な違い。
「……進もう」
立ち止まって考えても、結論など出ない。より多くの試料を集め、持ち帰ること。
それだけが近道だ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない