【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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19_錆びた斧 を入手しました

 進むほどに濃くなる黄色。

 なるほどこれは、先ほどまでは本当に入り口に過ぎなかったのだろう。レモン水のような淡い黄色からバナナの皮ぐらいの色へ、そして今いる場所は、我慢に我慢を重ねてぶっ放した時の尿の色だ。

 

「──らあっ!」

 

「ギッイイ!」

 

 上から叩きつけられた斧に刃を合わせた。火花とともに弾き返し、ガラ空きになった胴へと左手を突き入れる。

 ぶにゅりと、巨大なグミに手を突っ込んだらこんな感じだろうかという感触が籠手越しに感じられたが、探りの手が魔石を握ることはなかった。

 

「ちっ……!」

 

 酸が籠手の隙間から皮膚に届く前に腕を抜き、手刀を切る。

 ピシャリと打ち捨てられた粘液は洞窟を侵食していくが、俺のタオルを溶かし尽くした時に比べるとだいぶ穏やかだ。入り口部分の時と大して変わらない。

 

「……自分の家だもんな」

 

 左手をプラプラと振る。なんともなかった。

 流石、レイスから剥ぎ取っただけのことはある。

 

「やっぱり、腐食性の液体ってのがヤバいんだな」

 

 探索レベル35のダンジョンの割には、戦闘力はそこまでではない。だけど、俺の予想通りと言えば良いのか、当たり前と言えば良いのか……対酸性の装備無しでここに突っ込めば、武器や防具がいつのまにかボロボロになって継戦が不可能になるだろう。肉体が腐り果てるのを感じながら死を待つのは、どれだけ無念なのか。

 

「ギ?」

 

 今、俺が向かい合っている1匹のスネイルウォリアーは、ただの人型では無い。

 顔面に当たる部分には人のような目が一つ。そして、人よりもだいぶ本数の少ない歯。配置はバラバラだ。

 本来のナメクジは触覚を持ち、歯舌を持っている。だがこいつにあるのは少なくとも触覚に関しては本来よりも短くなった──おそらく残骸? だけだ。器官としては、目に頼る割合が大きくなっているのではなかろうか。

 

 著書の中で、こんなやつが登場したという記述を読んだ記憶は無い。無論、スネイルウォリアーという存在については触れていたが、あくまで武器や動きだけだったはずだ。

 些事と判断したのか、それとも……

 

「──っ!」

 

 身慄いが一つ。

 妄想と切り捨てるには、目の前の個体は先ほどまで戦っていたウォリアーたちとの差異が激しかった。

 負けは無い。酸に対しての対策が完了している時点で、山田が思うような事態にはならないと目算がついていた。

 

 だが、勝ち負けや生き死にとは関係のない領域において感じるものがあった。

 ──未知への恐怖だろうか。

 

「バカ」

 

 自らへの叱咤を行う。

 意味の無い事を考えすぎだ。

 

「ガ、グ、ギ、ギッ!」

 

 掛け声。

 なんらかの意思を感じるような鳴き声とともに体を大きく捻り、冗談みたいな攻撃を繰り出した。

 

「……おいおい、本当に生き物か?」

 

 体全体を高速で捻じ回し、ドリルのように風切り音を唸らせる。ナメクジは体組成の多くが水分だ。こんな動きをしたら脱水するんじゃないかと思うが、そこはモンスターという事だろう。回転もなんのそのらしい。

 

「ギィッ! ギィィィィィッ!」

 

「うるせえなあ! 何言ってっかわかんねえよ!」

 

 ドップラー効果か、さっきの鳴き声よりも甲高い。聞いているだけで不快になってくるような波長は、もしかしたら黒板を引っ掻く音や片栗粉を揉む時の音に近いのかもしれない。

 

「うおっ……!?」

 

 コマのように回りながら、地面に対しては何の損傷も起こさずに動き回っている。普段は体表を覆うだけの粘液の効果だ。

 地面との間の摩擦係数を極端に減らしているのだろう。

 そんな状態で突っ込んできたので避けると、そのまま壁に突っ込み、壁の一部を破砕した。

 

 壁に対して最も衝撃を与えているのは、手に握られている斧だった。半ばほどまでめり込み、ボゴンという音と共に引き抜かれる。

 あれがマトモに当たれば、骨折以上の怪我は免れまい。

 

 当然、そんなことはさせない。

 

「ふっ……!」

 

 再びあの珍妙な動きを繰り出される前に間近に寄って、袈裟の切り上げを喰らわせた。コイツらには骨が無い。だから、一度刃を入れることが出来ればそのあとは多少強引でも切り裂ける。

 

「ビ、ザ……ド!」

 

 ギョロッと蠢いた瞳が俺のことを直視し、口を大きく開けた。気味の悪い口腔を覗かせながら、噛み付いてくる。

 

「よっと」

 

 バックステップでそれを躱し、今度は逆側から切り上げる。X字に切り刻まれた肉体の、左右の部分がドロッと崩れ落ちた。

 肉体を保管するように粘液がすぐさま集まってきて傷口を覆う為、肉体が崩壊することはない。だが、やはり体勢はだいぶ怪しくなった。

 

「ガッ、ア、ア……」

 

「ぬぐっ!」

 

 真上から叩き潰すように押し付けられた斧を籠手で受け、ナイフをしまう。

 鈍く黄色に輝く魔石の端っこが、胴体から露出していた。

 右手でそれを掴み、力を込める。

 

「……こらっ! 反抗すんじゃねえっ! 大人しくぶっ殺されろ!」

 

 すると粘液や肉体が周りから寄り集まって、魔石を引き抜くのを邪魔してきやがる。

 

「ギッ、ブェッ……!」

 

 自分に待ち受ける死を認識しているかのような、必死な様子。やはり、知能があるようにも見える。

 永井先生もそんなような事を言っていたが、まさかここまでハッキリとそれらしいものを見せるとは。

 ……もしかしたら、本当にそれらしいだけの、ただのフリかもしれないけどな。

 

 モンスターは実際、レベルが上がると知能も高まっていく傾向にあるが、脳みそなんか小指の爪の先ほどもないであろうナメクジにそれが適用されるものだろうか。

 

「ふんっ!」

 

 そんな益体もない事を考える程度には余裕がある。抜き取ったものの姿を見ると、このダンジョンで手に入れた魔石の中で最も大きなサイズだった。

 粘液の処理を終えてから魔石を集めている袋の中に放り投げる。

 

「……あれでも成り立てか」

 

 地面に崩れたスネイルウォリアーの姿が溶け消えていく。一世代目のスネイルウォリアーだったようだ。

 後に残ったのはちっぽけなナメクジ。

 コレがああなるの、今でもおかしいと思う。

 

「……いないな?」

 

 他のスネイルウォリアーは周りにはいない。大チャンス、到来! 

 このオシッコみたいな色の壁をもらっていくぞっ! 

 

「──ほっ、ほっ、ほっ」

 

 ここまでにコツは掴んでいる。

 層の隙間に魔剣を差して広めの範囲を剥がす。

 そのままだと大きかったり破片がリュックの中で広がったりしてウザったいので、いらない部分を叩いて落としていく。

 

 ちょうど良い大きさになったら袋に入れて、先に取って同じように袋に入れた石たちと一緒に縛る。

 そのまま全部入れるとリュックの中で揺れて削れていくし、袋に穴が開くからな。纏めていても穴は開くけど、歩きづらさ軽減のためだ。

 それを済ませるのに、20分もかからない。

 こういう資料集めが初めてじゃ無いからある程度慣れているのもあるし、ノンビリやって良いような場所じゃ無いから手早くやっているというのもある。

 

 ただし場所によっては、塊を取り出して手に取ったら全部崩れるようなこともある。場所の見極めも大事だな。

 

「よし、ここはOKだ──さっきのか」

 

 ウォリアーが持っていた斧が転がっていたので、リュックの脇にくくりつける。

 粘液や酸で朽ち、錆びた斧。

 コレもきっと、誰かの遺品なのだろう。なぜ玉座の間に集められていないのかは不明だが、持ち帰って商工会に渡してやろう。

 わざわざ探さずとも、こうして向こうからやってきてくれれば楽なんだけど。

 

「家族が待ってるぜ」

 

 俺が送り届けてやるからな。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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