【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「おあよーあいます……」
「──おらシャキッとしろ!」
「あいだっ!」
フラフラと現れた三船くんの背後からさらに現れたヒナタ。目をしょぼしょぼさせていた三船くんの背中を叩いて、気つけをした。
舎弟みたいな扱われ方。既にそういう立ち位置になったのかもしれない。
気弱いもんね……
「おはよう」
「おはようございます加賀美さん」
「…………」
何故かヒナタからの返事が無い。
道場やってるのに礼儀が無いのはいけないので、チャンスをもう一度あげた。
「ヒナタ、おはよう」
「ん……」
何だこいつ、挨拶の概念どっかに置いてきたのか。
ナリヒトさんにボコボコにされるぞ。
「ヒナタ、おはよう」
「…………」
「……」
忙しなく髪をかきあげる仕草をしている。こいつもしかして、何かやましいことでもあんのか?
「まあいいや、全員揃ったし朝飯にしよう」
「姉ちゃんは?」
「ここにいる」
「……えっ、何してんだお前」
「膝枕だ」
「…………動くなよ?」
「え?」
「……」
何故か無言で端末を構えたかと思えば、写真を撮り始めた。角度を変えて何回も。
意図がつかめなくて怖い。
とりあえずピースしておいた。
^^v
「んー……はっ!?」
「おはよう」
「……あ、あはは」
「ぐっすりだったな」
「ごめんね?」
「疲れてたんだろ? しょうがない」
「…………そうかも」
「さっ、朝ごはんにしよう」
「……うん……わっ」
「顔、洗ってきな?」
「はーい」
さて、朝飯をみんなで食べているんだけど……
「……?」
「……うん?」
「あれ、何か……」
「味付けが……」
食べているみんなの顔が微妙だ。
想像してた味と違う……みたいな雰囲気を出している。
「あ、いや! 全然食べられますよ!」
「あれだよ、味付けがいつもと全然違うからビックリしただけだよ」
フォローしてるんだかしてないんだか良く分からん言い回しだ。
仕方ないな、早苗ちゃんに比べたらだいぶ大味なのは自覚している。味見の時点で分かっていたことでもある。
でも、マズイならマズイって言って欲しいかなって。
「不味く無いけど、おいしくも無い」
「そっか……」
料理、ミツキに丸投げしてたもんな……
──────
「いち! に! いち! に!」
「いち、に、いち、に」
板間が軋む音。
人数は20人弱。
声が重なり、外まで響いている。
三船くんとシエルは朝から夕方までミッチリだけど、道場には他の生徒もいる。それは例えば剣術だったり、合気だったり、弓術だったり。
山田家はそういう武術を神事に取り入れていたので、一通りは修めているのだ。良く分からない神様もいるもんだぜ。
なので、時間をわけて違う生徒達に変わる。
2人はその中で明らかにへなちょこだった。
「ふへぇ、ふへぇ……」
三船くんは更にへなちょこだった。
他の生徒が一つのカリキュラムなのに比べて、2人は全てをこなさなければならないので、疲れるのは当然だ。だけど、同レベル程度のシエルがキッチリやっているのに三船くんは一つ目を終えた時点でフニャフニャになっている。
正直、良くやっている方だと思う。
「ほら」
「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます……」
適当に作った経口補水液もどきを渡す。口に含むと、少し驚いたような顔をした。
「美味しい……」
「運動してるんだからちゃんと水飲むんだぞ」
「はい……はぁ……」
『休憩終わり!』
「あ、はい!」
山田は元ヤンなだけあって、相手が年上だろうが年下だろうが発言に躊躇がない。
ダメなところをどんどん指摘して矯正していくタイプだ。
「アキヒロ、お前もいつまでボケッとしてんだ!」
「え?」
「周りの気が散るから、そこにいるならやれ!」
「あ、はい」
思わず返事をしてしまったけど、剣道とかほとんど何も知識が無いんだ。蹲踞とか小手とか、単語ぐらい。
雰囲気で合わせればいいか。
「──危ないから離れて素振りしろ!」
「──腕力に物言わせて振るんじゃねえ!」
「──竹刀握りつぶすな!」
俺だけ異様に当たり強くない?
「何だよ何だよ……俺だって一生懸命やってるのに……」
「うふふ、お兄さんアレでしょ、加賀美くんでしょ」
「ああ、どうも……」
稽古に混ざってたおばさんが休憩中に話しかけてきた。
「前の先生からお話だけ聞いてたのよ? ご存命だった時に何度も来たことあるんでしょ?」
「そうなんですけどね……どうにもこういうのは苦手というか」
「探索者なんだっけ?」
「はい」
「探索者っていうと大体ガラが悪いけど……あなたはそんなコト無いわね」
「そうですかね」
それ、思ってても言う?
心の中に留めるだけにしときなよ。
あんまり褒められた気しないし。
「それにしても日向ちゃん、今日は何だか様子が違うわね」
「そうですか?」
「ちょっと張り切ってるみたい」
「へぇ〜」
良く分からない。
遠くの友人より近くの生徒ってことだろうか。
「なに他人事みたいな顔してるのよ」
「はい?」
「ちゃんと見ておいてあげなさいな」
「見てますよ」
逆に向こうからも見られて落ち込んでたわけだし。
もしかしたら深淵なのかもしれない。
「ふぅ……」
剣術の稽古を終え、山田が一息ついているところを見つけた。
「おつかれ」
「ん? おう」
「前より様になってるじゃん」
「お前は相変わらず下手くそだけどな」
「なんでかね、実践だと問題ないんだけど」
「……やる気ないだけだろ」
「失礼だなオイ」
シエルと三船くんがいるのに手を抜くなんて、できるはずもない。お手本にはなれずとも、一生懸命やっているところは見せないといけない。
「本当にやる気があったら、できないわけないからな……だろ?」
「…………」
それはまさしく正論だけど、俺は本当に手を抜いていない。致命的に才能が欠けてるのだと思う。
正確に言えばこの肉体と相性が悪いのか。
「なんにせよ、自分は見てるだけなんて許さないからな」
「はい」
兎にも角にも丸一日、三船くん達と一緒に稽古を受けた。
「ひぃ……ひぃ……」
「しぬ……」
2人は地べたに横たわっていた。
流石のシエルも表情が崩れている。
俺も、探索者じゃなかったらやりたくないね。
「情けねえなあ」
「まあまあ、2人とも初めて数日だから」
飴と鞭を形にしたみたいな先生達だな、本当に。
見た目もそんな感じだし。
「おい、今なんか変なこと考えただろ」
「なんで分かったんだ」
「目が語ってんだよ!」
ともかく、寝転がってる2人はさっさと風呂に放り込んだ。汚いし、あんなところで寝てたら疲労が取れなくなる。
どっちが先でもいいから、早く入れ。
道場に戻ると、せっせと掃き掃除をしていた。
下を向いたまま口を開ける。
「……で? どうだった?」
少し小さめの声だった。
「なにが」
「見た感想」
「そうだな、やっぱ連れてきてよかったわ」
正直、あの2人が稽古から直接何かを得ることはあんまり期待してない。1ヶ月で技を全て吸収して、早苗ちゃんを倒して下剋上! とかありえないから。
1ヶ月間毎日ダンジョンでモンスターと戦ってたらあり得るけど、多分その前に死ぬし。
「あの2人はとにかく仲良くなるところからだからな」
「なんだそりゃ」
「リスク回避のためにコンビ組んでダンジョン潜るのに、背中から刺されたら意味ないだろ?」
「そんなに仲悪いか?」
「今のは極論言っただけだよ。メインは心を鍛えてほしいってのがあるから」
「ナヨっちいもんなあいつ」
「……色々あるんだよあの子にも」
「ふーん……よし、終わりっ」
清々しい表情をしている。
自分だって疲れてるだろうに、掃除なんて……立派になったな。
「じゃあ、俺たちも風呂入るか」
「!?」
「どうした」
「ど、どうしたってお前……は、入らねえよ!」
「なんでだよ、入れよ」
1日やって汗かいてるだろ、人間だもの。
「バカ! なに考えてんだ!」
「なんなんだよ……」
──────
「一緒に入るって……どんな勘違いだよ」
「……! …………!」
「痛い痛い! 頭突きすんな! ヤギか!」
俺の雄っぱいをどつくのやめてください!
大事に育ててきたんだから!
「ばーか!」
肩を怒らせながら屋敷の方に戻ってしまった。
結論を焦るな! と言ってやりたい。意味わからんだろ、あの流れで『じゃあ、一緒にお風呂入ろっか!』は。
本当にただのすけべジジイじゃねえか。俺はそんなモラルが死んだ男じゃない。
「明宏くん! 疲れたー!」
後から後からやってくるねえ。
「なにしてたの?」
「片付けだよ!」
当たり前でしょー! と腕を振り上げた早苗ちゃんを宥める。姉妹揃って怒らせてしまったよ、テヘペロ。
「もういい! お風呂入ろっか!」
「まだ三船くんが入ってるかもしれないけど」
「もちろん上がったらね」
「うん」
道場を眺める。
なんとも古式ゆかしき。
何度来ても素晴らしい。
和の精神を受け継いだ人間の魂が宿っているようだった。上座まできちんと作ってある。
ただ、掛け軸の字はふにゃふにゃで読めない。
字が崩れているというより、意味わからん字になってる。
「──あれ、大丈夫?」
「え?」
「鼻血出てるよ?」
鼻に触れると、指に赤いものがついた。
「……あらら、本当だ」
「えーと……はい! これで拭いて!」
差し出してきたのは、白地のハンカチ。
「いや悪いよ、回復薬で──」
「ダメ」
「え」
予想外の声色に体が固まった。
まるで、叱るような声色だ。
「あんまりそういうのに頼ったら、身体がダメになっちゃうからね?」
「ああ、そういうね……」
昔は俺もそう思っていたけど、時が経つにつれて慣れたから普通に使うようになった。使わなきゃ死ぬ場面が増えたという事情もある。
「分かった、借りるよ」
「うん」
鼻を抑えると、ジワジワと血が染み込んでいくのを感じる。……本当に大丈夫か? 不安になってきたぞ。もし血が落ちなかったら、弁償しないとな。いいやつ買ってこよう。
「ティッシュは……」
「リビングにしか無いから、そこまで行こう?」
「おん」
鼻血を出しただけで背中を支えられることになるとは思わなかった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない