【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
鼻血はすぐに治った。多少の傷ならすぐに治るのが探索者になることのメリットの一つだ。
「もう大丈夫だね」
「うん、風呂入ってきていいよ」
「え? 一緒に入らないの?」
「それもうヒナタとやったから」
「なんだよー」
そもそも、鼻血程度でどうにかなるようなやわな人間では無い。見た目年下の女の子にこんな甲斐甲斐しくされると、こそばゆい。お風呂上がりの三船くんに優しい顔で見られてしまって気まずさすらトッピングされていた。
「──見てたよ、頑張ってるの」
早苗ちゃんがお風呂に向かった後、湯気を漂わせながらソファーでくつろいでいる三船くんと話した。汗臭いだろうから俺はダイニングの机に座ったまま。
疲れた表情ではあるけど、ニッコリと微笑んだ。柔らかい目元はきっと、お母さん譲りの笑顔なのだろう。
「……僕達、強くなれますか?」
「なれる」
「早苗さんに何度も放り投げられちゃいました……他の生徒の皆さんにも……」
「逆に誰かのこと投げられた?」
「…………ヒナタさんに投げさせてもらえました」
「そりゃあ確かに投げさせてもらえた、だな」
山田は三船くんよりも身長が高い。投げる感覚を覚えさせようとしてくれたのだろう。
ただ、あいつがそれやると……
「空気を投げてるみたいで、全然分からなかったですけど…………」
「ふふ、そうか」
投げるのが上手い奴は投げられるのも上手い。力の流れを理解してるからな。
「明日は俺が投げてもらおうかな?」
「あはは、流石に重すぎて……」
「痩せようかな」
「──加賀美さんは、ここに通ってたことあるんですか?」
「通うってほどじゃ無い」
「その時もヒナタさんが?」
「俺が高校生の頃は、まだ親父さんが生きてたからな」
「あ……」
──────
高校一年次。
冬の後にやってくる季節、雷季。
太陽が隠れて、空を照らすのは幾筋もの雷。落ちてはこぬが、間断もまた無く。
そんな中、雷鳴にも負けぬ射の音が聞こえていた。
荷物を玄関先に置いて道場へと向かう。
人の家に来たら、主人に挨拶するのが筋だ。
──スパン! と、先に射た矢をケツから割った。
『おおー!』
拍手が起こる。
次から次へと矢を番え、焼き直しのように同じ光景を作る。的場には、真っ二つになった矢がどんどんと増えていった。
極めれば放つ前から当たる場所がわかるというが……まさに異能のような神技を軽々と見せつけている男がいた。
そんな男が、こちらを振り向いてニヤリと笑った。
「君が、例のだね?」
「お初にお目にかかります、加賀美明宏です」
「話は聞いてる!」
「良い話だと嬉しいですけどね」
「……みんな悪いな! 今日の稽古は終いだ!」
ゾロゾロと列を作って、上座に背を向けた男の前に並ぶ。俺も一応、列に並んだ。
日本人の習性……出ちゃったな。
『では、上座に一礼!』
『ありがとうございました!』
深々と上座に礼を捧げ、ほぼ同時に頭を上げる。
次に、こちらへ向き直った。
『お疲れ様でした!』
『お疲れ様でした!』
雷のような男だと、そう思った。
キビキビとした動作には隙がなく、目のギョロっとした威容は周囲を圧している。耳は潰れ、拳は関節部が擦り切れていた。
コウキさんとは似ない容姿だが、同時に似ている。
「──」
「…………」
そんな男とリビングで見つめ合った。いや、睨みつけ合った。当然、お互いに初対面で、話したのも初めてだ。電話ですら話したことはない。
だけど、何かを感じた。男の奥底から、何かがこちらを見ているような気がした。山田日向のことも、お茶請けを出してくれた奥さんのことも無視で男とガンを付け合っていた。
「いつまで見つめ合ってるのよ、気持ち悪い」
「……がびーん!?」
奥さんにそんなことを言われて、やっと金縛りが解けた。俺も彼も、自分の意思では動き出すことはできなかった。
「今のは無かったことにしよう、うん」
「そうですね」
「日向の父親の鳴人(ナリヒト)だ、よろしく」
「加賀美明宏です、同級生やらせてもらってます」
「君を呼んだのはアレだ…………そら、アレだよ」
「……」
一応、親父さんの呼び出しであることはわかっていたけど、理由は聞かされていなかった。アレは、おおかたアレだろうな。
娘さんをぶん殴ったこと。
正確には娘さん達だけど、その件でぶん殴られるのは仕方ない。せっかく面白いやつを見つけたんだ、殴られるくらいで許してもらえるなら甘んじて受け入れるのが筋というもの。
「アレ…………覚悟はしてますよ」
「覚悟?」
「どうぞ」
「え、なに……?」
「ぶん殴ってください」
「なんで!?」
「なんでって……ヒナタさんの件では?」
「まあそうだけど……なんでぶん殴るの?」
「くっ……!」
「どうした!?」
まさか俺自身に、女をぶん殴ったことを言わせようとは……これはなかなかにブチギレている……!
良いだろう、そっちがその気なら俺もとことん覚悟を決める!
土下座も辞さない!
「そもそも俺がヒナタさんに目を付けたのは──」
「おい、なんか語り始めたぞ。それに目を付けたってなんだよ」
新たな生徒会のメンバーを探していて、山田がピッタリだったこと。話し合いよりも喧嘩の方が話が早そうだったのでそうしたこと。焼肉が食べたいこと。合気はパワーの前には無力なこと。剣道はホンモノの刀じゃなければ怖くないことを説明した。
「こいつ煽りに来ただけじゃねえか! ……って、お前剣道知ってんのか?」
「知ってます」
「ふぅん……やったことは?」
「柔道なら学生の時に」
「今も学生だろ……というか、今って学校で柔道やるのか? ヒナタ」
「知らね」
学校にまともに行ってない奴に聞いたところで、答えなど返ってくるはずもなかろうて。
「──で、このお転婆娘を喧嘩で手懐けた、と」
「そういう話です」
「その事に関しちゃ、俺はそこまで怒ってない」
「でしょうね」
「お前さんの言うとおり、1発ぶん殴っても良かったけど……あの通りだ」
壁にもたれかかっている山田は、父親の後頭部を睨み付けていた。
視線だけで殺しそうな勢いだ。
「父親とはいえ、喧嘩に首突っ込むのは許さねえらしい」
「余計なことしたら絶縁すっからな」
「……だそうだ」
肩をすくめて戯けるお気楽な姿は、切れるナイフみたいな娘の姿とは真逆だ。
口調は受け継いでいるようだが。
「加賀美くん──いや、なんて呼ぼうか」
「なんでも良いですよ」
「言ったな!? どうしようかな………………そうだ、カガミン! これで良いだろ!」
「どうぞ」
「カガミン、マジでうちの娘を生徒会に入れようとしてんの?」
「マジですよ」
「なんで?」
「校舎裏でカツアゲしてるところを見てビビッと来たんですよね」
「は?」
まさか学校であんな光景を見られるなんて、懐かしすぎてちょっと泣いてしまったよ。昔の光景がブワッと、目の前に広がったね。
「──ヒナタ? ちょっとこっちにいらっしゃい?」
「か、母ちゃん……」
「良いから、来なさい?」
「っ……!」
「ヒナタ?」
「…………」
俺のことを睨むのは筋違いって奴だ。俺は誘った理由を聞かれて答えただけなんだから。
「俺、娘の育て方間違えたのかな……」
「大丈夫ですよ! その時は俺がシメときましたから!」
「カガミン……お前も多分育ち方間違えてるよ…………ん? じゃあ2回ぐらい喧嘩してるってこと?」
「はい!」
「はい、じゃないが」
「1回目で確信したんで、2回目は説得しました!」
「説得(物理)かぁ……」
──────
「じゃあ、何度も会ったことがあるんですね」
「良い人だったよ」
「そうですか……」
話しているうちに早苗ちゃんがお風呂から上がった音が聞こえてきた。そろそろ俺の番だな。
「風呂入ってくるわ」
「はい……」
俺が上がるまでに寝てそうだな。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない