【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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26_妄執に駆られることなかれ

「うぅ……カチカチだ……」

 

 顔に墨を塗りたくられて寝たから、カピカピの状態で起きた。

 だが、俺の心はまだ一敗もしてない。心が折れない限りは負けじゃない。だから、あれは決して不貞寝ではないのだ。

 

「顔洗うか……」

 

「──あ」

 

 部屋を出ようと扉を開けたら、ちょうどヒナタがいた。手の形的に、向こうから扉を開けようとしていたようだ。

 

「おはよう」

 

「…………」

 

「ヒナタ?」

 

 なんでとは思いつつも挨拶をしたのに、無音。反応が無い。それどころか人の顔をまじまじと見つめている。

 

「おーい」

 

「……ぶっ」

 

 顔の前で手を振ると、ようやく反応が返ってきた。

 

「ぶはははははは! なんだお前その顔!」

 

「……」

 

「何したらそんな顔になるんだよ!」

 

「…………」

 

 朝飯を食べ終わるまでずっとその話を振ってきたので、デコピンで終わらせた。

 

「ったああああ……」

 

「お見舞い行くんだから、さっさと準備しろ」

 

「頭割れるかと思った……」

 

 実際のところ、デコピンだろうが全力を出せば人間の頭なんて弾け飛ぶ。

 世の中には探索者と一般人がおふざけでやり合ってたら間違えて一般人の腕を握り潰したなんて話や、酔っ払った探索者が家を解体したなんて話もザラにある。

 俺はそんなヘマした事はないけど、酒を呑んだらどうなるか分からない。酔うまで飲むことは厳禁にしている。

 

「──僕たちも、ですか?」

 

「当たり前だろ、お世話になってるんだから」

 

「着替えた方がいいですか?」

 

「普段の服と同じでいいよ」

 

「分かりました」

 

 ドタバタと準備をする4人を眺めながらリビングで待つこと2時間。

 

「──長い!」

 

 長過ぎる。

 うんこ漏れるかと思った。

 

「行けよ、トイレ」

 

「そろそろ来るかなーって思ってたから我慢してたんだよ!」

 

「そもそも、8時に行っても向こうも困るだろ」

 

「それはまあ……でも、歩いたら時間経つだろ」

 

「バーカ、タクシー呼ぶよ」

 

「呼ぶの?」

 

「なんで歩いてかなきゃ行けないんだよ」

 

 5人も乗れるタクシーなど無い! 

 多くて3人だ! 

 

「──こっちの車で良かったんですか?」

 

「うん」

 

「ヒナタさん達と一緒の方が……」

 

「はっ、あの2人はそんな子供じゃ無いよ」

 

「そうでしょうか……」

 

「少なくとも、車に乗るか乗らないかでどうにかなるわけないだろ?」

 

「うーん」

 

 街を行き交う車。

 魔素を燃料として走る、初代フォードみたいな見た目だ。もはや懐かしいとかじゃない。初めて見た時は明治時代にタイムスリップしたのかと思った。

 

「お尻が痛い」

 

「サスペンションとシートがどうにもな」

 

 なんぼなんでも、第一期の車を再現出来るわけはなかったらしい。

 

 エネルギー革命後、何人もの大天才が受け継ぎ、開いていった扉。それが全て閉ざされてしまった。グリーンウィンドによって、分解されてしまった。

 人々の記憶の中にのみ残ることを許されたもの。完全に失われてしまっていたなら、馬車か人力車でも走っていたのかね。

 

「でも、便利ですよね!」

 

「そうだな」

 

「魔素で走るって……一体どうやってるんですかね」

 

「さあ、知りたくもない」

 

「反対派なんですか?」

 

「いいや? 怖いだけだ」

 

「怖い?」

 

 魔素をそんなに大量に使う──集めるなんて、何を考えているのか俺にはよく分からない。

 

「──お客さん! 自動車反対派かい?」

 

「自動車は好きですよ。俺が怖いのは、こんなものを進めている連中です」

 

「ダンジョンがどうとかって? はっは! あんなの最近はほとんど起きやしないじゃないか!」

 

「……そうですね、俺の考え過ぎかも」

 

「まあね、俺も少し前までは車なんてと思っていたけど……乗ってみればいいもんだぞー!」

 

「ええ」

 

 知ってるさ。

 この世界の誰よりも、ずっと長く車に乗っていたんだ。

 ステータスであり必需品でもある。その便利さは身に染みて分かっている。

 

 だけど、怖いんだ。

 人類は際限なく文明を進めることができる。猛獣も、環境も、全てを乗り越えて自分たちの豊かさのために星を破壊できる。今は商工会がある程度の制御を効かせているけど……無理だ、そんなんじゃとても追いつかない。

 人の欲望のままに進んだ時、どうなってしまうのか。想像すらできないのが、どうしようもなく恐ろしかった。

 

 

 ──────

 

 

「あらー可愛い子達ね、いらっしゃい」

 

「は、初めまして! 三船黎人って言います!」

 

「初めまして、私は山田日奈子です」

 

「えっと……お世話になってます!」

 

「うふふ、こちらこそ娘がお世話になってます」

 

 素直だからこそヒナコさんもちゃんと返してくれるのだろう。これが尖ってた頃のヒナタだったら……

 

『ヒナタ、そこに正座なさい』

 

『ヒナタ、お尻を出しなさい』

 

『ヒナタ、カガミン君にちゃんとお礼を言いなさい』

 

 多分、尊厳とプライドをバキバキに折られていただろう。

 

「あなたはレイトくんのお友達?」

 

「違う、パーティーメンバー」

 

「あら、2人とも探索者なのね」

 

「そう」

 

「なかなか面白い組み合わせ」

 

 ベッドに横たわっているとはいえ、完全な寝たきりというわけでもない。療養なのだ。

 

「カガミン君、久しぶり」

 

「中々顔を出せず、すみません……」

 

「忙しかったの?」

 

「ええまぁ……これ、お土産です」

 

「いつもありがとう」

 

「お世話になっているのでこれくらいは」

 

「……んんっ、んっ、けほっ、こほっ」

 

 前よりも大分、体調は安定しているようだ。やっぱり無茶のしすぎだったんだろうな。

 こうして安静にしてればそのうち完治すると信じたい。

 

「お母さん大丈夫?」

 

「んっ……大丈夫」

 

「一旦横になって」

 

「大丈夫よ、早苗」

 

「病人なんだから、元気そうな姿を見せようとか思わなくていいんだよ?」

 

「そうも行かないわよ」

 

「お母さん……」

 

「カガミン君が来てるのに自分だけ寝てていいわけないでしょ」

 

「…………」

 

 早苗ちゃんの懇願するような目に応えた。

 

「ヒナコさん、それには及びません」

 

「だけど……」

 

「お気持ちだけ受け取っておきます」

 

「…………」

 

「ここで無理をされても俺は嬉しくないですから」

 

「あのモンスターは──」

 

「今のところは……」

 

「……うぅっ」

 

 あのモンスター。

 明確な言及を避けたのは、口に出すのも憚られるほどに激情が溢れそうだったからか。

 

「あのモンスターだけは……絶対に……!」

 

 声を聞いただけでわかる。

 抑えきれない憎しみ。

 一瞬にして奪われた幸せは、彼女の元には二度と戻らない。今も身の内に渦巻く苦しみがどれだけ重いか。

 周囲の大気が、微かに黒くなっていた。

 

「母ちゃん……」

 

「ヒナタ……! 忘れちゃダメだよ……!?」

 

「……うん」

 

 初対面である三船くん達に見せた、あの優しい表情はどこへ。1人の女性が般若へと変貌していく過程を見させられているかのようだった。

 娘の手を強く握りしめ、妄執を受け継がせようとしている。

 

 そこに、彼女──シエルが突っ込んだ。

 ヒナコさんの手を取って、離させる。

 

「やめな?」

 

「……」

 

「醜いよ」

 

「…………」

 

 開いた瞳で、感情の読めぬ表情で見つめる。娘が同じ部屋にいるにも関わらず、あまりにも母ではなかった。

 

「自分のことしか考えてないの?」

 

 全く怯むまずに続ける。

 それを聞いて、苦々しげに口を歪めた。

 

「自分のことだけ? ……私が、自分のことしか考えてないって?」

 

「そうでしょ」

 

「私が…………私が…………私が…………私が、どれだけ……どれだけ!」

 

「うるさい」

 

 全く相手の感情を考慮していなかった。カウンセリングとか、優しさとか、そういうことはあり得なかった。ただ、思ったことを口にしているだけのようだった。

 

「寝て」

 

「…………」

 

「ほら、寝て」

 

 グイグイと、ヒナコさんの身体を掛け布団の中に押し込んだ。ヒナコさんは無言で、無気力で、されるがまま。

 

「……うん」

 

 押し込み終わると布団を整え、満足げに頷く。しかし無表情。

 ヒナコさんは気絶するように眠りに落ちた。

 

 

 ──────

 

 

 待合スペース。

 5人もいるので他の見舞いの人たちの迷惑にならないように隅っこに集まる。

 三船くんと山田が向き合っていた。

 

「……ごめんな?」

 

「あ、いえいえ! 全然! 大丈夫です!」

 

「最近は落ち着いてたんだけどな……」

 

「…………」

 

「親父のことが本当に好きだったから…………親父が死んでから変わっちまったんだ」

 

「そう、なんですね……」

 

「ごめん」

 

「…………モンスターって、なんなんですか?」

 

「……」

 

「もし、僕たちが──」

 

「無理だよ」

 

「え?」

 

「ドラゴンだから」

 

「──ドラゴン……!?」

 

 まさに青天の霹靂だろう。死因がドラゴンという一般人が、この世界にどれだけいることか。ダンジョンの奥地、あるいは高難度ダンジョンに現れるモンスター。

 写真ですら見られるのは稀だ。

 そして、俺たち低レベルの探索者にとっては死の象徴。万が一出くわしたら、億が一にしか逃げ出せない。

 

 この世界にモンスターが現れる前からそう呼ばれていた、正真正銘のモンスター。

 空想上の生物。

 それがあの日、山田家に現れた。

 なんの予兆もなく。

 

「あはは……なんかちょっとアレだし、今日は一旦帰ろうか?」

 

 早苗さんの提案に乗って、再びタクシーへと乗った。

 だけど、加賀美さんは乗る直前、手刀を切った。

 

「三船くん、悪いけど2人で乗ってくれ」

 

「は、はい」

 

「ごめんな?」

 

「いえ! 全然!」

 

 出発した車内から見えた顔。

 その視線の先には──

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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