【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「見回り? ……さあ、私は知らないかな。ヒナタちゃんはどう?」
「知らねえ」
二人は林の前に立っていた。
シエルと三船くんがいないのは、ちょうど稽古中だからだ。
山を走り回っているそうだ。
…………山を走り回るって何?
「一応ルートは整備されてるから、馬鹿なことしなきゃ迷子にはなんねえよ」
「馬鹿なこと?」
「虫やら獣やらにビビって道を外れるとかな」
「ふーん、でも探索者だからそこは大丈夫だろ。鹿とか猿とか?」
「熊も出るぞ」
「終わった……」
何してくれてんの? このアンポンタン。
膝の力抜けたわ。
「そこは霊領の中だから、こっちから襲わなきゃ大丈夫だよ」
「──なんで霊領の中にいれた!?」
「なんでって……稽古の時は割と入ったりするぞ」
「そうなの!?」
頭が沸騰しそうだ。
マジで前代未聞すぎる。
永井先生に報告したい。
「お前がそんな驚くの、久しぶりに見た気がする」
「驚くだろそりゃ!」
知らなかったぞ、稽古でそんな場所使うなんて。
来た時は大抵二人と遊んでたし、稽古やる時も親父さんすげーって思いながら弓を全部外してた記憶しか無い。
霊領の場所も知らない。
「ふふっ、驚いてやんの」
「本当に大丈夫なんだよな?」
「大丈夫。うちの神様は優しいから」
「なんだよその理論……大丈夫かなあ……」
「…………ふふ」
「──?」
あの三船くんが熊と出くわして正常な精神状態を保てるとは思えない。シエルもなんだか木の棒とかで歯向かっていきそうだしなあ。探索者とはいえ、低レベルだと熊だって十分な強敵だ。
心配過ぎて膝からくずおれていたところ、髪に何かが触れる感触があった。見上げると、山田が腕をこちらに伸ばしている。
「ふふ」
この感触は……肉体的に同年齢の元ヤンから頭を撫でられている!?
この俺が!?
「……ヒナタ?」
「…………あっ!?」
背中を向けられてしまった。
なんなのか。
真面目に教えてほしい。
慈愛の瞳で人を見つめるような理由がどこにあったんだ。そんなんじゃねえだろ、あの頃のお前はもっと尖ってたぞ。初対面の時の目ヤバかったからな。
俺の頭を撫でるとか、お前のキャラはどこへ行ってしまったんだ。
アイアンクローだったら分かる。
グーパンでも分かる。
撫でるて。
変わってしまったのか?
良い方向へ。
「ふっふっふ〜、このこのー」
「どうした」
「わからないー?」
「わからない、俺には何も……」
Q.なぜ早苗ちゃんにつっつかれているのか、なぜヒナタはそっぽを向いているのか、なぜ頭を撫でられたのか。
A.可愛いので理由はどうでも良い。
「……まあいいや」
「よくなーい!」
「うおっ」
「よくないよ! なんでそこで、まあ良いやって投げちゃうの!」
「いや……」
「言い訳は聞きたくありません!」
「無茶苦茶じゃねえか」
膝を付いているので早苗ちゃんのお顔がいつもより近い。プンスカと怒っている様子を間近で見るのはとても微笑ましい。
だけど、訳のわからないクレームをつけられると応えたくなってしまうのでやめて欲しい。
「──わっ」
「早苗ちゃんはいつも頑張ってるよ、俺がちゃんと見てるから」
「な、なんの話!?」
「よしよし」
「…………」
抱きしめると仄かに汗の匂いがする──とか口に出したら多分嫌われるけど、秋と言っても陽射しがあれば少し汗をかく程度には気温がある。
こんな暑い中でもよくやるわ。
実際に動いてるのは三船くん達だけど、待っているのもまた疲れるだろう。
「一旦お家入ろうか」
「……うん」
「──ぐっ!?」
早苗ちゃんの手を引いて一歩踏み出したら、後頭部に衝撃が。
暗殺者!?
「何勝手に入ろうとしてんだよ。姉ちゃんも、着いてこうとすんな」
「……じょ、冗談じゃーん!」
「本当かよ……」
「だ、だってほら、私は師範だよ!? 今も弟子が修行してるのに、自分だけぬくぬく過ごそうなんて……ねえ? 大体、今のは誘ったアキヒロくんが悪いわけで、責めるなら私じゃなくてアキヒロくんにしてくれないと!」
これはアレだろうか。
早口で草、というやつだろうか。
「そもそもはヒナタちゃんがアキヒロくんにちょっかいかけたのが始まりでしょ!」
「っ……知らねえ」
「見てたからね、ちゃんと」
雲行きが怪しくなってきた。
リアルの雲行きも怪しいし、二人の雰囲気も良く無い。
また喧嘩するのか? お前ら。
口喧嘩なら良いけど取っ組み合いなら止めるぞ。
──────
さすが成人済み女性二人。
取っ組み合いなんて野蛮な方法は取らないようだ。
あの夜──俺がどこで寝るか戦争──の出来事は忘れることにした。
「はぁ……はぁ……おえっ!」
「はぁぁ……はぁぁ……ふぅぅ……」
比較してシエルの方が落ち着いている。
でも三船くんも良くやりきったわ。
まだ1週間程度だけど、すでに根性見えてきたんじゃないの?
「お疲れ、二人とも」
「はぁ……お帰りなさい……はぁ……っげほっ! ……カガミさん」
「あぁ、無理して喋らなくて良いから」
運動したあとすぐに寝転がると良くないと聞いたことがあるので、立たせた。
もちろん肩は貸してな。
「すいません…………」
「いんや、何も謝る必要無いからな。むしろ、もっと頼ってくれて良い」
最近の三船くんはシエルのフォロー(主に言動全般)にかかりっきりで、俺にあまり構ってくれない。関わる暇がないとも言う。もう少し頼りにして欲しいのがお兄さんの素直な気持ちだ。
逆にシエルは何をしているかと言うと、体力面や技術面で三船くんをフォローしている。やはり呑み込みが良いらしく、ヒナタ達の指導をぐんぐんと飲み込んで上達している。
先にへばったり、型がよくわからなくて首を捻っている三船くんの元へ行って話しかけている姿がよく見られた。
……貶してるだけとかだったら逆に称賛する。
「どいて」
ガシッと。
肩を掴む手。
熱気。
声。
「……辺見さん、横通って良いから」
わざわざ俺を退かそうとしないで? 三船くんも一緒に歩いてるんだからね?
「そこ、どいて」
「ええ……」
仁王立ちで指を差す姿はまさに覇王。我が道を阻むものは一切合切許さぬという強い意志を感じた。
なんでだよ。
「邪魔」
「お、おお……何してんの?」
グイグイと退かされた俺の場所を、そっくりそのままシエルが引き継いだ。
腕が垂れ下がるほど疲労した三船くんに、これまた疲労の色が濃く見えるシエルが半ば引き摺るように歩いていく。
「シ、シエルちゃん……」
「行くよ、お風呂」
「流石に一緒には恥ずかしいよ……」
「一緒にとは言ってない」
「あはは」
どうやら、俺が思う以上に二人の距離は近くなっていたらしい。最初から俺などいなかったかのように、二人で屋敷の中に戻っていった。
狙い通りではあっても、予想通りでは無かった。
今のあの二人の距離感。
合宿の全期間を終えたあとにはアレくらいになってほしいと思っていた。寝食を共にするってのは、俺の予想以上に心理的な効果が大きいのか。
それとも、あの二人の相性がいいのか。
どちらにせよ、距離がグッと近付いていた。
「よかったね」
「うん」
「仲良くなって欲しかったんだもんね」
「パーティーなのに仲悪いなんて、洒落にならないからな」
「素直じゃ無いね〜」
「素直な気持ちだよ」
「でも、ああいう二人を見るのが好きなんでしょ?」
「…………」
「雨降ってきたし、中入ろ?」
俺の性格を見抜かれていて非常に気まずい。
だけど可愛いんだもん。
可愛く無い? 子供。
みんな可愛いと思うだろ?
「ヒナタ、お前も──」
「きもっ」
俺だって泣くんだぞ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない