【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
俺は冷静。
俺はクール。
俺はフェティッシュ。
俺はムーディ。
俺は正常だ。
ダンジョンで幻覚や幻聴につきものな酩酊感も……無い。
「…………」
うん、きっと聞き間違えだ。
パンツ見る?(直訳)なんて、俺のヒナタがそんなことを言うわけがないっ!
「は……ははっ……服、ちゃんと着直したか?」
「…………」
「ヒ、ヒナタ?」
立ち上がる気配。
後ろを向いているから、実際にヒナタが何をやっているかは音から想像するしかない。
「なあアキヒロ」
「……な、なんだ?」
「見ないのか?」
「バカ、さっきのやりとりは何だったんだよ。パンツを見た〜だの、磔だ〜だの」
「…………」
「はは……」
ズルズルと何かを引きずって近づいて来る。
振り向きたい衝動がどんどんと増していくが、それをしたが最後、何かが終わる予感がした。
俺は……どうすればいい?
こんなシチュエーションは人生通して最近まで──そうだ、最近こういうのが多い。
年齢の問題か?
いや、それは違うような──
「アキヒロ……」
近付いてきた衣擦れの音は背中のすぐ近くで止まった。服越しに感じる熱。
嫌に大きく聞こえる息遣い。
心臓の音でさえ、普段通りなのに筋肉や骨を通して増幅され、ハッキリと聞こえた。
「アキヒロ……」
熱に浮かされたかのように名前を呼ぶ。
至近距離、耳元で。
囁くように、蝸牛を通って脳に入り込んでくる。
少しだけ体温が上がったような気がした。
いいや、実際に上がっているのだろう。
「なあ……」
吐息すらが声の一部となっているような妖艶な喋りとは打って変わって。
手。
物を掴んだり操るための手は。
とても控えめに、服の裾を掴んでいるようだった。
わずかに引かれる感触。
寂しさ。
何故か、少しだけそんな感情をイメージした。
「こっち、みろよ」
「……ちゃんと着たんだよな?」
「…………うん」
「バカ、そんなわかりやすい嘘があるか」
「へへっ」
一手ずつ。
詰みかけの将棋を自らの手で進めている時のような感覚に陥った。
アドレナリンがすごい。
おそらく今、俺はゾーンに入っている。
空中を漂う埃がどんな形をしているかが仔細ハッキリと肉眼で見えた。
「こっち見ろよっ」
明るく唆す淫魔。
今のヒナタはまさにそれだ。
絶え間なく訪れる『欲』。
明らかにおかしい。
ここまで昂ったことは、ほとんどない。
……これが、アリサがあの時に感じていた衝動なのか?
一度、目を瞑る。
呼び出すべきか一瞬迷った。
そうすれば、たちまち状況は改善されるかもしれない。
だが、ここはグッと堪えよう。
今は休暇中だ。
男なら堪えろ。
「ヒナタ、ちゃんと服を着なさい」
「何だよその口調、誰なんだっつーの」
楽しそうな声色。
いつも通りのように。おふざけをして戯れ合う、親友という関係性。間違いなく、あの男勝りなヒナタが後ろにいるはず。
しかし、手は依然として控えめに裾を掴んだままだ。
……この手の方がフェイクだったりしないよな?
少しだけ不安になったので、手を覆うように握ってみた。
「あっ…………ふふ……」
びっくりして引こうとする手を引き寄せると、今度は自分から指を絡めてきた。
ダメだ、わからない。
そもそもフェイクってなんだよ。
思考がまとまらない。
いわゆるピンクのモヤが頭にかかっていた。
それでもなんとか、声をかける。
「ヒナタ……服、着れるな?」
「…………これじゃあ、着れねえよ」
「そうだな」
そう言うならばという事で手を離そうとしたら、ヒナタの手の力が緩まない。
これでは手は繋がれたままだ。
「……ヒナタ?」
「…………」
「手、離せないぞ」
「うるせ」
さすが生粋の捻くれ者。
俺の言うことなどサラサラ聞く気はないらしい。
もうなんか、全部が面倒臭くなってきた。
聞き分けの悪い奴に対してできることは、ぶん殴るか、開き直って罵声を浴びせるか、突撃するかだ。
その点、三船くんは素直でとても助かっている。人間として90点だ。あとは自信さえつけばな。
「ヒナタッ!」
「な、なんだよっ」
「お前がその気なら俺も覚悟を決めるぞ」
「っぁ……」
天国か地獄か。
先に待ち受けるのが何だか知らないが、ビクビクしてるのは俺らしくねえ。いつまでも足踏みしてたら手に入るはずのものすら手に入れられなくなっちまう。この手に今ある物も無くなってしまうかもしれない。
「ぅ」
ちっこいけど確かに鍛えられた手を握って離れられないようにした。
仲良しこよしの証つき。
お前も一緒に地獄に堕ちようや。
「振り向くぞ〜……よしっ、やるぞー……っ──」
「アキヒロくん、ハリツケにきたよー! …………えっ」
場の空気をぶっ壊す、底抜けに明るい声。
右腕を前に突き出して勢い良く扉を開け放った体勢のまま、彼女は笑顔で固まった。
「あ……れ……」
咲盛りを過ぎたひまわりのように垂れ下がる右手。
対面する彼女には、俺の背後にいるヒナタの姿がどう見えているのか。
一糸纏わぬ淫靡なサキュバスか。
下着姿か。
普通に服を着ている妹がいるのか。
暴走している彼女を止める一助になってくれれば。
そんな俺の願いとは関係なく、視線が背後に寄ったのは一瞬だけだった。
では、どこへ向いたのか。
一本の糸をたぐって降りて来る蜘蛛のような滑らかな移動。彼女は俺の腰辺りへとその眼差しを向けた。
話は変わるが、俺はインポではない。
四門家の親娘は揃って俺に対してインポと連呼して来るが、普通に名誉毀損で終身刑だ反省しろ。
つまり、普通に勃つ。
人生一周したから悟って勃起しなくなったとか、そんなことは全くない。
ただ、俺にも色々と事情があるだけだ。
とても大事な事だよ。
そして、今はそうじゃなくなったが……早苗ちゃんが入って来る瞬間までは、ものすごく『欲』があった。
一度そうなると、その気じゃなくなったからって一瞬で収まるというものでもない。
つまり、生地の薄い寝巻きを押し上げていた。
早苗ちゃんの目はまん丸だった。
お月様みたい(現実逃避)
「あ……あ……あ……」
段々と首から上が赤くなって、口から上擦った声が漏れ始めた。どうやら、こういうのには慣れていないらしい。
「…………」
結局、目を丸くしたまま無言で部屋を出て行ってしまった。
嘘だろ、何とかしてくれると思って期待してたんだが。せめて何か、お小言の一つでもあれば状況が変わったかもしれないのに。また2人きりに戻ってしまった。
「ア、アキヒロ……」
「せぇい!」
「ひゃっ!? な、何すんだよぉ! ──って、な、な、何当ててんだよ!」
「知るか、我慢しろ」
「ヘンタイ!」
またピンクな空気が立ち込める前に、先手を打つことにした。当然のように反抗して腕の中で暴れる。
腕に伝わって来る感触は素肌。予想通り、上着は身に付けていなかった。
変態がどちらかは言うまでもないな?
肝心のパンツ見た見てない問題に関して。掴んでいた手を頼りに一瞬で抱きしめたおかげで、姿自体は目にしていない。永井先生が拍手で褒め称えてくれる姿が脳裏に浮かぶぜ。
「う……」
「服着る気になったか?」
「な、なったよ!」
「じゃあ、俺は目瞑るから……一人で着られるな?」
「子供扱いするな!」
先程までの言動全てを考えると然もありなん。
大人扱いされたいなら相応な行動を頼む。
「んっ……しょっ、と……」
背後で聞こえる衣擦れの音は、今度こそ服を着ていると信じられた。
振り向き、姿を目にする。
しっかりと着込んでいた。
うん、よかった。
「……」
ただ、その表情はどこか不貞腐れた成分を含んでいるように見える。唇が尖っているのは、まさにその最たる象徴だ。
「…………意気地なし」
「…………」
行動の選択肢が現れる。
・俺も色々あるんだよ
・うるせえ口だな
・ミツキとアリサがいるから、ごめん
・無言で押し倒す
・逃げる
・叫ぶ
etc……
バカみたいなものも含めれば、多くの選択肢が浮かんでいた。だけど、口から言葉が出て来ることはなかったし、身体が動くこともなかった。
全てはその場しのぎの言い訳でしか無い。
あの二人に対してもそうだ。
俺自身の決着──整理がつかない限り、きっと俺はこれからもこんな感じなのだろう。
ただ、その代わりとして。
「ごめん、今はこれが限界だ」
「………………へっ!?」
「……ダメか?」
「…………やっぱり、意気地なし」
「本当に……そうだな」
おでこを抑えるヒナタ。
先ほどよりは幾分か和らいだ表情。
抱きしめたまま、布団に潜った。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない