【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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35_越生アンダー進入口

「何でもかんでも山の上にあればいいってもんでもねえぞ……」

 

 山間の村程度の規模でしか無い市街地を抜けた、小高い丘の頂上。鉄道が見える場所にその入り口はあった。森林限界でも無いのに丘全体がひらけている。さりとて禿山というわけでも無い。奇妙な植生だった。

 

 一度荷物をおろし、岩の上に座る。見下ろす景色の中に山田家は無い。数キロ離れているのだから当然というものだろう。目的が山登りであれば、このタイミングで水筒に入れた温かいお茶とおやつを取り出すところだが、代わりに彼は写真を取り出した。彼自身と、女子二人が写っている。プールに行った時のものだ。

 水中で両腕を取られ、少し驚いた拍子に撮られた。

 

「来年も行きてえな」

 

 大事そうに仕舞うと、その上からポンポンと軽く叩いた。こんなところに持って来ている時点で大事も何も無いのではという話もあるが、問題無い。ただの複製だ。

 

 さて、秋の山上に吹く風は流石に冷たい。彼も環境の変化に強い探索者とはいえ、不快な気温の中で過ごしたいわけではない。いそいそと荷物を背負い直してダンジョンへと入る。

 今回は松明を持って来た。商工会で手に入る、一般的なダンジョン用の松明だ。お値段5万円。

 すでに火はついており、日光の元だと目立たなかったが中に少し入った途端にあたりを煌々と照らしてくれている。

 

「──一応、掛けておくか。

 

 一度両足を踏み入れたダンジョンから態々出て、端末を取り出して電話をかける。

 ダンジョン内であれば確実に繋がらないが、ここも通じるかは微妙だ。出なかったらまた今度だなとお気楽にかんがえていたら3コール目で出た。

 

『もしもーし、どしたの?』

 

「ダンジョン入る前に、一応掛けとこうかなって」

 

『えぇー? わざわざ? ……寂しくなっちゃったの?」

 

「そんな感じ」

 

『ふーん……ふふーふ』

 

「なんだよ」

 

『なんでもない! ……じゃあ、気を付けてね?』

 

「お前もな」

 

『はーい!』

 

 朝、既に一度かけていたため、通話自体はサラッと終わった。しかし短時間だとしても、心に温かいものが染み入ってくるのを確かに感じた。

 

「うん、行くか」

 

 入り口付近は何度も人が通った影響か、さまざまな足跡が見られる。どこのダンジョンでも同じことは見られる。入り口は探索者だけでなく、一般の人間も時折やってくる事がある。行楽気分で寄ったり、おぼっちゃまが護衛と一緒に来たり、商工会の職員が視察やパトロールで来たりと。

 そしてもう一つ、数字の大きいセクターのダンジョンで多く見られること。

 

「人員不足極まれりだなあ」

 

 管理者がいない。第100セクターにはあれほど人員が割かれていたというのに、ここは放置だ。勿論、第100セクターに関しては全てのダンジョンの中でも特に多い。しかし、彼が普段活動しているような──例を挙げれば、同じアンダーである柳生アンダーにおいては、少なくとも一人は職員が待機している。

 それに、入り口付近においては屯しているパーティーが何チームかいるものだ。これからダンジョンに突入するパーティー、業務を終えて来たパーティー、撤退して来たパーティー、ここにはそのどれもいない。貝殻の洞窟もそうだった。

 

「…………」

 

 思うところがあるのか少しだけ黙り込む。しかしわずか数秒の事、すぐに首を振って歩みを再開した。ダンジョンの外から入り込んだ虫や小石を踏みしめ、暗闇の中へ消えていく。

 

「ふむふむ」

 

 視界に入るのは、やはり見慣れたアンダーそのもの。まだ浅すぎて光る結晶も無い為、頼りになるのは松明のみだ。のみとは言っても、松明は十分な明るさでもって彼の周囲、半径5mを照らしてくれている。問題にはならないだろう。これもいつも通りだ。

 

「ゴリゴリゴリと」

 

 いつも通りの風景の中でしゃがみ込むと、リュックをまさぐり何かを取り出した。まだダンジョンに入ってから数十mだ。そんな、モンスターもほとんど出現しないような地上と変わらぬ場所。楽しそうに独り言を呟きながら何をしているかというと、スコップで地面を掘り起こしていた。

 

 ……本当に何してるの? 

 

 他人に見られたら、そんな疑問をぶつけられて当然の奇行。背丈によっては、行動も相まって子供が迷い込んだと勘違いされても仕方ないが、彼の身長は6尺弱だ。平均身長が第一期よりも低くなっているこの世界で、子供と間違われることはまず無い。

 

「先生さまさまだよ……マジで」

 

 彼がいうところの先生とは、永井文俊(ナガイフミトシ)に他ならない。大学には他にも世話になっている教師が大勢いるが、その中で先生と呼ぶのは永井のみだ。

 

「こんなもんかな」

 

 袋を取り出すと土を詰めていく。その上、袋に入り口と書いた。袋をいそいそとリュックに戻し、スコップに付着した土を落とすと立ち上がる。

 

「変わらんとは思うけど、一応な」

 

 肩紐を掴んで歩き出す姿は、そこだけ抜き取ればバックパッカーだ。そうは言っても金属製の防具を身につけているため、総合的にはちゃんと探索者の姿となる。

 

「……もう少しいいやつ作ってもいいかもな」

 

 アキヒロは、言い方を悪くすれば舐めプをしている。身につけている防具はチタンとミスリルの合金。オリハルコンでやろうとしたら高すぎたので、オリハルコンには及ばぬとも強靭な金属であるミスリルを選んだのだ。

 最近はレベルが上がったことに連動して報酬が良くなっている。レイトに付き合っているため低浮上といった感じだが、以前のように自分の業務に集中すればすぐに稼げるだろう。

 

「いいや、欲しがりません勝つまでは」

 

 とはいえ、現在はレイトの面倒を見るという業務を受注した状態が継続している。正式な物では無いので反故にしても何もペナルティーは無いが、そんなことをするつもりはなかった。社会人としての責任と、近い子供を放り出すという反道徳的行為への忌避感。そういったものが根底にあるのだ。

 また、商工会からのペナルティーは無くとも彼自身が彼に失望するだろう。

 

「さて、最初は何かな」

 

 右腰のホルスターにぶら下げられた空気銃。魔剣とどちらが強いかというと圧倒的に魔剣だが、遠距離から処理できるので雑魚相手には重宝するのが銃だった。使い分けができるので、ダンジョンへは常に持ち込んでいる。

 仮に魔剣のみを相手し出したら、銃はそっぽを向いてしまうだろう。空気弾が当たらなかったり、暴発することもあるかもしれない。

 意外と、そこら辺は慎重に行わなければならない。

 

「水……」

 

 さて、彼が今歩いているのは、先ほど登って来た丘の内部だ。ひたすらに下っていく。やや急勾配なくらいで、自転車などに乗っていたら途端に転けてしまうだろう。そんな下り坂の壁からは、水が滲み出ている。山に振った雨が地下水となって辿り着いたのだ。

 水は地面に垂れると、坂の下へ向けて流れていく。ここが異常な重力地帯では無いことを証明してくれた。

 

 しかし、だんだんと水量は増していく。下に行くにつれ、山上から地中を通って来た水が集積しているのだ。

 水量は、10分ほど降りたところですでに靴を半分ほど沈めている。

 

「これは……特殊な地形には入らないのか」

 

 初見でこれはビックリする。知っていれば彼も防水対策ぐらいはしていただろう。水量が増すことで、水勢も増していく。サアサアと小川のような音の中をこれしきのことと進み続ける彼は、やがて坂の終わり──平坦部分を見つけた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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