【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
アリをバラバラに解体して歩きだすこと少し、彼の耳に何かが聞こえた。散発的な音では無く、継続して音を発し続ける何かがいる。立ち止まってよく耳を澄ますと聞こえるのは、サアサアという音。明らかに水音だ。
「小川? …………いや……」
おそらくは湧水が集まって地下流となっているのだろうと当たりをつけ、自分の歩みを妨げるようなものにはならないだろうと納得する。f分の1揺らぎというやつの効果か、ダンジョンの中にいるにも関わらず、少しだけ心が落ち着くような気がした。
しかし油断はできない。
彼の知るアンダーと違って、ここは天井の高さと下の深さに際限が無い。暗闇からモンスターが急襲してもおかしく無いのだ。仮に通路から弾き落とされでもしてみろ、二度と帰ることはできまい。
「ここら辺の地面……採取はやめておいた方がいいか」
一定距離ごとにダンジョンの内壁や地面のサンプルを取ろうと当初は考えていたが、先ほどのモーフィスとの戦闘のように地面を掘り返して、後を引くような結果につながるとまずい。具体的には、崩落事故が起きかねないと判断した。その程度で落ちるなら、戦闘した時のあれで崩れるだろうと諭す内心の彼がいる一方で、あの時は崩れなかったが今回も崩れない保証はどこにもないぞと冷静な彼がいた。
「果たしてどこまで続いているのやら」
通路は微妙に傾いている。コレが永遠に続くのか、それとも途中で完全な平場に到達するのか。いつもの柳生アンダーよりも新しいとはいえ、真っ逆様に落ちるリスクがあるダンジョンというだけで推奨レベルはグンと引き上がっている。
「さあて、鬼が出るか蛇が出るか」
油断なく降りていくと、やがて岩棚にたどり着いた。複数の焚き木の痕跡、どうやらこのダンジョンに潜った探索者達はここで休息を取るのが常識のようだ。残った灰を摘むと、指先で擦る。
「まだ疲れてはいないけど……休憩にしよう」
すでにこのダンジョンに入ってから3〜4時間が経過した。体力的にはまだまだ問題無いというか、もっとペースを上げることもできるが……この先、いつ休憩を取れるかわからない。まだ遠いが、サアサアと水の流れる音は増し、水場が近付きつつあるということも示している。
「よいしょ」
荷物を下ろし、靴を脱いだ。少し不安はあるが、先人達に倣って火を灯して暖を取る。薪などは持ってきていないので、その場に残っている炭の残骸を集めた。
壁に背をもたれさせ、火をボーッと見つめて頭と体を休める。レベルが高かろうが低かろうが、彼にとっては大事な仕事だった。ダンジョンの道中は基本的に気を抜くことはない。この休憩の時間のみ、ほんの少しだけ気を緩めて、探索者では無いただの加賀美明宏に戻る。
そうすると思い浮かんでくるのは大事な人達のこと。
「──」
知らずのうち……蚊の鳴く声よりも細い、口が動いただけで音にすらなっていない声が漏れた。アキヒロ自身も気付かぬ意識の発露。数秒経てば、今は鍛錬をしているであろう彼のことを思う。
家族を失くした痛みを忘れることは意外と簡単で、逆に、痛みを引きずったまま生き続けることは人間には出来ない。二つの間には大きな差があった。
彼は今、必死に生きている。幸せになるという大きくて漠然とした目標よりも、まずはまともに生きていけるようになることが先決だった。
山田道場に来たのは、シエルとレイトの二人が仲良くなって欲しいという──ただ、本当にそれだけだった。レイトが自らの意思でシエルを誘い、シエルはそれを受けた。ならば、この二人が共に歩んでいける手伝いをしようと考えた。
「ヒナタ……」
久しぶりに親友の家にやってきて、少しだけ変わったと思った。彼女があれほどまでに大胆──言ってしまえばアプローチをかけてくるなどと、アキヒロは夢にも思っていなかった。彼の自意識に起因して、男女の友情が存在すると本気で信じていたのだ。
砂上の楼閣よりも脆い幻想、水面に浮かぶ月を捕まえようとするが如き発想。
「俺は……なんでこんなに弱いんだ……っ!」
頭を抱えた。
自分が情けなくて、彼女達に申し訳なさすらあった。もっと力があれば、一級探索者であればスパッと一言で終わらせられるのだろうが……目的の為には、縁をフル活用せざるを得なかった。
「あぁ………………ん?」
何かが近付いてきた。
──────
「ふぅぅぅ……」
見開いた目はしっかりと的を捉えている。引き絞られた力は今か今かと、主の意が決まって解放される時を待ち続ける。
「っ!」
瞬間、詰まった息と矢が解放される。一直線に飛んでいった矢は、初めて的に命中した。放った本人は嬉しそうに振り向き、報告する。
「やったよシエルちゃん!」
「甘い」
「ええ!?」
「あの程度で嬉しがらないで」
「そ、そんなあ……」
「あとうるさい」
すげないとはこの為にあるのだろうというような態度。レイトはガックリと肩を落とし、シエルと順番を変わった。
「ふっ」
シエルは無難に弓を構え、無難に命中させていく。当然、初めてでは無い。そこに喜びはなく、淡々とした作業に近い空気感だった。
後ろに回ったレイトはその姿を見て勝てないことを悟りつつ、自分の初命中が厳しい言葉で終わらせられたことに悲しんでいた。
「初めて当てたのに……」
「モンスターは動いてる」
「そ、それ! 加賀美さんが前言ったことじゃん!」
「だから?」
仲良く口喧嘩をしている二人を置いて、生徒達は稽古を続ける。稽古場でうるさくするなど、本来は怒鳴りつけられても仕方のないことだが、新しい風を吹かす二人がやってきたことで寛容な雰囲気が生まれていた。加えて、本来はこういう時に叱る役目である師範二人がどちらも呆け気味というのも大きな理由になる。
肝心の二人の様子はといえば──
「──はっ!? だ、だめだめ! しっかりして早苗! ……うぅ……」
「あきひろ……………………」
今日はダメだなと顔を見合わせる。幸い、師範がダメになったくらいで稽古を中断するほど彼らは未熟では無い。上座で腑抜けている二人は放置して、各々が各自の稽古に励んだ。
「ぼ、僕だって頑張ってるもん!」
「結果出して」
「ぐぬぬぬ……」
──────
「やる気ないならやめたら?」
「……ごめんなさい」
「…………」
シエルは、氷の如き冷たい目で二人を見ている。なぜ師範である二人が呆けていたのか、彼女には全くもって意味がわからなかった。あんなのを続けるなら彼女達はいらない、そう考えるほどだ。
「何考えてたの?」
「…………うぅ」
何を考えていたのかと言われると、考えていたことをリフレインさせてしまう。考えるほどに煮詰まっていくスパイラルに陥っていた。しかし、そこに救いの手が。
「シエルちゃん、二人にも色々あるからさ」
「……色々って何?」
「ええと……い、色々は色々かな」
「説明して」
「僕にも分からないんだよね」
何せ、おそらく原因なんじゃないかという彼は何も無かったと否定していた。それなのに、二人は赤面したかと思えば悶えて、悶えたかと思えば奇声を上げる。何が起きたのかを察するのは無理だった。
「とにかく、今はそっとしておくのが正解だから!」
「そう」
気遣われた二人はというと、机に突っ伏していた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない