【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
越生アンダーの何処か、いまだ誰も辿り着いたことがない未知領域。
鏡面のように美しく磨かれ、魔素の満ちた岩盤にポタポタと。水滴が落ちる音が響く。しかし、それだけでは無い。この場に響く音は他にもあった。
「ぐっ、がぁっ……!」
跪き、もがき苦しむ。
ダンジョン内で手放したら致命的である自慢の武器を放り出し、喉を掻きむしっていた。同じく荷物も広げようとして放り出され、回復薬が転がっている。明らかな異常。
──目を見開く。
「ぶぐぅっ!?」
コポリと、喉の奥から血が溢れてきた。口から吐き出す。目から、鼻から、耳から。垂れ流される血液。身を震わせる。
「がぁぁっ……!」
歯を食いしばる。心だけは折れぬと、目は今も前を向いていた。
「ごぼっ! げほぉっ! ……ぐぅぅっ……!」
その視線の先、彼が睨むものとは。
そも、何故彼はこんな場所にいるのか。
それを知るには時間を遡る必要がある。
ーーーーーー
時は、彼が休憩していたタイミング。
不甲斐なさに頭を抱えていた彼は、何かを見つけた。
『……なんだ? 赤い……光…………!?』
彼の目に飛び込んできたもの、それは赤く光る無数の光。そして、警告灯のようだと思った彼の思考を塗りつぶす羽音。光と同じく無数の羽音が、彼の周囲から聞こえ始めた。
その正体に気づいた瞬間、戦慄し、即座に立ち上がる。
『いつのまに……!』
近くに来るまで羽音が聞こえなかったのは、水音のせいか。
『…………!』
武器を構え、気付く。
お腹の先が光る特徴。記憶の中にある姿からは随分と凶悪とかけ離れていたが、その正体に辿り着いた。こんなに威圧的ではなかったという違いはあるものの、秋川家でも同じものを見ている。
『ホタルか!』
『ギチチチチ』
集まったホタル達はお見事とでも言うように、羽ばたきを強めて散会した。縦横無尽に宙を飛び回る姿に嫌な予感が強まり、荷物を背負う。
見られている、そんな感覚があった。
『なんだこいつら……これは一体……!?』
商工会にて、ホタルのモンスターの情報は無かった。ゾワゾワとした嫌な感覚、下手に動けば容易く死に至るだろうという予感が、次の一手を鈍らせる。
しかし、ホタル達はそんな彼を待たなかった。
『──なんだっ!』
上空の一体が、彼に目掛けて何かを落とした。目を凝らすと、暗黒の中で赤い光が落下してくるのが見える。
『うおおおっ!』
あれは腹では無いのか──そんな疑問を呈するよりも先に、全力で回避を行なっていた。
──爆発。
『はぁ……はぁ……』
飛び込んだ体勢のまま、見開かれた眼。
自然と息が荒くなっていた。
何が起きたのかを懸命に飲み込む。
彼がいた場所──砂煙に覆われていたが、やがて弱い風に吹き流され、惨状が目についた。
『っ……!』
地面が大きくえぐれている。あそこにいたままならば彼も負傷を負っていた可能性はあった。しかも爆撃とは──無いだろうと考えながらも、仮にそんなモンスターが現れたら最悪だと想像していた手札だった。
『…………撤退だ』
頭の片隅にある段階にはとうになく、どうするか悩むレベルを飛び越えて決断した。そうしてゆっくりと足を踏み出し、ホタルを刺激しないように元きた道を戻ろうとした時に、彼は身体をピシリと固まらせた。
『…………?』
不思議そうに暗闇を見上げる。相変わらず、そこにいるのはホタルばかり。だというのに目を凝らし、何かを探すように視線を辺りへと張り巡らす。
『この感じ……どこかで……』
今もホタルは飛び交っている。先ほどの攻撃を一斉に繰り出してきてもおかしく無いのだから、のんびりと思い悩んでいる場合では無い。
それにも関わらず、忍び足の体勢を維持したまま瞳が目まぐるしく動いている。彼の脳内で、何かが思い出されようとしていた。
そして、彼の瞳が定まる。
『……ソフィア……ロイス…………コマちゃん? ──うおあっ!?』
足元が大きく揺れる。縦に横にと通路を揺らし、全くもって油断していた彼の身体はゴロゴロと転がった。そのまま端から身が飛び出し、奈落へと一直線に──
『っぶねえええ!』
構えていたナイフを岩に無理やり突き刺し、なんとかしがみついた。しかし、しがみついた後も通路は轟音を鳴らしながら揺れている。収まるまで、肝を冷やしながらぶら下がり続けた。
『くそっ……冗談じゃねえ……』
揺れが収まったタイミングで這い上がると、両手を地面につく。顔を上げると、現在地点を把握しようと周囲を見回した。
『ダメだ、わかんねえ』
組み換え。
ダンジョンが急速に変化を起こし、これまで存在していた道が組み換わること。魔素の濃度である程度は事前に察知できると言われているが、完全な予測はいまだに出来ない。巻き込まれると出口を見失ってしまうため、探索者達はこれを最も恐れている。
幸いなことに、このダンジョンは視界が開けている。上へ向かいさえすれば問題無いだろう。
『とにかく上へ──はっ!?』
油断。
致命的な隙が生じた彼は、見上げる余裕すらほぼ無かった。刹那に圧縮された時間の中で出来たこと。それは腕をクロスすること。眼前で発生した赤光が顔面を破壊するのを防ぐことだけだった。
『がっ──』
意識が消失する刹那、白い影を見た気がした。
『──ああ、気持ち悪い』
──────
「ふんふーん……」
鼻歌混じりに掃除をするのは、最近髪を染めるのをやめた関根有紗。既に金髪の部分は髪の中ほどまでになって、地毛の茶髪が侵食している。
彼女の中で起きた変化は些細だったが──それでも、その変化を受け入れることができたことは大きな成長だと、彼女自身は嬉しく思っていた。
箒でサッ、サッ、と家の前を掃除するのは地味に面倒くさい作業だが、これも彼のためと思えば気にならない。
1ヶ月の間の留守。
家を守るのは自分の役目だと彼女は張り切っていた。
高校を卒業すると同時にこの家に転がり込むのは既定路線。そうなれば彼も、やっと最後の一線を──
「きゃー!」
頬を抑え、イヤンイヤンと身体を揺らす。道ゆくサラリーマンは、暇そうでいいな……とチラ見して行った。
「はやーく、帰ってこないかなあ〜」
楽しそうに掃き掃除を終えると、スキップで家の中に入っていく。彼から申し訳なさそうに頼まれたのだ、やらなければ女が廃るというものである。
まだ学期は半ばにも到達していない。八季の中で3つ目の秋が終わりかけているだけだ。少しくらい彼の為に時間を使っても誰が文句など言えようか。
「おやつにしようかな〜」
スコティッシュテリアは、太々しくソファーを占領している。脚をびろーんと伸ばし、いわゆるヘソ天で寝っ転がっているのだ。ここの主人は俺だと言わんばかりの姿に、アリサは彼がしていたようにお腹へと顔を突っ込んだ。
「コマちゃーん! 可愛いねえ〜!」
「わふ……」
やめーやと軽く息を漏らすも……当然、人間にそんな想いが伝わるわけもない。
むしろ、ぐりぐりと顔面を腹に擦り付け始めた。
諦め顔でされるがままになる。
「ふぅ……」
やがて立ち上がった彼女は、どこかアンニュイな顔をしていた。先ほどまで自分のお腹に顔を擦り付けていたくせにこの反応、なんて失礼なやつだ。抗議のひと吠え。
「わんっ」
「……」
唇を尖らせたアリサは、その吠え声を無視するとキッチンに向かった。寝転んでいたコマも耳をピクリと反応すると、それに着いていく。
「ヒロさん……浮気とかしないよね……」
「わふぅ」
「あ、ごめんねコマちゃん。今おやつ用意するから」
コマは、相棒の悪い癖にため息をついた。こんなんじゃいつか愛想を尽かされてしまうぞ、俺が人間なら毎日相手してやるのになあ。そんなことを思いながら、用意してもらったサラマンドラの骨を齧る。
「はふっ、はふっ」
加賀美明宏という人間は、コマから見てなかなか面白い存在だった。眷属達の後始末を請け負っていることもそうだし、妙な女──眷属のうちの一人が惚れていた──の問題に首を突っ込んでいたこともそうだ。後始末の件に関しては感謝しているが、少し生き急ぎすぎだと感じることもある。
「コマちゃんがいて良かった〜、一人だと寂しいもんね」
寂しいというのはよくわからないが、数が増えると飽きがこないのが良い。それぞれの特徴というものがあるのだ。
例えば今、目の前にいるアリサは獣の肉体を持つ。この家で2番目に濃い匂いを残すミツキは、髪に力が集まっている。
そして、彼の最も特徴的な部分とは──魂だった。
「電話しようかな……しちゃえっ!」
端末を取り出して耳にピタリと付ける。
コマも幾度とアキヒロの言葉を聞いていたので、良い加減に覚えた。デンワというやつだろう。
「……繋がらない」
アリサは少しして諦めたのか、端末を放り出して寝室に倒れ込んだ。ジタバタと脚を動かして、何事か恨み節を吐き出しているのを見届けると、コマはリビングに戻った。
「──」
リビングに向かうまでの間に。いつのまにか、雄々しい狛犬の姿を取っている。
牙を剥き出しにし、瞳が白く染まっていた。
「ぐるるる……」
不快な感覚だった。
自分のものに勝手に手出しをされている。
ちょっかい程度ならともかく、こうまで直接的に手を打ってくるということは……舐められているということだ。
それは看過できるものでは無い。
「──」
寝ている子を起こさぬよう静かに玄関を開けると、鍵を閉め直す。
ちょうど配達員がいた。
「──でっ……でででででかっ!? ……本当に犬か!? というか今、鍵閉めてた……?」
「…………」
「あ、ちょ、ちょっと待って! 写真撮るから! えーと、端末端末…………あれ? ……どこいった?」
どこかへ向かおうとする巨大な犬を引き留め、端末をポケットから引き抜いて写真を撮ろうとした配達員。しかし、顔を上げると今の今までそこにいた筈の犬はいなくなっていた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない