【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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39_越生アンダー?

 越生アンダーの何処か、いまだ誰も辿り着いたことがない未知領域。

 鏡面のように美しく磨かれ、魔素の満ちた岩盤にポタポタと。水滴が落ちる音が響く。しかし、それだけでは無い。この場に響く音は他にもあった。

 

「ぐっ、がぁっ……!」

 

 跪き、もがき苦しむ。

 ダンジョン内で手放したら致命的である自慢の武器を放り出し、喉を掻きむしっていた。同じく荷物も広げようとして放り出され、回復薬が転がっている。明らかな異常。

 ──目を見開く。

 

「ぶぐぅっ!?」

 

 コポリと、喉の奥から血が溢れてきた。口から吐き出す。目から、鼻から、耳から。垂れ流される血液。身を震わせる。

 

「がぁぁっ……!」

 

 歯を食いしばる。心だけは折れぬと、目は今も前を向いていた。

 

「ごぼっ! げほぉっ! ……ぐぅぅっ……!」

 

 その視線の先、彼が睨むものとは。

 そも、何故彼はこんな場所にいるのか。

 それを知るには時間を遡る必要がある。

 

 

ーーーーーー

 

 

 時は、彼が休憩していたタイミング。

 不甲斐なさに頭を抱えていた彼は、何かを見つけた。

 

『……なんだ? 赤い……光…………!?』

 

 彼の目に飛び込んできたもの、それは赤く光る無数の光。そして、警告灯のようだと思った彼の思考を塗りつぶす羽音。光と同じく無数の羽音が、彼の周囲から聞こえ始めた。

 その正体に気づいた瞬間、戦慄し、即座に立ち上がる。

 

『いつのまに……!』

 

 近くに来るまで羽音が聞こえなかったのは、水音のせいか。

 

『…………!』

 

 武器を構え、気付く。

 お腹の先が光る特徴。記憶の中にある姿からは随分と凶悪とかけ離れていたが、その正体に辿り着いた。こんなに威圧的ではなかったという違いはあるものの、秋川家でも同じものを見ている。

 

『ホタルか!』

 

『ギチチチチ』

 

 集まったホタル達はお見事とでも言うように、羽ばたきを強めて散会した。縦横無尽に宙を飛び回る姿に嫌な予感が強まり、荷物を背負う。

 見られている、そんな感覚があった。

 

『なんだこいつら……これは一体……!?』

 

 商工会にて、ホタルのモンスターの情報は無かった。ゾワゾワとした嫌な感覚、下手に動けば容易く死に至るだろうという予感が、次の一手を鈍らせる。

 しかし、ホタル達はそんな彼を待たなかった。

 

『──なんだっ!』

 

 上空の一体が、彼に目掛けて何かを落とした。目を凝らすと、暗黒の中で赤い光が落下してくるのが見える。

 

『うおおおっ!』

 

 あれは腹では無いのか──そんな疑問を呈するよりも先に、全力で回避を行なっていた。

 

 ──爆発。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 飛び込んだ体勢のまま、見開かれた眼。

 自然と息が荒くなっていた。

 何が起きたのかを懸命に飲み込む。

 彼がいた場所──砂煙に覆われていたが、やがて弱い風に吹き流され、惨状が目についた。

 

『っ……!』

 

 地面が大きくえぐれている。あそこにいたままならば彼も負傷を負っていた可能性はあった。しかも爆撃とは──無いだろうと考えながらも、仮にそんなモンスターが現れたら最悪だと想像していた手札だった。

 

『…………撤退だ』

 

 頭の片隅にある段階にはとうになく、どうするか悩むレベルを飛び越えて決断した。そうしてゆっくりと足を踏み出し、ホタルを刺激しないように元きた道を戻ろうとした時に、彼は身体をピシリと固まらせた。

 

『…………?』

 

 不思議そうに暗闇を見上げる。相変わらず、そこにいるのはホタルばかり。だというのに目を凝らし、何かを探すように視線を辺りへと張り巡らす。

 

『この感じ……どこかで……』

 

 今もホタルは飛び交っている。先ほどの攻撃を一斉に繰り出してきてもおかしく無いのだから、のんびりと思い悩んでいる場合では無い。

 それにも関わらず、忍び足の体勢を維持したまま瞳が目まぐるしく動いている。彼の脳内で、何かが思い出されようとしていた。

 そして、彼の瞳が定まる。

 

『……ソフィア……ロイス…………コマちゃん? ──うおあっ!?』

 

 足元が大きく揺れる。縦に横にと通路を揺らし、全くもって油断していた彼の身体はゴロゴロと転がった。そのまま端から身が飛び出し、奈落へと一直線に──

 

『っぶねえええ!』

 

 構えていたナイフを岩に無理やり突き刺し、なんとかしがみついた。しかし、しがみついた後も通路は轟音を鳴らしながら揺れている。収まるまで、肝を冷やしながらぶら下がり続けた。

 

『くそっ……冗談じゃねえ……』

 

 揺れが収まったタイミングで這い上がると、両手を地面につく。顔を上げると、現在地点を把握しようと周囲を見回した。

 

『ダメだ、わかんねえ』

 

 組み換え。

 ダンジョンが急速に変化を起こし、これまで存在していた道が組み換わること。魔素の濃度である程度は事前に察知できると言われているが、完全な予測はいまだに出来ない。巻き込まれると出口を見失ってしまうため、探索者達はこれを最も恐れている。

 幸いなことに、このダンジョンは視界が開けている。上へ向かいさえすれば問題無いだろう。

 

『とにかく上へ──はっ!?』

 

 油断。

 致命的な隙が生じた彼は、見上げる余裕すらほぼ無かった。刹那に圧縮された時間の中で出来たこと。それは腕をクロスすること。眼前で発生した赤光が顔面を破壊するのを防ぐことだけだった。

 

『がっ──』

 

 意識が消失する刹那、白い影を見た気がした。

 

『──ああ、気持ち悪い』

 

 

 ──────

 

 

「ふんふーん……」

 

 鼻歌混じりに掃除をするのは、最近髪を染めるのをやめた関根有紗。既に金髪の部分は髪の中ほどまでになって、地毛の茶髪が侵食している。

 彼女の中で起きた変化は些細だったが──それでも、その変化を受け入れることができたことは大きな成長だと、彼女自身は嬉しく思っていた。

 箒でサッ、サッ、と家の前を掃除するのは地味に面倒くさい作業だが、これも彼のためと思えば気にならない。

 1ヶ月の間の留守。

 家を守るのは自分の役目だと彼女は張り切っていた。

 高校を卒業すると同時にこの家に転がり込むのは既定路線。そうなれば彼も、やっと最後の一線を──

 

「きゃー!」

 

 頬を抑え、イヤンイヤンと身体を揺らす。道ゆくサラリーマンは、暇そうでいいな……とチラ見して行った。

 

「はやーく、帰ってこないかなあ〜」

 

 楽しそうに掃き掃除を終えると、スキップで家の中に入っていく。彼から申し訳なさそうに頼まれたのだ、やらなければ女が廃るというものである。

 まだ学期は半ばにも到達していない。八季の中で3つ目の秋が終わりかけているだけだ。少しくらい彼の為に時間を使っても誰が文句など言えようか。

 

「おやつにしようかな〜」

 

 スコティッシュテリアは、太々しくソファーを占領している。脚をびろーんと伸ばし、いわゆるヘソ天で寝っ転がっているのだ。ここの主人は俺だと言わんばかりの姿に、アリサは彼がしていたようにお腹へと顔を突っ込んだ。

 

「コマちゃーん! 可愛いねえ〜!」

 

「わふ……」

 

 やめーやと軽く息を漏らすも……当然、人間にそんな想いが伝わるわけもない。

 むしろ、ぐりぐりと顔面を腹に擦り付け始めた。

 諦め顔でされるがままになる。

 

「ふぅ……」

 

 やがて立ち上がった彼女は、どこかアンニュイな顔をしていた。先ほどまで自分のお腹に顔を擦り付けていたくせにこの反応、なんて失礼なやつだ。抗議のひと吠え。

 

「わんっ」

 

「……」

 

 唇を尖らせたアリサは、その吠え声を無視するとキッチンに向かった。寝転んでいたコマも耳をピクリと反応すると、それに着いていく。

 

「ヒロさん……浮気とかしないよね……」

 

「わふぅ」

 

「あ、ごめんねコマちゃん。今おやつ用意するから」

 

 コマは、相棒の悪い癖にため息をついた。こんなんじゃいつか愛想を尽かされてしまうぞ、俺が人間なら毎日相手してやるのになあ。そんなことを思いながら、用意してもらったサラマンドラの骨を齧る。

 

「はふっ、はふっ」

 

 加賀美明宏という人間は、コマから見てなかなか面白い存在だった。眷属達の後始末を請け負っていることもそうだし、妙な女──眷属のうちの一人が惚れていた──の問題に首を突っ込んでいたこともそうだ。後始末の件に関しては感謝しているが、少し生き急ぎすぎだと感じることもある。

 

「コマちゃんがいて良かった〜、一人だと寂しいもんね」

 

 寂しいというのはよくわからないが、数が増えると飽きがこないのが良い。それぞれの特徴というものがあるのだ。

 例えば今、目の前にいるアリサは獣の肉体を持つ。この家で2番目に濃い匂いを残すミツキは、髪に力が集まっている。

 そして、彼の最も特徴的な部分とは──魂だった。

 

「電話しようかな……しちゃえっ!」

 

 端末を取り出して耳にピタリと付ける。

 コマも幾度とアキヒロの言葉を聞いていたので、良い加減に覚えた。デンワというやつだろう。

 

「……繋がらない」

 

 アリサは少しして諦めたのか、端末を放り出して寝室に倒れ込んだ。ジタバタと脚を動かして、何事か恨み節を吐き出しているのを見届けると、コマはリビングに戻った。

 

「──」

 

 リビングに向かうまでの間に。いつのまにか、雄々しい狛犬の姿を取っている。

 牙を剥き出しにし、瞳が白く染まっていた。

 

「ぐるるる……」

 

 不快な感覚だった。

 自分のものに勝手に手出しをされている。

 ちょっかい程度ならともかく、こうまで直接的に手を打ってくるということは……舐められているということだ。

 それは看過できるものでは無い。

 

「──」

 

 寝ている子を起こさぬよう静かに玄関を開けると、鍵を閉め直す。

 ちょうど配達員がいた。

 

「──でっ……でででででかっ!? ……本当に犬か!? というか今、鍵閉めてた……?」

 

「…………」

 

「あ、ちょ、ちょっと待って! 写真撮るから! えーと、端末端末…………あれ? ……どこいった?」

 

 どこかへ向かおうとする巨大な犬を引き留め、端末をポケットから引き抜いて写真を撮ろうとした配達員。しかし、顔を上げると今の今までそこにいた筈の犬はいなくなっていた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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