【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「う……」
目が覚めると、完全なる暗闇の中。
目が慣れているとか慣れていないとか、そういうレベルの話ではなかった。おそらくナイトビジョンでも無ければ、この場で視界を効かせることは相当に難しいのだろう。
「うぐっ」
なにかに頭をぶつけた。不用意に動き回るのは危険だと、一旦動きを止める。幸いなことに、荷物は背負っていた。
「ここは、どこなんだ……」
意識がはっきりしない。なぜ自分がここにいるのか、いまいち思い出せなかった。ウロウロと、暗闇の中で壁に手をついて、ゆっくりと進む。しかし、光が無ければ話にならない。今、何をしているのか。そこをハッキリさせるために座り込んだ。
「…………」
しかし、時間が経っても全く思い出せない。何故だろう。ポッカリと大事なものが抜け出たような虚な気分だった。荷物を漁ろうにも、暗すぎて何もわからない。上を見上げると、風切り音。おそらく、自分はこの上から落ちてきた。
そこで、整理することにした。
「俺は加賀美明宏」
「19歳、大学一年生」
「人間に生まれ変わった」
「妻子あり」
「幼馴染はヨツカドミツキ」
「父親はカガミエリック、40歳」
「セキネアリサの先生」
「コマちゃんの飼い主」
「ミフネレイトをダンジョンで助けた」
「……ミフネくんとシエルと、ヒナタの家にやってきた!」
「そうだ……それで………………それで?」
何故か、その先が思い出せない。モヤがかかったように、全くその先のことがわからない。視界の端にある色が認識できないように、記憶の中でそこだけが褪せていた。
「ここは……間違いなくダンジョンだ。それは間違いない」
この世界で、おかしな場所といえばダンジョンだ。自分が記憶の一部を思い出せないのも、きっとダンジョンで何かがあったのだ。
しかし、打つ手が無い。脱出するにせよ、何にせよ、光源が必要だ。
「ダンジョンなら、掘れば鉱石が取れるか? ……いや、待て、俺の武器は?」
一気に背筋が凍った。ダンジョンで武器を無くすのは、割と致命的だ。この空間になければ、二度と見つからない可能性もある。
「くそっ、せめて光があれば……!」
悪態をつき、地団駄を踏んだ。
すると──足元が地響きを立てながら揺れ出した。
「おおっ!? ……まさか、組み換えか!?」
このままだと、壁に飲み込まれかねない。足場が動くのとは逆の方向へ動く。穴があったりしたら詰みだが、落ちるだけならまだマシだ。
「ここはなんなんだ、本当に……」
カランカランと何かが鳴りながら、足元が動いている。
「何の音だよコレ」
不気味さを感じつつも、動かなければ待つのは恐らく死。無駄に死ぬのだけは本当に嫌なので、必死に足を動かした。
そして、嫌な予感というのは当たるものなのか。
足元がすっぽ抜けた。
「──うおお!?」
しかし、いきなり光も現れた。どうやら下までは数十m程度のようだ。
「あ……」
落下しながら、自身の横を同じように落ちていくナイフを見つけた。先ほどのカランカランという音はコレか。
しかし、空中では重心の移動くらいしかできない。数百mあれば空気抵抗を使って多少は移動できるのかもしれないが、この程度の高さでは落下にかかる時間は数秒だ。
「とうっ!」
ヒーロー着地を決め、急いでナイフを回収する。
「ああ良かった、肝が冷えるぜ本当に」
鞘に収めると、今度は自分が今置かれた状況について再度整理する。通常のダンジョンに比べて明るい。松明もライトも無いが、しっかりと周囲が見える。
その理由は明確で、光る結晶が存在しているからだ。メタエレメンツか、魔石に類する高密度の魔素の結晶か。
確かめるには持ち帰るのが1番だが、そもそも帰れるのかがわからない。
「……何で削れてるんだ?」
壁面に沿うような形で。結晶は削られていた。まるで、何者かが通路として利用するために意図的に削ったかのようにさえ思える。
「そんなわけないか」
いくらなんでも、ダンジョンでそんなめんどくさいことをする意味がわからない。とりあえずは、手頃な大きさの結晶を引き抜くことにした。魔剣で地面をぐりぐりと抉る。露出させた結晶に手をかけて、気付いた。
「硬いなこれ」
石が砕けるほどの力を込めているはずだが、ビクともしない。生意気な。本腰を入れることにした。
「んぎぎぎががが! …………ぎぎぎぎぃー⤴︎!」
全く、動かない。
「何だコレ!?」
両足で踏ん張って、思い切り力を上にかける。しかし手がすっぽ抜けて、15mほど飛び上がった。
「ほ、他の結晶は……」
もう少し掴みやすい結晶を見つけ、ナイフの先で地面を掘る。ナイフが欠けた。
「おおい嘘だろ!? 地面だぞ!」
横着しなければ良かったと後悔。悲しみながらも、魔剣に切り替えて地面を掘り返す。やたら地面も硬い。再度結晶に手をかけ、踏ん張る。
「ふんぬぬぬぬ! …………だめだ、取れねえ」
コレは無理だと諦め、通路を進むことにした。足音がカツンカツンと反響する。しかし、どこに繋がっているのかが全くわからない。
「うーむ、このままだと死ぬな」
それは、冷静に状況を観察した結果だった。地面を掘って進むのは無理。現在位置も分からない。この通路が出口につながっているのか、奥に進んでいるのか、全く判然としない。
これでダンジョンから脱出しようというのは、無理があった。胸ポケットを探る。そこに入れているもの。記憶が曖昧でも、それくらいはわかる。
「ミツキ、アリサ……よく分からないけど、俺死ぬかも」
アホすぎて、死ぬことに対して何の感情も湧いてこない。何で記憶喪失になって死にそうになっているんだ。せめて、雄々しくモンスターと正面切って戦ってから死ね。
そんなふうに自身へと罵声を浴びせるアキヒロ。しかし、出来ることもないのでこの巨大な洞窟を進み続けることを選んだ。
進みつつければ活路が開けるかもしれない。そう思う彼の前で、地面から滲み出てくる影。
「おっ……とりあえず逃げるか」
相手の正体もわからずに戦うのは得策では無い。モンスターの中には、初見殺しを扱うような相手というのがいる。陸上の中距離選手程度の速さではあるが、その場から走って離れた。
「……なるほど」
影。
滲出を終えると、ゆっくりとアキヒロ目掛けて動き出した。何となく見覚えはあったが、よく分からない場所でよく分からないやつと戦うことほど危ない事もない。
リスク管理だけはやっておけと常々アリサに言っている身として、逃げ一択だった。
「──しつこいな」
何十分走っても、影は現れる。地面から滲み出るという特殊な出現方法。他のモンスターがいないのは助かるが──本当に、どこまで走っても現れる。
心なしか、数が増えているような……それに、形も一辺倒では無い。
「とりゃっ!」
石を投げつける。
影をすり抜け、向こう側に落ちた。
「なんなんだっての!」
再び、逃走。
激しく動き回るわけでも、火を吹いてくるわけでもない。ただ、ゆっくりと近付いてくるだけだ。そもそも、危害を加える意思があるのかすら分からない。
ますます似ていた。
「──おっ! やっと分かれ道か!」
通路を進み続けると、二股に分かれた場所につながった。厳密には、分かれ道というか、元の巨大なトンネルと、そこの岩壁の一部が崩れて別の細い通路につながっているだけだが。
と、その時。
「なんだ?」
また、揺れだ。
仮に、モグラに類するモンスターであれば。下手に動いたら場所を捕捉されて、食われてしまうかもしれない。
──戦う? あり得ない。
あの結晶の異常な強靭さ。
彼の予想として、ここは、彼のレベルでは到底クリアできない難易度のダンジョンだった。つまり、そこに出現するモンスターもまた、レベルが違う。
なぜ、そんなところに自分がいるのか。
「……そうか……また、厄介ごとに巻き込まれたか」
ここに至って、少しだけ答えが近付いてきた気がした。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない