【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「っと……広いな」
大きな空間。400mトラックくらいか。
そこは良い。狭い場所があれば、広い場所もある。ダンジョンというのはそんなものだ。アキヒロもそこまで気にしないだろう。
しかし、地面を観察して気付いたことが一つ。
「……これ、あそこと一緒だ」
例の太い通路。あそこと同じになっていたのだ。結晶が滑らかに削り取られている。それはつまり、あの通路を辿っていってもこの場所にいずれはたどり着いたということだろうか。
「…………」
通路には、目ぼしいものは無い。
なんならモンスターもあまり──
「うわっ!?」
外套に被さるようにして、何かが降ってきた。
『ギィ! ギィ!』
「うおお! なんだ!?」
フードの上でゴソゴソと動いている。気持ち悪い鳴き声をあげながらシャキンと音が鳴る。素手で触るのはあまりにもなシチュエーション。外套で包んで、バサッと放り捨てた。
「──気持ち悪っ!」
『ギィッ!?』
それは、ワームの幼体のようだった。体長は1.5mほど。ギチギチと四つの大きな顎が口周りに付いている。しかも、細かい歯が口内をびっしりと埋め尽くしていた。元はミミズだろうが、こんな気持ち悪くなってしまうとは……と、アキヒロは魔剣を構えた。
──仮に幼体なのであれば、生まれた時からモンスターなのでミミズも何も無いが。
「とりあえず殺すか」
幼体だからと特に躊躇うこともない。当然だ。これがやがて、人の命を脅かすモンスターへと育つのだから。振り下ろした魔剣は、ワームの首を切り落とす軌道だった。スッと入ってスパッと落とす。そのビジョンが見えていた。
「…………っ」
『ぎぃっ!』
「通らない……!?」
まさかの結果。
切り付けた魔剣はブニュッと押し返され、全く歯が立たない。これには流石に冷や汗を流す。すぐに距離を取る。
「幼体の時点でアレかよ」
いよいよもって、とんでも無いところに来てしまったという認識だった。戦う事は放棄するのが無難。さっさと進む事にした。レベルが幾つ違うのか、想像すらつかない。
広場空間をまっすぐに突っ切ろうとした瞬間──
『──』
「ん? …………!」
完全に失念していた事。あのモンスターはどこから来たのか。
「壁に同化してやがったのか!」
ウニョウニョと、大量のワームが押し寄せていた。
『ギィッ! ギィッ! ギィッ! ギィッ!』
「っ!」
逃げる。
逃げてばっかりだが仕方がない。彼はここにおいては食物連鎖の最下層。プランクトンみたいなものだ。栄養あんまりないし大きくもないけど、とりあえずいるから食うか〜みたいな。
「脱出したら二度と来ねえぞこんなダンジョン!」
『ギィッ!?』
捨て台詞を吐きながらダッシュを開始した彼を追いかけるワーム達。おい逃げんな! 食わせろ! とでも言いたげに、焦りを見せる。這う奴もいれば、飛ぶ奴もいれば、潜る奴もいれば、触手で歩く奴もいる。
「何でも有りじゃねえか!」
幸いな事に、そこまでしてもワーム達の移動速度は大したことがない。彼は、自分が出てきた通路から見て空間の対角線上にあった通路に逃げ込んだ。地面の中へ潜るような奇妙な入り口だった。
外壁にいくつもあった巨大なトンネルは、あからさまに地雷だったので避けた。
逃げ込んだ先でも、影は現れる。
「神経すり減らすぜ……運が良くて助かるけどな」
そんなことを口走りながら、背後を振り返る。ワーム達はこの通路にまでは付いてこなかった。ただ、進入口を塞いで涎を垂らしている。
あまりの気持ち悪さに顔を顰めざるを得ない。
「うぅっ気持ち悪い」
身慄いまで。
あれに群がられる最期というのは、自身の想像する中では最も悍ましく、惨めで、苦しく、寂しい最期だろうと結論付けた。
──────
ヒナタは忙しなく立ったり座ったりを繰り返していた。
「遅い……」
いつまで経ってもアキヒロが帰ってこない。
長くても2日で帰ってくると事前に聞いていたのに。少しくらいは誤差あるかも! と元気に言っていたが、それにしたって限度はある。
すでに3日目だ。
いくらなんでも、少し遅すぎやしないだろうか。それとも探索者にとっての1日2日というのは、常人の1時間や2時間と同じようなものなのだろうか。
「大丈夫だよな……」
そんなわけもないだろうと自分で分かりきっていることを考えるほどには、不安が高まっていた。昔の連絡先を頼りにミツキに連絡して聞いてしまおうか。何度も悩んで、そして辞める。
仮に、これがアキヒロの普通なのだとしたら、自分がすごくアキヒロのことを心配しているみたいに思われてしまうかもしれない。
別にそういうのじゃない。
ただ、予定の時間に帰ってこなかったから少しだけ苛立っているだけだ。
友達のことを心配するのは当然だ。
支離滅裂に思考を巡らせて自分の気持ちを落ち着かせようと試みるも、動きは止まない。
ウロウロとリビングを歩き回る。
「ああ、もう! 何で私が心配してやらなきゃならないんだよ!」
「ヒナタちゃん……もう夜だから、寝よう?」
ガチャリと扉を開けてリビングに入ってきた早苗。昼間から何にも手につかない様子の妹に心を砕いていた。
「……姉ちゃんは心配じゃないのか?」
「心配だけど……私たちにできることって何にもないよ?」
「そうだけど……!」
「だけどアキヒロくんも、帰ってきた時にヒナタちゃんが目元に隈を作ってたらすっごい心配しちゃうと思うよ?」
「そんなこと今はどうでもいいだろ!」
「二人が起きちゃうから、静かにね」
シーッと、唇に人差し指を当てる。
シエルもレイトは、今日も今日とて稽古で疲れ切っていた。少しの物音で起きることはないだろうが、騒ぎ続ければ熟睡し続けている人間であっても起きる。道理だ。
「今日はさ、もう寝よう?」
「…………」
唇を噛んで、顔を歪める。
何もできない自分がもどかしかった。親友がどんな目に遭っているかわからないのに自分だけ寝る。そんなに図太くはいられない。
「今日はもう、神様に祈って寝よう?」
「………………分かった」
二人は道場に向かった。
神棚。
祈る時はここと決まりきっている。
並んで手を合わせると、ヒナタの心が少しだけ落ち着く。ルーティンワークを挟んだ事によるものだが、それでも彼女の心は軽くなった。
どうか、あのバカを連れ戻してくれますように。どうか、無事に帰ってきてくれますように。色々と言いたいことがある。
約束は守れとか。危ないことをするなとか。人に心配をかけたんだから飯を奢れとか。
だから、どうか。
神様、あいつが無事に帰ってこられるように力をお貸しください。
そう、丁寧に祈る。
「……うん、これでいい?」
「ごめん姉ちゃん」
「大丈夫、お姉ちゃんだからね」
「……寝るわ」
二人はそれぞれの寝室に戻り、布団に潜り込む。
ヒナタは、それでもなかなか寝付けなかった。神様に祈ったとて、それが実現したことなどない。結局のところ、この気持ちを抱えながら待ち続けないといけないのだ。
「っ……」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない