【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「……」
「……」
「…………」
「…………」
食卓は静かだった。いつもなら、もう少し会話があるはずなのに。今日の稽古の事や、二人の課題、昼飯夕飯の当番。話すことなんて、いくらでもある。それこそ、今だって別に話題が枯渇しているわけではない。
強いて言うならば、ヒナタが1番静かだった。しょぼくれた顔で朝ごはんをもそもそと食べる。いつものキリッとした眉はどこへいったのか、眉尻も下がっている。
ただ、ヒナタだけが変なわけではない。レイトは時計を仕切りに気にしているし、箸で取った野菜を口に運んで噛むことすらせずに皿に戻している。つまり、全く食べ進んでいない。
シエルは通常運転に近いが、レイトのことをチラチラと見ていた。
「み、みんな……」
サナエは年長者として。ここは自分が盛り上げるべきかと思索したが、そんな空気ではないと思考が着陸した。
サナエとて、アキヒロのことが心配していないわけがない。だが、探索者とはそういうものだと受け入れてもいる。父親から耳にタコができるほど聞かされていた。
元探索者であった父親は、雷を操る異能を持っていた。幼い頃は、見せて見せてと良くせがんだものだ。そんな父が、探索者はいつ死んでもおかしくないから、結婚するなら引退させろといつも話していた。
実際、父親も結婚する時には探索者を引退したらしい。
「サナエ、レイトはどうしたの」
「うん……わかんない」
しかし、そんなサナエから見てもレイトの挙動はバグり散らかしていた。そして、シエルの言葉にぴくりと反応したレイトがシエルの方を向く。
途端に泣きそうな顔をした。
「加賀美さんが死んじゃったら、どうしよう……」
「死んじゃったら、死ぬけど」
「…………」
ムッツリと黙り込む。流石に、いつものようにシエルに対応出来るほどの余裕がなかった。彼女が口下手なのは分かっている。しかし口を開けば、良くない言葉を彼女に対して浴びせかけてしまいそうな気がした。それならばせめて黙っていた方がマシだ。
「……ごちそうさま」
ヒナタはご飯を食べ終えると、カチャカチャと皿を片す。当番でないのにも関わらず、皿洗いを終えると扉へと向かった。
「ヒナタちゃん?」
「……寝る」
「…………そっか」
流石に今日は仕方ない。サナエは特に言及せずに見送った。扉が閉まったあと溜息をつく。本当に、女泣かせな人だ。妹と何かあった直後にこんな事になるなんて、と気分は沈んでいく。
それに、自分だって彼のことは大好きだ。普通な顔をしているつもりだが、やる気は半減している。
「今日は辞めようかな……」
「ダメ」
「……シエルちゃん。今日は私もちょっと……ごめん……」
「ダメ、もっと気分が黒くなる」
「…………」
「こういう時は動く」
「…………うん、そうだね」
「私も……師範のお仕事、手伝うから」
それは普通に邪魔なので辞めて欲しいと、サナエは拒否した。
──────
「加賀美さん……」
朝飯後、部屋でひしがれるレイト。
失望していた。
アキヒロにではなく、自分に。
仮に彼が本当に死んでいたら、自分はどうするべきであるかと考えたのだ。どうすれば幸せになれるか。幸せな未来へ辿り着くためには、一体なにからはじめればいいのか。
愕然とした。
何にも思いつかなかったからだ。
あの暗闇で彼と出会って、そこからは付きっきりと言っていいほどに一緒にいた。彼がダンジョンに行く時は基本的に着いて行ったし、どこかへ出かける時は一緒だった。やる事には大体アキヒロが関わっていたと記憶している。その間、彼は大体のものに金を出してくれた。それは自分の体を狙っているからだと勘違いした時もあったが、全く違った。
優しさに甘えていれば、彼に着いていくだけで話は進んでいった。
しかし、彼がいなくなった時のことを考えると──ショックを受けた。自分が何をすればいいかということについて、自分自身では全く考えていなかったのだ。それに……とても悲しかった。自分を助けてくれた人がこんなにあっさりとダンジョンに飲み込まれるなんて。
実際は違うところもあるが、彼の認識としてはこんな感じだった。
「……っ」
彼がいなくなってしまえば、三船黎人は一人ぼっちの孤児に戻る。まるで、深い水の底に置いてけぼりにされたような気分だった。
体育座りで、顔を埋める。
この1ヶ月が終わったら、一体どこへ行けばいいのか。それを考えることすら恐怖だった。
「──レイト」
部屋の電気が着いた。
入ってきたのはシエル。彼女の部屋でもあるので、入ってくるのは当然だ。しかし、情けないところを見られたと思って赤面する。
「な、なに!?」
慌てて立ち上がると、シエルは静かに言った。
「私がいる」
「…………!」
それは、当たり前のことだった。
当たり前と認識するのが馬鹿らしいくらいに当たり前のことだ。
レイトとシエルはパーティーメンバー。ダンジョンにおいて命を賭けてお互いの背中を守るパートナー。
一蓮托生とは、彼らのような間柄の人間のためにあるものだ。
「シエルちゃん……」
まだ、彼らは出会って間もない。だが、意味も無く一緒につるんでいる人間たちなどよりも確かな時間を過ごしていた。
シエルは、この頼りない少年を好ましいと思っていたし、レイトも、この頼れる少女を仲間としてありたいと思っていた。
「──あっ」
レイトは、気付かされた。
自らが本当に見るべき相手。この一見して無感情な女の子こそ、自分が本当に歩んでいくべき相手。この2週間ほど。彼女とずっと一緒にいた。
ムッとさせられることも多かったが、誰かと一緒にいるというのはとても──気が楽、だった。
『彼女たち』と離れ離れになって……心が砕け散りそうだった。生き残りたくなんか、なかった。同じ場所にいたかった。いいや、今だって──あの時に戻れるのなら、同じ場所へ。だけど、自分は生き残ってしまった。
夢に見ない夜は無い。
あの日、自分が見捨てた彼女たちの事を。
幸せだった日々のことを。
寝る前だって、彼女たちの顔が思い浮かぶ。思い続けて──思い続けて──思い続けて──気分が軽くなることなんてなかった。
きっと、一人なら……昼間もそうだったのだろう。
だけど──過ごしたのは、あまりにも濃い時間。
山で修行をしていたら、二人でウサギに追いかけられたり──
『うわああああ! オオウサギだああああああ!!』
『っ!』
アキヒロが裏の池で河童に沈められたり──
『加賀美さあああん!?』
『ごぼぼぼぼ』
シエルがお風呂に入ってる時に間違えて入ったり──
『──うわっ!? ご、ごめん!?』
『ばかっ』
日向が料理に失敗して、明宏が全部食べたり──
『まずい! おかわり!』
『む、無理して食うなよ……』
『はっはっは!』
早苗と蹴鞠をしたり──
『はいっ!』
『ほいっ!』
本当に、レイトは楽しかった。彼らと一緒にいる間だけは、暗い記憶を封じ込めることができた。例えそれが、根本的なものから目を背ける行為だったのだとしても──それは、正しく彼にとっての救いだった。
そして、常にそこにはシエルがいた。
「レイト」
「な、なに?」
「私も……楽しいよ」
「──!」
まるで、彼の思考を読み透かしたかのようなシエルの発言。驚きつつも、彼女はこうなんだと分かってもいた。
いつだって、発言が先回り。一人だけ数秒先の世界を生きているんじゃないかと思うような鋭さ。
それは時として、鋭すぎて他者を傷つけることもあるけど。少なくともレイトとの相性は悪くなかった。
だから、レイトは答える。
少しだけ照れている目の前の少女へ。
「ぼ、ぼくもっ!」
「……」
「ぼくも! 楽しい、から!」
「……うん」
「だから──」
『────!』
「──え?」
「これからも僕と……シエルちゃん、どうしたの?」
「っ!」
「シエルちゃん!?」
それは突然だった。
いち早く何かに気付いたシエルが飛び出して行く。
縁側の窓を開けて、空を見上げた。
そして、呆然とつぶやく。
「なに……これ……」
「そ、空が……」
空が暗く、黒く、重くなっていく。
苦しさすら覚えるような圧迫感。
雲では無い。太陽は確かに出ている。
「太陽が……黒く……!?」
どこまでも明るく、核融合により世界を輝かせるはずの空の象徴。太陽は彼らを照らしてはくれなかった。
雲によってでは無く、何か不吉に感じさせるようなものが空を黒く染め上げている。
「きもち、わるい……」
「──シエルちゃん!?」
それを見て、シエルはしゃがみ込んだ。顔が真っ青になっている。すぐに肩を抱き、部屋に戻った。
「シエルちゃん……喋れる?」
「…………!」
首を横に振る。その様子に、これ以上聞くのは彼女のためにも良く無いと切り上げた。
その代わり、抱きしめる。少しでも気分が良くなればいいと。
しかし、部屋の窓から覗く空は今も、黒々としている。とても気味が悪かった。
「なにが……起きているんだ……!?」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない