【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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45_コマちゃんだよ〜

「ハッハッハッハッハッハッ」

 

「ん? なんの音だろ…………コマちゃん!?」

 

 シエルを寝かせていたレイト。異様な音に気付いて廊下に出ると、そこにいたのはコマちゃんだった。

 スコティッシュテリアにしては大柄な体。黒い体毛。あり得ないと思いつつ、内心ではアキヒロの家にいたあの犬に間違いないという確信があった。しかし、何故ここに彼のペットが? という疑念は全く消えるものでは無い。彼の家からここまでは数百km離れているのだ。

 

「まさか走ってきたの!?」

 

「ワン!」

 

「聞いてもわかんないか……いや、本当になんで?」

 

 レイトのちっぽけな脳みそでは、この事について『らしい』と思えるような予想を立てることすらできなかった。

 

「うーん……」

 

 シエルとコマちゃんの間で、何度か視線を往復させる。家主である早苗にこのことを報告しなければという思いはある。しかし、シエルのことも心配だった。何ができるわけでもないが、だからと言って彼女の側を離れるのは少しばかり……ただ、悩んでいる時間も惜しい。枕元に向かい、少しこの場を離れることを報告する。

 

「ごめんね? こんな時に」

 

「早く行って」

 

「あはは……うん、なるべくすぐに戻ってくるから」

 

「…………そう」

 

 彼女との距離感がグッと近付いたような気がしていた。できる事ならすぐ近くにいたいほどには。そんな時にも相変わらずな彼女に苦笑しつつ、コマちゃんを抱っこしようとしゃがむ。スルッと腕の間を抜けて逃げられた。

 

「コ、コマちゃん!? 待って!」

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 一目散にどこに向かうのかと思えば、お風呂場。遅れて着いたレイトの耳に聞こえてきたのは、シャワーを浴びる音。

 

『ふん、ふん、ふーん』

 

 早苗がシャワーを浴びていた。

 流石にここに突っ込むのはおかしい。相手は、見た目こそ年下だが歴とした成人の女性だ。そのお風呂シーンを覗いたとなればこの家にはいられなくなる。

 大人しく退散しようと促す。

 

「ほらコマちゃん、今はダメだよ」

 

「わうっ、わうっ」

 

『──犬?』

 

「あ、早苗さん! 御免なさい、僕にもよく分からないんですけど──」

 

『うん、待っててね。もう少しで上がるから』

 

「……リ、リビングで待ってます…………あ、でも、湯船にはゆっくり浸かってきてください」

 

 今度こそコマちゃんを捕まえてリビングで待つと、20分経ってもこない。まさかのぼせて倒れてるんじゃ──そう思って見にいくと、早苗は廊下から外を見つめていた。呆然とした顔。

 彼女はまだ、この光景を見ていなかったのだ。

 

「レイトくん…………これ……」

 

「早苗さん、実は──」

 

 レイトは、彼女がお風呂に入っている間に起きていたことを話した。その間、早苗はいつもの明るい表情を見せなかった。それも当然だろう。何せここは彼女の愛する故郷。こんな大異変が現れては、不安にもなるというものだ。

 

 しかし、グッと堪えるかの様な表情を見せると、足元で見上げるスコティッシュテリアを指差す。

 

「…………それで、この子は?」

 

「この子はコマちゃん。ええと……加賀美さんのペットです」

 

「え? 連れてきてたってこと?」

 

「そんな話は聞いてないんですけど……」

 

「なんでここにいるの?」

 

「分からないんです、取り敢えず話しておこうと思って」

 

「…………」

 

 ワシワシと撫でる。恐ろしく手入れされた毛並み。どれだけ手入れすればこれほどの艶と滑らかさを手に入れることができるのか。

 少しだけ羨ましいと抱き上げる早苗に対し、コマちゃんはジッ、と眼前から彼女を見つめた。

 

「…………っ」

 

 何故だか早苗は、自分の内心が丸裸にされているような気分になった。少しだけ怖くなって目を逸らし、足元に再び降ろす。

 

「……ふん、ふんふん」

 

 今度は、早苗のお股に顔を突っ込む。鼻を鳴らして、何かを嗅ぎ始めた。

 

「わ、わあっ!?」

 

 慌ててひっぺがす。

 レイトも思わず顔を背けた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 気まずい沈黙が二人の間に流れる。免疫の無い二人。顔を少しだけ赤らめると、カチコチと時計の音だけが進んでいく。

 

「ふん、ふん、ふん」

 

 コマちゃんは早苗の顔や手、色々なところを観察しているようだった。

 

「あ、あはは……なんだろうね……」

 

「はは…………」

 

 気まずい! 恩人のペットからセクハラを受ける見た目年下先生の姿を見るのはあまりにも濃すぎるし、何を言ってあげればいいかも分からない。

 

「「あ、あの/そういえば──」」

 

 しかし、気まずさを解消するために何か話題でも一つ……と口を開きかけた二人の声は遮られた。

 

『──よし、覚えた』

 

「「え?」」

 

 気付けば、コマちゃんはいなくなっていた。そのかわり、体高だけでレイトに匹敵するくらいの巨大な狛犬が4本足でしっかりと床の上に立っている。

 というか……今、喋った? 

 レイトは混乱の中で、目の前の化け物に話しかけた。返答など返ってくるはずが無いと思いながらも。

 

「あの……どなたですか?」

 

『うん? …………まあそうか、これだけエーテルが撒き散らされているんだもんね』

 

「ほ、本当に喋った!?」

 

『喋るともさ。なぜなら僕たちには知性がある』

 

「……知性……あなたは何ですか?」

 

『何って、コマちゃんだよお?』

 

 それは、見た目からは想像がつかないほど剽軽な話し方だった。話し方──そもそも犬やバケモノが喋るのかという根本的な問題は置いておくとして、そのバケモノはとても親しみやすい性格のような気がした。

 

「いやっ、コマちゃんはこーんな小さいワンちゃんで……」

 

『残念! なんとそれは世を忍ぶ仮の姿! 本当の姿はこれさ!』

 

「ええ……」

 

『信じられないならば見せてやろう! うおおおおおお!』

 

 0.2秒ごとにスコティッシュテリアの姿と狛犬の姿を行ったり来たりし始める、自称コマちゃん。

 早苗とレイトは顔を見合わせた。

 サブリミナルワンコと化した目の前の化け物は、一体何なのか。しかし、早苗には一つだけ思い当たるものがあった。かつて遭遇したあの存在と、少しだけ似ている気がしたのだ。

 

「あの……もしかして神様、ですか?」

 

『そうだよ、よその子。……ああ、漏れは別にここの神様じゃないからね? 勘違いしないでちょ』

 

「よ、よその子……一応私には早苗って名前が──って、そうじゃない! 何でこんなところに神様が!?しかも私たちの前に!」

 

「もれ……?」

 

『おっと、残りカスが……これは不可抗力だから!』

 

 本当に何なんだこいつ……と二人して対応に困る。本当に神様なのだとしたら、直に見てしまえば精神が汚染されるはずだし。本当に神様じゃないのだとしたら正体が不明すぎる。

 

『疑われてる! 悲しい! これでも結構信仰を集めてる自覚があるのに、やっぱり人前に姿を表さないとこうなっちゃうんだ! 井戸端会議でみんなに教えなきゃ! 他の神様とか生では見たこと無えけど! ガハハハッ!』

 

「おい! うるさいんだ、け…………ど?」

 

 あまりのうるささに、寝ていたはずの日向がやってきた。しかし、扉を開け放った先にはでかい犬。頭の上にハテナが浮かんだ。思考の止まった日向に顔を向けた犬は、まず鼻をひくつかせた。

 

『くんくん……うわっ、アイツまたヨメ増やしてるじゃん。ぶっこ──いやいやまずは挨拶からだよね。おひさ〜』

 

「うわっ!? なんだこいつ!?」

 

 挨拶と同時、またもやサブリミナルワンコムーブを見せつける。これはもしかして一発芸の類なのだろうか。それならばお茶でも出すべきかと早苗は悩み始めた。

 

『コマちゃんだよ〜』

 

「お、おい! 姉ちゃん、なんだよこいつ!」

 

 沈鬱な感情や態度を維持する余裕がなくなるほどの衝撃。何故かお湯を沸かし始めた姉に駆け寄る。当然、バケモノには近付かないように壁際を通ってだ。

 

『覚えてもらえてなくてかなぴー』

 

「お、お前みてえなバケモノ知るか! 誰だよ!」

 

『聴きました奥さん!? バケモノですってよ! でも確かにバケモノも神様も広義では大差ない! 悔しい感じちゃう! ──いやいや、そもそも神様って何だよって突っ込みたくなるよね! 初めてそう呼ばれた時は頭の中ホワイジャパニーズで埋め尽くされたもん! あ、ごめんジャパニーズって言っても伝わらないよね! 蒼連郷のみんな、こんにちわんこそば!ところでソウレンキョウってほうれん草みたいな響きだけど、何でこんなセンスのない名前にしたんだろうね!」

 

「え……え……」

 

 レイトに向けて、反応する隙間を与えぬ言葉のマシンガンを浴びせかける。ポカンと口を開けるばかりのレイトは、目の前に立つバケモノの体を上から下まで一度舐める様に見る。何が起きているのか。

 ──もちろんドン引きしていた。

 

『ところでヨメ! この姿に見覚えはないかい?』

 

 小さくなり、スコティッシュテリアの姿で軽く駆け回る。板間をカリカリと駆ける音。日向はタタラを踏み、壁に背をぶつけた。

 

「………………コマちゃん!?」

 

『ほら〜覚えてるジャーン』

 

「いや待て! 嫁って何だよ!」

 

『え? 言って良いの? 僕は良いけど……君は──』

 

「──言うな!」

 

 片顔を抑えて、大声でストップをかける。見える片側の顔と耳は当然の様に真っ赤になっていた。日向を除くその場の全員は、半ばわかっていたことなので特にそれに対して反応はしない。

 しかし、コマちゃんは狛犬の姿になると、ボルゾイの如く鼻をひん曲がらせる。

 

『ほら……ね?』

 

 どうやら犬なりのドヤ顔らしい。

 

「あはは……」

 

 事あるごとに話題を振られるレイトは、逃げ出したそうに後退りをしていた。もはやこれはパワハラである。

 

「ほ、本当にコマちゃんなのか!?」

 

『コマちゃんだよ〜』

 

「それやめろ!」

 

 サブリミナルワンコにいい加減イラついた日向。見ようによっては、FPSゲームで言うところの屈伸煽りみたいなものである。

 

「だ、だいたいコマちゃんはアイツの家に住んでるだろ! 神様なら霊領に──」

 

『家出してます』

 

「なんだそれ!?」

 

『あてくし、あの人の家で同棲してるの……ぽっ』

 

「…………」

 

『あ、怒った!』

 

「怒ってねえ!」

 

『うーん……確かにこのツンデレはクセになる。そこにコショウをひとつまみっと……』

 

「なんなんだよこいつ……!」

 

 日向をイジるコマちゃんの元に、コトリと皿が置かれた。神様に対してのもてなしという事で、早苗がお茶を淹れたのだ。

 

「あ、お茶でーす」

 

『これはご丁寧にどうも、こちらは粗品ですが』

 

「へっ?」

 

 そういって差し出したのはミニマムなコマちゃんの形をしたぬいぐるみ。

 

『こちら、何と非売品! 持っているだけでちょっと運気が上がるともっぱら人気の商品でございます! だけど、あのお守りには勝てない! なんで!? 僕も結構格のある神様っぽいのに! ……多分司ってるものが違うんだろうね!』

 

「え、こ、これ……もらっていいの?」

 

『良いかどうかは俺が決めることにするよ』

 

「う、うん、そうだね?」

 

『あ、滑った』

 

 屋外でも無いのに、冷たい風が吹いた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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