【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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46_小細工

「くっ……」

 

 加速していく。滑らかに磨き上げられた坂道でも無いのに、彼の身体は風を切っていく。それはつまり、背後から押し寄せる黒い者達が。彼を速く速くと前へ押し出しているからに他ならない。

 その中には、あの影達の姿もあった。見た目はともかく、その靄っぽさだけは酷似した両者。彼に向かって何かを訴えかけている。

 

『────』

 

「なんだよ! わかんねえよ!」

 

『────』

 

「日本語で喋りやがれ! このまっくろくろすけどもが!」

 

『────』

 

 彼には全く聞こえぬ。しかし、しつこく何かを訴えている。聞いてやりたいのは山々だが、聞いたところで碌でも無いことを言っているのは間違いないだろう。

 

「こんな時にコマちゃんでもいたらなあ……だけど、こんなところに呼び出してもなあ……」

 

 わざわざ遭難者を増やす意味もない。いくら鼻が効いたとて、ここは遥か地下。自慢の鼻も、流石に地上へ届かないというのが彼の見立てだ。

 しかし、こうやってのほほんと尻を載せている彼は──逆に、こうでもしないと頭がおかしくなりそうだった。

 

「……まずいな」

 

 何がまずいかと言えば、もう全ての要素がまずい。明らかに何がしかの強大な力が干渉している。しかもこんなに露骨に。正直……全くもって身に覚えはない。だからと言って、何も無しにこんな異常事態に見舞われる事はあり得ない。

 

 きっと、この先にはこの主がいる。

 

 自分の記憶を一部とは言えど消失させ、ダンジョンの地下深くに幽閉し、その上でまっくろくろくすけ達を操る力を持ったやつ。

 

「…………はぁ〜」

 

 深いため息。そこに含まれるのは、やってらんねえよという投げやりな思い。今、こうして洞窟の内部構造が矢のように視界を過ぎ去っていく光景が終わった時、ついに自分はその何某かと対面しなければならない。

 それはきっと……想像を絶するような事だろう。何があったら助かるのか、まるでわからない。

 そして──その何かがやってくる時間は、もう間も無くに迫っていた。

 

「…………終点か」

 

 光差す場所へ。

 靄達と一緒になって雪崩れ込んだ。

 

 

 ──────

 

 

『改めて、うちの家主がお世話になっております』

 

「あ、はい……こちらこそ、お世話になってます」

 

『今はダンジョンに……いや、厳密には……まあ、うん……ダンジョンだよね! うん、ダンジョンに行ってるんだよね!?』

 

「そうです」

 

『他人行儀だなあ! なんでよ! いくら神様っつっても他の土地なんだからさ! こう……別会社みたいな!? そこは対等にさ!』

 

「いや、初対面なので」

 

 早苗はあくまで敬語を崩さない。最初は取り乱して言葉遣いが乱れてしまったが、仮にも巫女。神様(おそらく)に対してラフに接していては名折れだ。

 

『なんと律儀な……取り敢えず、加賀美明宏はダンジョンに行っている。そして帰ってこなかった、そうだろう?』

 

「──な、何でそれを知ってるんだ! まさかお前!」

 

 日向は、歯を剥き出しにして立ち上がった。道場の薙刀を持ち出してきそうな勢いだ。

 

『まさか僕がアイツを!? どうかな! ねえ!』

 

「…………」

 

 レイトは答えなかった。改めて彼のことを考えると、気分が沈んでくる。

 

『ああごめん、別にトラッシュトークを挟む気は無かったんだよね。強いて言うなら……場を和ませるジョーク的な? だけどそうか……訳わかんないもんね。これ、説明とかしたほうがいいのかな。だけど無闇矢鱈に話してもなあ……アイツはどうするんだろうね、こう言う時』

 

「説明して欲しいです」

 

『可愛い女の子に頼まれた! これはアイツなら絶対引き受けるだろうな! つまり、飼い犬は飼い主に似るので僕も同じように振る舞ったほうがいいってことかな!?』

 

「はい」

 

『すごい冷静! これが適応力! 人間が生き残ってきた根源にあるもの!』

 

 興奮すると二つの姿を行ったり来たりする癖でもあるのだろうか。なんなら、若干光りながら変身を繰り返している。

 

『ふぅ……賢者タイムだ……』

 

「あの……狭いので、なるべく小さい姿でいてもらえると……」

 

『あ、ごめ』

 

 スコティッシュテリアの姿に戻ったコマちゃん。向かい合ったソファーのどちらにも乗らずに、その間にあるテーブルに載った。

 

『ここが上座だね……あ、僕ってば神様なんだからどこにいても神座じゃん! こりゃ一本取られた! ハハッ! ──あ、そこのエルフ、死にたく無かったら今はそれ使うなよ〜』

 

「「「え?」」」

 

 軋む音。扉が一人でに開いた。

 

「…………」

 

「シエルちゃん! 寝てなくて大丈夫だったの?」

 

「……うん、なんか良くなった」

 

「あ、それ……夜の……」

 

 ずっと扉を開けずにそこにいたのか。シエルがいつのまにかリビングの外で立っていた。夜、頭につけるところをレイトが何度か目撃していた道具も手に持っている。

 

『ああ、ヘッドホンなんだ。いいもの持ってんじゃん、カツアゲしようかな』

 

「! ……だめ」

 

『嘘だよ、そこまで鬼畜じゃない。だけど……いきなり血反吐吐いて破裂されても困るからね。今は取り敢えず使えないようにしておいた』

 

「え……そ、そんなわけない」

 

『無いとか言われても……(困惑)』

 

 一人と1匹の会話のキャッチボールは、三人には意味不明で内容の1割も理解することはできなかった。ただ、彼女が持っているものがヘッドホンという名前であるとことだけはわかった。

 

『──本題から逸れすぎた! あいつが死にそうなんだった!』

 

「……!」

 

「死にそうって……」

 

「本当なのか!?」

 

『うん! ちょっと厄介なやつに絡まれてね! いや、自分から絡みに行ってるから半分くらい自業自得? ……ああでも不可抗力だよな、やっぱりあんまり悪く無いかも! それに、この街だってもうすぐ滅ぶから誤差か!』

 

 首を右に左に捻る。死にそうだという当の本人がいないから好き勝手言っていた。

 

「────?」

 

『君たちも逃げな? 悪いこと言わないからさ! ああいう手合いに絡まれるのが1番めんどくさいんだから。ああ、でも君はもう絡まれちゃったよね』

 

 早苗の方を向いて、絡まれたと言う。しかし、早苗にはそんなのよりも大事なことがあった。

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

『滅ぶよ、この街は。倒置法でも水上置換法でも、言い方を変えようが、見方を変えようが、この街が滅ぶというのが事実なのに変わりはない』

 

「……な、なんでですか?」

 

『そりゃあ……あんなゴミがマトモに神様なんてできるわけないからね』

 

「…………?」

 

『これだけの量のエーテルをばら撒くなんて……普通に考えたら色々崩れるし、何より短期的にも長期的にも色々まずいことにしか繋がらないのに』

 

「あの……なにを……」

 

 早苗は猛烈に嫌な予感がして、尋ねる。ゴミ、とは。

 

『ここの神様のことだよ、あぁ臭い臭い。そこのエルフもちょっと臭いけど……比較にならない。ドブみたいな匂いだよね、この土地は』

 

「……え? シエルちゃん?」

 

「わ、私お風呂入ったし」

 

『染み付いてるよ』

 

 デリカシーとか無いんですか? 家に忘れてきたかも……な発言を繰り返す。

 

『ともかく、よその子には悪いけど……アイツはちょっとやり過ぎた。自分の街を滅ぼすだけならまだしも、僕の物に手を出すなんてね』

 

 そこで初めてその場にいた四人は気付いた。このバケモノは怒っている。理由は定かでは無いが。この土地の神様に対して明確に敵意を向け、攻撃の意思を内包した視線を持っていた。

 早苗は慌てる。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! よく分からないんです! さっきから何言ってるんですか? 神様がこの街を滅ぼすって……本当に私たちの神様ですよね?」

 

『受け入れ難いのは理解できるけど、紛れもなく君たちの神様だよ。日頃から信仰し、君達が祈りを捧げているここの神様さ!そして──加賀美明宏を霊領へと誘い、殺そうとしている存在でもある』

 

「そんなわけねえだろ!」

 

 叫んだのは日向。

 小柄なスコティッシュテリアに怒りの形相を向ける。

 

『おお怖い怖い、これだから人間というのは移り気で怖いんだ。僕も日夜信仰を維持するために涙ぐましい努力を……』

 

「ふざけるな! 神様がアイツを……アキヒロを殺そうとしてるって何だよ!」

 

『なんで?ーーーー気持ち悪いからさ』

 

「……はぁ?」

 

『気持ち悪いから殺す、その程度の話だよ』

 

「な、何言って……」

 

『ヨメ、君は自分の家にゾンビが入ってきたらどうする? あ、ゾンビ知らないか……ええと、得体の知れないキモい虫が入ってきたらどうする?』

 

「…………外に出す」

 

『それが出来なかったら? 調べても名前が出てこない。なんか気づいたら入ってきてる。殺虫剤も全く効かない。いつまで経っても目立つところ──ダイニングテーブルの上に居座っていたら?』

 

「…………」

 

『そう! 潰す! それが正解だ! だからそうした! だけど……あのゴミは失敗した、アハハッ! 哀れだね! 神様だ何だって言っても、力が通用しなかったらミジンコくらいの価値しか無いんだ! 私にもブーメランだけどね』

 

 再び巨大な狛犬の姿に戻ると、人間の家に収めるには少々大きすぎる肉体で伏せをした。口をにんまりと開けて、酷薄な姿こそが神の本質であるとでも言うように。薄めた瞳で、どこか遠いところを見る。

 

『だから、今度こそ確実に始末しようとした』

 

「…………ちょっと待てよ! じゃあ、神様は前にも──」

 

『さて……長話をしすぎた。良い加減に行かないとアイツが殺される』

 

 すくっと立ち上がると、その肉体が白んでいく。

 

「待て! 私も連れてけ!」

 

『うん? 君たちが行ったら即死……はしないか、眷属だし。だけど、来ようが来まいが結果は変わらない……なぜなら、私の方がアイツよりも強いから!』

 

 シャキーンと後光が差す。

 

『ぶっちゃけると、私としては君がきても良いんだけど……後で飼い主が怒るんだよね。怒られるのって新鮮で嫌いじゃ無いんだけど──嘘、やっぱり嘘、ネチネチ言ってくるから嫌い』

 

「知るか! 私はここの巫女だ! 神様が何をしようとしてるのか、見届けるのは当然だ!」

 

『ヒュー! なるほどこのイケメン具合はアイツが惚れるわけだ! ……あ、そうは言ってもアイツの場合は純粋な友達としてだと思うけどね!』

 

「っ……」

 

『心配するな! 幼馴染も! もう一人のヨメも! 彼にとってはその関係より先に行くつもりは今のところない! 後ろ向きなアイツには、性欲はあっても最後の一線を越える事はできない! だから、安心して仲良くすると良い!』

 

「わ、私は……」

 

『おおっと! そろそろ出社しなきゃ! 僕には神殺しというあまりにも偉大な共同作業が待っている! じゃあの! ──え?』

 

 瞳を眩く輝かせ、唐突に消えようとしたその肉体へ。

 姉妹は同時に飛びついた。

 

「日向ちゃん!」

 

「ああ! 誤魔化されねえ!」

 

『ちょまっ──』

 

 レイトとシエル。何が何だかわからぬままに置いてけぼりにされた二人は、つぶやいた。

 

「神様って……すごい」

 

「臭くないし……」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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