【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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48_前職はーー

 

「早くこの街から逃げるんだ!」

 

 町で一人。人を見かけるたびに大声を張り上げる白髪混じりの男。空の様子で不安になって外に出て来ていた人々は、そんな彼の姿を見て気付く。散歩が好きな山市さんだ、と。

 所詮は田舎町。ご近所付き合いさえしっかりしていれば顔見知りばかりだ。

 だが大声を張り上げて自分の方へ向かってくる所を見て、そんな中年に近づこうとする人間もまた稀だ。事情があるのは察しても、皆顔を合わせないように通り過ぎようとする。

 

「たのむ! 話を聞いてくれ! ……田口さん!」

 

「──」

 

 しかし、そんなのは許さない。一人ずつを捕まえて説得していく。中々聞き入れてもらえず、だんだんと鬱になっていった。

 

「……はぁ…………愚かな……なんと愚かな事をしたんだ、俺は……」

 

 黒々とした大気の下、後悔の呟きが消えていく。先ほど己がした事。年甲斐もなく熱くなって──言わなくて良いこと、場を混乱させるような事を言ってしまった。

 あんな……自分が情けない。男の口からため息が漏れた。

 支部長に対しても随分と言いたい放題をしてしまった。

 しかし、こうして出て来た事自体は間違っていなかったと思っている。

 

「──山市さん! これは一体……!?」

 

「信部(シノベ)さん、セクターの外に逃げてください」

 

「へ?」

 

「詳細は言えないんですが……この街はダンジョンになるかもしれません」

 

「や、山市さん…………疲れてらっしゃいます?」

 

「──シノベさん、私は本気なんです」

 

「い、いやいやいや! ダンジョン化なんてそんな……何言ってるんですか!」

 

 近所のスーパーでよく会う若奥様、信部さん。彼女は赤子を連れていたが……冗談はよせ、と半笑いだ。開口一番避難しろなどと戯言をほざく中年男性に対する反応など、こんなものだ。しかし──顔を歪める。厳しい賭けになるとは思っていた。

 

「このサイレン──まさか、そういうやつなんですか?」

 

「そうだ! こんなところでノンビリしている暇は無い! 信部さん、いいからお逃げなさい!」

 

「いや、でも……きゃっ!?」

 

 大きく。

 大地が揺れた。

 数秒のこと、しかし──彼女の心に疑念を植え付けるには十分だった。もしかして、彼は本当の事を言っているんじゃないか? そもそも彼は商工会の職員だ、無意味な嘘をつくはずも無い。

 

「いいから! とにかく逃げるんだぞ!」

 

「…………山市さんはどこへ?」

 

「私は──他の皆にもこの事態を知らせねば」

 

 もう、ゆっくり歩いてみんなを探している場合では無いと、彼女の目の前で革靴を脱ぎ捨てる。靴下も。

 黒く染め上げられた綿のパンツを短く破る。過去の人間から受け継がれた正装──何故黒なのか、何故わざわざこんなカッチリとした服装なのか。故も知らぬままに、彼らはそれを着ている。

 短く破ったパンツの下、筋骨隆々の脚が大気に晒された。加えて、羽織ったジャケットを脱ぐ。

 

「な、なにをしてるんですか!?」

 

「私も久しぶりに走らないとね」

 

 想像以上に、セクター内の人間たちは呑気だった。これだから若者は……と内心の溜息を彼女に晒すことはしない。やはり生ぬるい温室育ちの娘たちには理解が難しいのだろう。探索者のいない世界を知らぬ、幸せな子ら。平時であれば心穏やかな気持ちでいられたが、今ばかりは愚痴が出そうだ。

 

「あの……なんで裸足に……」

 

「うん。私たちのような人間にとってはね──こんな、日常生活レベルの魔素しか浴びていないような靴はトイレットペーパーと変わらないんだ」

 

「ト、トイレットペーパー……?」

 

 訳がわからぬと眉を顰める。目の前のオヂサンが厨二病みたいな事を言い出したのだから当然だ。だが、そんな彼女の目の前で山市一夫は靴をスーツでまとめると背負う。コキコキと肩を回すと、地面を足の指で掴んだ。

 

「ちゃんと逃げるんだぞ! シノベさん!」

 

「──きゃぁっ!?」

 

 その場には地面にくっきりと残る足跡のみが残され、先へと続く土煙が彼女の視界を覆い隠した。

 

 

 ──────

 

 

「大丈夫かなあ……」

 

「…………」

 

「やっぱり僕たちもついていくべきだったんじゃ……いや、でも……」

 

「…………」

 

 チラッと見たシエルは、半ば放心状態だ。二度目──意を決して廊下から外を見上げ、いよいよその場で戻してしまった彼女を介抱した。汚した廊下や彼女の口元を綺麗にして、ソファーに座らせると腕をダランと垂らす。

 大事なもの──ヘッドホン? とやらは机に置いて、空を眺める。

 

「コマちゃん……神様だったんだ……」

 

 今更ながら、とんでもない事を知ってしまった。あの小さなスコティッシュテリアが本当は神様。

 …………本当に!!!? 

 

「う゛ぁぁぁぁぁあ! 分かんない! 分かんないよお!」

 

 整理がつかなくて、頭を抱える。恩人のペットが神様なんて、そんな偶然あり得るのか。だけど──少しだけ腑に落ちたこともあった。

 それは、彼がレイトに対して常に優しく接していた理由。

 

 あの、どこか親しみやすい性格の神様と一緒にいる人間だからこそ自分を助けてくれたのだろう。

 

 良くわからない思考回路。神様と一緒にいるんだからそういうこともするか! と、自分を納得させる為に曲解をした結果だった。判断材料が少ない、あるいは足りないと、手元にある材料が全てだと思い込んで、そこから結論を導き出してしまうことがある。まさに、今の彼はそうだった。

 

「そっか…………そうか! だから、信仰がどうとか言ってたんだ!」

 

 あの時、彼が言ったことの意味。

 

『死を胸に抱いて、神に背中を叩かれても歩き続ける覚悟はあるのか?』

 

 神と共に歩む人間であるからこそ、その辛さを知っていた…………先輩として背中を叩いてくれたのか! と目を輝かせる。笑顔でシエルに語りかける。

 

「シエルちゃん! 僕たちは神様たちに守られていたんだね!」

 

「…………」

 

 少女はヘッドホンをいじっていた。そこでレイトは思い出す。コマちゃんは妙なことを言っていた──使えないようにした、と。つまり、アレには何かに使う用途があるのだろう。それが出来ないのが気になっているのかと思い至った。

 

「……」

 

「シエルちゃん?」

 

「…………」

 

 レイトの呼びかけに反応して顔を上げる。

 

「っ──!」

 

「レイト……」

 

 その顔を見て、言葉に詰まった。どこか泣きそうな、迷子の雰囲気。慌てて隣に座る。ワタワタと手を彷徨わせ──彼女の手を握った。

 

「どうしたのお!?」

 

 裏返った声。こんなはずでは……と情けなさから泣きそうな彼に、シエルは小さく吐露した。

 

「このまま一生使えなかったら…………」

 

「──だ、大丈夫!」

 

「…………」

 

「僕がコマちゃん……様に、また使えるように頼むから!」

 

「…………」

 

「それか! 加賀美さんに!」

 

「怖いからいい」

 

 ひ、ひどい……

 レイトの顔は若干引き攣った。確かに、言動がめちゃくちゃすぎるキライはある。だけど、怖いって事はないだろう。

 

「どこが怖いの? ──ハッ!?」

 

 まさか裏では殴られてたり!? 仮にそうだとしたら、パートナーとしてシエルを守らなければならない。使命感が湧くと同時に、いや無理ですやん……という諦観が即座に追い付いてくる。逆立ちしても勝てない。

 念のために聞いてみる。

 

「あの……加賀美さんに嫌な事されたの?」

 

「ううん」

 

「????」

 

「でも、怖いのは本当」

 

 レイトは顔を背け、ハテナ顔を虚空に晒す。こんなことばっかりだ。何故自分の周りにはマトモじゃねえ人間が集まってくるのか。

 

 ──類は友を呼ぶ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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