【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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49_不可視の攻撃

 

「鼻血……」

 

 攻撃されたという自覚は無い。

 痛みも無い。

 ただ、血だけがヌルッと。

 ティッシュか何かを詰めなければ──動こうとした途端にダラダラと垂れ始めた。勢いに驚愕する。

 

「ぐおおおお!?」

 

 呻き声。性質としては獣が出すそれに近い。苦しみと驚きに満ちたそれはしかし、誰からも心配の声をもらえなかった。

 それも当然のこと。

 この場にいるのは──加賀美明宏と山田日向? そして山田早苗? の三人だけだ。呻いているのはアキヒロで、後者二人こそがアキヒロに謎の攻撃を仕掛けたと思われる存在である。

 そりゃあ、マトモな反応は返ってこない。

 ソレどころか早苗? は見たものに幸せを伝播させるような、心底からの笑みを浮かべる。

 

『あはっ、やっぱり』

 

「な、なんだ……!?」

 

 鼻を抑え、数歩後ろによろめく。一体何の攻撃を喰らった? 確かめる暇も考える隙もなく、出血量は増えていく。

 ──視界に赤が混じる。

 目元をなぞると同じく出血、既に手は血まみれになっていた。

 鼻からはじまった出血は目、耳と続き、訳もわからぬ彼を追い詰めていく。

 

「──」

 

 握っていた武器を二つとも取り落とした。カランと響く軽量音。激しい頭痛に襲われているのか、頭を掻きむしる。

 

「ぐぶぅっ!」

 

 口から少量の吐血。

 

『いっけえ〜!』

 

「なん……だ……これ……」

 

 立っているのが限界なのか、どこかへ向け千鳥足で歩いていく。目指す先には背から下ろした荷物が転がっていた。足を踏み出し──しかし、バランスを崩して倒れる。

 

「がっ……!」

 

『しーね! しーね! しーね!』

 

 なんとか四つん這いで辿り着き、荷物に手を掛けた。

 

「は゛あ゛っ! は゛あ゛っ! は゛あ゛っ!」

 

 出血で赤く染まる視界。中毒者が如く腕と喉を震えさせながら、小瓶を取り出す。リュックを放り投げ、蓋を外そうとして……掌からこぼれ落ちた。歯がガチガチと鳴り、天を見上げる。見開かれた瞳は、真っ赤だった。

 コロコロと小瓶が転がっていく。

 

「──あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

 自分が今、どうなっているのか。自己認識の境が薄くなる。うまく息を吸えているか、自信が無い。震える腕を持ち上げると血管が裂けていた。赤い視界の中でも一層赤い血色が腕から滴っている。

 血混じりの息、口の中に感じるのは鉄臭さ。

 ゴポリと、喉から上がってきたものを吐き出す。

 

「ごおおえっ!」

 

 ビシャリと撒き散らされる赤黒い液体。

 感覚器官だけではない。

 内側から焼かれるような感覚。臓腑ですらが、この不可視の攻撃により溶け落ちそうな感覚に襲われていた。

 

『スッとするなあ……ずっとそうして苦しんでいてくれないかなあ』

 

「ぐぅぅ……!」

 

 ──地面を殴りつける。

 瞳に宿る力。

 これしきで負けてなるものかと日向? を睨んだ。

 

『ーーははっ!』

 

しかし、それを受けて怯むどころか気持ちよさそうに身を捩らせる。艶やかな笑いを浮かべ、己が身を抱きしめた。

 

『ざまぁねえなアキヒロ……きっと、お前のお袋さんたちも喜んでるぜ?お前みてえな気持ち悪いのが死んでくれてよ。勿論私も嬉しいけどな?』

 

「だま゛れ゛ぇっ!! ……あがぁっ!?」

 

『…………まだ抗えると思ってんのか? 無理だぞ、肉体がある以上は変質を無くすことはできねえ』

 

 のたうち回る。

 肉が引き裂け、血が沸騰する。皮膚が剥がされ、骨が粉々に砕かれる。

 実際にそうなっているというわけでは無い。そんなことが起きていれば、流石に発狂死するだろう。しかし、そうされていると勘違いするような苦痛が彼を絶え間なく襲っていた。

 

「ごぼおっ!? ……げほっ! げほっ! ……あ゛ぁ……!」

 

 もはや、どこが痛いのかすらわからない。それでも、アレを手に入れなければ。アレさえあれば、ほんの僅かだけ生き延びる時間が増える。1秒でも長く生きれば芽が出る可能性がある。芽があれば、葉が生える。葉があれば、花が咲く。結実するまで耐えるのだ。

 ──拳を叩きつける。

 血まみれの口を、ニイイと歪ませた。

 

「は゛は゛は゛は゛っ!!! でめ゛え゛ら゛の思い通りにな゛ん゛か゛……な゛ら゛ね゛え゛よ゛っ!」

 

 四つん這いで進み、立ちあがろうとして足を血に滑らせ、岩盤に倒れ伏す。それでも腕をつき、身体を前へと這っていく。

 

『……気持ち悪い』

 

 口からは常に血が垂れている。もちろん、全身余すことなく血が出ているが……その状態でも、死に向かっているということなど感じさせぬほど、意志に満ち溢れていた。

 

「っ……!」

 

 やがて小瓶の元へ辿り着く。先ほどは取り落としたいくつかのソレを、震える手でなんとか握った。

 

『無駄なのに……』

 

「んぐっ…………げほっ! ごほぉっ! ──はぁ……はぁ……あ゛……ぐ……う゛ぁぁっ……んぐっ…………んぐっ……」

 

 全ての小瓶を開け、薬を飲み干す。少しだけ──気が紛れる程度に症状が和らいだ。破裂した血管が塞がり、瞳の出血が一時的に収まり──再度の出血に至る。

 

「だ…………だめ゛か゛っ……」

 

『──ふぅ、ビックリした。まさか直っちゃうんじゃないかと思ったよ』

 

 血溜まりに倒れ伏し、今度こそピクリとも動かない。早苗?はそばに歩いていき、しゃがみ込む。拾ったナイフで彼の肉体をつっつき、本当に死んでいるかどうかを確認した。

 

『流石にもう……死んでるよね?』

 

「──!」

 

『うわっ!?』

 

 その瞬間、跳ね起きたアキヒロはナイフを奪い取ると早苗? の首を掴んで押し倒した。

 

「はあああ……!」

 

 腹の奥底から吐き出したような声。歯茎を剥き出しにして、真っ直ぐに少女の瞳を見つめる。しかし、そんな状況でも少女は笑った。

 

『あはっ…………どーしたの、アキヒロくん。もしかして──シたくなっちゃった?』

 

 その手がアキヒロの頬をそっと撫でた。

 

「っ…………くたばれ」

 

 一瞬迷いの表情が現れ──しかし、意を決してナイフを首に突き刺す。ズプリと突き刺さった感触、紛れもなく人間の肉体だ。驚きに目を見開く少女の姿に顔を顰めながらナイフを引き切った。

 

『がっ……! あ……が……』

 

 ジタバタと暴れる細い手足、切り傷からは確かに血が溢れている目の前でもがく大切な友人の姿に顔を歪めながら離れ、胸糞悪さに悪態をつく。

 

「く゛そ゛っ!」

 

『あ゛──』

 

「タチが悪──ごぼおっ!」

 

 しかし、彼もまた肉体のダメージは深刻だ。なんなら、単純な蓄積ダメージ量で言えば彼の方がはるか上。探索者だから耐えられているというだけの話だ。それも、限界が近い。

 しかし……藻搔いていた早苗はやがて、目の前で動かなくなった。

 

「ごほっ! げぼおっ! …………っ!」

 

 目を逸らす。

 子供を殺した。

 本物かもしれない。

 偽物かもしれない。

 それでも自分が助かるために、知り合いの首を掻っ切るという選択肢をとってしまった。

 

『──なんでだ!』

 

 立っていた日向? が叫び声を上げた。悲痛で、本物の彼女が叫んでいるんじゃないかと思うような声色。

 

「!」

 

『なんで……なんで姉ちゃんを殺したんだ!』

 

「……っ」

 

『大事じゃ無かったのか!』

 

 それでも、日向? の顔を真正面から見る。殺した相手から目を背けることは、逃げることに他ならない。

 しかし。

 

『そんなことしても──』

 

『意味なんてないのに!』

 

「!」

 

 背後から聞こえた声。それは、確かに首を掻き切ったはずの早苗の声。彼女の死体があった場所を見る。そこには確かに、虚になった瞳で空を見上げる死体が。

 

「なっ……」

 

『考えたらわからない? 私が……首を掻き切られたくらいで死ぬわけないよね』

 

「──」

 

『うん? 顔色悪いね』

 

 青ざめた顔。ソレは、今殺したばかりの少女の幽霊を見たからではない。

 失血。力無く膝から崩れた彼は、猛烈に気分が悪くなっていった。瞳が細かくぶれている。

 

『あ! やっと死んでくれる? やった〜!』

 

 彼女の声がどこか遠くに聞こえる。反応する力すら、もはや残されてはいない。

 

『ようやく気持ち悪い奴がいなくなる! やっと早苗ちゃん達に会いに行けるよ! はぁ……それにしても、よく我慢したなあ私。えらい!』

 

「あ──」

 

 ただでさえ空腹、脱水、不眠状態でここまでやってきた。そのうえ失血がひどく、痛みも激しい。視界が二重にぼやけ、腕ももはや上がらない。

 早苗や鳴人が笑っていたあの光景は何なのかと、薄れた意識の中でそれが気になった。

 グラグラと上体が揺れ、後ろに倒れ込ん──

 

『──やあ』

 

 太ましく、艶やかな毛並みを持った白い脚が受け止めた。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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