【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
放たれたビームは、拮抗などする事はなく土地神をおしやっていく。翳した手を粉砕されながら岩盤の上を滑っていく土地神は、驚愕に目を見開いていた。
『大地を生んだとか』
『!!!!』
『海を割ったとか』
『ぐうううう……!』
『光あれとか』
『なん……だ……お前……!?』
まるで散歩でもしているかのように。
気軽な口調で、気楽な足取りで。
歩み寄る。
『僕はそういうことは言わない』
『くっ……!』
火山へと光景が変わる。
破局的大噴火が起こり、彼らへと溶岩が降り注いだ。摂氏1000℃。人の肉体が悠に溶け、蒸発するような空間。
「うわああ! …………?」
『嘘になってしまうからね』
火山などどこにあったのか。
あたり一面、お菓子でできた花畑だ。
チョコだのグミだのマシュマロだの、さまざまな花を咲かせている。
『な、なんで!?』
『僕は国産みの神様じゃ無い、管轄外ってやつだ』
『──!』
「な、なに……?」
不安気な早苗の声。巨大な洞窟中にいた彼らを、地震と思しき揺れが襲っていたのだ。
「く、崩れるんじゃ……」
『そうだね』
繰り返し繰り返し、大地を揺るがす程のエネルギーがやってくる。
立っていられないほどのそれはやがて、天井にヒビを入れた。
「──あっ」
最悪の予想通りに天井が崩れ、大岩が降り注ぐ。当然、あんなものに押しつぶされたペシャンコミートの出来がり。ここにいたということなど、他者には永久に伝わらないだろう。だが、なぜだ。彼女達は潰されることなく存在している。
『じゃあ何の神様なんだって言われると、私としても実は返答に困る』
へたり込んだ早苗と日向の目の前で、落ちてきた岩が全て砂になって消えていく。タネも仕掛けも無いそれは、彼女達にとっては正しくマジックとしか思えなかった。
『だって私は、役割を固定されてあそこにいたわけじゃ無いから』
どれだけの地下深くにいたのか。
どれだけでも崩れ続けるのか。
いまだ揺れは続き、止むことはない大岩の雨の中で、狛犬は語り続ける。
『本質的には私と君は同じものだよ。ええと………………名前が無いって不便だね、そうしたのは私たちとはいえ』
『…………っ』
『私も、このボロ雑巾に名前をつけてもらうまでは神様としか呼ばれなかったからね。それに不満があったわけじゃ無いけど……名前があるのと無いのとじゃ自己ってやつへの理解度が全然違うよね』
『だからなんだってのさ!』
『ただの雑談さ、どうせ外への逃走経路を作ってくれてるんだろう?』
『逃走じゃ無い!』
『これは転進だ〜って? まあ、どちらでも良いよ』
「こ、これ、どうなるんですか!?」
『安心して、僕のそばにいれば死ぬことはない。ああ、でも……外は地獄かも』
やがて、ふわりと浮かび上がる。
「う、浮いてる……」
『浮くくらい人間だってできるさ』
ゆっくりとは言えない速度で上方への移動を開始した。降り注ぐ岩は相変わらず砂になり、彼らの頬を撫でていく。やがて──10分以上は移動を続け、とある場所に出た。それは、巨大な吹き抜けに空中廊下の形成された空間。どれだけの高さがあるのか、下からでは全くわからない。しかし──上から見ても同じように闇が広がっているだけで、常人どころか探索者の目ですらわからない。
それはなぜか。
『濃ゆいね、どれだけ殺したかったんだか……』
狛犬の目にはハッキリと見えていた。祈りの残穢、彼らが忌み嫌うものがミッチミチに詰まっている。こうして防御を行なっていなければ、彼女達は悶え苦しみながら死んでいたことだろう。そして詰まっているものこそが、闇の正体。
『意味のないことに時間をかけたんだね。でも、仕方ない。手札が少ないから、同じことを繰り返すしかないんだ。それとも……この場合は、君たち人間の手札があまりにも多すぎると称賛するべきかな?』
その雰囲気は楽しそうですらある。この場に集まっているモノのことを明かさないのは、これ以上怖がらせてもあんまり面白いものは得られないと考えたからだ。
『空だね』
地下深くからは橋の先ほどにしか見えなかった光の点が、ここまでくるとハッキリと空として見える。だが、希望の色である空色などでは決してない。
「黒い……」
『突っ込むよ!』
越生アンダーの天蓋に開いた穴から、一気に突き抜ける。そこまで長い時間では無かったはずなのに、永遠にも等しい時間を過ごしたような気がしていた。
──周囲の光景を見て戦慄く。
「私たちの街が……」
『………………ああ、なんて愚かなんだ』
地面から突き出た巨大な石柱。
吹き荒れる緑色の風。
空を舞うモンスターは、一体どこからやってきたのか。
「なんとかならないんですか!?」
『そこまでする義理は無い、僕は僕の戦いをするためにここにいる』
『死ね……!』
唐突に直上に現れ、空の黒をかき集めて放つ。
それは先ほどの押し合いがお遊びであったかのような──離れて見ると、空から黒い滝が垂れているとしか思えないような光景だった。
しかし──
『地力が違うというやつだね。探索者に倣ってレベルとでも呼ぼうかな……私と君とでは神としてのレベルが違うから』
『そんなわけない!』
『ワクワクするって言ったけど……実際のところ、消化試合なんだ』
球形に守られた空間、狛犬にとってはそよ風の如しであった。中にいる早苗達はそれどころではないが。
忙しなく顔を左右に向け、自分たちの元へとあの悍ましいものが届かないか気にするばかり。
『あんまり長引かせても可哀想だよね』
『憐れむな!』
『──必殺技ってやつを食らわせてあげよう』
『──────!』
──────
悠然と大地に降り立つ。
それこそ、まるで本物の神であるかのように。
明宏がダンジョンの入り口として使った小高い丘はすでに、金属の塊へと変じていた。
『──同胞が減った。これはあるいは、悲しむべき事なのだろうか』
昔懐かしい光景を睥睨して考え事に耽る。
もし人型をとっていたならば、顎に手を当てていた事だろう。しかし、悩みというほどに深いものでは無かったのか、すぐに笑った。
『あははっ、そんなわけないか。信仰がある限りはいずれ復活する。例え名前がなくなろうが、人の心から祈りを奪うなんてできっこない』
苦し気に眠る飼い主を見た。
『人は、何かを信じてなきゃ生きていられないんだから』
長い鼻の先で額に軽く触れる。
壊れ物を扱うかのように。
それは、神の口付け。
『──で?』
「…………」
「…………」
ゆっくりと顔を上げた狛犬は、興味なさげに視線を向けた。その視線の先にいるのは、膝を折りたたみ、地べたに額を擦り付ける早苗と日向だ。
早苗が消え入りそうな声で乞うた。
「どうか……どうか……我らの街を……」
「祈る」とは、いるかどうかもわからぬ相手に対して自らの欲望を吐露することに他ならない。内心では叶わぬと知りながら、それでもするものだ。きっと、いつかは叶うと信じて。
ならば「願う」とは。
目の前にいる相手に対して、これをして欲しい、あれをして欲しいと要求することだ。内心は関係せず、ただ欲望を押し付ける行為。ある意味では非常に傲慢とも取れることだ。
──日向が口を開く。
「何卒、我らにお力をお貸しください……」
心からの平伏。
彼女達二人の意思は一致していた。
渦巻く緑の大気、空を飛び交う竜、今にも降り注いできそうな雷そのものの雲、轟音を鳴らしながら地面を貫き出る石柱。
もはや、この事態を鎮静化できる存在がいるとしたら眼前の存在しか無い。
だが──
『なぜ、私がそんなことを?』
「っ……!」
『なんのメリットが?』
それは、丁寧に促していた。
『私が救い、君たちは受け取るだけ?』
「そ、それは……でも……」
ビジネスの話に他ならなかった。
最初から言っていた通り。コマちゃんの目的は飼い主であり、それ以外はどうでもいい。極論だが、この街の全てが消滅しようがその心には些かの痛痒も発生しないのだろう。
だからこそ、これは慈悲だった。
彼女達がコマちゃんを納得させる何かを提示できればあるいは。
『何かないのかい? 僕が受け取るに値するものは』
「…………わ、私の命を……」
『君たちの命はいらないね。明宏が悲しむし……そもそもそこまでの価値は無い』
「な、なに……か……」
目まぐるしく働く脳神経。シナプスからシナプスへと電気信号が伝わり、神へ捧ぐに相応しいモノが無いかをソートしていく。
真っ先に思いついたモノ──命は価値が無かった。
金、心、魂、貞操、土地、肉体。
どれを差し出せば納得するのか、答えの無い問題に挑んでいるに等しい。
しかも、時間をかければかけるほどに状況は悪化していく。早く探し出さないと、取り返しのつかないことになってしまうのだ。
『…………』
「えと…………えと…………」
焦れば焦るほど、何も考えられなくなっていく。そもそも、命よりも価値のあるものなど彼女には思いつきそうもなかった。
「────」
だって──お父さんが死んだ時、あんなに悲しかった。
命は一つしかなくて、無くしたら二度と戻ってこない。だから尊い。
だから価値がある。
何が間違っているのだ。
『はぁ』
「っ……」
『なんでヒントあげてるのに分からないかなあ』
「も、申し訳ございま──」
「──捧げます」
地面にめり込みそうなくらいに額を強く押し付けた早苗の隣で、日向が落ち着いて言い放った。
『お?』
「我らが神へ向けていた祈りを…………大神へ、捧げます」
『…………うん、正解』
「どうか……我らをお救いください」
『救う──そうだね、私が君たちを救ってあげよう』
トン、と軽い音で跳ねる。
『君たちは自分の家に戻りな。ソイツを忘れずにね』
トン、トン、と跳ねていく。
大気を踏んでいる筈なのに──それすらも本来はおかしなことだが──波紋が生じた。
水たまりに小石を投げ入れたのとは違う。消えぬ波紋はどこまでも──見えぬ地平の彼方まで広がっていった。
『なかなかに優秀な導き手がいるみたいだね』
緑色だった大気の色が無色透明に戻っていく。
黒々と染まった空の色が薄れていく。
風が収まり、竜が忽然と消え失せる。
手品のように現れた異変が、手品のように消えていった。
『……うーん、この大量のエーテル達はどうしようか…………』
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない