【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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57_馬に蹴られる前に

 

 

「うん、聞いた感じは成長痛だね」

 

「セイチョウツウ?」

 

「そうだよ、成長痛」

 

「せいちょーつー……明宏くん……」

 

 山田家かかりつけの病院で──日奈子さんが入院していたところだ──医師に症状を伝えると、その場で答えが返って来た。

 

「どういうこと……?」

 

 早苗ちゃんは言われている意味がよく分からないらしい。ポカンと口を開けている。俺もちょっとビビりすぎて漏らしそうだ。漏らしてやろうか。

 早苗ちゃんが成長痛……俺より年上なのに? 

 

「むっ……変なこと考えたでしょ」

 

「うん、早苗ちゃんが成長するわけないよね」

 

「なっ!? あ、明宏くんでも言って良いことと悪いことがあるよ!」

 

「だって早苗ちゃん、もう成長期過ぎてるじゃん」

 

「す、す、過ぎて無いもん! 神様と出会ってからこうなっちゃっただけだし!」

 

 やっぱり神ってクソだわ、俺がいつか絶滅させよう。レベル200とかになればいけるだろ。出会っただけで成長が止まるとかどう考えてもクソキモいオスブタの神様って相場が決まってる。処女厨でロリコンのエグい性癖持ちの童貞野郎だろうな。

 そうでなきゃ22歳にもなってこんな…………こんな……

 

「うう、かわいそうに……」

 

「明宏くん!?」

 

「いつか、元の姿に戻してやるからな……」

 

「……話全然聞いてないじゃん!」

 

 あまりにも悲し過ぎる。成長を奪うなんて、とんでもなく残酷な神様だ。俺も実質的に精神の成長奪われたみたいなもんだし、気持ちはよく分かる。俺にはこれ以上の変化はほぼ無い。それでも、肉体が成熟していくから自分自身の変化そのものを感じ取ることができる。だけど、早苗ちゃんは肉体そのものが停滞している。周りの人が老いていく中で自分だけは若いまま。ここが中世とかだったら魔女などと言いがかりをつけられて裁判にかけられていただろう。

 ──あ、でも成長すんのか? 

 

「君たち、私の言ったことを無視するのはやめてもらっても良いですかね?」

 

「あ、はい」

 

「寝ている時に骨が軋んでたんでしょ?」

 

「そうです」

 

「今も痛い?」

 

「うん」

 

「子供の時に成長が止まった早苗ちゃんが何でいきなりこんな事になってるかは私にも分からないけど……あれが関係してるんじゃないかなあ」

 

「──あ、ちょ、ちょっと!」

 

「え、なに?」

 

「こっち来てください!」

 

「なになに?」

 

 俺を置いて二人は別室に行ってしまった。俺は付き添いで来たんだが、そんな俺を放って何処かに行くのは少し配慮が足りなかったりしないかい? 

 二人が別室に行っている間、看護師さんが話し相手になってくれた。

 

「ええとごめんなさい、あまり話を聞いていなかったのだけれど……あなたは山田さんのご家族?」

 

「兄です!」

 

「ええっ!?」

 

「ごめんなさい、冗談です」

 

「あ、ああびっくりした……そうよね? 初めてお見かけしたから、もし山田さんのご家族だったら知らないと失礼になっちゃうから心配したわ」

 

「加賀美明宏と申します」

 

 名刺を胸から取り出して──いやいや無いから、何をやってんだ俺は。咳払いで一つ誤魔化し、握手を交わした。

 

「早苗ちゃん達とは友達なんです」

 

「友達なのに付き添いに来たのぉ?」

 

 少しだけ面白そうに、口元に手を当てる。なんか邪推されてるな……

 

「まあそこは間柄もあるので」

 

「その割には初めて顔を見た気が……」

 

「別に毎回付き添いで来るわけじゃ無いんで……ああ、でも日奈子さんのお見舞いには何回か来てますよ?」

 

「そう……本当に良かったわよね、あんなに回復するなんて。先生も手の施しようがなかったのに……回復薬だってまったく意味がなくてねえ」

 

「何かあったんですか?」

 

「…………えっ?」

 

 それは、ただの返事ではなかった。その言葉を聞いたのが信じられないと、目を見開いていた。つまり…………つまり、知らないなどということは通常考えられないような何かがあった? 

 

「俺、何があったか全然知らないんですよね」

 

「そうなの?」

 

「最近、意識不明だったんで」

 

「へえ〜……逆に良かったかもしれないわね、あんな光景を見ずに済んで」

 

 あ、そんなに酷かった? 

 だから早苗ちゃん達も揃って口をつぐんでいたのか? だけど……そんな心配されるほど俺って柔に見える? 

 いまいち納得いかない。

 

「具体的に何があったんですか?」

 

「ああ、それはね──」

 

「──ストォォォォップ!」

 

 早苗ちゃん、乱入。なんとタイミングの良い事だろう。まさに今、何があったかわかったかもしれないというところだったのに。

 

「明宏くん! それズル!」

 

「ええ?」

 

「他の人に聞くの禁止!」

 

「誰に聞けば良いんだよ、じゃあ」

 

「禁止!」

 

「暴君じゃねえか」

 

 そしたら俺はどうやって情報を仕入れれば良いんだ? 

 ……仕方ねえ──

 

「商工会で聞くのも禁止!」

 

「それ無理」

 

「ぐぬぬぅ……とにかくダメだよ!」

 

 ダメダメ虫になってしまった早苗ちゃんには手がつけられないので、大人しく引いた。なんで聞いちゃダメなのか聞いてもとにかくダメ。これでは話にならない。

 やっぱりダンジョン行くかあ。

 

 家に帰って報告をした。

 待ち構えていた日向からは、緊張感すら漂っている。

 まあ、成長痛なんですけど。

 

「成長痛!? …………そうか」

 

 どっちがお姉ちゃんか本当にわからなくなるような反応。日向は驚きの後に、心の底から嬉しそうに顔を綻ばした。

 

「姉ちゃん……」

 

「日向ちゃん……」

 

 膝をついて姉を抱きしめる顔は、万感の、と言って良いような思いが込められている気がした。妹として、姉の姿をずっと見て来たなりの何かがあるのだろう。そしてそれは、母であればより一層──

 

「早苗…………」

 

「お母さん……っ」

 

 こんな場所にいては、たとえ恋路を邪魔しているわけでないとしても馬に蹴られて死んでしまう。

 そそくさと廊下に出るとコマちゃんがいた。お座りをして、樹の方向を見ている。

 

「流石に逃げてきたぜ」

 

「わふ」

 

 こちらを振り向かずに、口の中に溜めるような小さな声で吠える。

 

「あの場にいられるほど俺は図太くないんでな」

 

「わん」

 

「適当言ってんじゃねえ……あ、これ」

 

「──!」

 

「日向達を守ってくれたんだろ? それのご褒美」

 

 ただのジャーキーだが、意外とコマちゃんはこういうのが好きだ。高けりゃ良いってわけでもないのが実におっさんくさくて親近感湧くね。俺としては安上がりで助かるけど。

 

「…………わんっ」

 

「あ? 聞いてねえよ、何となくわかっただけだ」

 

「ぶるるるっ」

 

「マジだって、いきなり大きくなるな」

 

「…………」

 

 巨大化までして必死すぎだろ、何だこいつ。そんな睨まれても知らんもんは知らん。だいたい、その程度でビビると思ったら大間違いだぞ。

 

「あんましつこいと二日間は格安! ドッグフード伝説! だからな」

 

「わふっ!」

 

「聞き分けが良くて大変よろしい」

 

 説明しよう。

 格安! ドッグフード伝説! とはスーパーで売っている中で最も安いドッグフードの名前だ。試しに買ってみたら、一口食べただけで鼻をひん曲げていた。それ以来、家の壁をぶっ壊したりした時は食べさせる事にしている。

 勿論嫌がるけど、壊したところを指差すと顔を梅干しみたいにしながら食べる。まだ、いっぱい余ってるんだよね。これからも悪いことをした時はどんどん消費してもらおう。

 不味いくせに日持ちするとかいう最悪のゴミだから、賞味期限で捨てるということが無い。やったねコマちゃん! 

 

 まあ、あんまりやり過ぎると不貞腐れるから程々にな。

 ……おや? 

 

「──コマちゃん、ありがとうね」

 

「ありがとうな、コマちゃん」

 

「ありがとうね!」

 

 なんだなんだ。

 リビングから出て来たと思ったら囲んで感謝し出したぞ。コマちゃんもどうやらまんざらじゃ無いようで、もみくちゃにされながらも尻尾が揺れている。

 ……こいつ、なにしたの? 

 アニマルセラピー? 

 

「…………うーん、あの樹は何なんだ」

 

 飼い犬の隣ですら荷が重いという弱者男性(俺)は今、庭で例の巨木を眺めていた。巨木とかいう言葉で表現するのすら烏滸がましい。街全体から見えるってそれもう超高層ビルじゃん。

 植物界のブルジュハリファじゃん。

 

 という冗談は置いておいて。あれは明らかに魔素による異常成長だろう。良くもまあ樹のまんまであそこまで大きくなれたな。

 この世界に来たけど、あんなのは流石に初めてだ。これからはこのセクターの観光名所になるのかね。

 

「──加賀美さん」

 

「うん?」

 

「まだ、気になりますか?」

 

「まだも何も、起きて2日目だよ」

 

 気になることだらけだ。

 ぶっ壊れた俺の荷物達も。

 何故か増えていたレイスの死套も。

 全部使った回復薬も。

 そして──

 

「ナイフ……」

 

「うん、そういうことだ」

 

 急激な武器と防具の成長、それは莫大な量の魔素を浴びたという一つの事実を指し示していた。

 

「魔素溜まりに突っ込んだか……」

 

 それだけじゃ説明できないことが多過ぎるが、そうとしか考えられなかった。一つの可能性としては、超巨大な地下の魔素溜まりを刺激して地上まで吹き出させてしまったとか。

 

「馬鹿すぎるな、何やってんだ俺」

 

「…………」

 

「気を遣って教えてくれないんなら、構わず教えてくれ」

 

「……気は遣って無いです」

 

「そうか……だけど、やっと意味が見えたな」

 

「──え?」

 

 握り込んだ柄。

 空から滲み出るように現れた刃。

 明らかに変貌したソレは、まさに望外の報酬だった。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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