【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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63_俺は馬

「てえへんだてえへんだ!」

 

「おい、もっと優しく運べよ」

 

 様子のおかしい男性が山田邸宅内に侵入し、家長の前に現れた。自分が腹を痛めて産んだ次女を横抱きにし、必死に指差している。これが知らない人間であれば、即捕縛、通報のコンボだ。

 大変なのはお前の頭だ、と言ってやりたくなるのを抑えにこやかに答える。

 

「カガミンくん、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないですからね!? あなた達全体に言ってるんですから!」

 

「ええと……」

 

「神様はどうするんですか!」

 

 2人は顔を見合わせた。

 

「引越しの件ですよ!」

 

「引っ越しがどうしたの?」

 

「どうするんですかココは!」

 

「…………?」

 

 どうやら彼は山田一家が全員でここを捨ててどこかに行くと勘違いしているようだった。仮にそうだとして、何か問題があるのだろうか。

 

「何だこの家族!?」

 

「何焦ってるの? この子」

 

「わかんない……日向ちゃん、どういう流れ?」

 

「神様のいる土地を捨てたらバチが当たったりするんじゃねえかって」

 

「「ああ〜……」」

 

 明宏は呆れてものも言えなかった。

 早苗を子供の姿のままにした、控えめに言ってゴミみたいな性格をしていることが確定な神様だ。そんな疫病神を捨ておいたら、早苗が一体どんな目に遭うかわからない。それに、日向や日奈子だってそうだ。

 第一に、当事者であるにもかかわらず呑気にニヨニヨしている早苗の姿には、自分の身は大事じゃ無いのかと頭を抱えてざるを得ない。

 

「何なんだよこの親子……」

 

「へへ〜、アキヒロくんはほんっとーに私のことが大好きだねー!」

 

「うざ」

 

「素直じゃないんだから! ウリウリ!」

 

「素直に心配だって話をしているんですけども、そこんところはわかってます?」

 

「ふっふっふ……そこはご心配要りません!」

 

「なんで?」

 

「大丈夫になりました!」

 

「どういうこと?」

 

「えーと…………あっ、そうだ! 神様と話して大丈夫にしてもらったの!」

 

「今……あっ、そうだって言ったよね?」

 

「言ってないよ!」

 

「マジで何考えてんだ、このお転婆シスターズ……」

 

「まあまあ、明宏くんは何も考えずにさ……」

 

「?」

 

 座り込んだ明宏の背に抱き付く。

 

「私を甘やかせばいーのだ!」

 

「ええ……」

 

「走れ! 私のお馬さん!」

 

「…………ヒヒーン」

 

 二足歩行の馬がソファーの周りをノシノシと歩き回る。楽しげな早苗と半目の明宏で非常に対照的だ。

 

「馬なんてよく知ってるね、早苗ちゃん」

 

「だって、すっごい高いじゃん」

 

 馬は牛より高い! なぜなら貴重だから! 悲しいかな、野生の馬なんてのも見られない。誰かさん達のせいで悍ましいモンスターになってしまった。

 

「高いねえ……」

 

「明宏くんはお馬さんには興味無いの?」

 

「無いことはないけど、牛ほどじゃ無いかな」

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

 そんなの、馬刺しはたまに食べればいいからに決まっている。馬肉は美味いが、味が濃いのだ。

 と、内心で思いつつもソレをここで言ったところで「は?」な反応をされるのはわかりきっていた。誰しもが幼馴染のような気持ちいい反応をくれるわけでは無いのだ。

 

「早苗ちゃんにはまだ分かんない理由かな〜」

 

「あっ! 子供扱いした!」

 

「日向にも日奈子さんにも分かんないかな〜」

 

「子供扱いじゃ無い! じゃあなんで?」

 

「ヒヒーン」

 

「ずるー!」

 

 彼は馬。

 草原を駆け、鬣をたなびかせる。

 いつしか風と一体になって──

 

「あれ、加賀美さん戻って──」

 

 シエルとレイトは朝の自主稽古を終えて戻ってきたのか汗だくだ。しかし、爽やかな汗をかいて水分補給のために戻ってきた2人がリビングの扉を開けて目にしたのは、四つん這いになった成人男性とその上に跨る師範代。

 そして、そんな2人を白い目でみる次女。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 自分を見上げる二つの瞳。

 耐えきれずに扉を閉じた。

 

「…………ふぅ」

 

「大丈夫?」

 

 何だろう今の。

 

「何だろう今の……」

 

 心と口が完全にシンクロした。

 理解を拒んでいる状態とも言える。

 

「シエルちゃん……なんだと思う?」

 

「早苗に付き合ってるだけ」

 

「……そうなの?」

 

「普通わかるよ」

 

「分かんないよ……」

 

 シエルはあの光景に対して特に思うことは無いようだった。これが自分の相棒の精神力か……と少し感動しつつも、思い返すと頭が痛くなるような光景だった。

 

「も、もう一回開けるね?」

 

「早くして」

 

 シエルにそう言われると、途端に喉の渇きが強く意識される。何をしにきたかというと、お茶を飲みにきたのだ。

 

 ガチャリと扉を開けると、なんでもない顔をして明宏が立っていた。

 

「稽古終わったんだな!」

 

「……あ、はい」

 

「どうした? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

 

「鳩がなんですか?」

 

「豆鉄砲を食らったような顔な」

 

「豆鉄砲ってなんですか?」

 

「…………なんだろう」

 

 どうでも良いことでお茶にたどり着けなかったレイトの元へ、シエルがコップを二つ持ってくる。

 

「はい」

 

「ありがとうシエルちゃん」

 

 

 ──────

 

 

 ダンジョン化について調べるために明宏が商工会支部に向かった後、5人は会議をしていた。

 

「だから、危なかったんだよ……もう少しで神様について深く聞かれるところだったんだから」

 

「そ、そういう事だったんですね」

 

「うん」

 

 レイトは心底から安堵した。

 そういう変な趣味をしていたわけではなかったのだ。

 ……わざわざあんなことをする必要はなかったのでは? 

 

「嫌だなー、明宏くんが普通の変なこと程度で止まるわけないじゃん!」

 

「…………ふふっ、そうかもですね」

 

 山田一家プラス三船黎人アンド辺見シエルの目下の課題。加賀美明宏に対して、神様に関することを隠し通すこと。ダンジョン化の話は漏れてしまったから仕方ない。それに、彼が探索者である以上はいずれ知るところになっただろう。

 だが──

 

「神様のことだけは……絶対に隠さなくちゃいけない」

 

「……はい」

 

 そう。

 絶対なのだ。

 なぜなら、ソレは神様との約束──取引の一つだから。

 

 この街の異常を取り除くことと引き換えに、このセクターに住む人間の祈りは全てコマちゃんに集約される。

 そして明宏に対して、コマちゃんの正体を秘匿する。

 

 あの日、あの時、あの場所で。神様との取引を行った姉妹は、その重大さというものが身に染みてわかっていた。

 しかし、悲観的というわけでもない。確かに契約が意味するところは双方にとって大きいが、別に彼女達は敵対しているわけでもない。それに、コマちゃんは願いの通りに労務を執り行い、完了させている。そこに対価を支払うのは、当たり前のことだ。

 

「その為にも、私たちはコマちゃんと明宏のなるべく近くにいたほうがいい」

 

「うん。だから……お母さん、頼んだよ」

 

「…………」

 

 日奈子は、少しだけ複雑な気持ちだった。日向や早苗よりも昔から信仰を捧げてきたのだ。その相手が自分や早苗、ひいてはこの街全体を滅ぼす呪いだったなどと。

 だが、事実として自分は良くなった。体力だけは落ちていたが、脳裏に響く怨嗟や苦しみは無くなっている。

 それに、夢の中で神々しい狛犬を見たのは確かだった。そこで話を聞いたのも。

 

「日奈子さんはここに残るんですよね?」

 

「そうね、パス? の役割になるらしいわ」

 

「パス……」

 

「道」

 

「シエルちゃん、意味わかるの?」

 

「勉強不足」

 

「あはは……」

 

 道。

 つまりは、日奈子が何かを通すということだが……そんなの、一つしかない。

 

「信仰って……そんな感じに移動できるんですか?」

 

「よくわからないけど、家族だからできるんだって」

 

「ほえー……」

 

 神様が言うならそうなんだろうな……という程度の理解。

 

「私たちが受け口らしいよ」

 

 日奈子が土地の信仰を繋げ、姉妹がコマちゃんに受け流す。信仰の横流し。地元の人間に知られたら大問題になりそうなものだが、この場の五人が漏らさない限りは無い。

 

「でもさ、色々不安なことはあるけど……結局、全部丸く収まったんだから良いよね!」

 

「そうですね!」

 

 レイトは強く頷いた。

 早苗の言葉には全面的な同意しかなかったからだ。

 ただ、不安なことの大半を占めているのが神様と1番近い場所にいる男だというのはいかがなものか。

 そして仮に、明宏にバレるような事があったらどうなってしまうのか。自分たちの身の安否だけじゃなくて、明宏とコマちゃんの関係が崩れるような事がなければ良い。

 そう、レイトは少しだけ祈っていた。

 

 ──ああ、でも……この祈りもコマちゃんというか神様に届くのか……

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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