【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「…………ダメですね」
「ううむ……これは一体どうなっているんだ」
「あの石柱は?」
「同じらしい」
街では、職員達が難しい顔をして計測器具の数値を見ていた。どう考えても正常な数値が示されている。針が振り切れていたというのが嘘のようだ。
今回のように、何の予兆もない異常なダンジョン化が起こった後というのは、得てしてとんでも無いことが起きる。
過去で言えば、リヴァイアサンの初観測。天命山脈の一部崩落。クラゲ達の親玉の出現。
だというのに第235セクターには何も起きていなかった。ソレが余計に、嫌な雰囲気というのを増長させる。
強いて言うなら、何も起きていないということが異常だろうか。
「……もう、ここだから白状しますけど山市さんの頭がおかしくなったんだと思ってました」
「おいおい……仕方ないか」
「でもまあ、結果的には正しかったんですね」
「おじさんの勘も当てになるだろう? アラン」
「はい」
世間話をしている風だが、至って真面目な仕事だ。濃度計を持って街中を周る。地味で果てがない作業だが、本部から来た職員の指示だった。当然、本部の職員達も同じことをしている。このセクターに所属している人間だけでは到底賄いきれないのだ。
「そこはおじさんを否定してくれよ」
「はは……ところで、山市さんのお宅は大丈夫だったんですか? 奥さんとか……」
「私が建てたからな」
「流石ですね」
ただ濃度を見て記録するだけではあまりにも退屈が過ぎる。ありとあらゆることを話題として消化していなければ、すぐに無言になって地獄の退屈さが訪れるだろう。
そんな2人の視界の奥から、新たな話題の種がやってきた。
難しい顔をしながら歩いている。
「彼は……生きていたことが驚きだな」
「まさか、あの最中にダンジョンから脱出を?」
「悪運が強い……と言えば良いのかな」
そもそも、シンプルにダンジョンの中で力尽きたかと思っていた。何せ、戻るはずの予定日になっても支部に現れなかったのだから。
それが、元気ピンピン……と言って良いのかは分からないが5体満足なのだから驚くに値するだろう。まさか、意図的にダンジョン内にいたということなのだろうか。
「加賀美さん!」
「──おっ? 山市さんと……」
「アランです」
「アランさんね、そうそう。2人ともお揃いであれですか? 濃度」
「見ての通りですよ」
肩をすくめると、明宏に対して無反応の濃度計を見せつける。
「いやー……それにしてもダンジョン化なんて本当ツいてないですね」
「ツいてないで済ませて良いものでもないけどね?」
「確かに」
「それにしても……」
「はい?」
「よく無事だったね」
「…………まあ……」
「脱出しても支部に来なかったってことは、よほどの怪我を負ってたのかな?」
「そうなんですよ、寝込んでたおかげで何が起きたかさっぱりで」
「ソレは勿体無い……のかな?」
「日向達は怖がってるのか何も話してくれないんで、なんか知ってるかなって」
「そうか……私達の知ってることでよければ教えよう。勿論、一般の人も知っている範囲のことしか教えられないがね?」
「それでもありがたいです」
「ええと……どこからだっけ? アランくん」
「はい、最初に起きたのは黒い大気の出現──」
──────
「そういうことかあ」
「分かったかな?」
「ええ、よーくわかりました。なるほどね……」
これはもう完全に理解しました。
ダンジョン化と、その抑制。再現することができれば、魔素のコントロールも行えると確信していた。そうすれば牛だけじゃない。あらゆる工業も、工房も、大量生産も復活する。
一期の文明に追いつく時が来た! と、思っていたのに
……やっぱり、甘い想定だったようだ。
何せ、山市さん達から聞いた内容としては『なんかよく分かんないけどダンジョン化が始まって、避難を終えたと思ったらダンジョン化が収まった』でしかない。
一番大事な理由の部分が不明だった。
もしかしたら商工会の方では何か掴んでいるのかもしれないけど、それを教えてくれるとも思えない。ただ……今回の事を解明してくれるのならばそのうち世に技術が出回るようになるかもしれない。
そうでなくても、例えば魔素を局所的に減らす方法なんてものが見つかれば、そいつを大学で研究することができる。俺が大学に通っている意味の全てがそれだ。
再現性。
人間が動物達の中で最も秀でた部分はそれだと思っている。困難な技術だとしても再現することができるのならば、人はそれを生活に組み込むことができる。だからこそ、今回の話を日向達から聞いた時にまず思い付いたのはダンジョン化が収束した理由を知ることだった。
だけど、ダメそうだ。
「はぁ……」
「人の話を聞いてため息とは」
「すみません、ちょっと色々拍子抜けで」
「……気持ちは分かる」
「ダンジョン化の理由とかってのは公表されるんですか?」
「いや、されないね」
「売ったりは?」
「それはあるかも……でも、申し訳ないけど断言はできない。何せ本部が決めることだから」
「まあそうですよね」
ここではこれ以上の情報は無さそうだなあ。
山市さんもとい現地組に聞くのはやめて、石柱を見てみることにした。
至る所に生えた柱。
全てが垂直に生えているわけではなく、斜めだったり、地平面とほぼ平行に出ているようなものもある。
職員がいたので、聞いてみた。
「──ああ、探索者でも今は近づいちゃだめだよ、何が起こるか分からないんだから」
何が起こるか分からないと言いつつ、極めてリラックスした……というか興味が無いように見える。職員自身も何かが起こるとは思っていないようだった。
「そりゃあ、ねえ? だけど万が一なんかあったら責任取れないのよ」
「そこをなんとか!」
「ダメだっつの」
「ほんのちょっと! 先っぽだけだから!」
「見ても何もないって、私も散々見たんだから」
こんなものがいきなり生えてきて、何もないって言われたところで「はい、じゃあ納得しました」ってなるわけがない。
「だめです」
しかし、アプローチを失敗した。
既に相手の心の扉には鍵がかけられており、ここから頼んでももう何も動かないだろう。こんな事ならヘラヘラと話しかけるんじゃなかった。
「ほら、帰った帰った」
向こうはもう、話をする気は無いようだ。
意固地になっている相手に詰めても仕方ない。
別を当たろう。
「──石柱が見たい?」
「ええ、折角なので資料として残しておこうかなって」
「資料っていうと?」
「…………大学の学生でして、偶々こっちに来てたんですよね。それでダンジョン化に遭遇したもので」
「ふーん……大学生かあ」
こんなボンクラが? みたいな視線を感じる。そこで取り出したるは聖なる証。
学生証。
「あ、本当に大学生なんだ……確かあそこって本書いてる人いたよね」
「ああ、永井先生ですか?」
「それだ!」
「そこのゼミにいるんですよ」
「ゼミ?」
「門下生みたいな」
「弟子ってこと?」
「そうですね」
「えぇー、すごいね!」
「まあそんなわけで……研究の為にちょっと確認がしたいんです」
「あー……」
どうしようかなぁ……というような雰囲気を感じる。権力に弱そうだ。
よし! このまま押し切ろう!
「そんな長い時間お邪魔しないんですけど……ダメですかね?」
「うーん……じゃあ、ちょっとだけね?」
さすが大学! 権威主義の世界だとすっげえ役に立つぜ! 入って良かった!
石柱は近づいてみると黒々としている。黒曜石ほどでは無いにせよ、真っ黒だ。見覚えはないけど、不気味という印象を受ける。
それは横に立つ職員も同じなのか、少しだけ不快そうに眉を顰めていた。
「これねえ……なんか、あんまり近付きたくないっていうかさあ……ちょっと嫌な感じしない?」
「そうですね」
しかし、不気味だからと言って本当に害があるとは限らない。触って、どうなるかを確かめてみたいところだ。
「触っても?」
「ああ……うん、まあちょっとだけならね?」
「…………!?」
「えっ!? ちょ、触るのやめて!」
「ああいや、何も無いです」
「なによ! もう!」
触ってみたが、冷たいくらいで何も無い。冷たいというのも大気に冷やされているだけだ。こうなると齧ったりしてみたいところだけど、流石にそれは許してもらえないだろう。
……一応聞いてみるだけ。
「流石にダメ」
「まあそうですよね」
「一応聞いておくけど……石食の人じゃないよね?」
「違いますよ」
石食というのは、読んで字の如く石を食する探索者だ。アンダーを代表とする迷宮型ダンジョンで迷子になった探索者がなりがちな食傾向であり、石を食べて栄養を補給することができる。意味がわからないけど、おそらく内部で魔素が何やかんやしているのだろう。石だけを食べられるというわけではない為、食事の選択肢が増えただけだ。
ずるい。
「逆に……違うのになんで齧りたいの?」
「味で分かることもあります」
「…………」
「顕著なのは金属の味ですけど、場所によって全く土の味が違いますからね」
「あ、はい」
納得はしてもらえたが、結局齧るのはダメなのである。本当はしたいよお……この石かち割って持って帰りたいよお……
「ダメですよ〜」
「流石に無理やりにはしませんよ」
「ほっ……」
「お邪魔してすみませんでした」
「気を付けてね〜」
可愛い姉ちゃんだったな。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない