【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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69_修行の成果3

 

「行け」

 

「!」

 

 まさかの命令形。背後から指令を出したシエルの言葉通り、レイトは直進を選んだ。

 最初の焼き直し。砂利を踏みしめながらひたすらに進む。

 

『また突っ込むのか?』

 

『またっつっても、今度は弓の援護があるけどな』

 

『援護ねえ……』

 

 少なくとも道場に通う生徒たちの価値観において、対人戦──それも、一人を相手にして剣士と射手がタッグを組んで相手するというのはありえないことだった。

 弓を持った人間が誰かを狙っている場合、その射線に近付くなんていうことは通常起こり得ない。誤射、あるいは弓というものの危険性について、よくよく理解している故にだ。

 

「こんな感じかな……!?」

 

 突き進んでくるレイトを目にしながら、八相の構えを取る。特に意味はない。

 堂には入っているが、先ほどの腕の一件を見ただけに観客もそこは分かっていた。

 なんなら、彼の声は筒抜けだ。

 

『好き放題かよ』

 

『武術とかマジで興味無いんだな』

 

『対人だからな、武術は。仕方ないだろ』

 

 そもそも彼らは一般人であり、人間と戦うなんてことは無い。鍛錬によって心構えや技術はあっても、実際にその場にたどり着くことは無い。だからこそ、経験があると先ほど述べたこの男がどのように二人に対処するのか。その逆に、二人がこの男にどう勝ち筋を見出すかということに興味津々だった。

 人間が人間に襲われたことに関しては──西の部族や探索者くずれの強盗の周知が進んでいるので、皆、あまり驚いていない。

 

「──!」

 

 たたたたっと軽い足音。

 先ほどと同じ構えではあっても、同じ攻撃を繰り返す気は無い。横薙ぎを見せれば、容易く捕捉されてしまうだろう。

 目や身体の動きを観察して、予測しなければ。

 反応速度も、最高速度も負けている自分が唯一対抗できるのはそれだけだ。

 たとえ予測精度が低くとも──

 

「っ!」

 

 真っ直ぐ、開かれた眼。

 

 ゾクリと、臓腑が冷えつく。

 先程は、この瞳にやられた。

 レイトを捉えて離さない、観察する彼を逆に観察しているのだ。

 

「──肩!」

 

「!」

 

 背後から聞こえた声に、身を低くする。

 若干の走り辛さはある。後ろから射たれるかもという恐怖もある。だけど、揺らがぬいつも通りの声色は、レイトを予想以上の情動へ突き動かすことはない。

 冷静さを保った彼の肩スレスレを矢が通り過ぎた。

 男に直撃コースだ。

 

「ふぁふぁいふぁ(あまいな)!」

 

 口に木剣を咥えてレイトよりも身を低くしていた男は、シエルの一射を容易く避けた。四つん這いの、獣のような体勢だ。

 男はそのまま駆け出す。

 1秒程度で両者の距離は縮まる。

 

「!? …………っ!」

 

 呆気に取られつつ、下から来るならと振り下ろす。

 畑を耕すような綺麗な一撃。

 しかし、硬い手応え。男はヘッドスライディングを決めて股下を通り抜けていった。

 手応えの正体。木剣は地面にぶつかっている。

 

「はぇっ!?」

 

『どういう戦い方だよ』

 

『真面目に戦ってんのか?』

 

『あれが探索者……』

 

『違う気がする』

 

 素っ頓狂な声を上げるレイトが振り向くよりも先に、膝裏を蹴られて片足が崩れる。

 

「ぐっ!」

 

「シンプルにその戦術は無意味だな」

 

 首に当てられた木剣。

 この時点でレイトに出来ることはない。

 膝立ちで項垂れる。

 先ほどよりも早く、終わらせた。

 男は背後に向けて問いかける。

 

「どうするシエル」

 

「……」

 

 番えた矢を、男に向けて定める。

 あとは放つだけだが、男に対して効果があるものでもない。

 だが、男はあえて左手で挑発のジェスチャーを取った。

 

「やってみろ」

 

「!」

 

「一人相手ならば、お前が当てればなんとかなるかもしれない」

 

「…………」

 

 しかしシエルは弓を観客へ向けた。

 当然、狙われた観客は動揺する。

 

『ちょ、ちょちょちょ!』

 

「──なるほど」

 

「止めなきゃ死ぬよ」

 

「良いね」

 

『良くないよ!?』

 

 放たれた矢は、やや回転しながら空気を貫き進む。

 迷いなく人に矢を射れるシエルの無情さにドン引きしつつ、何かをしなければならない。

 このままでは無辜の人間が一人、怪我するだろう。

 間に合うように木剣を投げても、ソレがまた人混みに飛んでいく。

 仕方ないと、出力を全開に引き上げた.

 

 ──? 

 

 男の内心に妙な感覚がある。

 全力の奥に、もう一つ何かがあった。

 しかし、今はどうでも良いので放っておく。矢をキャッチするべく、踏みしめた地面をぶち抜き、反作用でかっ飛んだ。

 

「──ぼあっ!」

 

『ぺっ! ぺっ、ぺっ!』

 

『ざけんな! めっちゃ土飛んできたぞ!』

 

『ちょっと、お兄さん! やめてよね!』

 

 踏み砕いた砂利や土がレイトの背中や観客の口に入ったようだ。仕方あるまい。矢の速度は時速200kmほど。本気を出さなければ、少し離れたところを飛んでいる矢の横っ面を捉えることはできないのだから。

 しかし、彼が全力を集中させた部分は爆裂し、酷い有様だ。レイトも礫を当てられて悶えている。

 

「くぅぅっ……!」

 

 それでも、なんとか木剣を掴んで男の方を見ていた。

 

「仕切り直し」

 

「まあな……だけど、次は禁止だぞ」

 

『当たり前だあ!』

 

『被害者20人だぞ! 20人!』

 

『土どころか小石が……ヴォエッ!』

 

 おっさんやおばさんの怒号が飛ぶ。

 シエルも流石にたじろぐが、男は顎に手をやると微笑んだ。

 

「探索者の戦いに不用意に近付くのが悪いと思うんだ! そもそも見せ物じゃないし! カッコ正論カッコトジ!」

 

『正論なわけねえだろ!』

 

『お前、あんまり舐めてるとアレだぞ! …………アレだぞ!』

 

『やってやれ! まっさん! ぶん殴ったれ!』

 

『いけ、まっさん!』

 

『まっさん!』

 

『良いぞまっさん!』

 

『アイタタ、ちょっとお腹が……』

 

 男は木剣を回収すると、子供のようにブンブンと振る。

 レイトに顔を向け、社会科の教師のようにゆっくり尋ねた。

 

「さて、三船くん。今ので何が分かったかな?」

 

「…………シエル! 横に広がって!」

 

「そうだな。さっきの陣形は大型のモンスターに対しては割と有効かもしれないけど……人間ぐらいの大きさの敵が相手だと、やろうと思えば姿が隠せちゃうからあんまり良くないな」

 

 つらつらと講釈を垂れる男など無視して、レイトは再度男へ向かった。

 

「弓の軌道は……直線から変わらない。基本的にはな」

 

「!」

 

 シエルとの間にレイトが来る位置。それが加賀美明宏のいるべき正しい立ち位置だ。そこを目指す動きを見せる彼に対して、レイトもそうはさせまいとさらに動く。

 軌跡は平行線を描き、やがて人垣に辿り着いた。

 周りの人垣。男はソレを仮想上の移動限界線と決めていた。そこには本来壁か崖がある。実際のところ壁なら壁でやりようはあるが、今回はそこより先には進まない。

 

『うわっ!?』

 

『ガチ恋距離!?』

 

『男の子の方、近くで見ても綺麗だねえ』

 

『あっちは……挙動が人間じゃねえ』

 

「シエル!」

 

「分かってる……!」

 

 前方へダッシュをするレイトに対し、それを視界に入れるように斜め気味のバックステップで移動する男。追いかけられるというのは非常にリスクのある行為だ。背中を向けている故にまともな反撃は出来ず、一方的に攻撃を喰らう状態。速度差がある相手だからこそ出来る技だが、男が人間「達」と戦う際は大抵がこんなものだ。

 

 

 ──────

 

 

 探索者がパーティーを組んでいる場合、個々のレベルとは別にパーティレベルというものが設定される。例えばシエルとレイトのレベルは公式にはそれぞれ10と8。出会ってから一度も探索者としての活動を行っていないので、あの時から変わっていない。

 二人が組んだパーティ。

 名前は「夜明けの月」

 個人名をパーティネームに入れるなどという愚行を起こさなければ、馬鹿にされることはない。

 そして、パーティレベルは8。

 達成した業務の推奨レベルと個々人のレベルを考慮して商工会側でパーティレベルを決める。まだ活動していないから、パーティ内で最低のレベル保持者のものと同一になったのだ。

 

 基本的には、パーティを組むとレベルの上がりというのは遅くなる。

 倒したモンスターや空間から発された魔素の吸収量は、ものすごくざっくりとした話をすると、大気に発散された魔素の量に比例して物質の表面積に反比例したものになる。

 モンスターを倒した場合は近くにいる探索者達に吸収される量というのが多いが、複数人いると当然、各個人に吸収される量は減る。

 

 男はひとりぼっちだ(可哀想)。

 コマちゃんはいるが、気まぐれ。着いてこないことも割とある。そもそもペットだから、パーティを組んでいる人間とはカウントされない。それ故にモンスターを倒した時には魔素や素材、報酬は独り占め出来る。

 

 パーティを組んでいる場合は、対外的に評価されるレベルはパーティレベル。一人の場合は個人のレベルがそれに当てはまる。

 ゲームのようにテイマーなどという概念はないので、コマちゃんがいても個人レベルのみが評価されるというバグはある。しかし、そもそもコマちゃんが変身できることを知っているのは彼のみだった。今回の事変で日向たちも知ったが、大前提として、彼はコマちゃんのことを他人に教える気がない。商工会には評価のしようもないというのが正しいだろう。

 

 探索者は推奨レベルや、ダンジョンの位置、地形情報、現れるモンスター、報酬などを見て、総合的に業務を判断するべきだ。

 レベルの低い探索者達は大抵が推奨レベルと報酬で決める。それは、パーティを組んでいる故に多少の難事はみんなで解決できるという安心感からくるものだ。

 それ自体は問題無い。推奨レベルの設定を行っているのが誰かといえば商工会。低レベルにおいては実態と想定で乖離が少ない。

 パーティレベルに応じて選べば外れることは基本的に無いからだ。

 

 そうして選んだダンジョンで──

 

「彼ら」は、徒党を組んで襲ってくる。毒も火薬も使うし、煙玉も銃も使う。騙し討ちも上等。寝込みを襲うことなんて当たり前。女がいたら大喜び。

 一人だけだったら、探索者に成り立てのカモだと思って飛び込んでくる。

 そんな「彼ら」はモンスターじゃなくて人間を相手することを決めているので、大したレベルに到達していないのがほとんどだ。高くても20ほど。

 数の力で圧殺するのが基本だ。

 

 パーティを組んでいる探索者は、力を合わせて「彼ら」に対抗する。盾で守り、少しずつ地力の差でなんとかする。

 個人ならどうするか。

 基本的には逃げるが勝ちである。

 同じ業務を受注したとして、パーティと個人の活動者では、個人の方がレベルが高い。稀にいる堅実なパーティは個人のレベルも高いことがあるが、そんなのは本当に稀だ。

 レベルが高いなら、機動力の差で基本的には逃げ切れる。

 

 ……囲まれたら? 

 

 なんとかした奴だけが生き残る。

 

「逆に二対一とかやったことねえんだよな」

 

「追い付けない……!」

 

「ほら、早くしないとシエルのとこに辿り着いちゃうぞー」

 

 嘘である。

 しかし、ブラフというものは緊迫した場でこそ効果を発揮する。

 

「っ! ……ああああ!」

 

 更に力を込めレイトは、後のことなどどうでもいいと少しずつ追いつき始めた。

 

「…………」

 

 その瞬間、スッと男の目が細くなる。

 本来ならば──殺し合いならば、ここで一殺持っていく。しかし、敢えて少年の様子を見守った。

 

「うあああああ!」

 

 叫べば力は増すのか。

 人間的には否である。

 噛み締めなければ、力は出ない。

 腹筋に力が籠らない。

 腑抜けになり、全力を出すことは叶わない。

 だが、どうにも探索者は違う。

 筋肉に頼っているわけでは無いからだろうか。

 それに彼が気付いたのは、探索者になってからだった。

 

「はぁあっ!」

 

 振り翳された木剣。

 駆ける勢いを載せた、全身全霊の一撃。

 

「……」

 

 無言のまま、脳天に振り下ろされたソレを同じく木剣で受け止める。同程度の出力ならば、勢いに負けて押し倒されるだろう。

 故に、転んだ。

 砂利の上を滑る背中。天を向いたままの彼の目の前で、レイトは飛びかかってきていた。

 体重を載せて木剣を突き立てる気だろう。

 しかし、男は落ち着いて視線を右に向ける。

 

「はっ!」

 

 顔面を叩く声。

 可愛らしいソレは合図だった。

 放たれた矢とレイトは、全くの同時にやってくる。

 息ぴったりの連携技とはまさにこの事か。

 これが同レベルならば対処できない。

 しかし、彼は同レベルでは無い。

 ……どうしたものか! 

 

 悩んでいる間に矢がレイトの左脇腹を貫きそうになったので、右手で掴み止める。

 木剣は額をぶっ叩いた。

 

 

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