【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ぐぬぬぬ……何で言っちゃうんですか!」
「してるって言ったら嘘じゃん……」
「嘘でもそこはしてるって言ってくださいよ!」
明宏は立ち上がり、本当のところを話した。
婚約はしてないし、指輪にも他意はなかったということ。もちろん、エッチなことをしたという話はしていない。それでも、アリサとの関係はうまいこと伝えたつもりだった。
しかし、最後まで話を聞かずともドン引きしているのが山田姉妹だ。
「……お前、何してんの?」
「女の子に指輪を渡すって……私の常識を遥かに超えてるんだけど……」
明宏はそれに対し、真っ直ぐに見つめ返した。
「この子の先生として。必要なものがあるなら、それを渡すことは当たり前だ」
「明宏……そういうことしてるから、さっきの話みたいなことに……」
「……分かってる」
「分かっててやめられないのは病気だぞ」
「…………」
アリサにとって必要なことをするのは、明宏自身にとっても大事なことだった。
だが、明宏にとって必ずしも必要なわけでは無い。
しかし、他者にはそんなことは伝わらない。
ただ、彼女を好きなのだと考える。
それなのに他意は無いなどと……日向は何となく明宏の性質を理解しているが、それでもイカレを見る目を向けざるを得ない。
他者に理解を求めない。他者の理解を待たない。
それは明宏の悪癖だった。
長所と短所は表裏一体。この男は対人そのものは慣れていても、そこから先の関係にまで及ぶと途端にボロカスになる。
何せ、その相手とどうにかなりたくて関わりを持っているわけでは無い。
『より多くの縁を結ぶことで、焼肉に辿り着く可能性を増やす』
それこそが、加賀美明宏が人間と関わりを持っている理由に他ならなかった。彼自身、最低な理由かもしれないと認識してはいるが、今更やめることもできない。
人間社会において、試行回数こそが正義である。多くの人間と出会えば、その中に、栽培方法や焼肉につながる何かしらを知っている人間がいるかもしれない。
だから彼はアリサと関わりを持ったし、日向に声をかけた。そしてロイスやソフィア、ミツキらのことを助けるに至った。彼が他者と関わりを持つのはその程度の理由で、本来はそれ以上でもそれ以下でも無いのだ。
──本来ならば。
本当に何も思っていないならば。
ただ、普通に生きていたいのならば。
ミツキを振って終わらせれば良い。
だが、彼は知っていた。
一度慕情を交わす間柄になった人間とはそこまでなのだと。
そして彼は人間だった。本能的に孤独を避けるし、長いこと関わっていれば情が湧く。
アリサとミツキに対しては殊更に気を割いてしまうし、迫られれば切り捨てられないほどには憎からず思っている。
切り捨てられないのに、すぐに受け入れることもできない。
だからこんなことになるのだ。
女子を三人も集めて、修羅場一歩手前に追い詰められるのだ。
だから、話せばいい。
その事情とやらを全部。
「ヒロさん大丈夫です! 最後には私のものになりますから!」
「ははは……」
「なんですかその空笑い! 本気ですからね!」
──誰が信じる?
──俺の言うことを、心の底から信じられる愚か者がどこにいる?
本当のことを言って、誰が納得する?
ああ、好きじゃ無いんだな。
そんな適当な理由で誤魔化せると思われているんだな。
そう勘違いされておしまいだ。
大事だからこそ。
愛しているからこそ。
本当のことを告げることにはいつだって恐怖が付きまとうのだ。
それは、幾つになろうが変わらない。
だけど──
『アキのバカ!』
──あの子にあんな顔をさせたいわけじゃなかった。ただ、もう少しだけ待っていて欲しかった。それが傲慢でしかないとしても。
──────
愛していた。
心の底から、かけがえのない存在だった。
俺が何のために働いていたのかと言えば、彼女達のためだった。
大袈裟だと言われるかもしれない。忘れた方がいいと思うかもしれない。しかし、こうして思い返せば思い返すほどに。自分が作り上げた家族というものがどれだけ自分の支えになっていたかが思い出されるのだ。
コウキ。
エリック。
お前達ならば分かるだろう。
告白に是を返してもらった時の腰の抜けるような嬉しさ。
ただいまにおかえりと返してもらえる安心感。
自分は好きじゃないけど、行きたいというところに付き合う面倒くささ。
ご飯を一緒に作る時の心の温かさ。
愛した女と肌を重ねることの心地よさ。
妊娠を知った後、しばらく実感が湧かなかったこと。
産まれた我が子を抱き上げたときに、俺はやっと実感が湧いた。
嫁にはまだ足りないと言われたが。
コウキ。
エリック。
お前達にも分からないだろう。
生前の家族を思い出すという憂鬱。
今だって俺はあの子の親で、あいつの夫なんだ。それなのに、あっちから見たら俺はもはや死人。
元気にやっているとは思うけど──それとこれとは別問題だ。愛した人と共にいられない苦痛は、常に付きまとう。
海外出張などとはレベルが違う。世界を隅から隅まで探してもどこにもいないんだ。
こんなことならば……生まれ変わる時に、記憶など全て消してくれればよかった。そうすれば、こんなに寂しく感じることはなかった。
きっと、俺が若くなってしまったからだ。年老いたままならば諦められた。年を取った時点の俺に、そんな情熱は無かった。だけど俺は……若くなってしまったせいで色々とやれるしやらないといけない。
やればやるほど、やる気が湧いてくる。人間っていうのはそういう生き物だ。
だから忘れられないし、捨てられない。
この思いを。
醜い老人の妄執を。
どうしたら振り切れる。
女を抱けば無くなるのか?
ミツキを抱くのか?
アリサを抱くか?
ヒナタに手を出すのか?
そうやって、この重苦しい感情を忘れるか?
新しい肉体を手に入れたから新しい女に乗り換えるのか?
それが……正解なのか?
俺には分からない。
何せ、生まれ変わった経験が無い。
誰か教えてくれ。
何か、無いのか?
──────
「ともかく! ヒロさんは私のもの! …………アト、ミツキサン……だから、うちに来ないでもらえます?」
「それは出来ねえな。何せ、家が隣だから」
「はぁあ!? 何それ、嘘でしょ!」
「嘘じゃねえよ」
「ず、ずる! そんなのズルだから!」
「へっ! 悔しいならお前も隣に越せばいいじゃねえか」
「……そ、そんな金、アンタみたいなのがどうやって稼いだんだよ! …………まさか、その乳を使って──」
「殺すぞ」
一触即発の2人の乳に押し潰されている早苗が、必死に言い募る。
「う、うちは実家が結構お金持ってるの! だからヒナタちゃんが変なことしたわけじゃ無いよ!」
「それもそれでムカつく……」
「どうしろってのさー!?」
「……ヒロさんどう思います!?」
「──ん?」
「…………ヒロさん、本当に大丈夫ですか?」
やはり、アキヒロの様子がおかしかった。アリサの知る彼なら、もう少し話を聞いてくれる。反応ももう少し……しかし彼は先ほどから上の空というか、1人だけ考え込んでいる。
「…………!」
そんな彼を見て、自分にできることを思いついたアリサ。効率的で、効果的なこと。
きっと喜んでもらえるはず。
顔を口元に寄せた。
「ちゅっ」
「!」
「おいてめっ……!」
明宏は、驚いていた。半分ほど下がっていた瞼が完全に開き切っている。
下手人を見つめ、唇を抑えると口を開く。
「アリサ……何で今?」
「元気出るかなって!」
「…………っ」
あまりにも健気なアリサ。しかし今の彼が受け止めるには、少しだけ真っ直ぐ過ぎた。
「あ、あれ……イヤ……でした?」
「…………嬉しい、本当に」
「じゃ、じゃあ歯でも当たっちゃいました……?」
「…………そうじゃ、無いんだ……」
男は、死にたくなった。
ミツキを傷つけ、アリサの思いにすら正面から応えることができない。1ヶ月の間には、日向のことすら。
女の子の想いに真剣に応えられないような男になど、生きている価値は無いのだ。
心臓を突き刺して、死ねるならば死んだ方が良い。
だが、そうもできない理由はあった。
「…………」
やがて膝から崩れ落ちる。
「ヒロ……さん……?」
前後、どちらにも進めなくなった人間の姿。
「アキヒロ……」
「アキヒロくん……?」
そんな男は、絞り出すように言葉を発した。
「俺は──」
懺悔するかのように。
「俺は、どうしたらいいんだ……?」
「「「っ!?」」」
『…………』
それは、彼女達が初めて見る姿だった。
弱々しく放たれた言葉。
表情は崩れ、途方に暮れたと表現するのが最も近い。
三人とも、動けなかった。
折れず曲がらずの彼がこんな姿を見せるなど。
殊更に驚いているのは日向。
「お前……」
明宏が、普通の人間のように苦しそうにしている。幼馴染を傷付けたことがそれほどに彼を苦しめているのか。
──妄想する。自分が同じことになったら、彼は同じようになってくれるのか。
「っ……」
酷い妄想だ。しかし、彼がそうなった姿を想像したら……ゾワリと、背筋を痺れが走った。
「──コマちゃん?」
「はっ!?」
アリサの声。
何故か、神様が明宏の足元に寄っていた。
前脚を膝に乗せる。何をするつもりかと固唾を飲んだ。
『…………わふぅ』
「どうにもならない……俺は、こんな事なら何も──」
『わんっ』
「それは…………嫌だ……」
『──わんっ!』
「…………分かっているよ、甘えだってことは」
『がるるる……』
「分かってるんだよ…………」
『わんっ』
「…………」
『ぼふっ』
「…………それはただの諦めだ」
『わふっ』
「…………」
『わん』
「お前が今年はこのままで良いって言ったんだろうが……」
『わふっ』
「…………」
『わんっ』
「そうだな……」
『わふっ』
「…………はぁ……男だもんな」
三人は、呆気に取られたままだった。
絶望したような雰囲気を出したかと思えば、犬──あるいは神様──と会話をしだした。
そして……瞳に力が戻った。
何が何だか分からない。
自分たちはただ突っ立って見ていただけだ。
早苗と日向は、彼が神様と何かを話したということしか分からない。
アリサに至っては、そもそも何の話だったのか分からないから本当に意味がわからない。
「みんな、ごめん」
「へっ?」
「俺、ちょっと行かなきゃいけないところがある」
「ええと……どこへ?」
「後で説明するよ」
「え!?」
帰ってきたばかりである。
もう少し一緒にいたい。
お土産だって持ってきた。
手元と明宏の間で目を行ったり来たりさせた。
「あ、あの……こ────!?」
刹那の隙をついた動き。
一瞬何が起きたか分からず硬直するも、至近距離の肌色と感触。
「──それは後で一緒に食べよう」
「はひい」
次に視線を向けた先は。
「……日向」
「な、なんだよ!」
「嫌なら逃げろ」
「!?」
何をする気だ! とか逃げるって何だ! とか問答をする余地は無かった。何をしようとしているかが明らか過ぎて、本能的に対応した。
「──!」
すなわち、目を瞑った。
肩に入る力。
うなじに触れる指。
力の入っていたそこに、なおのこと力が入る。
ギュウウと固められた唇。
いつ来るのか。彼女の恐怖にも似た期待に応えるように、ややカサついた感触がゼロ距離に至った。
「〜〜〜!」
すぐに離れる。
恐る恐る目を開けると、顔一つ分開けたくらいの近距離で苦笑いをしていた。
顔が満遍なく、耳まで熱くなる。
「もう、吹っ切れるしか無いんだなって」
「な、なにが──むぅぅぅ!?」
思わず開いた唇。
さらにもう一度繰り返される。
2連の一撃は想定しなかった為、まともに喰らう。
バタつかせた手が、やがてヘナヘナと力を失っていく。
「ぷはっ……悪いな日向、こんないきなり」
「…………」
へなりと地面に崩れ落ちる。
「はわわわわ……」
メチャクチャだった。
3名のうち、2名は再起不能。
残された1人、早苗。
彼女は14歳の少女だ。
道場での日々は対人スキル──武術や会話──そのものは磨くのに適していたが、男女のアレコレは全くしていない。
あまりにも対応スキルを超えていた。
向けられた顔に、あわてて両手を翳す。
「ひゃぅっ! わ、わたっしはあのあの何でそんなことになってるのかわかんないですっ!」
支離滅裂な発言。
尚も一歩ずつ踏み込んでくる足音に、パニックが突き抜けた。
「ほわわわ私にはまだはや────?」
ふわりと薫る、汗混じりの匂い。
体を包む感触。
必死に逸らした顔を向けると、あったけえ表情だった。
先ほどまでの情けない顔はどこに行ったのか。
「……明宏くん?」
「ありがとう早苗ちゃん、話を聞いてくれて」
「…………」
「いつも元気をもらってる」
「……よく分かんないけど、私のことが好きってこと?」
「ああ!」
「──じゃあ、どういたしまして!」
「…………じゃあ……?」
「そこは良いの!」
「──分かった。とにかく、ありがとう」
「あ…………」
もう少しだけ長く包んでいて欲しかったと。
拒否の言葉を最初に発したとは思えない感想を抱く。
「後で説明はするから!」
大事なことだから二回説明し、家から駆け出した。
『わふぅ』
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない