【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
手鞠は顔を顰める。
不服があると、暗に告げていた。
「結果、何も分からなかったと」
「はい」
「手法が間違っていたのでは?」
「いつもと同じ手順、器具で行いました。それが間違っていたというなら、根本的な見直しが必要ですね」
「…………何かの痕跡は?」
「お伝えしたとおり、謎の石柱ならありました。分析結果は後ほど」
「それ以外には?」
「巨大な一本の木が、ダンジョンを丸々潰すように立っていました」
「…………これですか」
報告書にも記載がある。
写真。
確かに巨大だった。
周囲から突出した姿は、あまりにも巨大過ぎる。
ニヤニヤしている男──レオの言いたいことはわかっていた。
「なぜ、モンスター化していない?」
「何故でしょう──室長には何か思い当たることは?」
「……無い」
「ええ、そのとおり。我々としても判断材料がない。可能性として今のところ上がるのは、モンスター化はしないが変異する程度の量を浴びせられ続けた、とかでしょうかね。そんな都合の良いことができるのかはともかくとして」
「予想は良い。大事なのは、原因を突き止めることです」
「原因に関してはなんとも……ですが一つだけ、気になることがあります」
「なんですか」
「あの地域の霊領を監督していた眷属、山田氏──その娘たちが引っ越したそうです」
「……このタイミングで?」
「このタイミングで」
「…………話を聞く必要がありそうですね」
「既に話は聞いてあります」
「では、なんと?」
「娘達には継がせない。安全のために避難してもらったと」
「なるほど…………それでは、当代がいなくなれば霊領は──」
「ええ、商工会が管理することになります」
「それは……少々厄介ですね」
「別に我々が管理を担当するわけでも無いので、そこは気にする必要ないでしょう」
「調査は私たちの役割ですよ」
「そこはまあ、どうせ立ち入り調査など我々には不可能です。永井氏のお力でも頼るしかないのでは? まあ、ダメもとですが」
「……私たちは嫌われていますからね」
商工会は過去、永井文俊の協力の下で霊領の解明に乗り出したことがある。しかし、当時の探索部の部長は永井の制止を無視して霊領に無茶な接近を仕掛けた。結果、一帯丸ごと滅ぼしかけたという実績がある。それ以来、永井文俊は商工会に対して協力をしたことが無い。
当然だった。
彼は特定の神の眷属では無いが、霊領──神と共に歩む者。霊領の和を乱すものに力を貸すことはない。ルールに従えない奴は、金持ちだろうが家族だろうが権力者だろうが関係無い。神は、相手が誰である事かなど、基本的に考慮してくれないのだから。
「立ち入り調査……命じられたらどうするんだ……」
「数人死なないと変わらないでしょう。お上は霊領のことなんて知らない無能どもがいるだけなんですから」
「そうですけど……」
「指示が下らなければ儲け物。下る前提で、まずは私が当たってみますよ」
「……頼みました」
「──ところで、お昼は?」
「あなたの報告書を読んでいたので食べていません」
「そうですか。では、私も食べていないので外にでも行きましょう」
「いや、私は──」
「今日は海鮮の気分だな」
「…………はぁ」
レオは、仕事以外では人の話を聞かない。手鞠が初めて出会った時もやりたい放題過ぎて反応が間に合わなかった。思考速度が人とは違うのだろう。
「財布を取ってくるので、エントランスで」
「わかりました」
スーツ姿では少々寒いのでコートを羽織ると、レオも同じようにコートを羽織ってきた。
「お待たせ!」
口調の崩れ。
もうプライベートモードに入っている。
手鞠も少しだけ気を緩めた。
「で、どこ行くの?」
「どこってそりゃあ──」
──────
石畳と煉瓦造りの街、第一セクター。
魔素がふんだんに練り込まれたそれらの強度は、三級程度のモンスターの攻撃なら受け付けない。
蒼連郷の守りの要として当然か。
そんな街を、2人は連れ立って歩く。
道行く人間の格好は二分される。
カッチリした服装か、探索者の格好か。
それもそうだ。この街には他のセクターよりも多くの探索者と、商工会の職員が集まっている。
他のセクターであれば、ここまで多くの彼らとすれ違うことはないだろう。
第一セクターの職員であることを示すバッジと、職員証。どちらも外した2人は、レオの案内で進んでいく。
やがて辿り着いたのは、きったねえ字で殴り書きされた看板がかかっている店? のようなナニカ。
「…………」
立ち止まって看板を見上げる手鞠。
若干頬がひくついていた。
だって……看板がなんか、汚い
「そこ邪魔だから、早く入るぞ!」
そんな彼女の手を引っ張って連れ込む。
中に入ると、予想通りの雑多な雰囲気。
空いている席に2人で座る。
足音が近付いてきた。
「ようレオ! べっぴんさん連れてきたな!」
「……おお、ユーイチ! この子、うちのリーダーでね!」
「へえ! じゃあ、この子も優秀なんだな!」
「俺ほどじゃねえけどな!」
「調子乗ってんじゃねえ! バカ! ハハハ!」
出会い頭でレオの首に腕を回してきた粗野な男。
二言三言交わすと機嫌良さげに離れていった。
「……ここは?」
「俺が最近ハマってる酒場。見ての通り、バカしかいないから楽しいだろ?」
確かに。
酒を飲んでぶっ倒れた女の子。
そんな子のスカートを捲り、酒を呷る男。
腕相撲をしている探索者。
見事にバカしかいない。
「あそこで倒れてるのはユウキ、覗いてんのはハジメ、あっちの腕相撲してる2人はマナとシュウ。そんで今のやつがユーイチ」
「知り合いなの?」
「知り合いってほどじゃねえな。顔見知り程度だ」
「……なんでここ?」
ドン、と水が置かれる。
「何でココとは……随分な言い草だな? ええ、おい」
額に十字傷の男。
完全に丸坊主だ。
エプロンからして、店員。
「マックス! いや、この子はあれなんだ。素直なんだ!」
「素直だあ? 言わなくて良いことを言う脳足りんの間違いだろう?」
とんでもなく辛辣な一言。
手毬は固まった。
レオは慌ててフォローをする。
「まあその……融通は効かないけど悪いやつじゃない! それを言うなら俺の方が悪いやつだ!」
「ああ、まあそうだろうな。女を誑かしてこんなところに連れ込んでんだから」
「いやいや! そういうのじゃないから! 美味い昼飯食いに来ただけだから!」
「本当か? 休憩してくんじゃねのか?」
「ばっ、そういうこと言うな!」
その一言で動きを取り戻した。
顔を向ける。
「休憩って、何?」
「…………エール! エールと海鮮丼二つずつくれ!」
「おい、休憩って何だ! 何で階段指差したんだ! 教えろ! 私に何隠してんだよ!」
「こ、こんな時だけ目ざとくなくて良いんだよ! ……ええい、襟を掴むな! 千切れ……おおい!」
千切れた。
ブチブチと音を立てながら襟が引き剥がれる。
多少はレベルのある彼女の力に、一般用の縫製では足りなかったのだ。
「──この前、呑み過ぎてここの2階で朝まで寝てたんだよ!」
『女の子付きでなー』
「ふざけんなマックス! お前まじ良い加減にしろよ! 今日が勤務日じゃなかったらお前の禿頭に一発食らわせてやったからな!」
『そうしたらお前なんざ出禁だ!』
「うるせえ! 俺の権限があればこの店調査して問題アリでぶっ潰してやれるんだからな!」
『そんなことしたら本部の前でお前のやったこと全部ぶち撒けてやるからな!』
「てめえケツに魔石突っ込──ワオ」
引っ掴まれた襟。
グイッと引き寄せられ、貼り付けたような笑みが目の前に。
「女の子付きとやらの話……後でじっくり聞かせてもらうから」
「イ、イエスマム……」
気を取り直して、給仕が届けたエールを一口。
何でここに連れてきたのかという真面目な話だ。
「──おおかた、探索者からいろいろ話を集めているんでしょ?」
「一発で当てられちゃあ、クイズの出し甲斐もないねえ」
「あなたが無駄なことするわけないしね」
「くっ……もっと無駄なことをやっておけばよかった……!」
「──女を連れ込んでんだろうが! このゴミが!」
「いだあい!」
グリグリと踏みつける足。
レオの絶叫が店内に響き渡った。
『おいおい、痴話喧嘩だぜありゃ』
『レオがあんなカチカチの女の子連れてくるとか……明日はリヴァイアサンが目覚めるのかね』
『ぶははは! ぶっごほっ……オエエエエエエ!』
『うわああ!? ざけんな殺すぞ!』
何故か別の喧嘩が巻き起こり、飛んだ食器がガラスを突き破った。
『おおおおい! ゴルアアアアア!!』
『やべ、逃げろ!』
駆け出すハゲ。逃げ出す酔っ払い。
街の喧騒の中へ消えていった。
レオは、涙目で足を押さえながら言う。
「ち、誓って言うけど……マジで何もしてない。酔っ払って、起きたら横に寝ていただけだから……」
「…………」
チベットスナギツネのような視線を向ける。
指を立て、口を開いた。
「ある程度は品位を保ってもらわないと困るんだよ? 私たちは今、商工会っていう組織に属する人間なんだから」
「分かってる! 分かってるよ! ここに来てるのは変な目的じゃない! 本当だ!」
『レオさん、今度のお休み空いてますよ〜(はあと)』
「なんなの!? 君たちは揃いも揃って俺を殺したいの!? ……見てよこの目! 部下に向ける目じゃないよ! 親の仇に向ける目だよ!」
「…………」
「マジであれは俺を……君を揶揄ってるだけだから! 何も無いから! ……もういいや! 後だ後! リンちゃん、海鮮丼早くね!」
『はーい(はあと)』
「それやめてね」
──────
「そもそも、どうやって話聞いてるの? そんな簡単に話してくれないでしょ」
「みんな俺が商工会の人間ってことは知ってるからな。通りやすい申請の仕方とか、ごね方とか、あとは代わりに書類書いたりしてやってるんだよ」
「…………なにしてんの?」
「その程度で集まるなら良いだろ」
「…………」
いろいろと言いたいことを飲み込む。
この男が自分の言うことを聞くとも思えないし、それでしっかりと情報が集まっているのなら文句を言う事は、むしろマイナスの流れだろう。
「何の情報集めたりしてるの?」
「スライムが溢れそうとか、子供がいなくなったとか、そういう話だよ」
「…………」
「被害が出た後に動くよりは、先回りしていた方が良いだろ?」
「……西田室長はあんまり良い顔しないと思うけどね」
「どうせ言われてからしか動かないんだから、偉そうな口叩くんじゃねえ」
「…………まったく」
「良い男だって?」
「ルールを守らないやつだって言ってんの!」
「はっはっは! まあ、このボロ店だとそういう話ばっかりだけど──外周近くだともっといろんな情報が集まるからな」
「外周……」
「酒場に入り浸りってわけじゃないからな?」
『お待たせ〜!』
ドン! と置かれた木の器。
盛り付けが汚いのはきっと、気のせいだろう。
「待ってましたよ。じゃあ、話は一旦中断して食べっか」
「うん──あ、美味しい」
「だろ?」
摘んだ白身魚の刺身。
特製のドレッシングと合わさり、淡白な脂を程よい酸味が引き立てていた。
「どこで見つけてくるの? こういう店」
「そりゃあ手当たり次第よ。人から聞くこともあるけど、結局自分で行ってみなきゃ本当のところは分からないからな」
「…………」
「テマリ、もうちょっとだけ力抜いた方が良いぞ?」
「誰かさんがプレッシャーかけなきゃ力も抜けますけどね!」
「ごめんて……仕事中は切り替わっちゃうんだよ」
「分かってる」
その後は2人で静かに昼飯タイム。
手鞠は癖でかき込みそうになったが、レオがそれを制止した。せっかく美味いもの食いに来たのに、5分で完食しようとすんじゃねえ! という怒りのこめかみグリグリだ。
『うわ、レオが女の子いじめてる!』
『あの2人? ……女の「コ」では無いだろ』
『死んだ方が良いよ、キミ』
『レオが死ぬほど睨んでる……明日は下痢便止まらないかもな』
『そんなに!? 何されるの俺!』
「痛い……」
「ったく、ゆっくり食べるぞ」
「仕事があるから……」
「俺が手伝うから、たまにはゆっくりな」
「…………」
「仕事なんて、やってもやっても後ろから流れてくるんだから。気にすんな」
「副室長は気楽でいいね」
「ハンッ! そこら辺はうまいこと調整できたやつの勝ちだ!」
「…………雷季は、荒れるのかな」
「そんなこと気にしたって仕方ないさ。俺たちは所詮末端なんだから」
「霧が来たら……また、仕事が増える」
「この街に直接被害があるわけでもないし、俺たちはどっしり構えるだけだぞ」
「うん……」
やや辛気臭い空気。
しかし、周囲ではガヤガヤと喧騒が続いた。
『は゛な゛し゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!』
『弁償しろ!』
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない