【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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77_臭い研究室

 なんとか場をやり過ごして次の日。

 明宏は大事な用事をこなす為に大学へ向かった。

 大事な用事とは何か。

 

「うん、確かにこれは一般には出回らないだろうね」

 

「一般どころか、俺が見たことない時点で相当特殊だと思うんですけれども」

 

 到着してまず見せたのは、向こうで撮った写真。商工会の職員達が大掛かりな器具で何かを計測しているところだ。バレればどうなるかわからない劇物を持ち込んだ明宏に対して、特に焦ることも無く答える。

 

「ふむ……これはだね」

 

「ええ」

 

「魔素の計測器具だよ」

 

「はぁ」

 

「うん」

 

「…………それだけですか?」

 

「そうだね」

 

「…………」

 

 どさりと椅子に座り込むと、尊敬している人にはあまり見せない顔を見せる。

 

「不満かい?」

 

「不満……そうですね、不満です」

 

「焼肉への手掛かり──なかなか難しいだろうね」

 

「なかなかで済めばよかったんですけどね」

 

「コレはね、最初の計測器具なんだ」

 

「最初…………つまり、神様の力を使って作ったとかいう?」

 

「そう、全ての計測器具はこれの簡略版だ」

 

「…………その割には長渕式が普及してますけど」

 

「あれを使うには、ある程度は認められる必要があるからね」

 

「認め『られる』……? しかもある程度……もしかして、その相手というのは」

 

「神様ってやつさ」

 

「その神様とやらは随分フランクなんですねえ」

 

「フランク……まあ、そうかもしれない。なにせ計測器具を作るのに力を貸したのだから」

 

「ううん……永井さんは当然使ったことがあるんでしょう?」

 

「勿論」

 

 朗らかに肯じた永井は目の前の青年の様子を観察した。

 持ってきた標本達は、研究室の机をどっさりと占領している。そして臭い。今日──なんならコレがある間は生徒達が近寄ることはないだろう。

 当然、永井も明宏もこの程度の匂いに怯むことはないが……苦情が入るのは間違いない。

 

「長渕式は民生用の中では確かに精度はマシな方だね。でもその程度だ。しっかりとしたデータを取るなら、金を掛けないと」

 

「商工会とかでも置いてあるのは長渕式ですけど」

 

「所詮は指標だよ」

 

「じゃあこのデカいのは……そんなに精度高いんですか?」

 

「高いね。100ppmまでの差なら測れる」

 

「それは……すごいですね」

 

 まさかそんな単位をこの世界で聞くことになるとは、と驚愕する。

 ppm──つまりは百万分の一、0.0001%だ。その100倍なので、0.01%の差まで計測することができる。そんなに高精度なものが必要かどうか置いておくとしてもだ。

 しかし、同時にこう思う。

 

 ──神の力を使ってもその程度か。

 

「まあ、何も出なかったらしいけどね」

 

「でしょうね」

 

 仮に魔素が高濃度に現れているのならばご大層な器具を使わなくともわかるはずだ。それに、目覚めてからあんなにのんびりと235セクターにいられるはずがない。ダンジョン化だって止まることはなかっただろう。

 

「…………加賀美くん!」

 

「はい」

 

「私はその事について聞きたくて仕方がなくてね!」

 

「……でしょうね」

 

 明らかに目を輝かせている。ずーっと、聞きたくて仕方が無かったのだろう。先ほどはもったりと背もたれに背を預けていたのに身を乗り出している。

 計測器具とかいうどうでも良い話は終わりだ! 今度は俺のターン! と口を開いた。

 

「今回、貝殻の洞窟に行ったんだよね?」

 

「最初はそうです」

 

「何か変わったことはあったかい?」

 

「──まず、道が変わっていた」

 

「道! ほう!」

 

「本来の道が、横道になるどころか壁の中に埋まって……完全に別の道が主道になっていました」

 

「道が変わる……ふうむ、つまりあの粘液のせいかな?」

 

「…………そうです」

 

「ふっふふ、君が戻ってくるのを私がただ楽しみに戻ってくるだけだと思っていたかな?」

 

 図星。

 この爺さん思い出すのはえーな……と驚いていた。

 

「ちゃんと、自分の本や昔の資料を読み返していたのさ」

 

「なるほど」

 

 筋金入りの研究者。

 お楽しみの話をする為なら、今やっている研究を一時停止することも許容するのだ。

 

「私が通った道は埋まっていた……つまり、何も無かったのかい」

 

「そうです──とも言えないですね」

 

「ほう」

 

「腕輪が一つ、落ちていました」

 

「腕輪?」

 

「ええ、道の真ん中に」

 

「ふうーん……変だね」

 

「あと、スネイルがちょくちょくいましたね」

 

「特殊な個体だったり?」

 

「いえ、あれは本当になりたてというか……ただのクソデカいナメクジって感じでしたね」

 

「クソデカいナメクジか……魔素をあまり吸っていなかったのかな」

 

「横道というか、埋まっていた道ですからね。あのスネイル達も壁の割れ目から間違えて入っちゃった感じなんでしょう」

 

「ふーん……」

 

 メモメモと顔を紙に向けて聞いたことを書いていく。また出版する気かこの男……!? と恐れにも似た尊敬の念を抱いた明宏は、永井の手が止まるまでは一旦話す口を止めた。

 

「なるほどなるほど……」

 

「他には、本に記載の無い隷属種が見られましたね」

 

「どんな?」

 

「モンスターにしては小さい奴らでしたね。アリとかてんとう虫とか」

 

「よく分からないね」

 

「第一世代では無かったんですよ、倒したらちゃんと死体も残りましたし…………流石に死体は持ってきて無いです」

 

「いやいや、流石にそこまでは求めないよ」

 

 いくら小さいと言っても、30cm以上はある虫を袋に入れて持って帰ってくるのは忌避感が強い。明宏もグロ耐性はついているとはいえ、あまりしたいとも思えない。

 

「そもそも、日向達が許してくれなかっただろうなあ」

 

「……日向? 友達かい?」

 

「ええ」

 

「あー……あれか、友達のところに泊まると言っていたのはその子のことか」

 

「そうそう」

 

「おっとすまない、本題から逸れたね」

 

「──記述に比べると、全体的にモンスターのレベルが上がっていたようですね」

 

「30年も維持されていたのだものなあ……良く、主が討伐されなかったね」

 

「運もあるでしょう、コウキさんなら間違いなく単騎で突破していた」

 

「はは、そうだね。彼ならそうだろう」

 

「あとは……大広間かな。仕分けるためなのか、財宝が集められて粘液の中で濾過されていました」

 

「…………それは知らないねえ」

 

「玉座の一歩手前の空間がそれでしてね。そこに辿り着くまでは俺でもギリギリ行けるくらいの難易度だったのに……大広間で一気に、俺じゃあ太刀打ちできないレベルになったんです」

 

「モンスターの数がかい?」

 

「数も質もです。あそこにいた奴らの半数以上は俺より強かった」

 

「それだけ多くの犠牲者がいたということなのだろうね」

 

 青年が描いた洞窟のマップをジッと見る。30年前と比べ、行程の長さも推奨レベルも大分上がっている。それに彼自身、歳をとった。この脚でそのダンジョンの奥を見ることは叶わないだろう。

 そもそも、潰れてしまった。

 

「例の樹に潰されたのが惜しいね」

 

「ええ、レベルが上がった後にもう一度行きたかった」

 

「まあ、コレばっかりは仕方ない。それに地元住民にしてみれば喜ばしいだろう。近くにある最も危険なダンジョンが壊れたのだから」

 

「そう甘いことを言っていられるような状況じゃない気もしますけどね」

 

「いやいや、人というのは自分の今の生活さえ良ければ良いものだ。たとえ未来に何が起こるかも知れなくても」

 

「そこまで刹那的に考えたことはないですね」

 

「君はそうだね、未来に生きる人だ」

 

「……それは違いますけどね」

 

「いや、年寄りから見たらそうだね」

 

「年寄りから見た若者は、実際より輝いて見えるものですよ」

 

「なにおう!」

 

 明るく笑い、やがて一旦息を吐く。

 

「長いな……30年というのは」

 

「長いですよ。子供が一人、立派な成人になるだけの時間なんだから」

 

「そうだね」

 

 遠い目。

 永井が昔──かつての仲間や恩師との楽しくて険しい日々を懐かしむのと同様に、明宏も昔を思い出していた。部屋の中が、途端にカビ臭くなる。

 お茶を啜る音すら、田舎の縁側のような少し古びれた雰囲気を纏ったようだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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