【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
戻ってきてから、1週間ほど。日向達の生活も改めて始まり出して──とは言っても、職を探すのは難しいのでまずは明宏の整えた畑をやったり挨拶をして顔を広めていくことから。そういう細々としたことから始めて、やがてはある目標を達成しようとしていた。
「…………気をつけろよ」
「ちゃんと帰ってくるんだよー!」
明宏は、日向と早苗が畑を耕している姿に安心してセクターの中心部へ。そんな彼が途中で見つけたのは、道端に集まる群衆。吟遊詩人でも訪れたかと、足を止めた。
──吟遊詩人。
言わずもがな、各地の出来事を面白おかしく脚色して話すのが仕事だ。ニュースはあるけどテレビがそもそも高い。あまり普及してないから、明宏が『うるせえ! いいから買うんだよ!』と言って実家に放り込まなければ、茜がテレビを拝む機会は一生無かったかもしれない。
それに音楽も。
朗々と奏でるタイプの歌は彼の感覚からは遠すぎてあまり馴染めないが、娯楽が少ないこの世界ではそれでも重宝される。娯楽の中にゲームがあるのが驚愕だ。復活させた人間は相当なゲーム好きだったのだろう。電池は作れなかったのか、魔素を用いて動かすところが非常に彼の頭をパニックに陥らせる。逆にどうやって作った。
「イケメンかな……」
あまり好みではなくとも、物珍しいので寄ってみたくなるし、日向達への土産話にもなる。楽器をかき鳴らして一級探索者達の活躍を語る人間はどこかな、と群衆をかき分けて前に進めば……
『──この世界はあまりにも苦しみに満ちています』
「…………?」
そこにいたのは妙なことを話す女だった。杖を持ち、口元は見えるが目元がフードに隠れている。後ろには同じくフードを被った体格のいい、おそらく男だろう。そちらも口元しか見えない。
女は何事かを話し続ける。
『モンスター、ダンジョン、これらは全て──旧時代を取り戻そうとする足掻きが原因なのです』
『どうか、思い出してください』
『自然と共にあることの素晴らしさを』
「…………」
集まった人々は、いまいちピンときていない顔だった。そもそも、自然と共にありたいと感じた事がない。普通の魚や鳥を獲ることはあるけどあくまで生活のためであり、自然と共に暮らしたいからでは無い。なぜこの女はいきなりこんな話を……と首を傾げる人の前で女は杖を掲げた。
『私は自然と共に過ごしてきた結果、このような力を手にしました──さあ、ご覧ください』
「──────―!?」
人は自らの知能や知識では説明のつかない現象を目にしたとき、それを特別な事だと感じる。それは、この場にいる皆皆にとっても同じだった。
驚嘆に満ちた声が辺りから上がる。
明宏も、目を凝らして空を見上げる。
「あれは……」
女が杖を振るうと緩衝地帯である野原に雷が発生する。
草を焼き、地面を破り、轟音が人々の耳を鳴らす。
異能とは明らかに違った。大前提としては、自らの肉体から発露するのが異能だ。天然の雷を発生させる異能は聞いた事がない。
落雷の発生誘導。
金属製の鉄塔などに引き起こされることはある。だがそれは、雷が空中で通り道を探した結果として起きるもので──少なくとも、杖を振ったとてどうにかなるものでは無い。
杖はフェイク。
空や、あるいは地中に探索者が潜っている可能性が高いと睨んだ。飛行と電撃の異能を併せ持っていればそれは可能な芸当だ。
転生前なら考えつく事もなかったが、この世界においては人体発火現象もきっちり自分で燃えているだけなので明宏にとって驚きは少ない。
「それか……そういうのを作ったか?」
バカみたいな話だが、雷を発生させる装置をこのためだけに作った可能性も……ほぼ無いが、無いとは言えない。職人を誘拐して超巨大なテスラコイルでも作らせればいけるだろう。
しかし、なんのために。
『エリュシオンに入れば、異能やレベルを上げなくともこの力を扱えるようになります!』
『子供達がモンスターに襲われて──あるいは、そこにいるような探索者達に襲われて酷い目に遭う。それは皆様が不安に思っていることのはずです』
「……おいおい、冗談じゃねえな」
「舐めた口聞いてんぞ、あのガキ」
露悪的な発言。
そんなことをすれば、荒くれの探索者達などすぐにイキリ立つに決まっている。その場に居合わせた彼らは、口元を歪めて目の前の馬鹿をどうしてやろうかと口にし始めた。しかし、女は怯まない。
『あのようにすぐに苛立ち、周りに怒りをぶつけようとしているのがその証拠です』
『皆様も、彼らに少しでも歯向かえば立ち所に暴力を当てられるでしょう』
「おいてめ──」
『──あぶないっ! はなれてください!』
一人の探索者が口を開いた瞬間、女が大袈裟に叫んだ。
バッ、と離れる民衆。
取り残された男達三人は一瞬、状況を飲み込めなかった。
「は?」
『今、何かをしようとしましたね!』
探索者への信用度など、無いようなものだ。
所詮は暴力を生業とする者達。言葉はマトモに通じず──モンスターにそうしているようにいつかは自分達へと向くかもしれない。そんな恐怖を、多かれ少なかれ人々は持ち合わせている。
仕方ないのだ。
武器を持ち歩いている人間は危険だと、教えられなくとも誰にだって理解できる。彼らは傷だらけで、言葉遣いが荒く、喧嘩っ早い。そんな奴を、誰が自分のコミュニティ内に入れたいと思う?
もちろん、モンスター達を倒していることに対して多少の評価はあるだろう。だが、彼らはそれを殊更に誇示し、自らが凄い存在であると見せつけている。どれだけ金を稼いだだの、こんなでかいのを倒しただの。
人は、自分のことを明らかに大きく見せるものに対して厳しい。
大きく見せるとは、威嚇の一種に他ならない。お前らより強い俺は、お前らより上だと。
詩人が吟じる、素晴らしい探索者などどこにもいない。あれはあくまで楽しいお伽話。そう理解した上で、暇つぶしとして皆聞いているのだ。
つまり、受け入れられているわけでは無い。明宏が大学で突き放されたりしないのも、大学に入ってこれたという知性の担保と普段の振る舞いがあるからだ。
「おい待てや! 俺は何もしてねえだろ!」
『いいえ、私が止めなければ彼女を殺していたでしょう?』
「ああ……?」
指さしたのは、年若い少女。
怯えた表情を見せる姿に、ふざけるなと吠える。
「言いがかりつけんな! てめえ……やんのか?」
『いいえ。あなたがたのように、無意味に暴力を振り撒く輩と勘違いしないでください』
「…………!」
あまりの言われように、返すための言葉も出ない。
ただ、興味本意で見に来ただけなのに何故こんなことを言われなければならないのか。
『これ以上は皆様の身が危険になりますので今日のところは解散とさせていただきます…………ですが、お忘れ無く。我々エリュシオンは皆様と共に歩む準備があります』
謎のフード二人は、民衆にそう言い放ってその場を去った。残された三人も、怒りをぶつける場所を見失って地面を蹴る。
「くそっ!」
ズンズンと支部の方へ向かっていった。
「……何だったんだ今の」
明宏にはよくわからなかった。
わけのわからないことを言われたからって、あの三人はブチギレすぎじゃ無いだろうかという感想だった。
──────
「土産話にしてもよく分からんかったな……」
不思議な二人組だったと首を捻りながら歩いて向かうのは、第32セクター支部も建っているメインストリート。
一般人は決して興味を示さないような外れに露店を構えている店主。右肩に金槌の刺青が入った男は、名すら明かさないが、仕事だけはキッチリとこなす。
明宏は、リュックから黒いボロ布を取り出しながら挨拶をした。
「どうも」
手に入れたレイスのボロ布。どこで手に入れたのかは知らないが、持ち帰っている以上はレイスにアレをやられたのだろうと決め込んだ。
「お前さん、それは…………」
アキヒロの虎の子である死套鎧(ミツキ達には黒鎧と呼ばれている)を作った鍛治師。ずんぐりむっくりで、身長140cmほどの彼は、その布を見て目を見開いた。
「ああ、また手に入れたんですよ。これで俺の装備を──」
「レイスではないぞ、それは」
「?」
何を言っているかよく分からない。
この見た目でレイスの死骸じゃなかったらなんなのか、鑑定のプロでも何でもない明宏には分からなかった。
「まあいいか、なんでも」
「なんでもて……お前さん、どこでそれを手に入れたんだ」
「秘密」
「…………」
いつも秘密で何も教えてくれない鍛治師への意趣返し。
「とにかく、強化してくださいよ。これでもっと強くなれるんでしょ?」
「浅っ……もっとなんかあるだろ!」
「浅くても何でも、良い装備を身につけたほうが強いに決まってる。俺の強さなんて劇的には変わらないんだから」
「やはり分からん……こいつ、何なんだ……」
「いくらなんです? 早く見積もって」
「1500だよ! 1500!」
「3倍じゃねえか前回の」
「だから! そんくらいの素材だっつってんだよ!言っておくが、俺は安いぞ!他のやつよりもずっとな!」
「おおおぉん……知ってるよ……」
流石に明宏も頭を抱えた。
──自分は何と出会ったんだ。何で生き残ってるんだ。そんな化け物と出会すような深度にまで到達して、他のモンスターにやられないわけがない。コマちゃんだって何の役にも立たないだろうし、どんな奇跡があれば日向達の元へ帰ってこられるのだ。
「……」
まだレベルは29だと当然に考えていたが、もしかしたらおかしなことになっているかもしれない。魔素溜まりやらレイスやら………これが終わったらすぐに支部に寄ろうと明宏は決めた。しかし、その前に確認したいこともある。
「そういえば、俺の武器……こうなってたんですけど」
「…………!?」
「なんか知らない?」
「お、おまっ、こ……」
「……あの、いきなり下ネタはやめてもらっても良いか? 面白くないし」
「ちがわい! ──何でお前、こんなやべえもん持っとるんだ!」
「ああ……じゃあ、見なかったことにしてもらって」
「ふ、ふざけんなお前! もっとよく見せろ!」
「いや、すんません。これ大事なものなんで」
いきなり大興奮し始めたところで悪いが、そんな凄いものならわざわざ見せる必要も無い。武器もこの二つで良いということだ。
「見せてくれたら安くするから!」
「こわっ……逆に見せたく無い」
いきなり手のひら返しをされると、怪しく思うのが人間というものだ。そもそも、むくつけき筋肉だるまのひげだるまに迫られても嬉しくも何とも無い。これが早苗なら二の句も継がせずに見せていただろうに。
「じゃあ俺、支部に用事あるから」
「──にがさんッッッッ!!」
あまりにも迫真の髭面。
腕をガッツリ掴まれた明宏は、唾を飛ばしながら自身を説得しようとする鍛治師に顔を歪めた。
「どんだけ見たいんだよ……」
「見たく無い鍛治師などおらん!」
「そうなんだ……じゃあ、また」
「逃さんと言うとる!」
カバディカバディ。
「──丁寧に扱ってくださいよ」
「お前さんより丁寧に扱っとるわい。無造作に佩きおって……これだから素人は」
「そうやって界隈が死に絶えていくんだぞ、老害」
「…………」
拡大鏡で隅から隅まで舐め回すように見る。刃どころか、柄、石突、鞘も観察対象だった。同じところを何度も繰り返し見て、うーんと唸ったらまた次のところを見る。
「そんな何度も見なくても──」
「気が散るからこれでも齧っとれ」
「…………」
明宏は憤慨した。
周りを彷徨く鬱陶しい子供に対して取るような態度だ。とても、客に向けたそれとは思えない。しかもその客の武器を見たいからと引き留めたくせに、こんな殿様商売が罷り通って良いのか。
「…………」
投げよこされたベリーの乾物をチマチマと摘む。無くなったら鍛治師の持っていた袋を丸ごと掴んだ。
「……失礼」
鍛治師が刃に打診用のハンマーのようなものを軽く当てると、カィンカィンと高級な鈴を鳴らしたような音が鳴った。耳をそば立てて音を近くで聴く姿は職人然としているが──音を聞いた程度で何かわかるのか、と明宏はあくびをこいた。
「…………はあ」
そんな様子に鍛治師はため息を吐く。
価値のわからん大うつけがこれを持っていることに対する世の儚さを憂いていた。
「日本酒に合うな、間違いなく」
本当に興味が無いのだろう。鍛治師の知らぬ酒のことを呟きながら空を眺め始めた。彼らの多くは酒が好きだが、この一振りを見てなお酒に執着するようなやつはマトモな腕を持っていない。
「お前さん……これ、ちゃんと手入れしとるんだろうな」
「してますよ」
明宏がナイフに対してすることといえば、もっぱら埃を取ったり血脂を取ったり砥石と睨めっこしてちょっと研いでみたりといったこと。世の主婦が包丁を扱うよりは大切に扱っているか、ぐらいのものだ。
これが剣やら斧やらだとまた少し変わったのかもしれないが、ナイフだ。しかも戦闘時、主に使うのは魔剣の部分。鍛治師が今見ているような物理刃に関しては剥ぎ取りの時に使うだけだ。
なぜか欠けているが、レイスの上位種に遭遇するような場所なら当たり前だと明宏は納得した。
なお、鍛治師は納得していない。
「何で欠けてんだよ!」
「知らないですね」
「やっぱ雑に扱ってんだろ!」
「扱ってねえよ」
「じゃあ知らねえってなんだ!」
「……もう返してもらっても?」
「もうちょっと見させろ!」
「じゃあ文句言わずに見ろ、俺が育てた武器だ」
「くっ……!」
自分の武器をどう扱おうが、明宏の勝手だ。
実際は違うが、仮にこの鍛治師がナイフを作った本人だとしても彼への断りなしに触れることは許されない。
「…………何があればこんな……くそっ、俺が鍛えてもこんな風には…………」
「投げ売りのナイフがここまで……信じられん……紛れもなく神器級の一品だ……」
「──何で欠けてんだよ……!」
何を問われようとも、答えは同じ。
──知らないですね。
実際知らないので、そうなる。
だが、鍛治師からしてみれば納得できない。納得できないのに……
「こんなの……しゅごい!」
「あ、もう行くんで」
約束通り安くして──それでも500万円──素材と防具を受け渡す。以前はナイフよりも防具の方がはるかに高価だったのに、立場が変わってしまった。
そして、彼らの関係性も。
「──俺はイルックスのヴォルフガングだ」
「急になんですか」
「お前は?」
「…………加賀美明宏」
「そうか……じゃあなカガミ」
「…………」
鍛治師は、ノッシノッシとスキップをしながら路地奥へと消えていった。インスピレーションでも湧いたのだろう。
「……自分の欲望に忠実すぎるだろ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない