【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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81_酒場、そしてレベル測定

 

「七緒ちゃん、このあと──」

 

「ユジマさんはスカイフィッシュの討伐ね〜。まだ寝ぼけてるなら目を覚ましてきてくださーい」

 

「お……」

 

「せめてそれぐらい達成してから話しかけてね?」

 

 ある時はカウンターに肘をついて誘ってくるオジに、レベル的に限界ギリギリの業務を振り……

 

「うぉい! カネ少ねんだけどどうなって──」

 

「報酬算定の標準書読んでくださいね〜」

 

「???」

 

 またある時はイラチなガキの、怖くも何ともない悪相に紙を突きつけ……

 

「はい、フィードナッツのカラ揚げでーす──わっ!?」

 

「今日もいいケツしてぶべっ」

 

「死ね」

 

 尻を触った女にエールをぶっかける。

 

 久しぶりの方目さんは相変わらず受付として一流の働きをしているようで安心した。しつこい男をすかし、いきがる子供をなだめ、業務依頼を紹介していく。完全に事務作業。一分の遊びもない仕事だ。流石は受付人気ナンバーワンなだけある。あれに加えて、事務仕事も……パソコンがマトモにはない以上、大変だなあ。手書きの事務仕事なんか今更絶対にやりたくない。

 

 それで顔もいいんだから、引くて数多……のはずなんだけど──なんだっけ? イケメンで、優しくて自分だけに甘くて、だっけ? 夢の見過ぎでは無いけど……いる場所が悪すぎる。こんなところに、そんな白馬の王子様がいるわけがないだろうが! 

 強いていうなら三船くんだけど……まあ、そこら辺は勝手にやってくれ。

 

「レベル測定を」

 

「あ、加賀美くんおひさー」

 

 おひさって……いや、世界的には一周回って古くないのかもしれない。もしかしたら、高校とかだとおひさが流行ってたり……そんなわけないか、方目さんだって俺より年上だし。

 

「……なんか失礼なこと考えなかった?」

 

「まさかそんな……レベル測定をしに来ただけですから、方目さんのことなんて考えてませんよ」

 

「それも失礼だよねえ?」

 

「まあまあ」

 

「まあまあじゃなくて」

 

「焦らない方がいいです。方目さんはスペック高いんだから、探索者なんか狙わないで普通の人を狙えば普通に結婚できますよ」

 

「何でいきなり言葉のファイアブレスを喰らわなきゃいけないの?」

 

「探索者にあなたの求めるものを兼ね備えた人間とかいないんで、いい加減目を覚ましてください」

 

 完全な優しさだ。

 これはもう本当に、方目さんを思っての発言以外の何者でもない。こんなところに立ってどれだけ完璧に仕事したところで、迎えに来てくれる人間などいない。いるのは、業務後の昂りを収めるために風俗に行く前の、女なら誰でもいい探索者だけだ。

 ワンチャンねえかなー程度で話しかけてきているだけなので、相手にするだけ無駄。そんなことは彼女もわかってはいるんだろうけど、まだ希望を捨てきれていない。

 

「…………」

 

「レベル測定をお願いします」

 

「…………」

 

「方目さん」

 

 黙り込んでしまった…………っ! ──ま、まさか……これがロジハラ!? そんなわけはない! 俺はロジハラなんてしてない! 正論は良かれと思ってのことだし、探索者がマトモじゃないのは当然のことだし、方目さんが夢見てるのは事実だし、俺はレベル測定に来ただけだ! 

 俺が若い女にそんな酷いことをするわけないだろう! 

 

 ──俺が若い女にそんなロジハラなんてするわけないし、別に方目さんじゃなくてもレベル測定はできるので違う受付のところへ行くことにした。若い子だ。

 14、5くらい? 

 身長も140台、ちっさくて最初は誰もいないかと思ったよ、HAHAHA! 

 方目さん? ……死んだ目でこっち見ててちょっと怖いよ? 

 

「あ、すいませんレベル測定を」

 

「…………ん? 今日は業務は受けて……ないですよね?」

 

「実は別の支部に1ヶ月ほど出張してまして」

 

「ああ! そうなんですね! …………あの、加賀美さん」

 

「はい?」

 

「方目先輩は何でこっちを睨んでるんですか……?」

 

「さあ……なんか心当たりあります?」

 

「な、ないです」

 

「──あれ? そういえば初対面ですよね?」

 

「一応、何回か対応したことは……」

 

「ああそうなんだ! ごめんなさいね、結構人と会うから覚えられてなくて」

 

「い、いえ、私も割と最近入ったばかりなので」

 

「ふーん。どうです? 受付の仕事って」

 

「…………ええと……ちょっと大変かも……」

 

「ははは、なんか困ったことがあったら言ってくださいね。せっかく同じセクターに住んでるんだから」

 

「ありがとうございます!」

 

「一応加賀美明宏って言います」

 

「し、知ってます」

 

「まあそうか」

 

「はい、私は角田(ツノダ)です」

 

「ツノダさんね、よろしく」

 

「よろしくです!」

 

 良い子だ。

 まだ擦れてない──いや別に、方目さんが擦れてるとか言ってないよ? 全然、何も言ってないからね? 視線がより強くなった気がしたけど、俺は何も言ってない。ツノダさんと挨拶しただけよ。

 

「ええと……レベル測定ですよね? じゃあこちらへ」

 

 測定の案内は受付が行うが、測定自体は受付が行うわけではない。カウンター横から裏手に回って専門の女医さん的な人に測定してもらう。全身をスキャンしていくので、気分はSF世界に迷い込んだようだ。

 

「相変わらずいい筋肉してんね」

 

「男なんて鍛えてなんぼですから」

 

「まあ、今時のはみーんな細っちいもんね」

 

「レベルが上がれば筋トレをするのだってなかなか難しいですから、仕方ないでしょ」

 

 仕方ないけど、男としてなにか思わないのかとは思っている。それとも、今時の女の子には鍛えてない男の方が人気なのかしら。やだやだ、筋肉が無い方がいい世界なんて。

 

「はい、計測終わりー」

 

 スキャン自体は5分ほどで終わり、そこから結果が出るまで1時間ほどかかる。当初は測定に来るつもりはなかったので、本も何も持ってきていない。仕方ないので酔い潰れた二人組を席からどかして注文をした。

 ……テーブルが汚れている。

 お行儀なんて、あってないようなものだ。潔癖な人間にはきついだろうし、俺も最初はストレスで禿げそうだなと思っていた。しかし、やはり住めば都という言葉は偉大なのか──もう、この環境自体には慣れた。

 それはそれとして、汚れているのは我慢ならないので二人の服で拭く。

 

「すいませーん、注文お願いしまーす」

 

「はーい」

 

 注文をとりに来たのは角田さんだった。小さい体でえっちらおっちら走ってきて非常な愛らしい。きっと、この酒場の新しいマスコットに収まることだろう。……うん、やばい奴に狙われそうで心配になってくる。

 

「あ、どもです」

 

「うん、えーと……イッソウイノシシとエールお願い」

 

「イノシシですね!」

 

「あとエールね」

 

「はい!」

 

 とてててーっと。

 うーん、ちんまい。

 昔は茜もあんくらいちっちゃくてなあ、お小遣いのための媚びた笑顔なんかしなかったのに……どうしてああなっちゃったのかなあ。

 母さんが大雑把だからだよなあ。

 全部、そのせいだよ。

 

「──よっ」

 

 隣に崩れるように座り込んできたのは、酒臭いおっさん。

 源田龍一、源さんだ。

 暇してるジジイだからか、俺によく絡んでくる。

 

「久しぶり」

 

「ああ、1ヶ月だよな」

 

 赤ら顔でも一応、俺がいなかったことは認識していたらしい。

 

「最近どうよ」

 

「ああ? …………あー……」

 

 なんもないらしい。天井を見つめたまま酒をちびちびし始めた。

 

「方目さんにちょっかいかけてんの?」

 

「そりゃまあ」

 

「そりゃまあじゃないが? ただでさえストレス溜まってんだからやめてあげろよな」

 

「へへっ」

 

「ダメだこりゃ」

 

 案の定ではあるが、酔っ払いに話など通じるわけもない。持ってきたナッツをカリカリと口の中で転がし始めた。

 

「なにそれ」

 

「最近流行ってんだよ、フィードナッツのカラ揚げ」

 

「フィードナッツって……」

 

 確か銀杏の殻の中にそら豆みたいなのが入ってる奴だったと思う。ぺんぺん草みたいなもんで、どこにでも生えるタイプの野草だ。

 あと、カラ揚げって言った? 

 

「殻ごと揚げるからな」

 

「カラ揚げってそういう……あれってそんな美味いか?」

 

 苦味が強いのが特徴だったと思うんだけど、アクはどうしてるんだろう。まさか事前に茹でているのか。あと、どこで採ってきてるんだ。

 

「たくさん生えてるところがあるんだよ」

 

「あー……自生地か」

 

「レベルの低いやつでも採ってこれるから、小遣い稼ぎに大人気だってな」

 

「源さんも行ったのか?」

 

「もちろん行ってきたぞ」

 

「…………」

 

「俺も立派な低レベルだから文句ねえだろ」

 

 確かに源さんのレベルは高いとは言えない。今は20前半くらいで、強力なモンスターを倒して一山当てるというのもかなり厳しいだろう。

 しかし、若者に混じって植物採取をするオッサンの姿を想像すると涙がちょちょぎれそうになる。

 

「もういいの、のんびりやってくんだから」

 

「若者の邪魔だけはすんなよ」

 

「俺の邪魔すんじゃねえぞ、ってか?」

 

「俺はいいよ、源さんのいるところにはいないから」

 

「おいい! 失礼だろうが!」

 

「アルコール抜けてたらもう少しマシなこと言ってやるよ」

 

 酔っ払いなど、マトモに対応しても無駄だ。こちらが何言ったところであまり覚えてないし、先も無い。

 

 ……もう、このおっさんは人生を諦めている。きっと運が悪かったのだろう。老いさらばえていくのみ。であれば、あとは若者の芽を摘まないよう隅っこで生きていくのが一番マシな選択だ。

 あるいは、身を固めればその意思もまた変わるのだろうけど……余計なことだな。そもそもこの世界だと40で結婚はかなり厳しいだろう。あっちでもキツかったけど、こっちは尚更だ。レベル20ってのは、見込みがないって自分で言ってるようなもんだし、婚活パーティーなんか庶民は関係ない。あるとしても金持ちの娘息子ども用だ。

 コウキさんも誘いの言葉は何度もかけられていると言っていた。

 ミツキをそんなところには行かせないけどね。ミナさんとコウキさんがどっちも行かせたいって言ってもな。もちろん、そんな愚行をあの二人が犯すとは思えないけど……世の中何があるかわからないからな。

 

「はぁ……」

 

 源さんは突っ伏した。

 いよいよ酔いが深まってきたようだ。

 

「おれあってああってんだよ〜……」

 

「…………」

 

「なんかしなきゃいけねえんだよ〜……かあさんだってもう……」

 

「ふぅ」

 

「あきひろぉー! 良い女の子紹介してくれよぉ!」

 

「くっさあ!」

 

 全ての匂いが酒に押しつぶされた。

 

「おあえ、可愛い女の子たくさん知ってるらろお!」

 

「おいおい、浮気か?」

 

「はー?」

 

「方目さんの事はもうどうでも良いってか?」

 

「…………あれだよ……ナナオちゃんは……ほら……」

 

「けっ、そういうのを見透かされてんだよ」

 

 まあ、方目さんの相方として適性があるであろう男が、方目さんの好みと同じかは全く疑問なところではある。できる女は、できない男に惹かれるものだ。『できない』という、自分にはないものを持っているゆえに。

 

「…………」

 

「あんらよー!」

 

 こういうどうしようもないクズが、案外彼女の心を射止めたり…………

 

「ボワでーす!」

 

「おっ! 良いじゃんいただきおごあああ!?」

 

「キャアア!?」

 

 俺より先にナイフを入れやがった。

 許さん。

 

「うーー」

 

「だ、だいじょぶですか?」

 

「ゔぉええ!」

 

 無いな。

 このガキだけは無い。

 彼女がこういうガキに捕まらないことだけは祈っておこう。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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