【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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「そんな……」

 

 方目七緒は、何度も加賀美明宏という異常存在の一端に触れている。過去、何度も試し、それを乗り越えた彼は明らかに普通の人間だった。

 一級の探索者達は人間をやめた存在故に試練を乗り越えられる。様々な異能を獲得した彼らを殺すのは、より上位の──通常の法則からは考えられないような絶対強者どもでないと無理だ。

 だが、彼はどこまでも普通の人間だ。

 一切の異能がなく、ただ、レベルに依存した性能を有するだけ。

 

 一点。

 

 精神性が明らかに逸脱している。

 焼肉を目標にするというのは良いだろう。高いのだから、金を稼がなきゃ食べることはできない。しかし、その為に高頻度で駆除・討伐業務を受注するなどというのは余りにもおかしい。そのおかげでレベルも上がるし金も溜まるが、死のリスクがあまりにも釣り合っていない。みんな、口では勇猛果敢だが自分の身が大事なのだ。

 

『一回業務を終えたら、5日は開けろ』

 

 精神、肉体、武器、次への準備。

 全てを整えるのにはそれだけの時間が必要だと言われている。レベルが上がってもだ。何の根拠もない数字ではあるが、示されている以上は一応守ったほうがいいと考えるのが普通だ。

 ──守ってない奴は大抵死ぬ。

 

 しかし、ダンジョンに楽器を持ち込むような人間には無縁ということだろう。

 

 ペットの犬を連れて行っているのも虐待だと囁かれたりもしている。本人曰く、猟犬を狩りに連れて行くことの何が悪いとのことだ。今でも時たま、突っかかられては一笑に付している。

 ダンジョンにペットを連れ込む。そんな発想、誰にも無い。かわいそうだし、仮に虎を連れ込んだところで大した戦力にならないというのもある。

 

「こんなの……ありえない……」

 

 そんな異常者のレベルが、おかしいことになっていた。

 またも前例の無いこと。ナナオは自分の目がおかしいのかと考えた。

 

「…………」

 

 半分口を開けたまま、酒場に席をとっている明宏を見る。クソジジイと酒を呑んで笑う姿は、どこにもおかしい要素がない。

 おかしいのは計測した結果だけだった。

 

「──測定ミスね」

 

 そう結論付けるのが正当なところだ。

 つまり、再測定。

 

「ええ……」

 

「一回だけ! ホント! あと一回!」

 

「……まあ、用事も無いし良いか」

 

「ありがとっ!」

 

 というわけでの測定。

 明宏は1時間を再び潰す必要が出てきた。

 目をつけたのは、樽を立てて腕相撲をしている探索者達。全力の場合は同レベル帯でないとトンデモないことになるが、そこら辺は人間としての出力のみでうまいことやるのが嗜み。

 腕相撲とは、紳士のスポーツなのだ。

 

「──ディーン! 頑張って!」

 

「がんばれー!」

 

「いけるよ!」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

「おい! 女連れに負けんなシュウジ!」

 

「……うおおおお!」

 

「いいぞシュウジィィ! 勝ったら一杯奢ってやるよ!」

 

「ディーン!」

 

「シュウジ!」

 

「うわああああ!!」

 

「ぬあああああ!!」

 

 勝ったのはディーン。世の中は残酷なもので、野郎の後押しなどより女の子の声援を受けられるやつの方が力が出せるのだ。

 

「ちっ……使えねえ……」

 

「女もいない、力も弱い、何がしてえんだ!」 

 

「ママの乳でも飲んでろ!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 散々な言われようのシュウジは、肩で息をしながら床に寝っ転がっている。

 しかし、そんな彼の元にも歩み寄る誰かの影が。

 

「──大丈夫か?」

 

「…………」

 

 今、腕相撲をしていたディーンだった。ニヤリと片頬をあげ、手を差し出す姿。

 

「はぁ……っ!」

 

「うわっ!」

 

 ため息をついた後、勢いよく起き上がる。

 

「このやろ! いいところ全部どりしようったってそうはいかねえぞ!」

 

「いででで! やめろよ! そんなんじゃねえよ!」

 

 肩に腕を回し、頭にぐりぐりと拳を突き当てる。負けたし倒れたし手も差し伸べられたし女もいない。暴言を吐こうにも、無理やり作り出すしかなかった。

 しかし、それで終わり。

 喧嘩はしない。

 ディーンとシュウジ。それぞれのパーティメンバー、計7名で宴会へと向かった。

 

「じゃあ、次だな!」

 

 場に残された探索者達は、次を探す。場を盛り上げるのは誰かと。

 

「誰かいないかあ!?」

 

 樽のそばに立っているのは4人組パーティ、ハイエストの長田博一(オサダヒロカズ)25歳。賭けの胴元を担っていた。探索者は、業務を受注していない間は暇なので何かしらの娯楽に興じているのだ。それこそ、身内での悪ノリほど楽しいものも他にない。誰でもいいから集えと腕を掲げて募集した。

 

「俺も……混ぜてもらってもいいかなあ? ^^」

 

「あ」

 

 誰が出るかとニヤついていた探索者達が一瞬で真顔になった。彼が出てくるまでは自分のパーティメンバーを肘でついて煽っていたのに、今はもう目を逸らしている。

 

「よう、オサダさん」

 

「ああ……」

 

「俺、やるぜ?」

 

「…………いや、お前は出禁だから」

 

「ええ!?」

 

「どこに驚く要素があんだよ」

 

「俺もちょうど暇なんだけど」

 

「せめてその無駄な筋肉を抜いてから出直してきな」

 

「差別はんたーい」

 

「うるせえ、お前はあっち行ってろ」

 

 源田がいる席を指差す。

 

「あの人臭いんだよ」

 

「良いじゃん、1人同士で楽しく酒飲んでろよ」

 

「もう寝てるから」

 

「帰れよ」

 

「今、待ってるんだよ」

 

「知らん知らん!」

 

 素の力で勝てるわけがなかった。

 

 

 ──────

 

 

「…………なるほど」

 

 端末に送信された測定結果を見て神妙な顔つきをする男。

 

 レベル測定において測定ミスというのはほぼ起きない。起きるとしたら、魔素の発生源を探索者が所持していた時だ。それだけ、測定器に対する信頼度は高い。

 そのため2回目の計測の際、明宏は別の服に着替えていた。

 それにもかかわらず、渡されたのは1回目の計測結果と変わらぬ答え。ナナオは、技師が適当な仕事をしているんじゃないかと疑った。

 

「ちょっと待っててね」

 

「…………」

 

 彼を残して、一旦裏に入る。

 

「──あのねえ、そんなことするほど暇じゃないの」

 

 返ってきたのは呆れ顔。たかが探索者を騙すためだけにそんなことをするのは余りにもコスパが悪いし、大体、みんながみんな彼に興味があるわけじゃないのだ。

 彼女は技師。計測器を使うのが仕事であって、他人のメンタルや強さ、性質など微塵も興味ない。そもそも、そんな事をすれば最悪クビになる。あくまでデータとして貴重に扱うだけだ。

 

「…………」

 

「前回はいくつだったんだっけ?」

 

「29」

 

「何で覚えてんのよ、気持ち悪いわね」

 

「んなっ……!?」

 

「ああいうのが好きなの? 絶対やめた方がいいわね」

 

 とんでもないトラップに引っかかった女、ナナオ。

 顔真っ赤で草wwwと煽られてすごすごとカウンターに戻ってくると、扉の隙間から見えたのは。

 

「──!」

 

「────?」

 

「──―!」

 

「──!?」

 

 例の探索者は後輩受付の角田葵(ツノダアオイ)とくっちゃべっていた。

 人が心に傷を負っている間に──なんなら、彼は慈愛の神ですら般若の顔で腹パンするであろう言葉の暴力を彼女に先ほど浴びせた──何を楽しそうにしてるんだ! 

 怒りのドゥームフィストを喰らわせようとして、話が聞こえた。

 

「それで、ナナオ先輩がスッと入ってくれて!」

 

「そうか……良い先輩だな!」

 

「はい!」

 

「俺にもそういう先輩がいた。何でもできて、トラブルを解決してくれるヒーローみたいな──」

 

「ヘェ〜! ガッコーの先輩ですか?」

 

「職場だな」

 

「あ、じゃあどこかに……」

 

「いや、ここにはいないよ」

 

「え? じゃあどこに?」

 

「少し旅にな」

 

「ふーん……でも、ナナオさんの方がきっと優しいです!」

 

「お、やるかー?」

 

「いくらでも話せますよ!」

 

 初対面の相手と話すなら、共通の話題をまずは探せ。この場においては、探すまでもなくお互いの知り合いであるナナオか探索者の事がそれにあたるだろう。

 暇すぎてカウンターで遠い目をしていた明宏に、手が空いたアオイが話しかけたことがきっかけだ。レイトを連れていた時のことに始まり、なぜレイトと一緒にいたのか、今はどうしているかなどを続け、やがてナナオの話題に行き着いた。

 

 ──私の後輩が可愛すぎるのは夢ですか? 

 

 やり場のない気持ちがモヤモヤと喉に突っかかっている。アオイを撫で回したい気持ちとアキヒロの腹にフルパワーパンチを食らわせたい気持ち。

 どうせなら右手で打ち込みながら左で抱きしめたい。

 しかし、この状況で突っ込むと邪魔してしまいそうで行くに行けない。

 

「ツノダさん、俺も話したいけど──時間が来たな」

 

「え?」

 

 普通にバレていた。

 流石は探索者。腐っても身体能力は通常の人間など遥かに超えている。若干の気まずさを感じながら扉を開け、顔を赤くした後輩とニヤつく探索者の前に姿を現す。

 

「あはは……死ねえ!」

 

「おっ?」

 

 腹パンを腹筋で余裕に受け止める明宏。

 なんだ……今、何かしたか? と水を飲み干した。

 

「あ、あの……先輩?」

 

「アオイちゃん、そいつは乙女の純情を弄ぶ悪魔だから気をつけてね」

 

「え?」

 

「ついでに男の子の純情も弄ぶから」

 

「……?」

 

 よく分からないという顔で首を傾げる。

 

「くっ……知らないはずなのに……! …………お、俺は悪くないんだ……いや、悪いけども……!」

 

 ついでに、アキヒロはよく分からない言い訳をしていた。震える手で水のおかわりを注文し、椅子に座る。

 

「──で、あれは?」

 

「間違いじゃないってさ」

 

「ふむ……そうか……」

 

「何したの?」

 

「さあね」

 

 話す気は無いようだ。

 当然か。

 なにせ、このような異常なレベルアップはあまりない。魔素たまりへ突入して生還した探索者などは同様にレベルアップするが、99.9%が死に体もしくは死んでいる。しかも、異常な変異がつきものだ。足や腕が生えるなど序の口で、頭蓋を突き破る悪魔の如きツノや堅牢な骨の翼、発達した爪や牙など多岐に亘る。

 

 ──であれば、至って普通の人間のままの彼にはいったい何が起こったのか。1ヶ月間まるまるダンジョン生活をしたとしても、ここまでのレベルアップは出来るものではないだろう。

 

「知りたいな〜」

 

「だーめ」

 

「どうしても?」

 

「だーめ」

 

「教えてくれたら良いことしてあげるのになあ〜」

 

「間に合ってるんで」

 

「……良いことだよお?」

 

「×××とか△△△も?」

 

「へ? ……なにそれ?」

 

「──もう少し勉強してきてくださいね」

 

 所詮はそういった本もビデオもない世界の住人。彼とて仙人などと名乗りたいわけではないし飛び出た知識があるわけでもないが、そういう知識で勝る者はいないだろう。

 子供をあしらうようにナナオへ微笑む

 

「………………アオイちゃーん! 加賀美くんがいじめるー!」

 

「ダメですよ? カガミさん」

 

「ヤッチャエー!」

 

「──先輩も、そろそろお仕事戻ってくださいね?」

 

 出来る後輩は、嗜めることだってできるのだ。

 しかしショックを受けるナナオ。

 一応、真面目に原因を知りたかったのだ。明宏が本気で話に乗っかってくるわけもないので、折れるまで駄々を捏ねようと思っていだだけなのに。

 

「別にサボっていたわけじゃ……」

 

「俺は帰ります、気になることがあるので」

 

 踵を返し、一直線に彼はその場を去った。

 

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